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SkullSick~世界に唄う不協和音~
その木々の一本一本も太く、音も無い。
薄暗く、天の葉の隙間からは青白い光が差し込んでいた。
それは、神秘的で、だからこそどこかこの世でないような恐怖を感じさせていた。
そこを、二つの人影が進んでいた。
一つはまだ小さい。子どものようだ。
もう一つは女性のもののようだった。
小さい影が言った。
「アヴァロの森か。このような場所があるとは。世界もまだまだ未開の地は多いものだな」
それは、子どもの高い声だが、口ぶりは大人びている、奇妙な男の子の声だった。
「お気をつけ下さい。大分前から囲まれています。奴等は気配を消すのが上手い」
女性らしき影は、やはり女性の声だった。
「大丈夫だ。気付いておる。それに襲ってこないところも見ると、奴等は大分賢いようだ」
だが、二人の周りを見ても、特に生き物の気配はしなかった。
二人がしばらく歩いていると、だんだんと道が開けてきた。
さらに奥へ進むと、巨大な空間に出た。
そこだけ、大きく円形に木が立っていない。
その空間の中央だけ、天からの細く青い光が差し込み、宙を舞う埃を見せていた。
二人はその空間の入口で立ち止まった。
二人の向かい側。空間の果てには、三メートルはある巨大な生き物がいた。
それは犬だった。漆黒の毛並みに、隆々とした筋肉。
鋭い爪に、口から大きくはみ出した対の牙、黄金に光る鋭い眼。
そして何より、その巨大な犬は、顔を三つ持っていた。
だが、その鋭い凶暴な眼は正面の顔のものしか開かれていなかった。
「人の子よ」
その巨大な犬が低い地鳴りのような声で言い始めると、その空間の外から、何百と言う黒犬が無音で二人を囲むように這い出してきた。
どうやら、巨大な犬が主で、黒犬がその従者のようだ。
二人は後ろをも囲まれ、黒犬の輪はどんどん小さくなっていく。
当然、二人はそれに合わせて前に進むしかない。
二人は、その空間の中央近くまで進まされた。
すでに、その空間は黒犬で満たされていた。
二人の視線の先にいた巨大な犬が立ち上がると、自然と黒犬が退き、二人から主までの道を作る。
「この地を我等のものと知って、ここまでやってきたのであろうな?」
低い声の問いに、二人は答えない。
「人の子よ、何の用かは知らぬが、誰もここから生きて返すわけにはいかぬ。我等は我等の地を汚したものを許さぬ。我等以外の何人もこの地へ踏み入るべきではないのだ。我等はいつもそうしてきた。これからもそうするであろう。我等は、誰もを干渉せず、誰にも干渉されない。ただし、ここに踏み入った者以外は」
それを聞いて、二つの影のうち、小さい影が声を出さずに笑った。
「人の子よ、残念だが、死んでもらおうぞ」
そして巨大な犬が一歩を踏み出した時、小さい影が口を開いた。
「誇り高きケルベロの一族よ。そなた達の地を汚したことは謝ろう。だが、我等もただそのために参ったのではない」
小さな影は、理想を語るように両手を広げ、一歩を踏み出した。
天から降る青い光に照らされ、その顔が浮かび上がった。
白く長い真っ直ぐな髪。上下黒のジャケットに身を包んだ彼は、まだ十代前半の子どもだった。
そして、その顔には黒い眼帯が巻かれていた。
右目どころか顔の右半分をを覆うかのような大きな眼帯にも、ケルベロ一族の主たるケルベロは微動だにしなかった。
「ケルベロよ、我等の仲間となれ」
彼の言った言葉を、ケルベロは大きく口を開けて笑い飛ばした。
「・・・・なんだと?人の子であるなんじと、この虚ろ神、”番神ケルベロ”が手を組むだと?一体何のためだ?なんじと組み、我等ケルベロの血筋を汚せと言うのか!?」
ケルベロは雷のような怒鳴り声を上げた。
同時に、ケルベロの左右の顔の眼も開かれ、中央の口の中には、燃える炎がかいま見えた。
全て開かれたケルベロの眼は、それを見る全ての者の意識を削り取らんばかりの殺気だった。
これには小さな彼も焦った。
「ま、待て、ケルベロ」
「何だ。残念だが我等はなんじなどと手を組む気は無い。我等の地に踏み入ったことを、あの世で後悔するがいい」
「待てと、言っているのだ」
今にもケルベロの口から炎が放たれようとしたとき、今度は小さな彼が怒りを露にした。
それは、ケルベロに劣らぬ鬼気だった。
ケルベロも、自分と同じ力量を見せ付けられ、言い返すことはできなかった。
