Responsibility   8




「行ってきます!」
急いで朝食をとって玄関に向かった。
「リョーマさん・・・。」
心配そうないとこの顔が覗き込んできた。
「今日は・・・行くの?」
「うん。」
それは部長との約束だから。
破ったのがバレたらどうなるか分からないからね。
「行ってきます!」
「ほあら~。」
カルピンがいつの間にか起きてたみたいで、送ってくれた。
「ありがとう、カルピン。」
カルピンを撫でて急いで家を出た。





校庭では時間より早く来た部員たちがウォーミングアップをしていた。
懐かしいコートを横切った。
部室には丁度誰も居なくてホッとした。
封印した物を急いで持ってきた。
懐かしい感覚に安堵する。
やっぱり俺は・・・テニスが好きだ。
靴紐をきつく縛って。
帽子を被って。
リストバンドをして。
ラケットを持って。
久しぶりにコートに足を踏み入れた。
「あっ。」
驚いた顔が振り向く。
俺の名前を呟く声が聞こえても、俺は気にしなかった。
気づいた大石先輩が俺に近づいた。
「越前・・・もう大丈夫・・・。」
「大石代理部長、無断で何日も休んですみませんでした!」
大声でそう言って、俺は深く深く頭を下げた。
少し、大石先輩は呆然としていた。
「越前・・・何をしてたんだ!」
大石先輩が怒鳴る。
「お前はレギュラーなんだぞ!もっと自覚を持ってもらわなきゃレギュラーから外すぞ!」
「はい!これからは気をつけます!」
「罰としてグラウンド百周だ!」
「はい!」
どよっとざわめきが起こる。
俺が頭を上げると大石先輩がウインクした。
「お帰り、越前。」
小声でそう言った。
「はい。」
小声でそう答えた。



コートを出ようとした時。
「おチビ!」
菊丸先輩が抱きついてきた。
「先輩、走れないっス。」
「お帰り、おチビ!」
ニコニコ顔でそう言われた。
「・・・どもっ。」
なんとなく照れる。
「越前!」
桃先輩が走ってきた。
「桃先輩。」
気まずくて、桃先輩の顔を直視出来ない。
「・・・がんばろうな。」
見上げた桃先輩は、そう言って笑ってくれた。
「はい。」
桃先輩の後ろには・・・河村先輩や乾先輩もいた。
「お帰り、越前。」
「ちゃんとずるしないか見ててやるからな。」
「は~い。」
先輩はいつもと同じだった。
先輩を掻い潜りながらコートを出たら海堂先輩が居た。
目と目が合う。
「・・・早く走れ。そして戻って来い。」
「分かってるっスよ。」
「フン。」
先輩が見守る中、俺は校庭を走った。
久しぶりに走った校庭は変わっていた。
木々が青々としてて。
少しずつ夏の姿になっていく。
あの人と出会ってもう何ヶ月も経ったんだなと感じた。
初めて出会った日。
初めて試合した日。
まだ昨日のように覚えてて。
それを忘れようとしていた自分を今は恥ずかしいと思う。
あの日々を否定するのは。
あの人を否定することだから。
でも今は。
ちゃんと前見て走ってるよ。
乾先輩が、なんとなくいやらしい笑顔でこっちを見ている。
「越前。あと九十九周だ。」
「・・・ちぇっ。」
つけたし。
どうやら、先輩たちは俺をいじめたいらしい・・・なんてね。






俺の世界は変わった。
窓の外の景色も。
元に戻ったんじゃないけど、つまらないと思ったら、自分で変えなきゃいけないんだよね。
今までは、自分で自分を縛って、勝手にルールを決めてた。
理想は高いけど。
それは仕方ないけど。
だけど肩の力を抜いて、大きく深呼吸して。
焦ってもしょうがない。
焦ってもいい考えは浮かばない。
だから・・・もっと自由にやろうと思った。
自分なりに。
本来の自分を忘れてた。
自分を支えられるのはやっぱり自分しかいない。
自分を信じなくてどうするんだよ。
自信。
それがありすぎるのが、俺のイイトコなのにね。
自分を見失いそうになってたよ。
「越前。」
「はい。」
「次の問題を解け。」
あんなにつまらなかった授業。
でも今は少し違う。
少しは真面目になったってことかな?
「・・・で、答えはx=5です。」
「正解だ。」
答えられなかった、正確に言うと解こうとしなかった問題も真面目に取り組んでるよ。
かなりの進歩だと自分で思うんだけど。
部長、帰ってきたら褒めてくれる?
あの電話で、俺は忘れていたことを思い出した。
あの日、どうして今日告白してくれたの?と部長に聞いた時に、心残りだと言っていたことを。
それは俺と別れるからで。
別れるのが惜しかったからで。
それは、部長は俺のことを忘れられないってことだよね。
俺が欲しいってことだよね。
俺、もっともっと信じてよかったんだよね。
なのに自分に自信が無くて、だから部長まで信じられなくなって。
良く考えれば分かることだったんだ。
だけど、大切なのは今。
大切なのはこれから。
だからこれからの・・・未来の俺を変えよう。
絶対に変えられる。
だって、過ちに気づいたんだから。




