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山さんの刑事部屋
シスターズバラッド
浮泡 穹(ふわ・そら)(二二)女性。
獅堂 レミ(しどう・れみ)(二八)女性。
磯貝(四四)男性。浦島質店店長。
浜地(三一)男性。同店員。
平目(六二)男性。害虫駆除業者。
海月(五三)男性。磯貝の上役。
●浦島質店・昼
カウンター上に亀のマスコット。
首を伸縮させながら電子音声で挨拶。
軽い破裂音。
綿と電子部品を撒き散らす亀。
●エレベーターホール・昼
エレベーターの扉が開く。
事務服姿の浮泡穹。
お弁当屋さんの袋を提げて外へ。
質店の自動ドアのボタンを押す。
穹「店長、生姜焼き売り切れで・・・」
店内に入った所で立ちすくむ穹。
●浦島質店・昼
穹の足元にマスコットの残骸。
カウンター内でうずくまる女性店員。
右手の展示スペース。
活人画のような男性店員たち。
その手前に立つ長身女性。
穹に向かってじりじり後退する背中。
ライダースジャケット姿の獅堂レミ。
膨らんだダッフルバッグを肩に。
店員たちに向けて何かを構えている。
展示スペース奥の陰に店長の磯貝。
穹に向かってジェスチャー。
壁の非常通報装置に伸びる穹の指。
磯貝、違う違うのジェスチャー。
わずかに振り向くレミ。
餓えた野獣の瞳が穹を捉える。
展示ケースの下に手を伸ばす店員。
破裂音、砕けるケース、倒れる店員。
穹の口から声にならない叫び。
素早く穹の背後に回り込むレミ。
自分より小柄な彼女を盾にして。
店内に向けたサプレッサー付き拳銃。
凶悪にぎらつくデザートイーグル。
●タイトル
●浦島質店・昼
穹の手から落ちる弁当のビニール袋。
レミ「来い」
レミの腕が穹の首に巻きつく。
そのまま強引に後ろへ。
救いを求めてさまよう穹の視線。
隙なく狙いをつけるレミの銃口。
麻痺したように動けない同僚たち。
割れた展示ケースに突っ伏した店員。
床に流れ広がる血。
自動ドアのボタンを手探るレミ。
背後で開く扉、出口をくぐる二人。
一人の店員が前に躍り出る。
磯貝「バカ、やめろ」
制止と同時に火を噴くレミの銃。
吹っ飛ぶ店員を隠すように閉じる扉。
●エレベーター・昼
開いた扉から転がり込むレミと穹。
レミ、B1と閉のボタンを連打。
質店の扉に動きはない。
エレベーター扉が無事に閉まる。
穹を無造作に解放するレミ。
片隅に身を縮こまらせる穹。
穹「・・・私、どうなるんですか」
震える穹の全身をレミの視線が這う。
まだ少女のようにあどけない顔。
顔に似合わない肉感的な肢体。
レミの唇に微かな笑みが浮かぶ。
レミ「気が変わった」
●地下駐車場・昼
穹に銃を突きつけて歩かせるレミ。
目立たない区画に停められたバイク。
漆黒のスーパーデューク。
レミ、ダッフルバッグを押しつける。
レミ「背負って」
穹「え、重い、ムリ・・・」
銃口のプレッシャー。
渋々従う穹。
思わず重さによろめく。
続いてヘルメットを放るレミ。
穹、危なっかしくキャッチ。
穹「これ乗るの? もうやだ・・・」
レミ「じゃあ好きにしろ」
レミを見つめる穹。
穹「・・・いいんですか」
応えずにメットをかぶるレミ。
半信半疑でバッグを下ろす穹。
レミ、軽々拾い上げて肩に掛ける。
バイクにまたがってエンジン始動。
慌てて横に退く穹。
あっさりと通り過ぎるバイク。
穹「あ、これ・・・」
抱えていたメットを掲げる穹。
バイク、加速して視界から消える。
●浦島質店・昼
連打される自動ドアのボタン。
慌ただしく走り去る数人の足音。
カウンターから怖々と女性店員。
目の前に男性店員の死体。
その血だまりで滑って尻餅をつく。
磯貝「キミ」
女性店員「はいっ」
磯貝「ちょっと(手招き)」
惨状に目を逸らしながら従う店員。
女性店員「あの、通報は・・・?」
磯貝「君、独身だったね」
女性店員「はい」
磯貝「ご両親は?」
女性店員「長野です」
磯貝「そうそう、シャインマスカット頂いた
ことあったっけか」
女性店員「通報・・・」
磯貝「浜地」
男性店員(浜地)を呼びつける磯貝。
浜地「掃除ですか」
磯貝「連れて行け」
浜地、困惑する女性店員を裏へ。
店内を一望する磯貝。
展示ケースの死体の手にマカロフ。
床をモップで拭き清める別の店員。
磯貝、スマホでどこかに電話。
磯貝「・・・申し訳ありません、害虫です」
●地下駐車場・昼
メットを抱えて立ちつくす穹。
エレベーターの方から複数の足音。
振り返ると男性店員たちの姿が。
穹「こっち、こっちでーす」
涙目で手を振る穹。
穹「よく分からないけど放してくれました。
あの人、おっきなバイクで・・・」
穹の言葉が途中で詰まる。
駆け寄る男たちの手には拳銃。
穹「先輩、それ・・・」
明らかに穹に向けられた銃口。
駐車場の入口で爆音。
まばゆいライトが男たちを照らす。
眩しさに手をかざす男たち。
何も見えないまま無闇な発砲。
メットをかぶってうずくまる穹。
迫る音と光の向こうから反撃の銃声。
一人また一人、正確に射抜かれる。
穹の傍でブレーキ音。
見上げた視線の先に白馬の王子様。
バイクにまたがって手を伸ばすレミ。
●街・車道・昼
渋滞の隙間を縫って走るバイク。
レミの卓越したテクニック。
後ろから必死にしがみつく穹。
その背中にはダッフルバッグ。
バイクは都心部を抜けて郊外へ。
●郊外・車道・午後
工場や商業施設が点在する郊外風景。
大型車を風のように追い越すバイク。
穹の腕、ますます強くレミの腰に。
穹「あの、すいません・・・」
風圧に吹きちぎられるか弱い声。
穹「あの!」
レミが気づく気配はない。
穹「そろそろこの辺で・・・さっきは助けて
くださってありがとうございました」
レミ「・・・・・・」
穹「私、帰らなきゃ・・・家族も心配してる
はずだし・・・」
レミ「・・・・・・」
穹「警察には何も言いませんから・・・」
レミ「・・・・・・」
レミ、真っ直ぐ前方を見据えたまま。
*****
次第に減少する交通量。
道の両脇には田畑が目立ち始める。
レミのお腹をギュッとつまむ穹。
ようやく反応するレミ。
レミ「何?」
穹「どこでもいいから止めて・・・」
不自然に太腿をよじらせて。
穹「・・・出ちゃう」
●ドライブイン・午後
寂れたドライブイン。
駐車場に滑り込むスーパーデューク。
リアシートから飛び降りる穹。
メットとバッグをレミに押しつけて。
食堂横のトイレに一目散。
隣接するセルフスタンド。
給油機までバイクを押してゆくレミ。
トイレに目を配りながら給油開始。
●同・トイレ・午後
洗面台で手を洗う穹。
行儀よくハンカチで手を拭いて。
溜息をついた瞬間震え出す脚。
鏡の中の引きつった半べそ顔。
立ってられずにその場でうずくまる。
