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初ギル戦
―ギルド戦が始まりました―
ブルンギルドの制御空間内に
ギルド戦の開始を告げるアナウンスが木霊した。
開始のアナウンスと同時に開始前の制御の重圧が消え
全身がふっと軽くなった。
メンバーの人たちは準備詠唱をしたり、
補助魔法をかけたりしていた。
ギルド加入初日に初ギルド戦ということで
私は緊張し、細く小さな弓を無意識に握り締めていた。
「緊張する必要はないのですよ?レミカさん。」
GMのダインさんが私の挙動を見て微笑みながら声をかけてくれた
「あ・・・はい・・・」
私は彼とあまり目線を合わさず返答した。
ただ立っているだけなのに・・・
ただ弓を握っているだけなのに・・・
心臓は私の心境を示し、
全速力で駆けているときの様に
速く、激しく鼓動していた。
「さぁ!今日の相手は少数精鋭です。
各人、相手を一人ずつ囲み、各個撃破を狙ってください!」
ダインさんが大声でメンバーに指示を出した。
彼の声が普段の話し声に比べてあまりに大声だったもので驚いて、
危うく弓を落としてしまうところだった。
指示を聞き終えると、
まず、厚い鎧を身に纏い、いかにも強そうな前衛メンバー達が進軍した
「あなたの魔弓術は後衛向きですね」とダインさんに聞かされていたので
私は前衛のメンバーの後ろをついていった。
進軍してから程なくして谷に差し掛かかり、
少し奥に入ったところで、
突然、金属と金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。
相手ギルドと交戦が開始したのである。
前衛のメンバーが激戦を繰り広げ、
砂埃が上がって前方の様子がよくわからず、
私はただ立っていることしかできなかった。
しばらくしても金属音は鳴り止まず、
戦況は互角のようだった。
すると突然、谷の上からアーチャーやウィザードが2,3人現れた。
「伏兵!? 全軍!上方に注意しながら、
谷の入り口まで後退してください!!」
ダインさんが大声で指示を出した。
彼が指示を言い終わる前に狙撃が開始された。
私たちは多少陣形を崩しながらも
狙撃を防御しながら谷から脱出した。
その瞬間、谷の上にさらに伏兵が現れ
私たちはさらに陣形を崩された。
彼らが怯んでいるスキをつき、
軽装の女ランサーが前衛の壁を抜け、
後衛の私に向かってきた。
とっさに矢のない弓を構え、
両手の指先に魔力を集中させ、
その魔力同士をつないで、光の矢を作り出し、
それを敵ランサーに撃ちこんだ。
光の矢は彼女の右肩を弾き、体勢を崩した。
そして体勢を崩した敵ランサーの背に
白く光る巨大な斧が追い討ちをかけた。
彼女はなすすべなく地面に叩きつけられ、気を失った。
「ナイスアシスト!新入り!」
巨大な斧を軽々と持ち上げ、ニカッと私に笑いかけながら
まだ名前を聞いたことがない若いギルメンの戦士が言った。
私は【新入り】という言葉に若干の嫌悪感を感じたが、
彼があまりに明るい笑顔をするものだから
この嫌悪感は一瞬で過ぎ去ってしまった。
「その調子で援護頼むぜ!」
そう言うと彼はさっさと前衛の仕事に戻った。
【2】
戦況は一人のランサーが倒れたくらいで覆せる物ではなかった。
味方前衛達のPOTがだんだんと切れはじめ、
状況はますます劣勢となった。
味方前衛の何人かが気絶すると、
突然、私の目の前が真っ白になり、宙に浮いた。
そして、猛スピードでどこかに飛ばされた。
私の足が着地すると、自然と視界が開けた。