「越前、一緒に昼飯食わねぇか?」
お昼休み。
桃先輩が廊下から呼ぶ。
俺の腰はもう重くない。
「いいっスよ。もちろん、パン代は先輩の奢りっスよね?」
「うっ・・・調子付きやがって!」
頭をグリグリ撫でられる。
「痛いっスよ!」
桃先輩の笑顔や眼差しが・・・いつもよりも優しかった。
「しょうがないな。だけど今日だけだぞ。」
「じゃあ、うんと食わなきゃね。」
「コイツ!」
桃先輩と、またこういう関係で居られることが嬉しくて。
でも、やっぱり部長が居ないと寂しいと思うけど。
部長、俺元気にやってるよ。






過去はもう見ない。
部長が不二先輩とどういう関係だったか。
そのことで悩むのはやめた。
だって今部長と俺は繋がっているから。
それを信じれるようになった。
たった数分の会話だったけど。
だけど、とってもそれを感じた。
部長には不二先輩のことは聞かないけど・・・いつか部長の気持ちを聞きたいなと思った。
やっぱり聞く権利はあるよね。
それはワガママかな? 放課後。
部室に行ったら、まだ不二先輩しか来てなくて。
お互いに目を合わせないようにする。
気まずい二人きり。
「越前君。戻ってきたんだね。」
「残念ながら。」
不二先輩は笑った。
「可愛くないね、相変わらず。」
「そっちこそ。相変わらず性格悪そうっスね。」
「・・・言ってくれるね。」
「俺間違ってます?」
不二先輩はまた笑った。
俺は腑に落ちなかった。
「変なものでも食べたんスか?」
「ううん。僕はいたって平常だよ。」
「それは良かったっスね。」
「・・・越前君。」
「何スか?」
不二先輩は・・・開眼して・・・。
「僕・・・まだ手塚を諦めて無いよ。」
「分かってるっス。」
宣戦布告。
それは覚悟してたから。
不二先輩の性格も分かってるしね。
「こっちも負けるつもり無いんで。」
「僕だって。」
これでいいんだと思う。
不二先輩とは、ある意味同じ部長を好きになってしまった同士。
だから闘わなくちゃいけない。
でも、きっといつか不二先輩と分かり合える日が来ると思う。
・・・多分だけど。
部長、板挟み・・・覚悟しといてね。




諦めるのは簡単で。
崩すのは簡単で。
頑張るのは難しくて。
築き上げるのは難しくて。
言い訳してれば自分は傷つかないけど、だけど何も進歩しない。
求めることをしなければ、それはきっと俺じゃない。
自分の弱さを隠しても、必ず綻びが出て、気づいた時には遅いんだ。
答えを探せるのは俺だけで。
答えを見つけられるのも俺だけ。
きっとこの数日ことは、俺の未来のためになったと思う。
この道はただの通過点。
だけどそれがどんなに重要かよく分かった。
いい方に解釈するけど、そうやって悩んで・・・苦しんで・・・でもそれはきっと俺がもっと強くなるステップで。
だから俺、頑張るから。
放課後の部活の時間も、朝の残りを走っていた。
多分今日中に終わる・・・はず。
「頑張れおチビ!」
「頑張れ越前。」
みんな他人事なんだから。
・・・でも、暖かいな。
それを改めて感じた。
みんなきっと心配してくれたんだと思う。
だから、俺はこれから一生懸命頑張ろう。
今まで以上に。 迷惑かけた分も、心配かけた分も、休んだ分も。
「部長。俺頑張るから。」
あの人はこのコートに居ないけど。
きっとこのコートにあの人はいつも居ると思う。
見守ってくれてるんだと思う。
「・・・何か死んだ人みたい。」
ちょっと表現に反省。
だけど、きっといつも気持ちは一緒で。
「・・・さあ・・・油断せずに行こう・・・。」
あの人の変わりに呟く。
俺はまた上を目指す。
それは俺の決意。
俺が変わったあの日から、俺はきっとこの道を通るって決まってた。
後悔なんてしていない。
むしろ感謝してる。
この先どんなことがあっても、きっとこのことは変わりない。
部長が俺に教えてくれたこと。
気づかせてくれたこと。
ちゃんと胸に刻み込んで、これからを歩んでいく。
アンタに追いつくために。
アンタを追い越すために。