にじんだ視界にもう一つの出口が。
●同・食堂・午後
店内に客の姿は見えない。
テレビが垂れ流す地元の街ブラ番組。
カウンターでスポーツ紙を読む大将。
穹「すいません」
顔を上げると蒼ざめた穹が。
大将「どこでも空いてるよ」
穹「電話貸して下さい」
大将「電話? 携帯は?」
穹「置いてきちゃって・・・」
大将「そこにあるけど」
年代物のピンク電話を指す。
受話器を取るも操作に戸惑う穹。
大将「十円玉入れないと」
穹「あの、お財布も・・・」
大将「あんた、具合悪そうだけど大丈夫?」
事務服姿の穹を不審げに眺めて。
大将「この辺の人じゃないでしょ。どっから
来たの」
穹「警察呼んでくださいっ」
大将「え」
穹「私、人質にされてるんです」
切羽詰まった様子に大将困惑。
大将「ちょ、落ち着きな。話整理しようか」
穹「お店に強盗が・・・一緒に働いてた人が
撃たれて・・・うう・・・」
レミ「もう、勝手にうろうろして」
穹の肩に置かれたレミの手。
レミ「トイレ済んだんでしょ? おなかでも
すいた?」
穹の後ろで爽やかに微笑むレミ。
大将「えっと・・・お連れさん?」
穹の表情を窺う大将。
固まって言葉も出ない穹。
レミ「姉です。この子また何か変なこと言い
ました?」
大将「いや、強盗がどうとか・・・」
レミ「お仕事中なのにご迷惑おかけしてすみ
ません。この子ちょっと心が不安定で」
肩に置いた手にわずかに力。
レミ「職場のトラブルでしばらくお休みする
ことになって。実家に連れて帰る途中なん
です」
大将「そうなの。だったらいいけどさ。強盗
とか人質とか物騒なこと言うもんだから」
レミ「そんなニュースやってました?」
テレビ台を見上げる大将。
ローカルタレントがゆるい食レポ中。
大将「・・・いや、見てないな」
レミ「でしょ?(ニッコリ)」
大将「ったく、人騒がせにも程があるよ」
レミ「重ね重ね申し訳ないです。ほら、ソラ
も謝って」
無理に穹の頭を下げさせる。
穹の背中に当たるレミの胸。
ジャケットの内側に硬い感触。
ますますこわばる穹の表情。
レミ「さ、行こっか。日が落ちるまでに着い
とかないと危ないし。ご飯はそれからね」
●山・車道・夕
宵闇が山間のカーブに垂れ込める。
ライトを灯してひた走るバイク。
レミの腰に回した穹の手は弱々しい。
レミ「もっとしっかり捕まってろ」
穹「・・・・・・」
レミ「落ちたら大根おろしだぞ」
穹「・・・なんで」
メットの下から漏れる呟き。
穹「なんで私の名前・・・」
大きく傾く車体。
また一つ鮮やかにカーブを抜けて。
●コテージ・夕
藪をかき分けて進むレミ。
後からのろのろとついてくる穹。
行く手に見えてくる老朽化した建物。
白いペンキも剥げかけたコテージ。
●ゴルフ練習場・夕
二階打席で1番ウッドを振るう磯貝。
ワイシャツの腋に汗がにじむ。
献身的にボールをセットする浜地。
でたらめな軌道で飛んでいくボール。
磯貝「クソッ、不良品だろこの玉」
海月「肩を入れすぎだ」
いつの間にか隣の打席に海月。
ブランド物のウェアに身を包んで。
慌てて頭を下げる磯貝。
磯貝「ご苦労様です」
海月「随分派手にやられたそうじゃないか。
アンボイナの面目丸つぶれだな」
ボールをセットする部下。
海月、アイアンでアプローチ練習。
磯貝「それがムチャクチャな女でして。ウチ
を叩くだけでもイカレてるってのにゲーム
感覚でバンバン撃ちまくりやがって・・・
おかげで香典だけでもえらい出費で」
言い訳を手で制する海月。
海月「身元は」
磯貝「獅堂レミ二十八歳。書類に書いた個人
情報が本物なら」
海月「書類?」
磯貝「偵察のつもりか、前からちょくちょく
客で来てやがったんです。どこまで俺らを
なめてやがるんだか・・・」
●浦島質店・昼(回想)
自動ドアをくぐってレミ来店。
カウンターの女性店員がお辞儀。
女性店員「いらっしゃいませ」
奥から目ざとく歩み寄る磯貝。
磯貝「これは獅堂様、毎度ご来店ありがとう
ございます。本日はお預かりですか、それ
とも買い取りで?」
レミ「買ってほしい物があって。それと受け
戻しを」
磯貝「承知しました。応接の方へどうぞ」
下にも置かない歓待ぶり。
●ゴルフ練習場・夕
海月の打ったボールが弧を描く。
50ヤード手前に落ちて転がる。
磯貝「実際、あのアマが持ってくる貴金属や
陶芸品が大した掘り出し物揃いで。それを
言い値で売るもんだからチョロい客だって
甘く見てたんです・・・」
●浦島質店・応接室・昼(回想)
上座のレミの前に茶を出す磯貝。
レミ「いつもの女の子は?」
磯貝「浮泡ですか。お昼で出ておりまして」
レミ「あの子のお茶が楽しみだったのに」
磯貝「それは恐縮です。まだ新米なんですが
お茶を淹れるのだけ妙に上手いんですよ。
ま、今日は私の粗茶でご容赦ください」
茶を一気に啜るレミ。
レミ「悪くはない」
磯貝「それで、今日のお品は?」
テーブルの上にダッフルバッグ。
勿体ぶってファスナーを開くレミ。
思わず身を乗り出す磯貝。
スカスカのバッグの中に光るもの。
装填済みのデザートイーグル。
素早く取り出して磯貝に突きつける。
レミ「お幾らで買っていただけます?」
●ゴルフ練習場・夕
海月のボール籠がラスト一個に。
海月「女狐一匹に八千五百とは」
磯貝「言うがまま詰め込まされて。しっかり
元を取られました。それよりも・・・」
海月「受け戻し、か」
磯貝「・・・はい、玉手箱を」
海月「そっちが本命だろう」
磯貝「おそらく」
海月「えらいことになったな。このままだと
お前の手足くらいじゃ済まなくなるぞ」
磯貝「重々承知しております」
磯貝のこめかみに浮き出る血管。
磯貝「既に駆除業者が仕事を・・・」
海月、磯貝にジェスチャー。
磯貝「何ですか?」
海月「お前のウッド貸してみろ」
磯貝に促され浜地がクラブを渡す。
最後の一球を思いきり振り抜く海月。
一番奥のネットを直撃するボール。
海月「何事も基本は姿勢だ。なあ、磯貝」
●コテージ・リビング・夜
蜘蛛の巣の張った天井。
剥がれかけた壁紙。
照明の代わりに灯油ランタン。
ぼろソファに身を投げ出したレミ。
距離を置いて所在なげに立つ穹。
レミ「座れば」
穹「・・・大丈夫です」
レミの足元にダッフルバッグ。
穹の視線、ついついバッグの方へ。
レミ「気になる?」
穹「・・・別に」
レミ「お利口だな。見たら戻れなくなる」
*****
テーブルに積み上げられた缶詰。
どれもこれも缶が錆びかけている。
屈んでブーツからナイフを抜くレミ。
桃缶に刃を押し当てて器用に開ける。
差し出された桃缶、受け取らない穹。
レミ、指で一切れつまんで食べる。
再び差し出される桃缶、受け取る穹。
レミ、鯨缶を開け始める。
穹、桃缶を持って部屋の片隅へ。
