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SkullSick~世界に唄う不協和音~ 2
「ガーゴイフ・・・・まさか真に存在するとは」
それは、人間のような体に、顔は骸骨、死神のような大鎌を手にし、背中には巨大な羽が備わっている化け物の石像だった。
「ち、完全に予想の範囲外だ・・・・あの石騎士の数に、デカブツが二体、そして神・・・・」
やられた。まさかこれほどの戦力が待ち構えているとは。
暑くも無いのに俺の額を汗が伝う。
『・・・・よお、”例の薬”、まだ使えないのか?』
『薬?・・・・あれは!まだ未完成だ!リスクが多すぎる。もし薬が完成していたとしても危険過ぎる代物なんだ。まして未完成のものは絶対に使ってはいけない!』
『危険なのは百も承知だ。だが、まずこの状況を打開しなければどっちにしろ俺らに命は無いんだぞ!』
『しかし!万全な体ならまだ可能性はあっても、今の傷ついた僕らの体では、確実に薬の負荷に耐え切れない!』
『そんなもんはやってみなけりゃ分からないだろう!』
「なにやらこそこそと打ち合わせ中らしいが」
俺達の内なる会話に気付いたのか、斬時が割って入ってきた。
「主には我がついておるのを忘れるな。何百居ようと所詮は石像。主が瞬く間に石ころに切り刻んでしんぜよう。だてに”闇風”と謳われてはおらぬ。主を無傷で敵の長の目前に案内するくらいはして見せようぞ」
そうだ。俺らには今こいつがついているんだ。
東国最強の剣士。世界でも五本の指に軽々と数えられる男だ。
奴の腕を借りれば、いけるかもしれない。
「斬時、あれだけの数に、あの巨人だ。・・・・行けるか?」
「数など問題ではない。それにあの巨人も先ほど我が始末したものと同じだ。幸い、巨人に再生能力はついていなかった故な」
・・・・この状況にきて、こいつには焦りや不安が全く無い。心底、恐ろしい男だ。本当の化け物は、俺の目の前にいるこいつなのかもしれない。俺は奴の深みを見たようで、心が冷えた。
「よし、それなら、俺は真っ直ぐにあのガーゴイフを始末する。そこまでの道を開け、できれば邪魔が入らないようにして欲しい」
「心得た。我は大丈夫だが、主は片手で神と満足に戦えるのか?」
「腕の一本くらい何とかしてみせるさ。お前にそこまで迷惑をかけるわけには行かないからな」
「流石だ。それでは作戦開始と行こうか。久しぶりに血が騒ぐ。スカルヴァ、剣を抜け!」
奴の声で、俺は背中のアマサメを、斬時は腰のムラマサ、這闇を抜いた。
ゆっくりと一歩を踏み出す。
直後、石騎士と巨人が一斉に動き出した。
騎士は、正面で天に掲げていた剣を構え、巨人は体をほぐすように体を広げた。
そして一斉にこちらへと襲いくる!
「スカルヴァ、そこで少々待っておれ、下準備にかかる」
そう言って、斬時は腰に挿しているもう一本のムラマサを左に逆手で抜いた。
その後の光景と言ったら、もはや一方的な虐殺だった。
踊り場から跳躍し、斬時は迫りくる騎士団の真っ直中に飛び込んだ。
直後、その着地点から半径二メートルほどの円の中に居た騎士が衝撃と共にまず拳大の石ころに分解された。
そして押し寄せる騎士を、その通り名”闇風”の由来通り、黒い疾風となって次々に刻んでいく。
ふと、ガーゴイフの方へ目をやると、なんと奴はまだ覚醒しきっていなかった。
奴の体に、だんだんとひびが入っていく。
奴をやるなら今だ!
俺は白衣を脱ぎ捨て、踊り場を降り、奴目掛けて疾駆する!
斬時は奮闘中だった。巨人の垂直に降る拳をかわし、その拳に何人かの騎士が砕かれた。
斬時がこれほど斬って回っても騎士が減っていないように見えるのは、やはり大群に紛れて再生しているからであろう。
「斬時!ガーゴイフを殺るなら今だ!道を開けよ!」
それを聞いた斬時は大群から飛び出して俺の隣に並んだ。
遠くからでは気付かなかったが、斬時は体のいたるところから出血していた。
そのどれもが致命的な傷でないが、やはり一対百数十という数では、かわしきれない攻撃を最小限のダメージにとどめているのだろう。
いくら斬時でも、いつまでも保たない。
そして俺たちは騎士団の真っ直中へ突っ込んだ!
