GUINの匣

温かな思い

小学校の図画の宿題は泣きながら描いた。

卒業近くなって、共同制作のタイル画の宿題が出た時、またまた困りながら夜が更けていった。描くものが決まっても描き方が解らない。
父が、こんな風に描いてみろと何かの画集から参考写真を持って来た。「こんな色！？」と言う私に「昔の有名な絵描きさんのんや。お父ちゃんこんなん好っきゃ！」と父。
一抹の不安はあったが、いい加減眠くなっていた私はそれ風の伊勢の夫婦岩を描いた。タイトルはもちろん「修学旅行の思い出」。父は描いている私に、横からその辺に赤色を…などといいながら最後まで付き合ってくれた。
「ええのんができたなぁ！」と笑ったが、私は出来る事なら持って行きたくなかった。
父が見せてくれた画集の写真はモネの積み藁。今では珍しくない印象派の代表作。
こんな事して大丈夫かな…で、次の日。
共同制作のためのものだから、学級会で皆の作品を並べる事となった。
結果は最悪！中途半端に目立ったものだから、そりゃー様々な事を言われた。
「こんなん嘘やー」「なんやこれー」「変やー」「何で岩に赤やら青やら塗ってあんのー」口々に言われるか笑われるかだ。幼い頃から絵はそんな目にしかあっていない。
「やっぱりな」と少し父を恨んだ。
選ばれたものは伊勢でも運動会でも写生会の寺でもなく校章だった。んーそりゃそーだな。
帰り道に考えた。父に何て言おう。笑われたとはやはり言えない。
夜「どないやった？」と聞く父に「選ばれへんかった。」と言った。「何でこんな色にしたん？って言われたで。」と付け加えた。
父は少し考えてから「お父ちゃんはあれ好っきゃでー。よう描いとったな。」とまた笑顔で言った。その時もういいかーと思えた。

四畳半の居間いや、茶の間には私が生まれる前から掛かっていたのであろう、ミレーの晩鐘の小さな写真があった。作家名と作品名が判ったのは絵に興味を持ってからだ。今でも覚えているが、晩鐘と知った時、父の気持ち…というか、好み…というか。大切にしているものが少し解ったような気がして胸が熱くなった。
絵画制作の世界に向いた私に反対する言葉しか並べなかった父だったが、亡くなる間際に「あの子は一生懸命やってますねん」と叔母には言ったらしい。

そんな事を夕べふと思い出した。

YOCO GUINZAQUI PAINTING-LIFE　GUINのDIARYより　2005/01/29/11:29

付け加えるならば。。。
絵を描くような感じはまるでなかったけれど、きっと父は絵画が好きだったのだろう。受験を終え学校に通うようになった私に読めと差し出した「絵とは何か」（坂崎乙郎著）。
振り返ってみれば親類縁者の中で絵画の方面は私一人だけだが、父が最初の一人だったのかも知れない。

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