しばし静かな食事のひと時。
*****
穹の足元に空の桃缶。
半袖から覗く二の腕をしきりに擦る。
石油ストーブを引っ張り出すレミ。
ソファの傍に据えてタンクを確認。
靴の裏でマッチを擦って点火。
室内にぼうっと広がる暖かい光。
声もかけずソファに戻るレミ。
ストーブに背を向けている穹。
我慢しきれずクチュンとくしゃみ。
レミ、ソファで居眠っている様子。
穹、少しずつストーブに近づいて。
●ドライブイン・食堂・夜
長距離ドライバーで繁盛する店内。
窓際でカレーライスを食べる運転手。
どこからか聞こえてくる軽快な音楽。
窓の外に目をやる運ちゃん。
駐車場に入ってくるワゴン車。
害虫駆除会社のラッピング。
『とんぼのめがね』を鳴らしながら。
トラックとトラックの間に停車。
*****
つなぎを着た平目が入ってくる。
カウンターの大将の元に一直線。
面倒そうに平目を一瞥する大将。
大将「燻蒸なら先週やったよ」
平目「この二人連れに見覚えは?」
笑顔と共に提示される二枚の写真。
防カメから引き伸ばしたレミと穹。
●コテージ・リビング・夜
穹の頬を染めるオレンジの光。
閉じていた瞼が震えて開く。
目の前にストーブの火。
穹、いつの間にかソファの傍に。
アーム部分にもたれかかって。
寝ぼけまなこが突然見開かれる。
穹の首筋を慈しむように這う手。
その手が事務服の豊かな膨らみに。
穹「何するんですかっ」
逃れるように振り返る穹。
ソファから身を乗り出したレミ。
飲み込まれそうな瞳の欲情。
無骨な手が穹のうなじを捕まえる。
そのまま強引に引き寄せて。
なすすべなく塞がれる唇。
穹、網の中でもがく魚。
貪るレミの唇に次第に抵抗を弱めて。
空いた手で穹の胸をまさぐるレミ。
ベストがはだけ、シャツのボタンも。
レミを突き放す穹の手。
意外そうに穹を見下ろすレミ。
傷ついて血をにじませた唇。
負けじとレミを見返す穹。
これまでになく激しい眼差しで。
穹「・・・サイアク」
レミの血で汚れた唇が吐き捨てる。
穹「最悪。マジ最悪。私を人質にしたのって
そういうこと? 信じられない!」
レミ「・・・欲しくなった」
穹「え」
レミ「お前が欲しくなったんだ」
再び穹に襲いかかるレミ。
穹「やめてっ」
逃げ道をストーブに阻まれて。
穹を無理やり抱き上げるレミ。
ソファに投げ出してのしかかる。
下着も露わに怯える穹。
穹「やだ・・・やだぁ・・・」
レミの影が哀れな獲物を覆い隠す。
●同・承前
ソファの上で膝を抱える穹。
乱れた服をかき寄せ毛布をかぶって。
きつく結ばれた唇だけが見える。
離れた床で胡坐をかくレミ。
ジャケットを脱いでタンクトップ姿。
傷ついた左腕にアルコールぶっかけ。
●同(回想)
押さえつけるレミ、暴れる穹。
何とか逃れてさまよう穹の右手。
偶然、レミの右のブーツに届く。
引き抜かれたナイフの一閃。
腕を押さえて飛び退くレミ。
穹、ナイフを手に身を起こす。
見つめ合う二人の間に流れる緊張。
●同・承前(現在)
穹の耳に聞こえる規則正しい息遣い。
毛布の隙間から見えるレミの姿。
一心不乱の腕立て伏せ。
背中や腕に鍛え上げた筋肉が浮かぶ。
穹「・・・野蛮」
小さな呟きに反応して運動中断。
穹、レミの視線をナイフで牽制。
穹「そんなので威嚇しても怖くないから」
震え声の啖呵にレミの頬が緩む。
レミ「こうしてるとモヤモヤが治まる」
額から滴り落ちる汗を拭って。
レミ「刑務所の囚人と同じだ」
穹の肩からずり落ちる毛布。
祈るように掲げ持ったナイフ。
穹「入ったこと・・・あるんですか」
レミ「・・・さあな」
穹「今まで何人殺したの」
レミ「千人・・・いや二千人か」
穹「うそつき」
レミ「お前が知る必要はない」
穹「じゃあ、何で私なの」
レミ「何も知らないお姫様だから」
穹「・・・・・・」
レミ「きれいな雪を見ると土足で踏み荒らし
たくなる、それだけだ」
ジャンプして剥き出しの配管を掴む。
軽々と懸垂を始めるレミ。
その肉体の躍動から目が離せない穹。
●浮泡家・外・夜
チャイムを押す男の指。
食い気味に反応するインターフォン。
浮泡母(声)「はい、どちら様ですか」
不安に上ずる中年女性の声。
男「●●警察です。お嬢さんのことで」
●コテージ・リビング・夜
床に敷いたマットに寝そべるレミ。
アスベストが覗く天井を見つめて。
ソファで警戒を続ける穹。
時折、眠気に襲われて舟を漕ぐ。
その都度ナイフを握り直す。
レミ「無理するな。少し寝た方がいい」
穹「・・・寝たらまた襲うくせに」
レミ「もう襲わない。次は唇を嚙みちぎられ
そうだ。それに・・・」
レミ、包帯を巻いた左腕を掻く。
穹、またガクン。
鞘を抜いて穹に放るレミ。
穹「えっ、何?」
レミ「しまっとけ。さっきからケガしそうで
ヒヤヒヤする」
ナイフと鞘を手に疑い深げな穹。
穹「ほんとにしない?」
レミ「しないよ、お前からじゃなきゃ」
穹「私から? バカみたい・・・」
ようやくナイフを収める穹。
レミ「いつまでもここにいるわけじゃない。
すぐ動ける準備が必要だ」
穹「私がついてくるって思ってる?」
レミ「来ないのか」
穹「そのうち警察が探してくれる。それまで
ここに隠れてます」
レミ「警察ね・・・」
ポケットから出した物を再び穹へ。
穹、あたふたとキャッチ。
穹「何でもかんでも投げないでよ」
レミ「検索してみろ。昼間のドンパチが報道
されてるかどうか」
穹の手元にかんたんスマホ。
レミ「パスコードは2525だ」
*****
レミの元へスマホを返しにくる穹。
一気に老け込んだ表情。
穹「・・・記事になってない、全然」
レミ「だと思った」
穹「こんなの絶対おかしい・・・」
差し出されたスマホを突き返すレミ。
レミ「うちに電話しろ」
穹「うちって、私の?」
レミ「他に誰がいる」
穹「大丈夫ですか」
レミ「何が」
穹「この場所を知られて」
レミ「聞かれたって答えなきゃいい。飛ばし
だからすぐ探知されることもない」
考えた末に番号を打ち込む穹。
穹「お母さんの携帯にかけます」
レミ「番号覚えてるんだな」
穹「そんなの普通でしょ」
スピーカーモード、呼出音が響く。
●浮泡家・リビング・夜
照明の消えた暗い室内。
スマホ画面が光って鳴動。
●コテージ・リビング・夜
先方で電話をとった気配。
穹「もしもし、お母さん?」
浮泡母(声)「ソラ? ソラなの?」
穹「そうだよ。ごめんね、心配かけて」
浮泡母(声)「私は大丈夫よ。それよりソラ
ちゃんこそ大丈夫? ケガしてない?」
穹「うん平気。今だって安全な所にいるよ」
レミをちらっと見て目を逸らす穹。
穹「でも、まだちょっと帰れないっぽい」
浮泡母(声)「どこにいるの。帰れないって
どういうこと? 誰かに捕まってるの?