「主は一直線に走れ!」
騎士達が総攻撃を仕掛けてくるが、斬時が黒い風となって俺の周りを流れ、俺に騎士の攻撃は一切飛んでこない。
もはや斬時の技は魔業と言うしかない。
振ってくる巨人の拳さえ、寸でのところで切り落とされ、彼方へ飛んでいった。
ようやく騎士の隙間からガーゴイフの姿が見えた!
奴の体にはくまなくひびが入り、もうほぼ覚醒しかかっている!
「うおおおおぉ!!」
黒い風が叫ぶ。やはりいくら斬時と言えど限界が近い。風の舞う中で、何度も血が飛んでくる。紛れも無い斬時のものだった。
そして、ガーゴイフを射程圏内にとらえる!
アマサメを構える。
「すまぬがこれが最後だ!飛べ!」
直後、俺の半径二メートルに居た敵全てが消し飛んだ!
同時に俺が跳躍する!
「斬時!俺から離れろ!」
アマサメを持ち上げ、狙いをつけようとガーゴイフを見る。
だが、ガーゴイフをまとっていた石が封印を保てず、破裂した!
中から現れたのは、紛れもない”生き物”の姿であった。
覚醒しやがった!くそ、間に合え!
「夢の世界に返りやがれ!!」
玉座の目前に着地、間髪を入れずにガーゴイフの腹部目掛けアマサメを突き出す!
だが、奴の大鎌もまた走り出していた。
大鎌とアマサメが交差した。
肉がちぎれ、内臓を貫通し、血が噴出す音が聞こえた。
耳を塞ぎたくなるような、この世のものとは思えない叫び声が上がった。
俺のアマサメは見事にガーゴイフの腹部中央を貫通、背中から切っ先を覗かせていた。
そして、奴の鎌もまた、俺の右わき腹に突き刺さっていた。
痛みをねじ伏せ、俺は根性で奴の心臓をえぐった。
また耳に残るような叫び声をあげ、奴は動かなくなった。
俺の腹を切り裂いた鎌が石畳に落ち、金属と擦れあう音が響いた。
後ろから、石騎士たちが崩壊する音がうるさく聞こえてきた。
「・・・・ふう、やった――」
俺が力をゆるめた瞬間、死んだはずのガーゴイフが動き出し、両手で俺の首を締めた!
だが、もはやその手に力は入っていなかった。
「っっっっぐぁ!!」
死をも上回る痛みが襲ってきた。呪いだ。
俺はあまりの痛みにのけぞるが、ガーゴイフの手が首からはずれず、あまり動くことができない。
左目を伝い、脳に直接入り込んでくる。
目を瞑ろうとしてもできない。
これが神を殺した者の代償だ。
右目の視力が失われ、左目が視界を支配する。
ガーゴイフの記憶が断片的な映像となって舞い込む。
その負荷に耐え切れず、頭が割れそうな感覚を生む。
「く・・・・み、見える・・・・!」
”俺自身”の感覚が全て、一気に消え失せた。
真っ白な空間。音も何もない空間。
そこに、俺が”二人”立っていた。もう一人の俺と目が合うが、互いに何も言わない。
目の前に、映像が映し出された。
そこは、ミズィ神殿、最深部。つまり”ここ”だった。
その玉座の目の前、そこに祭壇が用意され、それを囲むように多くの人たちが立っていた。
不思議なことに、その人らは皆、身を隠すようにぼろぼろのローブをまとい、杖をついていた。
映像が切り替わる。
祭壇の上に、何か骨のようなものが置かれた。すでに朽ちたもので、何に使うのか見当もつかない。
また切り替わった。
その人らの長と思しき老人が、何かを指示した。
それを聞いた人たちは、一斉に後ろを向き、山のように積んであった拳大の石の塊を手に取り始めた。
石の山から取ったいくつかの石を積み、今度は小さな山を作る。
子どもが砂場で作るほどの大きさだ。
そうしてできた山の目の前で、杖をかざし何かを叫ぶ。
すると、なんと目の前の小さな石の山が姿を変え、盛り上がって騎士の姿になった。
そう、それが石騎士だった。
それぞれ、一人一体の騎士を造ると、疲れ果てた様子で、玉座のさらに奥にある扉をくぐって行った。
やがて、長であろう老人を除く最後の一人が、扉をくぐり、そして、扉は閉じられた。
そこで別の映像に切り替わる。
今度の映像は、神殿とは全くかけ離れたものだった。
広い野原で、小さな男の子が犬と一緒に遊んでいる。男の子もまた、ローブを身にまとっていた。
じゃれ付いてくる犬と、同じくじゃれ合うようにして、男の子は”こちら”に笑いかけた。
