鱗羽

鱗羽

空間ベクトル1-7[定期試験]

定期試験
二週間の試験期間に突入した。私の通っている大学では前期分の試験を夏休み前の二週間で行う。
そして部活の前期シーズンもいよいよ残り1試合となった。つまりは試験勉強をしながら体力的にも精神的にも余裕かない感じで部活の朝練に参加するのだ。
「今日三教科連続であるよ、しかも三講目から。」
藤馬が泣きそうな声で言った。
「三教科かぁ…しかも藤馬は家遠いから帰れないもんな。」
「片道一時間かかるからね…さすがに帰れないよ。どうしようかな。」
朝練が終了して、殆どの人が弓を片付けていた。かくゆう私も試験が藤馬と同じ時間にあったので時間が来るまで伏見のうちで勉強させてもらうことになっていた。
「…うち、くる?」
伏見が唐突に藤馬に向かって言った。
「いいよ。悪いもん。教科違うから、さゆみちゃんの邪魔になっちゃうし」
「スオちゃんもくるから、何人増えても変わらないよ。」
「え、透子ちゃんも行くの?」
「そ、行くの。だって家に帰るには中途半端だし。」
家を提供する羽目になる伏見には申し訳ないが。そして気がついたら伏見の家にお邪魔しているのは2人ではなく5人に増えていた。
「…なんとなく、そんな感じはしたんだよなぁ…。」
民法の教科書を片手にお茶を啜りながら呟いた。その声に伏見が下に向けていた視線を私のほうにむける。
「…いや、なんでもないよ。ほんとに。」
私はそう言い淀んでお茶をテーブルの上に置いた。伏見の家に訪れた4人目の客人は大城櫂だった。彼女は籐馬と同じ学部で二人とも非常に仲がよい。
仲が良すぎてよく喋る。そして5人目の客人は陣祥子だった。って同期女子伏見の家の全員集合かよ。
「…でね、透子ちゃんもそう思うでしょ?」
「……。」
「櫂ちゃん、透子ちゃんが無視するんだけど。」
「え?だめだよぅ透子、真面目に勉強なんかしちゃ。」
この二人部活の話をして残りの三人に話をふる。陣は話を聞いているのか、聞いていないのかわからなかったがノートに視線を落としているところを見ると籐馬と大城の二人よりは勉強に集中しようとしているようだった。

「…ふたりとも、勉強しにきたんデショ」
数秒籐馬と大城は考えるかのように顔を見合わせて言った。
「違うよ~さゆみちゃんと透子ちゃんの勉強を妨害しにきたんだよ~。」
…やっぱりかい。そんな気はしてたんだけど、まったくこのふたりは。
私が苦笑いしてなんにも言えなくなっているとき、ずっと横で成り行きを見ていた伏見が口を開いた。
「…二人とも、勉強しないの?…」
この伏見の一言で皆、静かに教科書を読み始めた。
2004/8/2

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