あのね、今そばに警察の人たちがいるの。
場所を教えてくれたらすぐ助けが・・・」
手を伸ばして通話を切るレミ。
穹「何するんですか!」
レミ「警察は動いてない」
穹「え・・・」
レミ「お前の母親が噓つきなのか、或いは」
穹「何言って・・・」
急に何かに思い当たる穹。
その顔色がみるみる悪くなる。
穹「私のお母さん・・・自分のことはいつも
『お母さん』って言うの・・・『私』とか
言ったことない・・・」
崩れ落ちそうになる穹を支えるレミ。
●浮泡家・リビング・夜
スマホを持つ男の手。
浮泡母の声「もしもし、ソラ、もしもし?」
男の口から出ている中年女性の声。
切られた事に気づいて履歴を確認。
ライトに浮かび上がる浜地の無表情。
その背後の暗い室内。
乱れた部屋を片づける複数の影。
●コテージ・外・暁闇
得体の知れない鳥が森で鳴く。
音を忍ばせ建物に接近する複数の影。
黒いつなぎに身を包んだ男たち。
ミニUZIをスリングで肩にかけて。
暗視ゴーグルとガスマスク装備。
指揮をとる平目。
先頭が慎重に藪を切り払っていく。
建物の前面に辿り着いて散開。
正面の扉に手をかける平目。
壊れかかった扉は触れただけで開く。
●同・玄関・暁闇
ランタンの火がフッと消える。
闇の中、少しずつ開く扉の隙間。
しばらく中を窺っている気配。
やがて、一人また一人。
屋内に体を滑り込ませる黒い影。
玄関吹き抜けに人の気配はなし。
安全を確認した平目が合図。
リビングに足を向ける部下たち。
先頭が立ち止まり無言で指さし。
胸の高さに張られたワイヤー。
触れないようにくぐる面々。
床すれすれのワイヤーには気づかず。
先頭が足を取られた瞬間。
頭上から水風船が降り注ぐ。
破裂して男たちに降りかかる液体。
平目「蛍光だ! 狙われるぞ!」
男たちの体のあちこちに緑色の光。
吹き抜けの二階から銃火。
たちまち二人の男が撃ち倒される。
ミニUZIによる無闇な反撃。
木屑を飛び散らせる二階手摺り。
たちまち弾切れに陥る男たち。
装填の隙をついて再び上からの銃撃。
緑に光った男の脳天が吹っ飛ぶ。
階段の陰に走り込む平目。
二階に向けて手榴弾を投擲。
伏せた瞬間、頭上の踊り場が爆発。
平目「走れ!」
リビングに駆け込む生き残り三人。
●同・リビング・暁闇
赤々と燃えるストーブ。
橙にぼんやり染まった室内。
暗視ゴーグルをずらす面々。
散開して家具の陰を調べ始める。
レミと穹のいた痕跡はそのままに。
本人とダッフルバッグは消えている。
部下A「さっきの一人だけか」
部下B「人質は逃がしたのかもな」
部下A「じゃあブツはそいつが・・・」
部下Bの目に汗が流れ込む。
部下B「なんか暑いなこの部屋」
部下A「ストーブ消すか」
会話を聞きつけた平目。
懐中電灯で床を満遍なく照らす。
湿気たようなフローリング。
ところどころに溜まった液体。
ピチャリと水音を立てる靴。
ガスマスクを外して嗅ぐ平目。
その時、扉の向こうを走り抜ける影。
反射的に銃を向ける部下たち。
平目「待て、撃つな!」
遅すぎた制止。
銃声と同時に燃え広がる炎。
●山・車道~トラック車内・早朝
朝霧漂う山間の車道。
ヘッドライトが霧を貫く。
切り裂くように鮮魚トラックの巨体。
運転席にレミ、助手席に穹。
穹の膝の上にダッフルバッグ。
レミ「思ったより早かったな」
穹「・・・・・・」
レミ「防カメか、ドラレコか、もしかしたら
Nシステムかも」
穹「・・・・・・」
レミ「分かっただろ、何でも有りだって」
穹「あなたのせい・・・」
レミ「?」
穹「あなたのせいで、私の家族が・・・」
レミ「勘違いするな」
泣き腫らした目でレミを睨む穹。
レミ「お前のせいだ」
穹「・・・どういう意味?」
レミ「詰んでたんだよ、あの店に勤めた時点
でね」
穹「・・・・・・」
レミ「何でまたあんな所に」
穹「・・・あそこしかなかった(ボソ)」
レミ「何?」
穹「あそこしか受からなかったの! 私バカ
だから!」
糸が切れたように声を上げて泣く。
レミ「確かにバカだったな。奴らにとっちゃ
お前はただの花瓶の花・・・」
後方から微かにメロディー。
レミ「散々弄ばれて、枯れたら用済み」
徐々に接近する『とんぼのめがね』。
引き締まるレミの表情。
バックミラーに二筋のヘッドライト。
霧の中から現れる害虫駆除ワゴン。
●ワゴン車内・早朝
運転席でハンドルを握る平目。
髪は焦げ、顔と手に生々しい火傷。
鬼ごっこを楽しむ少年のような顔。
●山・車道~トラック車内・早朝
たちまちトラックの後尾に迫る追手。
耳をつんざく童謡の響き。
わざと減速するトラック。
追突してふらつくワゴン。
すかさず加速するトラック。
負けじと追走するワゴン。
平目、運転しながら窓から手。
トラックの後輪を狙ってUZI掃射。
道を削る銃弾、雨のように降る薬莢。
連続カーブをぎりぎりでこなす二台。
トラックのサイドミラーが砕け散る。
強引に谷側に割り込んでくるワゴン。
並走状態で助手席の真下につく。
平目、器用に弾倉交換。
助手席に向けられた銃口。
レミ「伏せろ!」
穹が座席の下に潜り込むと同時に。
アクセルを思いきり踏み込むレミ。
荷台を薙ぐように弾痕が穿たれる。
レミ、ハンドルを山側に切る。
急な操作で谷側へぶれる荷台。
ワゴンを崖下へ払い落とすように。
火花散るガードレール。
抜け出そうと必死のワゴン。
耐えきれずガードレールごと落下。
遠ざかる童謡、直後に激突音。
トラックはスピン寸前。
運転台と荷台が別の生き物のように。
何とか手なずけようとするレミ。
斜面に乗り上げて止まるトラック。
空回るタイヤ、息絶えるエンジン。
後輪に刺さったガードレールの破片。
レミ「・・・酔ってないか」
座席の下から這い出す穹。
無傷だが顔は涙でぐちゃぐちゃ。
ただ、慟哭はやんでいる。
*****
傾いだ運転席から飛び降りるレミ。
助手席から降りる穹を助けてやる。
荷台の後ろに回る二人。
レミ、荷台の扉を開く。
鎮座するスーパーデュークの勇姿。
●山・車道・朝
霧は晴れ、どこまでも澄んだ青空。
爽やかな秋風を受けて走るバイク。
まるでツーリングを楽しむよう。
乗っている二人は疲労困憊。
穹はレミに完全に身を預けている。
レミの背中で無防備に潰れる胸。
穹「・・・近すぎる」
レミ「自分からくっついといて」
穹「じゃなくてあの音・・・」
スーパーデュークの爆音。
時折すれ違う対向車の音。
それらと異なる轟音が次第に優勢に。
リアシートから見上げる穹。
真上を低空飛行するヘリの腹。
明らかにバイクを追走している。
穹「頭の上に降ってきそう・・・」
レミ「トンボの次はトンビか」