「良いか、聞け。このままでは、お前たち”虚ろの人”は滅ぶ。人間はもうお前たちを越えるだろう。そう、”彼女”がいない今、虚ろ神たちは自らの一族を作り、他の族とは団結しようとはしない。それが自らを破滅に導いているとも気付いていない。もう、世界は人間で埋め尽くされている。すぐにお前たちは居場所を失うだろう。また”彼女”のような存在が必要なのだ。そう、虚ろ神を統べ、誇り高きケルベロが唯一主人と認めた彼女のような存在が」
雄弁する小さな彼を、ケルベロは神妙な面持ちで聞いた。
「・・・・なんじの言うことは、正しいかもしれない。だが、我等虚ろの運命は、我が主である”彼女”を失った瞬間から決まっていたのかもしれない。 ”彼女”はもういない。主人を失った従者は、滅ぶしかないのかもしれないな」
「おお、ケルベロよ、そのような弱き言葉をお前のような強き者が言ってはならぬ。主人を失ったなら、また新しい主人を見つければよい」
「ふん!我等は”彼女”にしか従わぬ。これは絶対だ」
ケルベロは悲しみを隠した眼で言い放った。
「では、私が”彼女”になろう。私はそのためにやって来たのだ」
そう言って、小さな彼はほぼ顔の右半分を覆う眼帯を外した。
眼帯の下を見たケルベロは、六つの全ての眼を見開いて驚愕していた。
「そ、その眼は、なんじ・・・・いやあなたは、一体何者だ?」
小さな彼は邪悪に微笑んで言った。
「私は、”二人目の彼女”。”一人目の彼女”の意思を継ぐものだ」
小さな彼の声は、もとの子どもの声に、大人の低い声が重なる奇妙な音になっていた。
「ケルベロよ、今一度、私に尽くしてくれ」
そして、小さな彼と大きなケルベロが見つめあい、ケルベロの黄金の眼から何かが消えた。
そして、ケルベロはゆっくりと小さな彼に近づき、そして目の前で頭を下げた。
ケルベロの頭を撫でる小さな彼は、全てを愛するような微笑だった。
「ご注文は?」
「ウィスキーを頼む」
俺は背中のダブルエッジ”アマサメ”を外し、俺の脇のカウンターに立て掛ける。
まだ昼間だが、俺は飲みたい時に、飲みたい酒を注文するタイプだ。
そこは、常に客の叫び声や怒鳴り声、笑い声が響き、いたるところでギャンブルが行われ、客同士の乱闘が絶えない、いかにも治安の悪い酒場――ではない。
一応そういう類の店も裏側(表通り)にあるが、それとは全くかけ離れていて、薄暗い店内に客は数人。
皆、こそこそと酒を飲み、明確な音といえばカウンター脇に置かれるラジオから流れる、古い音楽くらいだった。
俺は、このくらいの小さな店でゆっくりと飲みたい。
裏の店のようなありさまでは、一秒もくつろぐことなどできない。
ここは古都ヴェーゼンの入口。
都といっても、元からの住民はもういない。
この辺り一帯は、”虚ろの人”の住処で有名だ。
だがそれ故に、未だ正確な地図がない。
この辺りは広くまばらな森のようになっていて、木が気まぐれに間隔を開けて密集している。
さらに、頻繁に霧が発生するため、人が住むにはとても困難な場所だ。
それでも、少数ながら人が住んでいた。
古都と呼ばれるのがその証拠だ。
だが、約百年前に、虚ろの人の突然の襲撃によって、住民達は皆殺しにされた。
今はもうこの世界は人間が大部分を支配しているが、百年前は違った。
まだ虚ろの人と人間とが五分五分でこの世界を争っていた時代だった。
そんな大昔に滅んだヴェーゼンでも、入口には宿屋、武器屋、酒場、食堂が、ささやかながら経営されるようになった。
それはこの近年のことだ。
これらの店を多く利用するのは、一般人ではない。
虚ろの人専用のハンター、デバッガーや、その他の賞金稼ぎ達だ。
そう、古都ヴェーゼンは、そういう”ならず者”が多く集まる場所だった。
その理由は簡単だ。
ヴェーゼンは広大な都で、もともと宗教的な活動が頻繁に行われていた。
そのため、ヴェーゼンのあちこちに未だ未開拓な遺跡があるのだ。
それらの最深部には、ヴェーゼンの民が残した遺産が存在するという。
数年前、”ある一組の連中”が、ある遺跡でそれを証明する文書を発見し、またそれを頼りに本当に宝を見つけたからだ。
それ以来、驚くほどのスピードでその事実が世界に広まり、ここ数年でヴェーゼンは”こんな”都になってしまった。
そんな俺も今回は、ある言い伝えに頼ってヴェーゼンを訪れた。
「どうぞ」
俺は出されたグレルホルンを一口飲む。