ここは、進軍前にいたところだとすぐに気付いた。
「ナイスコールです、ファリィ」
ダインさんが小柄な女天使にむかって言った。
「それほどでも~♪ あっちは大変だったみたいですねぇ~」
気の抜けた声でファリィが翼をしまい、
人間の姿になりながら答えた。
そのあとすぐに彼女は神に賛美を捧げ、
「彼のものをもう一度現世へ・・・・
リザレクション!」
と、気絶回復の術を施した。
「ううむ・・・噂には聞いていましたが・・・
こうも簡単に奇襲を受けてしまうとは・・・」
「気にすんな、ダイン。
二回目受けなきゃいいんだよ。」
ダインさんを励ましたのは、さっきの若い斧戦士だった。
「そうですね・・・ありがとう、アサルト。」
「いいってことよ! お前がしんみりしちまうと楽しくないからな!」
彼はダインさんにニカッと笑いかけた。
彼の明るい笑顔を見ていると、なぜか私の顔が熱くなるのを感じた。
「さっきの動きはよかったぜ新人。」
気がつくとアサルトさんが目の前に立っていた。
「え!あ、あわ、、・・・」
私の心臓はギル戦開始前よりも
鼓動が速く激しくなっていた。
「ん?どした?」
「あ・・・わ、私の名前はレミカですっ!」
何で今更自己紹介したのかよくわからなかったが
心の奥で新人と言われ続けるのが嫌だったからかもしれない。
「あ~わりぃわりぃ・・・
名前って覚えるの苦手でなぁ・・・
レ・ミ・カだな。よし、覚えた。」
彼はまた明るく微笑んだ。
さらに私の顔が熱くなっていくのが感じられた。
「んじゃよろしく頼むぜ!レミカ!」
「あ・・は、はい!」
なんだか、彼に期待されるとこの上なく幸せな気持ちになった。
これは・・・ひょっとして・・・?
「アサルトは女癖悪いんですよぉ~
レミカちゃん、気をつけてくださいねぇ~」
蘇生作業を終え天使に変身したファリィさんが
アサルトさんに聞こえるくらい大きな声で言った。
「え゛?」
私の妄想はそこでピタッと止まった。
「ちょ、おいファリィ!」
彼はあからさまに焦っていた。
「・・・ほんとなんですか? アサルトさん」
「え~・・・あ~・・・その・・・・」
私の質問に彼は口ごもって否定しなかった・・・
彼の曖昧な返答を聞くと、
私の熱くなっていた顔が急に冷たくなった。
「・・・てめぇ・・・」
「あははぁ♪」
アサルトさんはファリィさんを眉間にしわを寄せながら睨みつけ、
彼女は彼以上に明るく笑っていた。
「せっかく俺が作り出した清純なイメージがぁ・・・」
「どうせそのうちボロが出ちゃいますよぉ♪」
「俺の努力を踏みにじりやがって・・・」
「その努力でぇ、人が傷つくのを見るのは嫌ですからねぇ♪」
「俺が傷つくだろーが!」
「アサルトは別です♪
だーって傷ついてるのを見るのがたーのしいですもん♪」
「ぬぅぅ・・・、だぁぁぁぁぁ!くそ!」
アサルトさんはやけくそになって叫んで、
ファリィさんは勝ち誇った満面の笑みを浮かべた。
「さてさて、二人とも、ギル戦中ということを忘れずに・・・」
ダインさんが終わりそうのない論戦を静めた。
「おっと、そうだった・・・わりぃ」
「そでしたねぇ~」
やっと論戦は静まり、ダインさんの指示が始まった。
【3】
「さて、まず第一に、相手の奇襲は避けねばなりません。
これ以上点差を広げられるわけにはいきませんからね。」
「ああ。 だが、どうやって?」
アサルトさんが胡坐をかいて、その上に斧を乗せながら言った。
「・・・・ファリィを前衛へ組み込みます。」
「な! あの毒舌天使を?!
あいつを前に出したとこで、障害物にもなりゃしねぇ!