前方に分岐の標識。
迷わず山道に舵を切るバイク。
●山道・朝
悪路を駆け上っていくバイク。
激しい揺れに翻弄される穹。
穹「もうダメ、落ちちゃうっ」
レミ「口閉じてろ。舌が無くなるぞ」
穹、ますますきつく抱きつく。
梢が空を隠してくれてはいるが。
ローター音は執拗に付きまとう。
●山中・朝
尾根に近い林の中。
下生えに横たわるスーパーデューク。
エンジンから立ち昇る煙。
その傍に身を屈め息を潜める二人。
穹「置いていくの、この子」
レミ「ロードモデルには酷だ」
穹「・・・今までありがとね」
バイクのカウルを優しく撫でる。
その仕草を目に留めるレミ。
*****
上空を旋回する猛禽の気配。
天を覆った枝葉が不穏に揺れる。
忌々しげに見上げるレミ。
レミ「気に障る蠅だ」
●ヘリ・コックピット・午前
眼下に広がる下り斜面。
竹林の合間に見える人影。
転がるように斜面を駆け降りていく。
降下接近するヘリ。
走るレミの姿がはっきりと。
パイロット「目標捕捉。獅堂レミと思われる
女一名。人質の姿は見えず。離脱の可能性
あり。只今より無力化を試みる」
通信手(声)「了解。降下の際はワイヤーに
注意されたし」
パイロット「了解」
竹林の切れ間が見えてくる。
伐採され丸裸になった斜面。
レミ、白日の下に追い込まれて。
銃口を向け引金を引くも不発。
拳銃を投げ出して膝をつく。
両手を挙げて降伏のポーズ。
●山中・午前
竹林を背景に慎重に降下するヘリ。
ホバリングしながら側面をレミに。
キャビンドアが開く。
迷彩服の男が小銃をレミに向ける。
迷彩「獅堂レミだな」
レミ「そうだ」
迷彩「人質はどうした」
レミ「足手まといだから始末した」
迷彩「奪ったブツは」
レミ「ここにはない」
迷彩「どこだ」
レミ「隠してきた。この山の中」
迷彩「仕事増やしやがって。案内してもらう
からな」
ホバリングの嵐の中で大声の問答。
*****
ナイフを持った手のアップ。
刃の傍には張り詰めたロープ。
*****
挙げたままのレミの両手。
その右手が勢いよく振り下ろされる。
風を切るような鋭い音。
竹林から放たれた緑色の鞭。
ヘリの横腹を強烈に打ち据える。
空中で大きく傾いたヘリ。
曲がったブレードが悲鳴を上げる。
振り回されるように暴れる機体。
銃を拾って竹林にダッシュするレミ。
ブレードの先が土を抉る。
地面に叩きつけられて弾むヘリ。
何回転かしてようやく沈黙。
下敷きの側面から広がる血と燃料。
竹林の中でうずくまっている穹。
その手に固く握られたナイフ。
まだ大きく揺れている一本の竹。
その幹にはロープの切れ端が。
穹の手をとるレミ。
レミ「行くぞ」
走り出す二人の背後でヘリが爆発。
●林道・午後
温泉街を見下ろす林道。
道端に朽ちかけた農機具小屋。
その陰に潜むレミと穹。
穹、濡れハンカチで顔を拭っている。
レミ、梨を皮ごとかじっている。
ちらっとレミを見る穹。
穹「それ、どうしたの」
レミ「さっきの祠にあった」
穹「お供え物だよね」
レミ「鴉の餌になるよりは有意義だろ」
穹の目の前にはダッフルバッグ。
不意にファスナーを開く穹。
レミ、別に止めもしない。
バッグの中に詰まった札束。
万札を一枚抜き取る穹。
レミ「どうする気だ」
穹「お賽銭置いてくる」
レミ「自己満足ならやめとけ」
穹「・・・・・・」
梨を平らげ指をしゃぶるレミ。
どこからかもう一個取り出し穹へ。
穹、受け取ろうとしない。
レミ「まだお姫様気分が抜けないな」
穹「・・・ムカつく、その言い方」
飄々と二個目にかぶりつくレミ。
その頬にこびりついた泥。
穹、無言でレミの頬へハンカチを。
レミ「なんだよ鬱陶しい」
穹「動かないで、取れないから」
レミ「痛いって。力入れすぎだ」
穹「何よ今さら。人殺しの野蛮人のくせに」
転がる梨、ささやかな争闘。
抵抗虚しく観念するレミ。
*****
水路でハンカチを洗う穹。
その後ろ姿を見つめるレミ。
埃にまみれた事務服の尻。
レミ、万札をひねくり回して。
レミ「そろそろお色直しが必要だな」
穹「(振り向いて)そっちもでしょ」
レミ「下で確保してくる。ここで待ってろ」
穹「待つのはあなたの方よ」
レミ「?」
レミから万札をかっさらう穹。
穹「信用できないから、あなたのセンス」
●冷凍倉庫・午後
ずらりと吊り下げられた豚の枝肉。
その中に一つだけ異色の存在。
ワイシャツ一丁の磯貝。
後ろ手に縛られ鎖で吊るされて。
紙のような顔色、睫毛には霜。
重い扉が開き、海月一行のご入来。
海月「どうだ、骨身にしみたか」
磯貝、ガタガタ震えながらうなずく。
海月「解凍してやれ」
床に下ろされる磯貝。
海月の部下、バケツで熱湯ぶっかけ。
湯気を上げてのたうつ磯貝。
その様子をスマホで撮る別の部下。
海月「怒り心頭のお偉方にクールダウンして
頂くための余興だ。恨むなよ」
また別の部下、海月に何か耳打ち。
海月「さあ困ったぞ。追い込んだはずの魚が
網を破って逃げ出したそうだ。いよいよ私
の首まで涼しくなってきた」
さほど困っていなさそうな笑顔。
靴の爪先で床の磯貝を弄ぶ。
力を振り絞って首をもたげる磯貝。
磯貝「俺に・・・やらせてください・・・」
海月「やるのか、全力で」
うなずく磯貝。
海月「馬車馬のように働くか」
うなずく磯貝。
海月「なら最初からやれ」
胃の辺りを嫌と言うほど踏みつける。
磯貝、血反吐。
海月「遅かれ早かれ何か要求してくる。その
時こそ捲土重来だ。分かってるな、玉手箱
だけは絶対に開かせるなよ」
●林道・午後
農機具小屋の傍。
ダッフルバッグの上に座るレミ。
スマホで地図を見ている。
地図上に示された山中の広大な敷地。
林道を下ってくる人影。
竹籠を背負った腰曲がりの老婆。
籠から覗く色とりどりの茸。
老婆、小屋の手前で足を止める。
老婆「ほんにまあ秋日和で。山歩きかいね」
軽く会釈するレミ。
電源を切ってスマホをポケットへ。
老婆「ああ、ええ風じゃ。わしもここいらで
一休みしようかね。よっこらせ」
返事を待たずに籠を下ろす老婆。
レミの隣に座り込んで煙管をふかす。
木の枝で地面に落書きを始めるレミ。
煙と共に流れる弛緩した時間。
●同・承前
近づいていく穹の視点。
ダッフルバッグの上に座ったレミ。
木の枝で落書きを続けている。
穹の気配に顔を上げるレミ。
*****
両手に紙袋を提げた穹。
全身を山ガールコーデで統一して。
レミ「ほんとバカだな」
穹「え」
レミ「最後のチャンスだったのに」
穹「・・・はい、これ」
紙袋の一つを押しつける穹。
レミ「そっちのは」
穹「脱いだ分」
穹の紙袋には畳まれた事務服。