これはそれなりに強い酒で、あまり弱いやつには勧めることはできない。
『飲みすぎは良くないからね。それと僕の体でもあるんだからあまり酒臭くしないように』
特にこいつだ。もう一人の俺は酒にめっぽう弱い。男失格だ。
『分かってる分かってる。ったく、医者ってのは長く付き合うとうるさくてたまらん』
そう言いつつも、ふと自分のギプスと包帯で固定された左腕を見る。
肩から吊られたそれは、まだ完治できない。
今回の目的を果たすのに片手ではまず無理だろう。
『ところで、今回は誰が来てくれるんだい?もう大分時間が過ぎてるけど』
『そうあわてるなよ。俺達の間じゃ待ち合わせの時間なんてあってないようなもんだ。今回は”斬時(ザンジ)”に頼んだ。奴がいればまあ安心だ』
斬時は俺達の古い友人で、こういう荒事には慣れてる男だ。
と言うか、自らそういうことにツッコンでいくような野蛮人だ。
しばらくして、俺が丁度ウィスキーの二杯目を飲み干した頃だった。
空になったグラスをカウンターに置き、俺は右手を上げる。
その直後、グラスに斜めの線が走り、綺麗に切断され、その上部がカウンターに転がった。
「危なかったな、もう少しで指が無くなるところだった」
俺の後ろから、少し渋めの、生意気なほど落ち着いた声が聞こえた。
「主人、すまぬ、グラス代は払う。そこの金髪に新しい酒と、オレにイーストワインを出せ」
後ろの声が言った。
店のマスターは目を少し目を丸くしていたが、すぐ我に帰って新しい酒を準備し始めた。
俺の隣に黒い影が立つ。
「よお、斬時。久しいな、二年ぶりか?お前のことだから、何かヤバイ事に首突っ込んで死んでるかもなと思ってたところだ」
「うむ。確かに危険事は日常茶飯事だったが、我はそう簡単には死なぬ」
隣に立つ俺の旧友は、古臭い口調だが、実は俺よりも二つ年下だ。
奴はそれほど大きな体でもなく、細身の割りに筋肉質、服装は黒のジーンズに同じく黒のジャケットという、俺が最後にあったときとはガラリと変わった服装だった。
だが、両腰に、予備二本を合わせて合計三本、愛用のムラマサが吊ってある。
居合で俺のグラスを斬ったのもそのムラマサだ。
奴のムラマサへのこだわりは半端ではなく、相当金がかかっている。
”絶対に振らない”のを条件に一度だけ愛刀”這闇(ハウヤミ)”を持たせてもらったことがあるが、刀身は極薄で渡りは約六十センチ、重さは全くと言っていいほど感じなかった。黒光りする刀身を見ていると、なんでもいいから斬りたくなるという自分でも恐ろしい感情が湧いてきたので、そのときはすぐに返した。
そして奴の姿で何よりも目立つのが、鼻梁をまたいで水平に走る顔の切り傷。
なんとも痛々しいが、奴にしてみれば、傷の復讐を忘れないために、好都合だそうだ。
「ハハ、そうだよな。”若くして東国の剣士の頂点に立った男”だもんな」
「・・・・昔の話だ。それにその頃我はまだ十七。将来有望の意味もこめて、そう謳われていただけのこと」
「謙遜するなよ。お前は強い。俺が認めるさ」
「・・・・それはいいが、主に認められた我が認める主ともあろう男が、何ゆえそのような惨めな姿でいる?」
俺の左腕の事だろう。
「う・・・・相変わらずストレートに来るな。まあ、いずれは話そうと思っていたことだから言おう。これは、”神”と戦った際の傷跡だ」
「・・・・神、だと?」
普段は冷静で、物事に動じることの少ない斬時の眉が微かに動いた。
「あぁ。ついでに逃がしてやる気も無かったんでな。そのまま殺した。俺は今”病人”だ」
「・・・・。なんと・・・・これは我よりも主の方が波乱万丈な生き方をしておるな」
そう言って、奴は珍しく笑った。
奴はほとんど他人について詮索はしない。
だから、俺には珍しく付き合いやすい人間だった。
「ハハ、だろう?まあそんなことでよ、前みたく、長く一緒に冒険とかできなくなっちまった。すまん」
そこで、俺の新しい酒と、斬時のイーストワインが出された。
「ふん、そんな事は気にせぬよ。ただ、お前が生きているだけで、いつも面白いことに巻き込んでくれるからな」
「野蛮人的考え方は度が過ぎるとついていけないな」
「神を殺す主に言われたくはないな」
「・・・・。あ、そう言えば、そん時に、お前の弟子にあったぞ」
「何?幌羽と楓にか?」
「ああ、国を出て修行して回っているらしい。最初名前を聞いたときは驚いた。知らないフリをしていろいろ聞いたが、ホイホイと答えてくれたぞ?」
