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   あくまでホストはホストとして楽しむ




   彼はホスト。あくまで架空の男なのよ?私の恋人なんかじゃない。


   ひとつひとつ確認するかのように、彼女は自分に言い聞かせる。

   初めてあの店に行って以来、毎週のように通っているのはもちろん彼のせいだ。
   赤い髪と青い瞳を持つ彼―ジェット―。

   私が店に姿を見せると、嬉しそうに笑う姿が目に焼きついて離れない。
   その笑顔見たさに通っているといっても過言ではない。

   けれども。
   忘れちゃいけない。彼は、“本物の男”じゃない。

   そう、自覚した上で楽しむ分にはいいだろう。
   でも、本気になっちゃいけない。彼が私に見せてくれる笑顔が本物だなんて信じちゃいけない。

   ――彼女は強く自分に言い聞かせてはいるが、気づいてはいない。
   自分が、ホストであるジェットに、本気でハマる一歩手前であるという事実に――。


   この日、あの道を通らなければ、近い将来確実に彼女はホスト・ジェットの虜になっていただろう。

   それが彼女にとってよかったのか、悪かったのか。
   それは誰にもわからないが――。


   「待てって!!フラン!!」


   聞き覚えのある声に、彼女ははっと振り向いた。
   いつもは耳元で囁くようにしか聞いたことのない声だが、彼女が彼の声を聞き間違えようはずがない。


   ジェットだわ!こんな、お店とは全く関係ないところで偶然逢えるだなんて!


   一瞬で胸を高鳴らせて、声のした方向に視線を彷徨わせる。
   ほどなく、彼女の期待通りジェットの姿を目にして、声をかけようとした瞬間。

   ひりひりと胸が張り付くような感覚が彼女を襲った。


   ジェットと一緒にいる女の子――あれは、誰?


   お店で見るよりラフな格好をした彼は、別人のように輝く笑顔だった。まるで少年のような。
   金髪のほっそりした少女の手を引っ張り、甘えるような声を出してひたすら謝っている。


   「なー、俺が悪かったって!謝るから!ほんと!だから機嫌直せって、なぁ?」
   「知らないわよ!ジェットったら!」

   ぷい、と不機嫌そうに顔を背ける仕草、それすらも可愛らしい、フラン、と呼ばれた女の子―。
   ジェットの恋人、だろうか。


   ニマニマと、およそ店ではしたことのないだらしなく緩んだ顔を日に晒して、ジェットが言う。

   「そうやって拗ねた顔も可愛いんだよなぁ、フランは」
   「バカジェット!!」

   呆れたように顔を背ける彼女も、頬を赤く染めている。


   恋人同士、なんだ―。

   わかってた。わかってたわよ。
   彼はホスト。架空の男。私の恋人なんかじゃないって。

   それでも。

   夢を見ていた。
   あのお店で、楽しい夢を。

   とっても甘くて、でも、目が覚めてからは少し切ない、そんな夢を。



   さようなら、ジェット。
   楽しい時間をありがとう。
   もう、逢うこともないと思うけど―。

   素知らぬ振りしてお客としていくのは、私には無理。
   それぐらい、いつの間にかあなたに囚われてしまってた。
   駄目だって言い聞かせつつも、結局、囚われていた。

   だから。

   もう行かない。逢えない。

   可愛い彼女と、お幸せにね?


   そっと、気づかれないようその場を後にして、彼女はすっかり葉の落ちた街路樹を、進んでいった。


                                 end



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