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   「…大丈夫ですか?」
    席に案内されて、先ほどふらついた私を案じるように彼がわざわざ声を掛けてくれる。
   「ええ、あの、…すみません…」
    顔から火が出そうとはこのことだ。よりによって、こんなところで貧血起こさなくてもいいだろうに。
    …あの声音が格好よすぎたから、といってしまえばそれまでではあるけれど。

    あぁ、でも。
    ちらりと思考が頭の端をよぎる。

    ハインリヒがこうやって気を使ってくれるんだから、悪くなかったかも。なあんて。

    誰か常連指名客にでも聞かれれば憤慨ものだろうなー、と初心者ゆえの気楽さで思いながら軽く肩を落とすと、響きのいいバリトンがまた耳朶をくすぐった。
   「何か、お飲み物でもお持ちしましょう。少し気分もよくなられますよ…何がよろしいですか?」
    一瞬声に聞きほれて内容を聞き取りそこね、一秒後にようやく飲み物を勧められたことに気が付く。
    こういうときは、確かカクテルを頼むのよね?

    なんだか手のかかる子供を見つめる視線で見られている気もしなくもないが、とりあえず頭の中で少ないカクテル名のストックをかき回す。
    どうしよう。
    やっぱり、好きなのを頼んでみようか、それとも…。でも…。
    できるだけの早さで考え込んだあとに、私はようよう口を開いた。


    「ミモザってできますか?」    「カンパリオレンジ、でお願いします」


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