「全く。自らの情報は大切にしろという教えがまだ身につかぬか」
「まあ、だが腕は確かだった。まだお前ほどではいが、奴等、特に幌羽は将来、良い剣士になる」
「当然だ。・・・・奴の剣術、獅子音一刀流は、やがて数ある世界の剣術の頂点に立つだろう。獅子音は、我の”虚鬼音一閃(うつきねいっせん)”を劣化、一般化して奴に教えたものだ。虚鬼音のように、特殊な体質、または身体への過度な負担が必要となる剣術は、威力、代償共に危険すぎる。我が創りだしたもの故、完全ではない。まだ奴にしか教えていない。だが、獅子音が完成したときには、バランスからみても、虚鬼音を越えるだろう。それは世界の頂点を意味する」
「ふん。東国の剣術は世界でもトップレベルだ。俺もうかうかしていられんな」
「俺が主のでたらめな剣を一から教え直してしんぜようか?」
奴は真顔で言った。
「余計なお世話だ。俺にお前のようなお上品な戦術は似合わんよ。戦いはぶっつけ本番。一発勝負だ。俺は本能に任せるタイプでな」
「・・・・まあ良い。それが主の強みでもある。では、雑談もここまでとしよう。今回の目標はなんだ?」
「あぁ、今回お前と一緒に目指すのは、このヴェーゼンの遺跡群の一つ、”ミズィ神殿”だ」
ミズィ神殿。
それは、有名な伝説だった。
このヴェーゼンの遺跡群のどこかにあると言われるその神殿に、虚ろ神が一体、封印されているらしいというのだ。
「ミズィ神殿?それはもはや伝説じみた話だぞ。本当にあるかも分からん。それに、もし神殿があったとして、そこに封印されている神は、”純粋な生き物ではない”と言う」
「良いんだ。神を”喰って”から、虚ろの気配に敏感になった。神が本当にいるかいないかは、行けば分かる。大体の位置も。純粋な生き物でもそうでなくても、神なら殺す。それだけだ。・・・・力になってくれないか?」
「・・・・ふん、我はお前の付き人になるために遥々来たんだ。結果がどうなろうと、ついて行く」
「感謝してるぜ斬時ちゃん。じゃあ、出発だ!」
二人は同時に酒を飲み干し、銀貨一枚と共にグラスをカウンターに突き出して、店を出た。
そこは、世界のどこか。
深い深い霧の中。
またも大小二つの影が、道を進んでいた。
「・・・・ふむ。この神は、”オリジナル”ではないな」
小さな影が言った。
声色は子どもだが、口調が普通ではなく、妙に大人びていた。
「はい。大虚戦が勃発する直前に、何者かが”創った”と言われています」
返したのは大きな影だった。
こちらは女性の声だ。
「では、予定通りに行かぬやもしれんな。その時は・・・・」
「はい、心得ております」
大小二つの影は、深い霧を進んで行った。
俺たちはひっそりとした酒場を出た。
これから、ミズィ神殿を探しに行くのだ。
店から一歩外に出ると、男たちの騒がしい叫び声や怒鳴り声が聞こえてきた。
ここは暗い裏路地。
二人で表へ回る。
比較的広めの表通りに出ると、一気に騒がしくなった。
道はならず者達で溢れ、武器屋や酒場からは遠慮を知らない笑い声や怒鳴り声が響く。
神殿の場所は、かなり信憑性の無い情報だが、一応情報屋(正確には宿屋の店主)に、金(情報の信憑性の無さに対してはあまりにも高額)を払って聞いた噂話がある。
全くあてにはしていないが、それでも、何も情報が無い状態よりはましだ。
「一応少なくない金払ったんだから、嘘情報だったら店ごとぶっ飛ばす」
とすごんだので最悪のケースの時のアフターサービスもバッチリだ。
『これで完全なガセだったらそんときは・・・・』
『あまり乱暴はダメだよ』
『・・・・ち、大丈夫だよ。金を返してもらうだけだ』
『だと良いけど・・・・』
向かうは、北の門。
斬時は、俺の一歩後方を無言でついてくる。
俺の行動にあきれているのか、心の中で密かに猛っているのかもしれない。
少し歩いて、北の門についた。
ヴェーゼンを囲む城壁の中ごろに、鉄柵でできた頑丈そうな門がある。
「開けろ」
脇の門兵に言い、兵は詰め所に駆け込んで、騒音と共に門が開いた。
外は、あまり見晴らしは良くない。
すぐに不気味な森が広がっていて、ここからすでに薄く霧掛かっている。
「行くぞ。遺跡に入るまでは、多分虚ろの心配は無いが気をつけろ」
「無論だ」
俺たちは一歩を踏み出した。
歩いた。
霧の森の中、ただ北へ。
つるを押し退け、草を掻き分けて。
遺跡もいくつか横切った。
中には、遺跡と言うよりも古城に近いようなものまであった。