恰好の的だぜ?!」
「あら!上半身むき出しの紙戦士さんに言われたくないですねぇ~」
挑戦的にファリィさんが挑発した。
「なんだとぉ!」
「はいはい、理由を言いますから・・・。」
再度の論戦を避けるため、ダインさんが二人をなだめた。
「ファリィは前で『ディテクティングエビル』を使ってもらいます。」
「なるほど・・・・殺気探知か。」
「そうです。本当は探知の本職シーフが欲しいところですが・・・・
やれますね?ファリィ。」
「はい♪お安い御用ですぅ~」
ファリィさんがにっこりと微笑みながら応えた。
「では、各人、ファリィの探知を頼りに進軍してください!」
ダインさんが大声で指示を出した。
少し進軍するごとに翼で自らの体を包みこんで、
ファリィさんが探知を繰り返していた。
「・・・・・・あっちに移動していない部隊がいますねぇ~
でも、その手前に少数ですけどぉ、殺気の強い移動中の部隊がいましたぁ」
あの奇襲を受けた谷を指差しながらファリィさんがダインさんに報告をした。
「移動していないのは恐らく奇襲班・・・
殺気の強い移動中の部隊は恐らく待ち伏せをしていた部隊・・・・
こちらが動いてこないので探索を開始したのでしょう・・・」
「んで・・・どうするよ。ダイン。
谷にいけばまた奇襲受けるだろ?」
「・・・・こうしましょう。」
ダインさんがなにやらアサルトさんへ耳打ちすると、
「・・・・あんまり気がすすまねぇが・・・・
お前が考える策ならしかたねぇな・・・
さっさと準備しようぜ!」
「ええ。 全員聞いてください!」
再度、ダインさんの指示が始まった。
私達、遠距離攻撃を持つ部隊はダインさんの指示で、
大きな岩壁の陰に隠れていた。すると、
「チッ! あいつらどこいきやがった!」
「コールさえなければあんなやつら簡単に全滅だったのによ!」
「見つけたら速攻でボコボコだ!」
岩の向こうに敵部隊が不平をいいながらやってきた。
こちらの存在にまったく気付いていないようだ。
「・・・・・いまです!」
ダインさんの指示で私達は一斉に岩壁の陰から姿を現し、
射撃、魔法攻撃などを敵部隊に放った。
しかし、この攻撃で敵部隊への被害は微々たるもので、
「ぬぉ!? てめぇら・・・・
なめたまねしやがって!!!!」
と、相手の殺気をさらに強くしただけあった。
私達はさっと、岩壁の陰へ再度身を隠し、
敵の矢やダガーを避けた。
彼らは全員ものすごい速度で岩壁に寄ってきた。
「頼みますアサルト!」
ダインさんが岩壁の上に呼びかけた。
俺は、ダインの指示で毒舌天使ファリィと
岩壁の上で待機していた。
「見つからないようにしてください」
というダインの指示を受け、
性にあわねぇが岩壁の上で身を潜めていた。
「もうすぐ、射程にはいりますよぉ~
その無駄にでっかい図体を
見つけられないようにしてくださいねぇ~アサルト。」
とファリィが囁いた。
「わぁってるよ! てめぇも無駄口叩かず黙っとけ!」
あいつを睨み付けて俺が言い放った。
俺はあいつの、人を小馬鹿にした態度が嫌いだ。
俺は出来るだけ見つかりにくいように身を縮めた。
敵が不平をぶちまけるのが聞こえたからだ。
「・・・いまです!」
ダインが最初の一手を指示する声が聞こえた。
そして、そのすぐ後に、
「ぬぉ!? てめぇら・・・・
なめたまねしやがって!!!!」
敵へ挑発が成功したような敵の罵り声が聞こえた。
そのすぐ後に
「頼みます!アサルト!」
ダインが二番目の指示を出してきた。
「おっし!んじゃぁいくぞ、毒舌天使!」
「途中で落とさないでくださいよぉ?」
「お前こそ、振り落とされんなよ!?
