「…え?俺?」


   しっかりと視線を向けて彼女が発した言葉に、彼は心底意外そうな声をあげた。

   そう。あなたよ。そんなに意外だったかしら?
   No.1ホストなんかも指名してみたいけど、ここに来るのは初めてだし、こっちが緊張しちゃいそうなんだもの。
   その点、あなたなら、と思って。

   目を丸くして自分の高い鼻を指している彼。
   そのまま固まってしまった彼を、同僚らしいもう一人の青年が目立たないよう肘で小突いた。

   「あ、はい!ありがとうございます!俺、ジェットっていいます!」
   我に返ったように何とかお礼の言葉を紡ぎ出し、自己紹介をする彼――ジェット。
   その、なんともホストらしくない様子に思わず微笑が漏れる。

   ふと気づくと隣にいた青年――といってもまだ少年といった方がぴったり来るようなあどけなさの残る顔つきをしている――
   も苦笑いといった感じの表情をしていた。

   しかし彼女と視線が合うとすぐにさっきまでの営業スマイルに戻ってゆるやかに礼をする。

   「では、ごゆっくりおくつろぎください」

   同じ新人とはいえ、彼の方は少しはホストという職業に馴染んでいるようだった。
   歩き方ひとつとってもジェットに比べると物慣れている。

   店の奥に去っていった彼を視線だけで見送って、彼女は隣にいるジェットを改めて眺めた。
   ホストとしてはどうあれ、彼女はジェットを選んだのだ。
   それは自分の好みが彼の方だったから、に他ならない。


   自己主張の激しい赤い髪。
   同じく自己主張の激しい高い鼻。
   すらりと伸びた脚が着古した感のあるジーンズに包まれている。
   街の若者がそこらで履いていそうなその破けたジーンズは、こんなところにふさわしくないとはいえ、彼にはよく似合っていた。
   その破けた部分―かなりきわどい―からちらりと見える素肌もまた、
   彼女がジェットを指名するに至った原因のひとつではあるが、なによりも彼女を捉えたのはその瞳。
   長い前髪から覗く、意志の強い瞳が、彼女の興味をそそったのだ。


   どんな子なのかしら?

   入店する前と同じように、期待に胸が踊る。


   最初の戸惑いはどこへやら、今はしっかり“ホスト”な表情に戻った彼が、今度はドリンクのメニューを差し出した。

   「お飲み物はなんになさいますか?」

   広げられたメニューに目を走らせ、彼女は自分の好きなカクテルの名前を舌に乗せた。


「ダイキリを頂戴」 「カンパリオレンジにするわ」



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