斬時は、ただ後ろについてくる。
時たま、文句をつぶやきながら。
「ぬう、なんと言う面倒な道のりだ。スカルヴァ、我が先行して、先を拒む植物を全て刈り取ってやろうか?」
「ダメだ。お前、自分の分と言うものをわきまえろ」
「それが、最近になって少しずつではあるが治ってきているような気がするのだ」
「”気がする”じゃ全然ダメじゃねーか」
何を隠そう、斬時は、そこそこ重度の方向音痴なのだ。
「少し考えてみたんだけど、人は街などを歩くときは無意識のうちに建物などを目印に認識地図というものを描いているのだけど、君の場合はそれがいまいち上手く機能していないと考えられるね」
最近はこう言った瞬間的入れ替わりにも慣れてきた。
「うむ、そうなのか。では、具体的にどうすれば治るのだ?」
「方向音痴というのはまだ医学的にはっきりと原因が分かっていないから何とも言えないんだけど、とりあえず普段から少しずつでも、周りにあるものと道とのつながりを意識するようにしてみたらどうだい?」
「ほう、よし分かった。アドバイスかたじけない」
「よく考えたらお前よく俺との待ち合わせの場所に来れたよな」
「手当たりしだい人に聞きまわった成果だ」
出発してから一時間は経っただろうか。
こうも単調な景色ばかりが続くと、精神的に参ってくる。
だが、ようやくそれらしい場所についた。
森が開け、そこにあったのは、風化でぼろぼろになった四本の柱。
それが囲む地面の中央に、謎の模様が描かれた石盤がはめ込まれている。
斬時がムラマサの柄ごと地面を突くと、その石版は簡単に崩れた。
いくつか石版を壊し、その下から現れたのは、地下へと続く古い階段だった。
「ビンゴらしいな」
階段を下りる。思ったよりも深い。
降りきると、真っ直ぐ狭い通路になっていた。
相当地下なので、先は暗く何も見えない。
背負っていたバッグからランプを取り出し明かりをつける。
「なんだ、そんなものを使わなければ目も見えないのか」
「そういうお前は見えるのか?」
「闇に慣れるまで少々かかるが、この程度の暗さまでは問題ない。お前のランプのせいで眩しいくらいだ」
「眩しい分には我慢しろ。それよりもここからは用心しろ。確実に”何か”がいる」
「神ではないのか?」
「・・・・おそらくそうだろうが・・・・何かが違う」
階段を下りているときから感じていた気配。
ライカンの時と似ているが、何か違和感がある。雑音が混じって聞き取りにくいような感覚だ。
通路の壁には、一面に何かの紋様が描かれている。
それが何を意味しているのか、俺には分からなかった。
通路を進む。
俺が前を行き、斬時が後ろだ。
俺達の足音以外は何も聞こえないのが不気味だ。
俺が堂々と右手にランプを持っているのは、斬時なら正面からの敵でも俺の背後から目標だけを切り刻むことができるからだ。
それくらい、奴の居合は原理が分からない。そこら辺のチンピラなら、数十人でかかっても、刀身を見せずに全員を斬り殺せるだろう。
通路はそれほど長くなかった。
通路を抜けると、空間に出た。
相変わらず雑音が多いがさっきよりも気配が少し強くなっている。近づいている証拠だろう。
ランプを高く掲げても向かい側の壁が見えない。
「それほど広くはない。四隅に灯台がある。火を灯すといいだろう」
斬時の指示に、したがい、四つの灯台に火を灯すと、部屋全体が浮かび上がった。
そこはドーム型の空間だった。
斬時が言うとおりそれほど広くはない。直径は五メートルほどだろう。
四方の明かりから、俺と斬時の影がいくつも伸びている。
壁には相変わらず読めない文字や壁画が描かれているが、一つ異変に気付いた。
「早くも行き止まりか?」
奥へ続く道が無かった。
完全に行き止まりだ。
「少し調べてみるか。こういうのは大体何か仕掛けがあるようにつくられているはずだ。慎重に調べよう」
俺は床を、斬時は壁面を探り始めた。
とりあえず端から手当たりしだい踏み鳴らしてみる。
斬時は、柄の先を壁に擦りながら歩く。何が分かるのだろうか。
調べ始めて約十分ほどが経過した頃だろうか、何周目かを回り終えた斬時が、ある壁画を睨んでいた。
その壁画を柄で擦る。さっきまでと同じガリガリという音が鳴る。
「・・・・これは、な―――」
不自然に斬時の声が途切れた。
あわてて振り返ると、そこに斬時の姿が無い!
斬時がさっきまでいた部分の床がぽっかりと消えている!落ちたのだ!