笑顔が眩しい少年だった。
すると少年はこちらに走ってきた。そして”自分”の足元にしがみつき、笑顔のまま何かを言った。
音が無いので、その内容は分からなかった。
ただ、その屈託の無い笑顔は、全ての嫌なことを忘れさせてくれるようだった。
そこで、微笑ましいその映像は途切れた。
また、神殿のものに戻る。
老人は、皆が扉をくぐったあと、玉座に杖をかざした。
すると、巨大な玉座が独りでに動き、扉と密着して塞いだ。
そして、一気に疲れた顔になった老人は、その朽ちた骨を手に取り、何かをつぶやいた。
直後、意を決したように、老人は・・・・その骨を自らの腹部に突き刺した。
老人の顔が苦痛に浮かぶ。が、老人はかまわず骨を内部に押し込む。
半分以上が自らの体に吸い込まれた後に、老人は最後の気力を振り絞り、点に杖をかざして血を吐きながら何かを叫んだ。
すると杖の先端へと膨大な”何か”、エネルギーのようなものが集中、そして爆発した。
膨大な爆風が部屋を駆け抜け、爆発の衝撃で祭壇は破壊された。
白い煙が晴れると、そこに居たのは老人ではなかった。
固く覆われた赤褐色の肌。悪魔のそれに酷似した広い羽。骸骨のような顔。 ”彼”が持っていた杖の面影を残した巨大な大鎌。
そう、”彼”がガーゴイフだったのだ。
”彼”は唯一”彼”であったことを証明するローブをマントのようにまとい、玉座の上へと座った。
彼の目の前には、百を越える石騎士が整然と軍列をなしていた。
また切り替わった。
突然、”ここ”の壁が大きく破壊された。
もの凄い衝撃に土煙が舞う。この石造りの厚い壁をも破壊する威力だ。
そして、今まで眠っていた騎士たちが目覚めた。
全ての騎士が、一寸たがわぬ機械的な動きで剣を構えた。
直後、鼓膜が弾けるような叫び声と共に、土煙から姿を現したのは、何頭もの巨人だった。
その姿は人間に近いものだが、その背丈は推定約三メートル、皮膚は固く細かいうろこのようになっていて、手には巨大なこん棒を持っている。人間と言うにはあまりにも凶悪なものだった。
――タイタントだ。
虚ろの中でも大型のもので、単純な「力」ならどの他族にも劣らない一族だ。
そいつらが、何十と部屋へ侵入してくる。
最前線のタイタントらと騎士たちがにらみ合う。
そして、玉座に座っていた”彼”が立ち上がり、鎌を振りかざして金切り声のような雄叫びを上げた。
それが、石の軍勢と巨人族の戦闘開始の合図となった。
それからはもはや混沌の極みだった。
何対もの騎士たちが、巨人の棍棒一振りに砕かれ、巨人の首目がけて飛びつこうとした者は、ことごとく握りつぶされた。
たが、序盤こそ巨人有利だったが、形勢は徐々に傾いてきた。
いくら破壊してもその騎士たちは死ぬことは無く、体力の尽きた巨人は無限に繰り出されるその剣によって体中を切り刻まれた。長であるガーゴイフも、その翼で空を舞い、大鎌で巨人たちの首を刎ねていった。
そんな死闘の繰り広げられる、地獄絵図のような光景を前に、俺たちはようやくその理由を理解できた。
そう、この映像は、”大襲撃”、つまり、この古都ヴェーゼンが滅びた日だったのだ。
この日、何の前触れも無く、さまざまな虚ろの人がヴェーゼンへ押し入り、一夜にしてヴェーゼンの民は全滅したと言う。
その戦いの一部を俺たちは”彼”の記憶として見ているのだ。
戦いは長く続き、だが直に、勝敗の行方が見えてきた。
どんなに、物理的に強力な力を持ったとしても、不死身の軍勢には敵わなかった。
時が経つにつれて大きな死体が増えていった。
そして、ついに残るタイタントは二体となった。
だがその二体ももはや戦えるような状態ではなかった。
何百もの裂傷。かろうじて生きてはいるものの、おそらく長くは持たない。
取り囲みとどめを刺そうとする騎士たちを抑え、”彼”が降り立った。
彼は二体のタイタントを少し眺めて、突然その鎌で自らの掌を薄く切り裂いた。
黒に近い色の血が流れる。
そして、その手をタイタントの厚い胸元に突き刺した。
死に際のタイタントが大きな呻き声をあげる。
すると、なんと突き刺した胸元からタイタントの体が石へと変化していく!