自分の袋から服を引っ張り出すレミ。
ガーリーなアウトドアウェア。
レミ、仏頂面。
レミ「お前のセンスも大概だな」
穹「そう? 可愛いと思うけど」
レミ「似合うかどうかだろ問題は」
文句を言いながらも脱ぎ始めるレミ。
穹「ちょっと。恥じらうふりくらいしてよ」
レミを小屋の方へ押しやる。
落ちていた茸を蹴飛ばす穹の靴。
レミ「見られても狸くらいだ」
穹「私は狸じゃありません」
渋々小屋の中に入るレミ。
代わってバッグの上に座る穹。
穹の目の前の地面。
ほぼ完成した、亀に乗った少年の絵。
●農機具小屋・午後
古い脱穀機の上。
レミの脱いだ服が無造作に。
漏れた陽光に浮かぶレミの姿。
逞しい体がガーリーに装われていく。
片隅にうず高く積まれた米俵。
隙間からはみ出す死んだ老婆の手。
武器を握るように固まった手の形。
●温泉駅・コインロッカー・午後
口を開けた大型ロッカー。
奥へと押し込まれるダッフルバッグ。
鍵をかける穹。
ポケットに札束二つ突っ込むレミ。
穹、鍵をレミに差し出す。
レミ、受け取って内ポケットに。
ポケットの中に垣間見える冊子。
●温泉街・午後
内外の客で賑わう目抜き通り。
観光客面して歩む山ガール二人。
土産物屋や食べ物屋を冷やかしつつ。
*****
五平餅を食べ歩くレミと穹。
穹、レミの裾を引っ張る。
そこには昔ながらの遊技場。
●遊技場・午後
立ち並んだ人形に向けられた銃口。
乾いた発射音。
人形と人形の間をすり抜けるコルク。
コルク銃から目を離すレミ。
納得が行かない表情をしている。
五平餅の串を両手に持った穹。
レミの背後でジト目。
*****
小気味よく吹っ飛んでいく人形。
五平餅の串を両手に持ったレミ。
納得が行かない表情をしている。
銃から目を離して振り返る穹。
紅潮した頬に得意げな笑み。
ギャラリーから万雷の拍手。
●温泉街・夕
青ベンチに座ったレミと穹。
行き交う人たちを眺めながら。
それぞれの手にスムージーミルク。
穹「・・・平和ですねえ」
レミ「ん」
穹「今朝までのことが嘘みたい」
レミ「まだ終わったわけじゃない」
穹「・・・・・・」
レミ「ここじゃ仕掛けてこないだろうけど」
穹「それがお互いベスト」
レミ「?」
穹「今の気分を台無しにされたら、さすがに
私だってキレちゃう」
ニカッと笑った穹に夕映え。
穹「あ、そうだ・・・」
穹、レミに何か握らせる。
穹「はい、あなたの分」
開いた掌に蛍石のミサンガ。
レミ「何だこりゃ」
穹「賞品。他に可愛いの無かったから」
レミ「だからこういうのは・・・」
穹、自分の手首をアピール。
既につけられている碧い石。
溜息をついて追随するレミ。
レミ「認識票しかつけたことないんだけど」
穹「さて、どこ泊まります?」
●温泉旅館・外・夕
格式高い老舗旅館の門構え。
従業員一同の出迎えに圧倒される穹。
穹「・・・大丈夫?」
レミ「金ならある」
一見落ち着いているレミ。
その場で札束を出そうとして穹制止。
●同・フロント・夕
宿帳を前に思案するレミ。
ペンを横から奪い取る穹。
さらさらと躊躇いなく記入する。
●同・廊下・夕
仲居の後について歩く穹とレミ。
穹「慣れてないんだ、意外」
レミ「野宿の方が気楽だし」
穹「ドライブインでの余裕は何だったの」
レミ「・・・やっぱり犯す」
穹「はいはい」
レミ「そもそも誰、ミカとかキョウコとか」
穹「本名はダメなんでしょ」
仲居に聞こえない音量の会話。
穹「それに知らないもん、あなたの名前」
振り向いて微笑む仲居。
仲居「素敵ですね、ご姉妹でご旅行なんて。
さ、こちらがお部屋です」
●同・客室・夕
落ち着いた佇まいのゆったり和室。
座卓の前で漫然と立つレミ。
部屋を探検していた穹が戻ってくる。
穹「すっごいよ。部屋のお風呂も露天」
興奮気味の穹、座卓に視線。
調えられたお茶セット。
穹「座ろうよ、お姉ちゃん」
*****
座卓に向かい合う穹とレミ。
急須からほうじ茶を注ぐ穹。
湯気の立つ湯呑をレミの方へ。
レミ、万感の表情で味わう。
その様を満足げに眺める穹。
レミ「・・・うまい」
穹「よかった」
*****
穹、立ち上がって風呂の方へ。
レミの視線に気づいて振り返る。
穹「・・・一人ずつだからね」
レミ「何も言ってないだろ」
穹「視線が叫んでる」
レミ「・・・・・・」
障子の向こうに消える穹。
レミ、仰向けに寝転がる。
そのまま腹筋運動を開始。
微かに聞こえる衣擦れ。
障子の向こうから顔だけ出す穹。
穹「十分したら入ってきていいよ」
腹筋の途中で固まるレミ。
●同・客室風呂・夕
茜色と瑠璃色がシームレスの空。
岩風呂から湯気が立ち昇る。
背を向けて顎までつかる穹。
洗い場にレミが入ってくる。
穹「ちゃんと流してね」
素直にシャワーを浴びる気配。
露天との境の扉が開く。
湯の中にレミが足を入れた瞬間。
穹の肩が緊張で縮こまる。
背中合わせになるレミ。
二人の背中が触れて離れる。
しばらくは会話もなく。
穹「・・・ここ、お肌にいいらしいよ」
レミ「・・・・・・」
穹「あと、傷にも効くんだって」
レミ「・・・・・・」
穹「・・・腕、痛くない?」
レミ「もう塞がってる。浅かったから」
穹「ごめんなさい」
自分の体を抱きしめる穹。
穹「怖かったんだ。飲み込まれそうで」
レミ「・・・・・・」
穹「前にもあったから、無理やりのやつ」
レミ「・・・・・・」
穹「その時は何もできなくて・・・」
レミ「悪かった」
湯気に霞む二人の表情。
見え隠れするレミの腕や背中。
数え切れない古傷。
レミ「お前だけだ」
穹「え」
レミ「あたしに傷をつけて生きてるのは」
●同・客室・夜
二つくっつけて敷かれた布団。
渋面で布団の間隔を空けるレミ。
後ろにいる穹を振り仰いで。
レミ「ジェリコの壁も作っとくか」
●同・承前
月光が室内を水槽のように。
穹、ひどくうなされて。
ついには目覚めて飛び起きる。
乱れた浴衣をかき合わせ、隣に視線。
もう一つの布団は空。
穹「どこ・・・」
狼狽してさまよう視線が静止。
広縁の椅子に座るシルエット。
浴衣姿のレミ、月光を浴びて。
机の上にはデザートイーグル。
分解されて玩具のように光る。
丁寧に手入れをするレミ。
穹の視線に気づいて手を止める。
レミ「夢でも見た?」
うなずく穹。
レミ「どんな?」
穹「言いたくない」
レミ「・・・わかった」
作業に戻ろうとするレミ。
穹「・・・まだ私が欲しい?」
レミの視線が穹を突き刺す。
静かに激しく見つめ合う二人。
レミ「・・・くれるのか」
首を横に振る穹。
穹「でも・・・傍にいて・・・」
●同・承前
再びくっつけられた布団。
並んで寝る穹とレミ。