「斬時!」
俺がその穴に向かって一歩走り出した直後だった。
「う――」
一歩を踏み出したが、そこには最初から床が無かったかのように石畳が落下、音も無く俺は落ちた。
「ぬおっ!」
突然体が宙に投げ出された。
しかし、斬時はすぐさま対応し、無事に着地できた。
斬時が落ちた穴は、そのままさらに地下に続くすべり台のようになっていた。
斬時はゆっくりと立ち上がる。
そこは一面の暗闇。
斬時の目にはある程度見えているだろうが、常人には一メートル先も見えないほどだ。
その空間はとにかく広かった。
斬時の目にも果ては見えない。
振り向くと、巨大な柱だった。
二メートルほど上部に、今飛び出してきた穴が見えた。
「ふむ・・・・これは困った」
誰もいない空間に投げかける。
「どちらに進めば良いのか完全に分からなくなった・・・・」
それは斬時にとって最悪のパターンだった。
このままこの遺跡から出られずに餓死と言う可能性が十分考えられるからである。
その直後、突然斬時は腰のムラマサを抜いた。
正面で、隙無く、固く構える。
「そうだ、そのデカイ図体でこそこそ隠れずに、始めから正々堂々かかって来ればよいのだ」
斬時の視線の先、暗闇の中に、微かに動くさらに黒い巨大な影があった。
それは正に巨人像と言うに相応しい容姿をしていた。
「岩の巨人とは。これほど奇怪な敵と戦えるなど、奴についてきて正解だったわ」
地鳴りのような足音を響かせ、斬時の視界に、はっきりと巨人が映りこんだ。
その肌は、まるで岩のような質感だった。
「ぐあっ!」
突然体が自由になった。
宙に投げ出されたと気付くと同時に、背中から地面に激突。
間一髪で受け身は取れたものの、激痛が走る。
さらに、勢いを殺しきれずに、地面に側頭部を打った。
頭がぐらんぐらんする。
何とか起き上がり、辺りを見回すが、暗すぎて何も見えない。
『さっきいた場所の地下だね。僕らはすべり台を転げ落ちてきたのかな?』
『そんな事は分かってるんだよ、あー痛え!』
くそ、ランプは上の部屋に置いたままだ。
まだ頭の中が波打っている中、背中のカバンからスペアのランプを取り出して点火する。
俺の半径二メートルほどが映し出される。
振り向くと、そこは巨大な柱だった。
少し上に、俺が落ちてきた穴が見えた。
そこはただっ広い空間だった。二、三歩前へ進むが、向こう側の壁が全く見えない。
やっと頭の痛みが引いてきた。
だが、その痛みの下から、信じられないような感覚が現れた。
『虚ろの気配だ!!ちくしょう、近い!!いや、これは・・・・』
後ろだ!!
振り返った先には、宙から振り下ろされる何かが映った。
巨人の拳が、中央の巨大な柱を半壊させる。
どうやらこの広い空間はドーナツ状になっているらしい。
今の衝撃で舞い飛ぶ土埃の中から黒い影が飛び出し、巨人と距離をとる。
片手には漆黒の刀身を持つムラマサを提げている。
「面白い。このようなスリルある戦闘は久方ぶりだ!」
そう言った直後、斬時はまた後方に跳ぶ。
その場所を巨人の拳が粉砕した。
巨人の、この空間の高い天井に届かんばかりの巨躯から放たれる攻撃は、防御することはまず不可能だった。
一気に距離を離した斬時は、大股で刀を低く構えるという独特な型をつくった。
「だがもっと長く付き合ってやりたいところ、我はある奴の護衛に頼まれたのでな。お前とのんびり死闘を繰り広げている場合ではないのだ」
巨人が斬時の方向へ走り距離を詰め、その腕を振り上げる!
「虚鬼音一閃、しかとその目に焼き付けて死ぬがいい」
「うおっ!?」
間一髪、横っ飛びで敵の初太刀は回避した。
しかし、あまりに突然の事だったため右手に持っていたスペアランプを手放してしまった。
ランプは荒々しく地面を転がり、衝動で蓋が開き明かりが消えた。
また視界が闇に染まる。
横っ飛びの慣性を殺さずに転がる。
その最中に後ろ腰のポーチからある石をいくつか取り出して投げる。
その石はいい具合に散り、地面に落ちる音が聞こえる。
俺が投げたのは”発光石”というもので、普段は岩石などの中に密閉されて含まれている。
空気に触れると光を放つと言う特殊な石だ。
緊急用に、特殊な紙に包んで持ち運ぶ。
思惑通り、石は空気と触れ、強い光を放つ。
その一帯が闇から浮かび上がった。
起き上がりざまに背中のアマサメを抜く。
敵と正面から向き合う。そしてその姿に驚いた。
『ありゃあ・・・・生き物か?』
『うん・・・・でも動いてる』
敵は、よく洋館などに飾られている騎士を象った像の形をしていた。
大きさは人と同じ。右手に剣、左手に盾を持っている。
だが材質は明らかに岩だろう。
ゆっくりとこちらに向かってくる。
『だが虚ろの気配はする。奴が神ではないが、中に人が入っているとは考えにくいな』
『きっと神の護衛か、その神が操っているかのどちらかだね』
『いずれにせよ、ぶち壊せば良いことだ』
『片腕で平気?』
『あの程度の動きなら何とか大丈夫だろう。行くぜ!』
俺は”石騎士”目掛けて走り出す。
あっという間に懐に飛び込む。予想通り敵の剣が打ち下ろされるが、余裕を持ってかわす。
「おらあ!」
右腕に懇親の力を込め、真上から振り下ろす。
石騎士は盾でガードしたが、そこは力で砕いた。右腕に負荷がかかるが、そんなことは言ってられない。
奴はよろよろと後退したが、逃がすはずもなく距離をつめわき腹に一撃をくれてやる。
流石に大きなダメージは与えられなかったが、拳大ほどは崩れた。
奴の反撃をかわし、距離を取る。
『ふむ。さては相当長い年月、ここを守っていたようだ。岩と言っても老朽化が進み、案外やわいな』
『僕の出番は全くなさそうだね』
『その通り。今から飛ばすぞ、ちょいと黙ってろ』
敵の攻撃を後方に跳んで回避する。
戦闘が始まって結構な時間が経った。
順調にダメージを与え、敵の体はもはや酷い有り様だ。
左腕は肘から先がなく、体中ぼこぼこだ。
だが、俺はふと、あることに気付いた。
『こいつは・・・・いつになったら死ぬんだ?』
『僕も気になってた。やるなら速くやらないと、次にどんな敵が襲ってくるか分からないよ』
『よし、じゃあ行くぜ』
俺は一気に敵の懐に飛び込みすぐに脱出。
すでに俺のいない空間を敵の剣が通り過ぎ、床に当たって剣の方が少し砕ける。
俺は素早く後ろに回り込んだ。
「遅い!」
低い体制になり、一回転して遠心力を味方につた水平斬りを放つ!
