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   「いいえ、私は煙草はちょっと…」
    本当は、格好よく煙草を取り出して火をつけてもらう、なんていうのも夢なのだけれど、生憎私は気管があまり強くない。
    それに煙草がどうしても美味しいとは思えない性質で、こればっかりはどうしようもなかった。
    思わず首を竦めてしまうと、至極滑らかなバリトンがやや上から聞こえてきた。
   「では、こちらへ。…空調の傍は煙草をお吸いになる方が多く座られますから、移動したほうがよろしいでしょう」
    声をたどるように顔を上げ、さらに顎を上げて上を向く。
    先に目に入ったのはごく自然に目の前に差し伸べられた手で、次に目に入ったのは。

    うっすらと微笑むハインリヒの顔。

    綺麗、と言うか。
    人の目を惹きつける表情だと、それだけ強烈に思う。
   「…やっぱり、格好いい、ですね…」
    声に出すつもりは無かったのに唇が動いてしまった。ハッとしたときには、正面のハインリヒの微笑が心持ち困惑の色を混ぜている。
   「ごめんなさい、…当たり前なんでしょうけど。でも良かったです、空いてらして」
    慌てて言うと、ハインリヒはいいえと首を横に振った。
    そして不意に身を屈める。

   「私もお会いできて嬉しいですよ、フロイライン。
     Willkommen in Club 009.(クラブ009ヘようこそ。)」

    耳元で囁かれた僅かな笑い混じりの台詞に、私の膝が砕けかけたのは言うまでも無い。

席に座る→       カウンターにつく→



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