――”族化”だ!!
神は、自らの種を守るため、他の生き物を強制的に自分の種と同じように作り変えることができるのである。
情報としては誰もが知っていることだが、その現場を見たのは初めてだ。
族化の現場を見たことのある者は、おそらく世界でも数えるほどしかいないだろう。
二体目の族化も終え、そこには完全に”石の巨人”が二体出来上がっていた。
おそらく、斬時が戦ったと言う石の巨人と、俺の戦った石騎士は、俺達の前にこの場所を見つけ、そして彼に戦いを挑み、敗れた者たちが、オリジナルを模して族化されたのだろう。
違いは動きを見比べれば分かる。先ほど戦ったものたちは、オリジナルと比べて動きが緩慢過ぎだ。
最後に彼は、両手をかざすと、その手に淡い光がともり、壊れた壁などが独りでに修復されていった。
そしてまた玉座に座り、新たな巨人二体を従え、眠りについた。
「・・・・ヴァ!スカルヴァ!」
俺を呼ぶ声が聞こえて、ようやく我に帰った。
気付くと、俺は地面にひざをつき、アマサメを支えにようやく倒れずに保っていた。
すぐ横に斬時の顔がある。
”彼”を見ると、力なく玉座に座り、その骸骨のような顔を垂れていた。
それにしても、少し神を喰いすぎたらしい、大分深いところまで、呪いを見ることができるようになってしまった。
まだ頭痛も治まらない。
立ち上がろうとして、右脇腹の激痛に気付く。
見ると、出血が酷い。
『く・・・・頼む』
『了解』
僕は非常用にと足に巻きつけていた包帯をほどき、ガーゼも無いので直接患部に巻き付けて止血する。
斬時君にも手伝ってもらった。
『医療パックは鞄の中だから、現段階でこれしかできないよ。それとこの傷は、縫合が必要だからできるだけ安静に。宿に戻るまで暴れないでね』
『分かったよ』
何とか俺は立ち上がることができた。
直後、遥か後方から拍手の音が聞こえた。
俺たちは脊髄反射で振り返り、剣を構える。
そこには、大小二つの人影がいた。
全く気配に気付かなかった。
そいつらは踊り場を降り、ゆっくりと俺たちに近づいてくる。
と言うか、よく見ると俺たちが通ってきた通路の下には、普通に扉があった。
あの不便さからして、どうやら俺たちは正規のルートではなく裏道を通ってきたらしい。
それで死にかけたことから、どっと疲れが出た。
影が近づくにつれ、姿が見えてきた。
大きな影は女だった。ジーンズにすその長いコートを羽織り、ボロボロの布で巻かれた剣を引きずっている。
それが石畳と擦れて、カラカラと軽い音が響く。
彼女は黒髪のショートヘアーで、首元から鼻の辺りまでを包帯のような白い布をマフラーのように巻いているので、顔だけを見れば男と間違えてしまいそうだ。さらに、女にしてはやけに背丈がでかい。
そしてもう一方の小さな影は、まだ子ども、少年だった。十代半ばか前半だろう。
こちらは手ぶらで、上下黒の皮製のパンツとジャケットを身につけている。肩先まで伸びる髪の毛は、美しい銀髪だった。
だが何よりも目を引くのが、その顔だった。
小ぶりで美しいその顔は、右半分が大きな黒い眼帯で覆われていた。
二人は、明らかに一般のデバッガーなどのならず者とは、次元の違う空気を発している。
俺たちから大分距離をおいてそいつらは足を止めた。
その少年が口を開いた。
「あなたたちの戦いは見せてもらいました。素晴らしい力をお持ちのようだ」
少年は、少年の声で、だがやけに大人ぶった口調で言った。
「いつからだ」
「あなたがあの軍勢の中に飛び込んでいった直後からです」
・・・・何だと?おかしい。俺が騎士の中に飛び込んでから今までの時間のなかで、俺と、まして斬時が気付かないはずが無い。
「斬時、気付いていたか?」
俺は隣の斬時にしか聞こえない小さな声で、少年から目を離さずに尋ねた。
「不覚にも全く気付かなんだ。奴等、相当腕の立つ連中らしい」
「その刃が二本並行に走る巨大な剣、あなたがあの”四つ牙”として名高いスカルヴァ・スースヘルですね?」
「答えるつもりは無い。それよりここに何のようだ?財宝目当てならこの遺跡には何も無いぞ」
「っはははは!財宝ですか。そんな小さな物など手に入れて何になるのです?」
「ならなおさらだ。目的が無いのならすぐに出て行け」
「目的ならありますよ。・・・・いや、ありました、ですね。・・・・私が欲しかった物は、あなたがつい先ほど壊してしまったのでね」
「・・・・なんだと?」
「私の欲しかった物は、あなたのすぐ真後ろに、力なく座る”それ”ですよ」
こいつの言っている意味が分からない。『神には関わるな』この人間の世界が出来上がった当初から言われ続けている言葉だ。それなのに、こいつは何だ?
