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秋の庭で


舞の家の庭には、小さいけれどとてもきれいな紅葉の木がある。

 毎年秋になると、小さな可愛らしい葉が赤く色付いてとても美しい。

 今年も秋が近付いて来て、庭の紅葉は少しずつ色付き始めていた。

 舞の部屋からは、その紅葉の木がよく見えた。

 舞は、美しく色付くその紅葉を見るたびに、雪久のことを想うのだった。

 雪久は、三つ年上の舞の幼なじみだ。

 家同士とても親しいので、二人は子供の頃いつも一緒に遊んでいた。

 正確には、人懐こい舞が、兄のような雪久について回っていたのだが。

 舞が紅葉を見るたびに雪久を想うといっても、舞が雪久に片想いをしているわけではない。

 舞と雪久は、ごく自然に、幼なじみを卒業して、恋人同士になっていた。

 子供の頃からの付き合いなので、親に隠す必要も無く、お互いの家はもちろん、部屋でさえ勝手に出入りしていた。


 「舞。また紅葉見てんのか?」

 例によって勝手に舞の部屋に入ってきた雪久が言った。

 「うん。」

 舞は相変わらず紅葉を眺めている。

 「おまえ、ガキの頃から好きだったよな。その紅葉。」

 「うん。」

 「それ、そんなにきれいか?」

 「うん。」

 何を言っても「うん」としか言わない舞に、雪久は苦笑した。

 「おまえ、覚えてるか?いつだったか、その紅葉が散るのを嫌がって泣き出したこと。」

 「え?」

 舞は初めて雪久の方を見た。

 「毎年散ってんのに、ある年急に泣き出したんだぜ?紅葉が散っちゃう、って。」

 「・・・覚えてるの?」

 「当たり前だろ?どうせ来年になりゃまた見られるって言っても、全然聞かねーんだよ。嫌だ、紅葉が散っちゃうよ、って言って、泣いてさ。それまでは平気だったくせに。バカみてーだよな。」

 舞はふくれた。

 「そのバカに、雪久がどうしたか覚えてる?」

 「ああ。風が強くなって、紅葉が残り一枚になった時、おまえ、カサ持って庭に出てさ、必死で紅葉が散らないように守って・・・。アホかと思ったぜ。でも・・・俺の方がもっとアホだな。物置から瞬間接着剤探してきて、その一枚が落ちないように接着した。」

 雪久は遠い日を思い出すように、笑った。

 「うん。雪久の方がアホだよ。私もびっくりしたもん。」

 「んだよ。恩知らずなヤツ。」

 雪久はそう言って、舞のベッドに寝転がった。

 「俺たち、毎年毎年ここから見てるよな。あの紅葉。」

 「うん。そうだね。でも、雪久はあんまり好きじゃないんでしょ?」

 「紅葉だろうと葦だろうと、俺にとっては同じなんだよ。」

 「変なの。」

 雪久は紅葉を眺めているうちに、眠ってしまった。

 「ちょっと、雪久!家に帰って寝てよね!」

 舞はしばらく文句を言っていたが、雪久の柔らかな髪をすき始めた。

 「・・・ねえ、雪久。私、すごく嬉しかったんだよ?あの頃、雪久ばっかり大人になって、私は置いてかれてる気がしてさ・・・。私の知らない雪久がどんどん増えていって。このまま遠くなっていくのかなって、不安で・・・。雪久も言ってくれたんだよ。あの年の紅葉見て、きれいだって。だから、散ってほしくなかったんだ。この紅葉が散るまでは、雪久が私の側にいてくれるような気がして・・・。その紅葉を、雪久が一生懸命守ってくれたから・・・。嬉しかったんだよ。すごく、すごく嬉しかった・・・。」

 結局その紅葉は、冬になるとぼろぼろになって落ちてしまったけど。舞は、透明の接着剤が少し残っているそのぼろぼろの紅葉を、押し葉にして大切に持っていた。

 「あの年の紅葉は散っちゃったけど、また一年たったら新しい紅葉が生まれるから・・・。私も、また新しく、雪久のことが好きになるんだよ。去年より、ずっとずっと、たくさん好きになるんだよ。」

 舞は、心で紅葉を感じ取るように、瞳を閉じた。


 眠っているはずの雪久の頬が、少し緩んだ。

 バーカ。唇が小さく動いて、微かな音をたてる。

 ・・・紅葉なんかなくても、おまえの気持ちは捕まえてやるぜ。




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