穹「晩ごはん、どれもおいしかったね」
レミ「ああ」
穹「お刺身、すき焼き、山菜の天ぷらも」
レミ「ああ」
穹「食べきれるか心配だったけど、逆に足り
ないくらいだったよ」
レミ「だからって人の分まで食うか」
穹「だって残したらもったいないし。それに
夜中におなか鳴っても困るし」
レミ「低燃費女」
穹「そっちが少食すぎるんですー」
レミ「満腹は命取りだぞ」
レミの手に触れる穹の手。
荒れた手を優しく包み込む穹。
レミ「いざという時、動けなくなる・・・」
デクレッシェンドする言葉。
虫の声がその間隙を埋める。
穹「朝になったらさ」
不自然に明るい穹の声。
穹「庭散歩しようよ。で、また温泉入って。
そしたらお腹すくでしょ。旅館の朝ごはん
って何かワクワクしない? ここって確か
バイキングだったよね。私好きなんだ」
穹の手に力がこもる。
レミ「・・・そうだな」
レミの視線の先。
月光にたゆたう天井の格子。
レミ「朝になったら・・・」
●同・承前
穹の瞼が開く。
月は雲に隠れ、部屋には重い緞帳。
穹の目尻に流れて乾いた涙のあと。
隣を見ようとしない穹。
握られた手は誰とも繋がっていない。
ゆっくりと指を広げる穹。
握られていたのはロッカーの鍵。
●ベンツ車内・夜
スモークガラスの外は光の川。
高速道路灯が残像を引いて流れる。
後部座席に海月と磯貝。
磯貝の顔、絆創膏に覆われ痛々しい。
海月「今まであらゆる仕事を経験してきたが
現ナマの護送役は初めてだ。なかなか退屈
させてくれないね、人生って奴は」
磯貝「よりによって先生を名指しするとか、
何考えてやがるんだあのアマ・・・」
海月「青筋を立てるな。レディーから直々に
ご指名なんだ。謹んでお受けするまでさ」
外の景色を眺める海月。
海月「さて、これは誰の涙かな」
窓を斜めに走り始める雨の線。
鳴り響く『Death Wish3』の着信音。
磯貝「すいません、ちょっと・・・」
小声で電話に出る磯貝。
磯貝「仕事中だ、後で・・・・・・何ィ?」
突然の大声にも動かない海月の表情。
●高速道路・夜
ベンツを護るようにして走る隊列。
雨のベールを通して前方に暗い山塊。
●廃遊園地・広場・深夜
雨に濡れるコースターの軌道。
まるで首長竜の化石のよう。
メリーゴーランドの屋根の下。
雨宿りしながら何かを待つレミ。
ジャケット姿で一見手ぶら。
突然、ハイビームが闇を貫く。
手をかざして光をさえぎるレミ。
手首で煌めく蛍石。
敷地内に走り込んでくる車群。
メリーゴーランドを包囲して停車。
たちまち海月の部下たちが取り囲む。
悠然とベンツから降り立つ海月。
部下に傘を差しかけられて。
海月「雨の中お待たせてしまったようだね。
デートの出だしとしては大減点だ。心より
お詫びするよ」
レミ「金は?」
海月「おいおい、随分とせわしないな。少し
くらいは会話を楽しもうじゃないか。幸い
夜明けにはまだ間がある」
レミ「金が無いなら取引も無しだ」
海月「最近の娘さんはドライすぎて困る」
傍らの磯貝に手振りで指示。
ベンツのトランクを開ける磯貝。
中には二つのジュラルミンケース。
磯貝、重そうに海月の元へと運ぶ。
海月「お望み通り二億ある。全て使用済みの
新紙幣だ。数えるのに苦労したよ。部下が
総出で・・・」
磯貝「おい獅堂!」
前にしゃしゃり出る磯貝。
磯貝「あれだけド派手にやらかしといて結局
カネ目当てだったとはな。店の金庫にある
だけじゃ足りなかったのか。俺はてっきり
玉手箱を使って・・・」
尻を蹴る足、這いつくばる磯貝。
ゆっくりと足を下ろす海月。
海月「醜態をお見せしたね。お嬢さんにして
やられたのが余程屈辱だったらしい」
レミ「茶番は終わりだ。ケースをこっちへ」
海月「取引の前に」
煙草を取り出してくわえる海月。
掌でダンヒルを弄びながら。
海月「私も聞きたいんだがね。君が玉手箱を
狙ったそのわけを」
●同・園内各所・深夜
広場を見下ろす観覧車のゴンドラ。
身を潜めた狙撃手がライフルで狙う。
*****
ジェットコースターのレール上。
同じくレミに狙いをつける狙撃手。
*****
他のアトラクションにも人員配置。
海賊船、回転ブランコ、魔法の絨毯。
インカムで交わされる指示と確認。
暗視スコープに捉えられたレミの姿。
ジャケットの懐に手を入れて。
●同・広場・深夜
レミの手、ジャケットの懐に。
色めきたつ部下たちを制する海月。
レミ「これのこと?」
取り出したのは一冊の日記帳。
海月「ああ、それだそれだ。ちゃんと持って
いるじゃないか」
レミ「肌身離さず持ち歩いてるよ」
海月「素晴らしい。本当の価値を知っている
何よりの証拠だ」
レミ「価値?」
海月「今さらとぼけなくてもいい。何もかも
承知の上で手を出したんだろう。玉手箱と
呼ばれるようになった由来も・・・」
レミ「・・・・・・」
海月「中身は読んだはずだ」
崩れ始める海月のポーカーフェイス。
海月「書かれた内容が世に出ようものなら、
高貴な方々の髪を一夜にして白髪に変えて
しまう。それほどの衝撃と心痛をもたらす
ことになるんだ。そういう危険物なんだよ
それは」
レミ「・・・だからか」
海月「何?」
レミ「だから奪い取って・・・薄汚い利権の
道具なんかに・・・」
氷雨より冷たく響くレミの声。
レミの顔に面影を見る海月。
海月「まさかあの女の・・・」
日記帳を持つレミの手の中。
秘かに握り込まれたリモコン。
その青いスイッチが押される。
●同・全景・深夜
死んでいた遊園地が生き返る。
暗い空を照らし出す光の柱。
雨音をかき消す陽気な音楽。
●同・園内各所・深夜
動き出した遊具に狙撃手翻弄。
光で眩まされる暗視スコープ。
インカムは音楽に妨げられて。
●同・広場・深夜
光と音の洪水に戸惑う男たち。
レミの背後で回るメリーゴーランド。
不敵に微笑んでいるレミ。
一瞬の動揺から立ち直る海月。
海月「誰だろうと構わん、これで終わりだ」
海月、合図のダンヒルを灯す。
しかし狙撃は行われない。
レミ「そうだな、終わりだ」
リモコンの赤スイッチを押すレミ。
辺り一帯に爆発音が轟き渡る。
●同・全景・深夜
観覧車が、コースターが崩壊する。
あらゆる遊具が炎に包まれる。
甦ったばかりの遊園地の断末魔。
●同・広場・深夜
吹き寄せる爆風と破片。
思わず身を伏せる部下たち。
海月の全身がレミに晒される。
見開かれた海月のまなじり。
己に向けられた凶銃を認めて。
海月「お前の狙いは・・・」
レミのデザートイーグルが火を噴く。
マリオネットのように吹っ飛ぶ海月。
ベンツに激突して動かなくなる。
部下たちが遅かりし反撃。
メリーゴーランドを穿つ銃弾。
回転する台座の上に逃れるレミ。