それは敵のひざを見事に打ち抜き、両足を失った石騎士は不恰好に地面に倒れた。
すかさずアマサメを振り上げ、倒れた石騎士の胸元へ突き刺す!
さらに俺は剣をひねり、石騎士の体は大きく割れた。
石騎士はうめき声をあげるようにのけぞり、そして動かなくなった。
少し様子を見る。
『・・・・大丈夫のようだな』
『これだけ体がバラバラになっちゃあ、ね』
『よし、次は・・・・どこに行けばいいんだ?』
俺は辺りを見回す。が何も新しい情報はなかった。
発光石も効果が切れかけてる。
『どうやらこの空間はドーナツ状になっているみたいだ。さっきの柱まで戻ってみよう』
『分かった』
柱は、小さくなってきた発光石の光でぎりぎり見える距離だった。
『おっと、ランプを忘れてた』
そうしてランプ求めて振り返ったが、俺は異変に気付いた!
『おい!・・・・石騎士がいない!!』
転がっているはずの敵の断片が一つ残らず消えている!
『まずい、光が消えかかってるよ』
俺はアマサメをかまえる。
だが、辺りを照らしていた発光石の光もほぼ消えかかって、満足に目が見えない!
緊張が走る。
”雑音”ではっきりとは分からないが、奴はまだ近くにいる。
細心の注意を払いながら辺りを見回す。
ついに発光石の効果が切れた。
最後の灯火が消える直前に、拾ったランプに光を灯す。
これで、無いよりはましになった。
そして、どれだけ目を凝らしても、敵の姿がどこにも見えない。
気配はあるのだが、完全に姿は消えたのだ。
瞬間、すぐ後ろから微かな足音が聞こえた!
振り向くとそこに立っていたのはやはり奴だった!
『なにぃ!?』
石騎士の横薙ぎが飛んでくる。
なんとかアマサメを立て、防御するが、構えが不安定だったので、完全に受けきれない。
俺の体は左側へと吹っ飛ばされた。
転がりながら壁に激突。その際に左腕を強く打ってしまった。
「ぐああぁ!」
思わずうめき声が漏れた。
苦痛に耐えながら石騎士の方を見る。しかし、
『一体どうなってんだちくしょう!!』
奴の姿は綺麗に消えていた。
『分かった。敵は・・・・』
手元に落ちていたアマサメを拾う。
あまりの痛さに未だ立ち上がれない。
『敵は、壁や床を移動するんだ』
『何――』
直後、目の前の床から音も無く石騎士が飛び出してきた!
右手の剣はしっかりと振り上げられ、そして振ってきた。
ダメだ!反応が間に合わない!
死を覚悟したその瞬間、目の前を閃光が走った。
目の前の石騎士の体を真っ直ぐ縦に線が走り、石騎士は真っ二つに切断された。
その向こうには、ムラマサを提げた斬時の姿。
「危ないところだったな」
斬時は薄い笑みを浮かべている。
「・・・・へへ、助かったぜ」
俺も突然緊張が抜け、間抜けな笑いが出た。
『油断しちゃだめだ、まだ生きてるよ』
「って、そうだった!」
「何を急に」
直後、斬時の後ろに石騎士の姿。
「斬時、後ろだ!」
その瞬間、斬時は横方向に回転、敵の攻撃をかわし、今度は敵の左肩から右わき腹へと斜めに一刀両断した。
「何だこやつは!」
俺は痛みに耐えながら急いでランプとアマサメを拾って立ち上がる。
石騎士の二つの体は、染みこむように床に消えていった。
「こいつは壁や床の中を移動するんだ!さらに再生能力までついてやがる」
「何だと!?それは・・・・稽古に最適ではないか!?」
・・・・こいつは、戦闘に関してはプロ中のプロだが、たまに本気でズレてる部分があると思う。
「そんなこと言ってる場合か!さっさと逃げるぞ!とりあえず走れ!」
俺たちは走る。
「・・・・で、どこへ行くのだ?」
「分からん!」
出口を探して、壁伝いに走る。
直後、すぐ付近に強い気配。
走りながら振り向くと、俺の後ろに続く斬時の後方から石騎士が飛び出した!