「お前は・・・・何者だ?」
「そんなことよりも」
先ほどよりも低い声になった。やつらから放たれている空気に威圧が混じる。
「最近各地を回りながら虚ろ神を退治している人間がいると聞きましたが・・・・まさかあなただとは。あなたにはそれだけの力があるので、不思議ではありませんが・・・・私は哀しいです」
こいつは何を言っている?こいつらの目的はなんだ?
「実は私も、理由があって虚ろ神を”集めて”いるのです。大きな理由によって」
分からない。こいつは何を考えているんだ?
空気の威圧感が増していき、ついに、殺気が混じり始めた。汗が頬を伝う。
「・・・・お前は一体・・・・何だ?」
威圧と殺気に、俺は小さな声しか絞り出せない。
「あなたは神を殺すが、私は神を”生け捕る”。故に、最終的な私の願いが達成される最中で、いずれあなたは障害となる。あなたの力からして、大きな障害だ。そして・・・・危険な存在だ」
直後、俺の隣にいた斬時が消える。
奴の隣にいた女も姿を消し、二人は俺と奴との間で衝突した!
正に音速の攻撃に、衝突した剣とムラマサの間に火花が散った。
女の剣を覆っていた布の下から現れたのは、白銀の重剣。それは、女が持つにはあまりにも厳ついものだった。
「刀を交えて分かったわ。貴様は”白き残響”シドヴィナ・アスダンテ!!」
鍔迫り合いの中で、斬時は嬉々と叫んだ。
俺は、その名前に聞き覚えがあった。
「”闇風”ザンジ・ウルシメ、あんたとは一度、剣を交えてみたかった」
シドヴィナが布の下から淡々と言った。
「こちらこそ、貴様と一戦交えることになるとは夢にも思わなんだ」
「だが、早くもこの迫合いで知ることができた。あんたはオレが思っていた以上に弱い」
直後シドヴィナは剣を振り切り、間髪いれずに今度は斜め上へと振りぬく!
一瞬出遅れたが、すぐに反応した斬時もムラマサを下に向け受ける。
だが、次の瞬間
バキン!
甲高い音が石造りの部屋に響いた。
なんと、受けた攻撃に、斬時の這闇が耐え切れず折れてしまったのだ!