部室には・・・俺と大石先輩しかいない。
当たり前だ。
こんな遅くまで大石先輩を付き合わせて悪いなと思う。
「俺ちょっと行ってくるから。」
「あっはい。」
何か思い出したように大石先輩は出ていった。
「・・・ん?あれ?」
着替え終わって鞄の中を見たら、携帯の着信ランプが光っているのに気がついた。
誰からだろうと見てみると、メールが一通着ていた。
それも時刻は今さっき。
何で気がつかなかったんだろうと思いながらメールを開いてみた。
そのメールの送信者が・・・。
「手塚!」
目を疑ったけど、何度見ても愛しい人の名前で。
思いもよらぬメールに、何かを期待してしまう。
でも、見てみたら・・・。
「えっ!これだけ!」
声に出してしまうくらい短くて。
彼らしいと言えばそうだけど・・・。
『さあ、油断せずに行こう!』
たったそれだけ。
それだけだけど、気持ちは十二分に伝わってしまう。
そんな自分に溜息が出る。
「まあ、いいか。」
携帯をギュッと抱き締めた。
電波・・・デジタルの文字にあの人の温もりを感じる気がした。
メールを保存した。
消さないように。
違う所にも・・・。
「越前。もういいか?」
大石先輩が戻ってきて、急いで携帯を仕舞った。
「はい。」
大石先輩は部室の鍵を閉めた。
部室から出た頃には、太陽が丁度落ちたところだった。
空はあの綺麗なオレンジ色よりも、夜の漆黒が広がっていた。
一番星以上の星たちも瞬き始めて。
夕焼けが終わってしまったことにちょっと切なくなる。
「また明日な。」
「っス。」
一人で帰る家路に灯りがともる。
ふと気づいた時にはオレンジの空は無くなっていた。
少し悲しくなるけど、その気持ちを抑える。
「強くなったでしょ?」
そう呟く。
空を見上げる。
「アンタもこの夜の空を・・・見上げたりすんのかな?」
俺はここに居るけど。
心はアンタの側に置いておきたい。
そう思う。
本当は、俺もアンタが心配です。
怪我の具合も心配です。
心配は尽きないけど。
それでも俺は、アンタを信じてここで待つ。






家に帰って夕食を食べ終わったら、急いで部屋に戻った。
机に置いておいた携帯に手を伸ばす。
もうすんなりダイヤルを押せる。
『はい、手塚ですが。』
「部長。」
『越前。どうかしたのか?』
「俺、遅刻しませんでしたよ。」
部長は笑った。
『それを言うために、わざわざ電話してきたのか?』
「・・・いけない?」
『いや。嬉しい。』
その後、部長とたくさんたくさん話をした。
学校のこと。
部活のこと。
何をしゃべったか分からないくらい夢中でしゃべった。
「ねえ部長。」
『何だ?』
「俺、アンタが好きです。」
『ああ。』




アンタに出会えてよかった。
そう何度も思った。




また俺は壁にぶち当たるかもしれない。
大きくて太くて頑丈な壁に。
だけど俺は必ず壁を壊す。
それは俺が生きている証拠だから。
それが俺、越前リョーマだから。




部長が、帰ってくる場所を作らなきゃいけない。
全国の切符を取っておくこと。
部長の、青学テニス部が目指す舞台に立つために。
それが・・・とりあえず、今俺に出来ること・・・かな?




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終了しました!!長い間お付き合いいただきありがとうございました。
思えば、この連載は夏から始まったんですね。もう冬だよ!!(苦笑)
いろいろと大変でしたが、何とか終えることができて満足してます。
『Responsibility』の意味は確か『責任』だったと思います。リョーマが青学の柱を託されたことが最大の責任ですかね。
本当にここまで読んで下さって心から感謝してます。ありがとうございました!!
年内にこの小説の番外編をアップしようかなと思っています。不二視点のモノを予定してます。
それまで読んでいただけると本当に嬉しいですv
本当にありがとうございました。そしてお疲れ様でした(笑)。
                                         BYノエ





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