文責:まるり


   「 あ、ありがとう ござい、ます …僕、島村ジョー と云います 」

    纏うのは紺色の、一見リクルートスーツにも似た 至極シンプルな上下。
    イマイチ、『服に着られている』感が …… 何とも 云えず、


       母性本能をくすぐる タイプ、ね …… 85点ってトコ かな


    彼女は その心の中で そっと『点数』を付ける。勿論、それを口に出して云いか否か の
    分別 は、付けられるつもりであったから …… 云わなかった。

   「 あ、お飲み物は 何になさいますか …?」

    その科白に、彼女は 艶然と微笑んだ。口許を彩るのは 大人の余裕 と云われるモノ。
   「 ジョー…だったわね、あなたのお薦め、は?」
   「…ぇ、ぼっ 僕の、です かぁ?」
   「えぇ 貴方の」
   「ぇ、ぇっと…」
    おろおろしながら、メニューを捲る『 彼 』の姿に 彼女は口許を緩める。

   「 ……もしかして 今日が初出勤 とか?」

    最近の新入社員にすら見られないであろう、彼の動揺ぶりに 彼女は思わず助け舟を
    出したくなるような、何とも云えない慈愛に満ちた 優しい気持ちに捕らわれた。

   「 ぇ、どぉして判るんです か ?」

    想像通りの『回答』に、彼女の笑みは 更に深いモノとなった。
   「見てれば判る、わ 『 オトナ 』ですもの」


   「 … 僕って、そんなに子供っぽい、ですか?」
   「 … 歳は?」
   「 … 18、です」


    彼女は くすくす と、声を上げて笑う。
    やっぱり子供じゃない、と揶揄(からかう)ような言葉を 添えて。


       子供 というか、癒し系 というか、小動物 というか …… ねぇ ?


   「そうねぇ… 最初は軽く キール・ロワイヤル を頂くわ」

    ミニのタイトスカートから伸びた、すらりとした脚をわざと眼前で組み替える。
   「 キール … ロワイヤル、ですね 少々お待ち頂けますか ?」





    予定外の収入があった故、今噂のホストクラブに来てみたが …… 結構面白いかな、と
    云うのが彼女の「感想」である。周りをよく見れば、多種多様な人種のホストを揃えていて
    所謂(いわゆる)「店のカラー」らしきものの存在が薄い。

    それ故、色々な好みの 個別のお客に対応出来る、と云う訳だ。


       ビジネスマンとしては いい腕だわ …… ここのオーナー


    等と、独りごちている処へ、件(くだん)のジョーが、これまた危なっかしい手つきで、
    グラスを載せたトレイを運んできた。
   「お待たせ、致しました」
   「えぇ、お待たせされました」
    そう返すと、困ったような、照れたような … 「彼独特」の魅力的な表情を浮かべる。

    彼女はシガレットケースをエルメスのショルダーから取り出し、細く長い指で1本掴んだ。
    ジョーはと云えば …… その光景を ぽんやり と見つめている。

   「ボーヤ、こういう瞬間(とき)はね、すかさずライターの火をつけて差し出すのが礼儀」
   「 ぇっ ぁっ ぁあっ!すっ 済みません 僕…っ 」
   「慣れないのは判るけど、気を抜いては駄目よ 客商売 は」
   「 …………………… ら…… 」
    ジョーは何故か頬を紅色に染め、俯きつつ小さな声で呟く。


   「 ぁ 済みませんっ そ、のっ …貴女の 仕草が… ぃぇ、貴女が綺麗だから 見惚れて
    … ぁっ !      ……僕 …」


    自ら云った言葉に、自ら照れている目の前のホスト「ジョー」の その紅く染まった顔を
    観て …… 思わず つられて、彼女も紅くなってしまった。

   「 ……随分、可愛いコト 云ってくれるじゃ、ない ?」

    年甲斐(としがい)もなく 褒められちゃったわ、と 彼女がつられて「照れた自分」を
    誤魔化そうとすると、ジョーは 頬を更に紅く染めながら でも きっぱり と云った。

   「僕 …… 女の人を褒めたり、とか…そういうの 苦手 なんですけど …… 綺麗です
    貴女(あなた)は …… すご くっ ~~っ …… の 上手く 云ぇなぃ け ど…」


    やはり、云いつつ恥ずかしいらしく 最後までその言葉が紡がれることは…なかった。






    それから、数時間後。

    時刻(とき)は 既に日付を変え、そろそろ「閉店時間」である。
    ジョーは 彼女に上着を羽織らせながら、耳許で そっと囁く。
   「 あ の …今日は来て下さってありがとう、ございました  貴女は 僕にとって
   “初めてのお客様”、だか ら … その …… 嬉しかった です 」
   「……そぅ? 光栄だわ…近いうちに又、寄らせて頂くわ …また「相手」をしてくれる?」


    彼女の言葉に、ジョーの表情が ぱぁっと明るくなる。
   「はい!何時でもいらっしゃって下さいっ お待ちしてますからっ」

    まるで、仔犬が精一杯尻尾を振っているような 彼の表情(かお)に、彼女は 都会 と
    仕事 …そして人間関係 に 疲れた心が ほんの少しだけ、癒されたような 気がした。




「 …島村、ジョー 、か … 」




<このままいちげんさんで終わる> <2度目の来店> <ジョーの本音>


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