「斬時!後ろだ!」
そう叫び終わる前に石騎士はまたも両断され、床に染みこんで消えた。斬時は前を向いたままだった。
「我を甘く見るな」
「・・・・いらない心配だったな」
全く、斬時が敵でなくて本当に良かったと思う。
しばらく走ったが何も出口は無い。ドーナツ状の空間をそのまま一周してしまったらしい。
その間、何度も石騎士が襲ってきたがことごとく刻まれた。
「くそ、出口が無い。・・・・そう言えば、お前はどうやってこの場所に?」
「あぁ、そのことだが」
斬時はムラマサを鞘に収めた。
彼の目の前には、何十もの塊に分解された石の巨人の無惨な残骸が広がっていた。
もはやどれがどの部分なのかも判別できない。
「さて・・・・どうしたものか」
斬時はドーナツ状の部屋を一通り調べたが、ただ壁に囲まれているだけで、出口は無かった。
最後に、この部屋に繋がっていた中央の柱を調べた。
「む、これは・・・・」
直径数メートルもの巨大な柱は、石の巨人が放った拳に半壊していた。
そして、その崩れた部分から、さらに地下へと続く穴を発見、迷わず身を投じた。
その穴はまたも直角なすべり台のようになっており、その出口から放り出され着地。
そこは上の部屋と全く同じような空間だった。
「というわけだ。運が良かったな」
「それを早く言え!外壁伝いにくるくる走ってた俺がバカみたいじゃねえか!」
俺は急遽向きを変え、柱を目指す。
目の前に石騎士が現れる。俺は身をかがめ、直後黒い閃光が走り、石騎士は十数回目の両断を受けた。
俺は急いで腰の防火ポーチから小ぶりの箱を取り出す。
外見は革張りだが、金属製の頑丈な箱だ。
「くそ、高いんだぞこれ」
中を開け、二つのうち片方の球体を取り出す。
それは、小型の爆弾だ。
箱を鞄に戻し、爆弾のピンを外して柱付近へ投げる。
「斬時、離れるぞ!」
直後、またも石騎士が襲ってきた。
「ぬう、お主もしつこいな。少し黙るがいい」
一瞬にして両腕を肘の部分で切断、斬時は石騎士の背後に回りこんで柱の方へ思い切り蹴り飛ばした。
体が重く、鈍い石騎士は少し宙を舞い、だがすぐに地面に落下しそのまま転がる。
その体が柱にぶつかってようやく動きが止まった。
直後、俺の放った爆弾が爆発。
凄まじい爆音と振動が辺りを覆った。
土煙が収まるのを待ってから柱に近づく。
柱の周りには爆発で崩れた柱や床の大きな破片が転がっていた。
爆弾の威力的に柱を全壊にはできなかったが、中ほどまでは崩れていた。
おそらく石騎士も木っ端微塵だろう。
そして、柱の内部には案の定、地下へと続く暗い穴が口を開けていた。
「斬時、行くぜ。神の気配が流れ込んでくる」
「主こそ、死なぬようにな」
「当り前だ。よし、突入!」
穴から落下し、例のごとく突然放り出された。
今度こそ正確に着地。一瞬の間をおいてすぐ隣に斬時も着地する。
やはりまた真っ暗だった。
ランプに明かりをつける。
光が闇を押し退けるが、床以外全く何も見えない。この空間は相当広いのだろう。
斬時が一歩踏み出すと、踏んだ石畳が小さく沈んだ。
「ぬ」
「なんだ」
「すまぬ・・・・何か、仕掛けを踏んでしまった」
「なにい!?」
直後、急に視界が明るくなった。
その巨大な部屋の壁に等間隔に備えられていた灯台に灯がともったのだ。
その明かりは手前から奥の方へと続けざまにともり、最後には天井から吊り下がっていた大きな吊り灯台にも火がついた。
そのおかげで、ランプは不要になった。反対側の壁まで良く見渡せるほど明るくなった。だが、
「よお、とりあえず明るくなったのは嬉しいんだが・・・・こいつはちょっとやばいんじゃないか?」
俺たちが立っているのは、高さ一メートルほどの踊り場だった。
そこから見下ろす先、空間の向こう側半分に、さっきの石騎士が整然と群をなして並んでいた。
実に百体以上はある。
さらに、超巨大な石の巨人が左右に一体ずつ鎮座し、その巨人の間。この空間の最も深いところ、大きな玉座の上に奴はいた。
(c)QWETY Kari様
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