どりゃぁ!!!!」
俺は岩壁の上からファリィと斧を抱えたまま、
跳んだ。
着地点は敵の背後。予定通りの着地だった。
着地してすぐに、ファリィは詠唱を始めた。
「天と地を統べる神よ、
此処に彼の仲間を呼ぶ力を与えたまえ、
コーリング!!!」
相手が岩壁の陰を取り囲む時には
私達が彼らを取り囲んでいた。
ファリィさんのコーリングで、
敵の背後に全員が集合し、
岩壁を利用して取り込んだのだ。
「くそっ!謀りやがったな!?」
相手から力のない罵りが聞こえてきた。
「殺気立っているからですよぉ~だ
もっと頭を使わないと、ですよぉ?
やーいやーい!」
ファリィさんがお返しに罵った。
ちょっと子供っぽかったけれど・・・・
「まぁ、さっきの奇襲のお返し・・・
ということで。」
ダインさんが複数の火球を頭上に召喚しながら言った。
その火球が動き出すと同時にこちらも動き出した。
この戦闘は、奇襲を受ける前のように
長く続くことはないと思われた。
相手に退路はなく、こちらは多方向から攻撃できるからである。
案の定、敵部隊のほとんどはすぐに倒れた。
しかし、あの罵り声を放っていた一人の剣士だけが、
空中に浮かべた盾で巧みに多方向からの攻撃を防ぎ、
炎を帯びた剣と前方に突き出し私の方へ突進してきた。
「うらぁぁぁ!!!!」
「まずい! レミカ!!!」
「きゃぁぁぁぁ!!!」
彼の動きは私に剣が突き刺さる直前に止まった。
あまりにギリギリで止まったため、私は腰が抜けて、
その場に座り込んだ。
「え・・・? あ・・・?」
私は状況が読めず腰が抜けたまま混乱していた。
彼は半透明な白い糸のようなものに巻きつかれていた。
「大丈夫ですかぁ? レミカちゃん。」
気の抜けたファリィさんの声が聞こえた。
「あ、はい・・・ありがとうございます。
あの白い糸は・・・・?」
私は敵の剣士を指差しながら言った。
「ホールドパーソン、動きを止める技ですよぉ~♪」
彼女が得意げに言った。
「あとは、アサルトにまかせればおっけーですぅ~」
と彼女が言った時には、
アサルトさんがホールドパーソンにかかった剣士の後ろで斧を構えていた。
「ぜいやぁっ!!!」
彼が斧を振り下ろすと、その後ろにさらに彼が現れ、
何度も何度も斬撃を加えた。
その攻撃を受けた剣士は、
白い糸に絡まれた時の格好のままゆっくりと前へ倒れた。
「今度、うちの新人を襲った時は、
さっきの2倍のを叩き込んでやるから覚悟しとけ!」
気絶している剣士にアサルトさんはそう言い放つと、
私に駆け寄って、
「大丈夫か?レミカ。」
と、声をかけた。
「は、はい。
だいじょぶです。」
私は立ち上がりながら返答した。
「そっか。そりゃよかった。」
彼は、ニカッと笑い、あの明るい笑顔をまた見せた。
私はまた、少しだけほほが熱くなるのがわかった。
「やりましたね、みなさん!
さぁ、ここからが本当の勝負です!」
ダインさんがうれしそうにメンバーを激励した。
私は気合を入れなおして、弓をしっかりと握り締めた。
負けない。そう自分に言い聞かせた。
そして、彼や・・・みんなの足手まといにならない。そう決めた。
私が決意を新たにしているときに、
そろっとファリィさんが私に耳打ちした。
「忘れないでくださいねぇ。アサルトの女癖は・・・・」
急に現実へ引き戻された。
でも、ひとつ確実に言えることは、
この試合で勝っても負けても、
私はこのギルドが、メンバーが、好きになれそう。
ということだ。
【END】
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