折れた残りは、高く宙に舞い、遠くに落ちて音をたてた。
「その紙きれのような剣では、オレには勝てない」
そう言って、シドヴィナは斬時の首元に剣を突きつけた。
「やめろ。それ以上の行動は許さん。戻れ」
奴のその言葉で、シドヴィナは剣を下げ、奴の後ろに戻る。
俺は、斬時が”俺以外”に負けた姿を初めて見た。
「今日はあなたたちと本気で戦う気は無い。私たちはこれにて失礼する。・・・・長い付き合いになるだろう」
そう言ってやつも背を向ける。
「我が名はロシエル!世界に唄う不協和音、”ディスゴーツ”の長なり!いずれ我等の刺客がそなたを訪ねるであろう!覚えておくが良い!」
そう言って、ロシエルと名乗った少年と、”白き残響”シドヴィナは扉をくぐり、姿を消した。
ロシエルとは何者なのか。ディスゴーツとは何なのか。
多くの謎が残った。
「・・・・スカルヴァ」
今まで、折れた這闇を呆然と見つめていた斬時が不意に呼んだ。
「なんだ?」
「・・・・すまぬ」
「・・・・何がだ?」
俺は遠くに落ちた這闇の片割れを拾う。
脇腹の包帯にはもう血が滲み、垂れてきている。
「もし先ほどの段階で、ロシエルとか言う小僧が、シドヴィナを使い本気で我等を消しに来ていたら・・・・我はきっと主を守れなかった」
斬時の寂しげな声が石造りの部屋に響いた。
彼ほどの使い手だ。あのようにいとも簡単に自分の力を否定されては、ショックも大きいだろう。
それよりもシドヴィナだ。彼女は数年前から行方不明になっていた凄腕の女剣士だ。
なぜ今、突然姿を現したのだ。
「いいんだよ、そんなこと。結果オーライじゃねえか」
俺は拾った這闇を斬時に返す。
切れ味が鋭いので、慎重に渡す。斬時は力なく受け取った。
「このような姿・・・・弟子達には見せられん・・・・」
斬時は手の中の這闇を悔しそうに握り締めた。掌から血が垂れた。
ヴェーゼンに戻った頃には、日も暮れかけていた。
宿を取って、夜のうちに傷を縫合し、何とか血は止まった。
『遅くても一週間後には抜糸できると思うからそれまでは傷口開けないように』
とのことだ。
ちなみに夜、斬時の体の傷も手当てをしたいと申し出たが斬時は断った。
なんでも、
「この傷は我がまだ未熟であるがためについたものだ。主の意はありがたいが、自らの不始末による傷はは自らの力で治したい」
だそうだ。
現在早朝。
傷の事を考え、トレーニングは控えることにした。
左腕骨折に右脇腹縫合中。我ながらグズグズな体だ。
斬時の部屋を訪ねる。
ノックをしてから、
「斬時、入るぞ」
木製のドアを開ける。
中では、斬時が床にあぐらで、こちらに背を向けて座っていた。
その先には折れた這闇が見える。
・・・・ここはあまり話し掛けないほうが良さそうだと勝手に判断。
「斬時・・・・出発の時間だ。支度しとけよ。外で待ってる」
「・・・・ああ」
宿の外、行き交うならず者たちを遠く眺めながら待っていると、少しして斬時が出てきた。
「待たせた」
平常を装うとしているが、やはりどこか浮かない雰囲気がある。
二人とも無言のまま、借り馬小屋から斬時の馬を引き取り、寂れた中央広場に来た。
ここで、別れる時だ。
「主は、馬は無いのか?」
人々の主な交通手段は馬だ。少し金に余裕のある奴は馬車。
「寝ている時に虚ろの人になられても困るからな」
俺は少しでも斬時の重りを取り払おうと、明るい表情を作る。
「・・・ふふ、そうだったな。やはり不便な病よのう」
「まあ、仕方ないさ。”まだ”人間だ。歩きゃいいんだよ」
「うむ、そうだな。急いて解決策を見つけるのだぞ。”主が虚ろ神に変貌する姿など見たくない”」
「ああ、何とかして見せるさ。お前はどうするんだ?」
「我は、一度国に帰る。折れた這闇も元に戻さねばならぬ故な。こやつは、我の力不足のせいで無惨な姿になってしまった。そして、また”爺”の修行を受ける。次こそはシドヴィナを討つ!ディスゴーツやらと戦う時はまた呼べ。シドヴィナは我が獲物だ」
「分かったよ。・・・・期待してるぜ」
「任せよ。・・・・では、さらばだ。我の知らぬ間に命を落とすなど、あってはならぬぞ!」
斬時は自らの漆黒の馬にまたがり、東門の方へ走り出した。
「その言葉、そっくりお前に返す!そしてくれぐれも道を間違えるなよ!!」
俺の嫌みにも、斬時は背を向けたまま手を挙げて答えた。
斬時の姿がどんどん小さくなっていく。
その姿が消える前に、俺も南門へと歩き出した。
『ところで、この腕はいつ治るんだ?』
『あと少し・・・・』
『その言葉ももはや何回目か分からんぞ』
『いやでもあと少し・・・・』
SkullSick~世界に唄う不協和音~ 終
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