鱗羽

鱗羽

空間ベクトル1-3〔ある日ある時〕

ある日ある時

「そんなところにいたら邪魔です。」
道場とつながっている控えの扉のところに立っていたら言われた。
「お前が邪魔だっての」
片瀬のもの言いに少し腹が立った。
「お前って言うのやめてください」
「ごめんなさい」
「今自分が来るのわかっててわざと扉閉めましたね」
「私がそんな大人げないことするわけないでしょ」
「…しそうだから、言ってるんじゃないですか」
「…いつか、勝ってやる…!!」
「………周防さん。」
「自分には何年経っても勝てませんよ(笑)?」
片瀬はお得意の涼しげな顔で言い放つ。

「いま、誰か私の肩叩かなかった?」
矢立に入っている矢を取ろうとしていたら肩をつつかれたような感覚があって、近くに居た南を思わず見てしまった。
「自分じゃありません」
とか言いながらも声が笑っているように聞こえるのは何故だろう。南のたれ目がそう感じさせるのか?南の後ろでコ憎たらしいオニイサンが必死に笑いをこらえているように私には見えるのだけれど気のせいじゃないよな。
「くっはははっ」
とうとう堪えきれなくなったのか南と片瀬が同時に笑い出した。
「片瀬かー!!ってか南もグルか!!」
「す…周防さん鈍すぎ!」
「ぜんっぜん気が付かないんだもん!どうしようかと思った。」
片瀬と南の二人は道場の端のほうで腹を抱えてケラケラ笑い続けている。
こ、こいつら…いつか絞めてやる。なんか先輩扱いされてない気がしてならない…。

「うわっ、どうしたのそれ。」
朝稽古が終わった後に控えで休憩していたら片瀬が左手の親指から流血しながら登場した。
「いや~やらかしました、絆創膏持ってないですか?」
「胴着に血がついてる…絆創膏?あるよ。」
と思ったらいつも鞄の中に入っていたはずの絆創膏は今日に限って持ってきてはいなかった。
「あ、スオちゃん、私持ってるよ。」
横でやり取りを見ていた伏見が物静かに言った。伏見は二年女子五人の中で唯一の経験者である。
170ちかくあってやや長身ではあるが顔立ちも整っていて一般に言う美人さんである。
やや天然ぼけの気はあるようだがそれすら可愛らしく見えてしまうところが彼女の魅力だろう。
私とは正反対の性格で控えめでおとっりとしている。
「伏見が持ってたわ、後でお礼言っておいてね。」
片瀬は絆創膏を受け取ったまま、動かない。
「…つけてください」
「…は?」
(しばし沈黙)
「…ん?」
日に日に先輩後輩の上下関係が崩れていっているような気がします。ねぇ片瀬さん。


03/11/4
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