木馬を盾にして交戦開始。
●同・園内各所・深夜
炎と雨を縫って走り抜けるレミ。
海月の残党との激しい銃撃戦。
まだ動き続ける一部の遊具。
音楽は狂ったマーチを奏で続けて。
*****
コーヒーカップの台座の上。
覚束ない足取りでレミの姿を探す男。
カップの一つを怖々覗き込む。
底に潜んでいたレミの銃口とご対面。
撃たれてよろめき下がる男。
別のカップに墓穴のように落ち込む。
*****
びっくりハウスの鏡の迷路。
凹面鏡と凸面鏡で歪んだ男の姿。
背後を横切るレミの歪像。
振り向いて銃を向ける男。
無限の合わせ鏡が男を迎える。
銃声、割れる鏡、その向こうにレミ。
*****
ジャングルクルーズのトンネル。
散弾銃の男を乗せて進むボート。
機械じかけの動物たちを左右に見て。
水面で口を開けるハリボテのワニ。
気を取られる男、首に巻きつく鋼線。
吊られた男を残してボートは進む。
●同・広場・深夜
再び開戦の場に戻るレミ。
死屍累々を尻目に回る木馬たち。
弾痕だらけのジュラルミンケース。
レミ、その一つを蹴り倒す。
ケースの口から溢れ出す煉瓦。
もはや乾いた笑いすら出ない。
その足でベンツに近づいていく。
車体に凭れかかった海月。
胸の中心を血に染めて息絶えて。
うなだれた頭部に違和感。
髪を掴んで顔を持ち上げるレミ。
髪ごと顔の皮がずり上がる。
下から現れたのは浜地の死相。
レミの手に残った精巧なマスク。
海月の抜け殻が見返してくる。
気配を悟って振り返るレミ。
本能的に銃を向けた先。
メリーゴーランドを背景に立つ二人。
穹を盾にしてグロックを構える磯貝。
穹、びしょ濡れの事務服姿。
レミ「ソラ・・・」
磯貝「銃を捨てろ。可愛い顔に穴が開くぞ」
グロックを穹の頬につきつけて。
デザートイーグルを下ろすレミ。
磯貝「こっち寄越せ」
レミ、足元に落として前に蹴る。
両者の中間で止まる拳銃。
レミ「どうして・・・」
磯貝「お前が死ぬところを見たいんだとさ。
わざわざ持参金まで背負って来やがった」
足元に置かれたダッフルバッグ。
レミ「ソラ」
穹、うつむいたまま応えない。
磯貝「残念ながらナントカ症候群にはかから
なかったみたいだな」
レミ「・・・残念なのはお前もだろ」
磯貝に海月マスクを投げつける。
レミ「捨て駒にされた気分は?」
浜地の死体を見やる磯貝。
磯貝「そこでくたばってる奴よりはマシさ。
まだ生きて楽しめるからな」
磯貝の左手が穹の腰を這う。
微かにこわばる穹のからだ。
レミ「触るな」
磯貝「旦那面するな。この女は店の備品だ。
俺が何しようと・・・」
飛びかかろうとするレミ。
爪先の地面を抉る銃弾。
磯貝「えらく情が湧いたもんだな。この女の
どこが気に入った? 顔か。体か。中身の
方じゃなさそうだな。カラッポなオツムの
取り柄はせいぜい従順なことくらいだ」
今度は拳銃で凌辱を始める。
穹の胸を弄ぶグロックの銃口。
磯貝「追ってくる相手に保護求めるか普通」
コースターの残骸が崩れ落ちる。
無感動に一瞥する磯貝。
磯貝「ノンビリしてたら巻き込まれそうだ。
ぼちぼちご期待に応えるとしようか」
穹の耳に口を寄せて。
磯貝「ショーを見ながらイくんじゃねえぞ」
磯貝の左手が穹の尻をまさぐる。
穹の肩口からレミを狙うグロック。
レミ、どうすることもできない。
密やかに動く穹の右手。
スカートの裾から忍び入る指。
太腿にテープ留めした鞘に触れる。
磯貝の指が引金にかかった瞬間。
突き上げた刃先が磯貝の手首へ。
尺骨と橈骨の間を貫くナイフ。
さらに突き上げる穹。
その右手首で光る蛍石。
暴発して宙に舞うグロック。
レミの動きを捉える磯貝の目。
拾い上げられたデザートイーグル。
レミ「離れろ!」
ナイフを離して身を沈める穹。
磯貝「アンボイナなめんじゃ・・・」
連続して放たれる銃弾。
柘榴と化す磯貝の顔面。
画面の外に倒れていく磯貝。
画面の中に起き上がる穹。
乱れた髪の間から覗く力強い瞳。
*****
雨が上がった。
レミと穹、無言で向かい合う。
一歩踏み出そうとするレミ。
間の抜けた銃声。
一瞬何が起きたか理解できない。
胸から血を流し膝をつくレミ。
その後方で銃を構えるミイラ男。
松葉杖をついた包帯まみれの平目。
包帯の隙間から覗く歓喜の表情。
グロックに飛びつく穹。
射的シーンがフラッシュバック。
銃声、倒れる人形。
平目の肩が裂ける。
銃声、落ちる人形。
平目の脚が砕ける。
銃声、割れる人形。
平目の腹が弾ける。
銃声、平目の眼窩が赤い虚となる。
硝煙漂うグロックを握り締めた穹。
●同・早朝
蒼い天空光が辺りを包み込む。
薄っすらと目を開けるレミ。
穹の膝枕の上。
見下ろしてくる穹の顔と胸。
レミ「・・・最高の眺め」
穹「・・・バカ」
レミ「どっちがバカだよ・・・バッグ持って
さっさと逃げればよかったのに・・・」
穹「慰謝料? それとも手切れ金?」
レミ「どっちでも好きな方で・・・額は十分
だったろ・・・」
穹「私、そんな安い女じゃないから」
レミ「そいつは失礼・・・」
咳き込むレミ。
穹、レミの口元を指で拭う。
そのまま近づく穹の顔。
レミの唇を穹の唇が塞ぐ。
気後れののち、受け入れるレミ。
少しして離れる穹の唇。
潤んだ瞳でレミを見下ろす穹。
穹「嘘だよ、死んでほしいなんて」
レミ「もう一回・・・」
再び重なり合う唇。
今度はやや情熱的に。
長い口づけの後、レミがタップ。
ハアハア言いながら離れる穹。
穹「息・・・するの忘れてた・・・」
ピンクに染まった穹の耳たぶ。
レミ「こっちは息が止まりそう・・・」
穹「もお、笑えないよ」
レミ「なあ・・・もう一ついいか」
穹「ワガママすぎ・・・いいけど」
レミ「胸でひと眠りさせて」
穹「それだけ?」
レミ「それだけ」
レミの頭を胸に抱きしめる穹。
幸せそうに緩むレミの頬。
穹「変なこと考えてるでしょ」
レミ「・・・考えてない」
穹「絶対うそだ」
レミ「・・・四分の一だけ」
穹「やっぱり。この性欲モンスター」
レミ「でも四分の三は違う」
穹「どう違うの」
レミ「こうしてると怖くなくなるんだ」
穹の表情、母のように。
愛おしげにレミの髪を撫でる手。
穹「・・・レミってほんとの名前?」
胸の中で首を横に振るレミ。
穹「じゃあ教えて」
レミのひび割れた唇が動く。
耳を寄せる穹。
雲を割って斜めに射し込む曙光。
廃墟のピエタを照らし出す。
●公会堂・舞台・午後
掲げられた舞台看板。
断片的に映し出される文字。
『講演会』『~党幹事長』『海月』。
舞台に向かって整然と続く行列。
ほとんど女性、それぞれ本を抱えて。
舞台上に設置されたテーブル。
胸にリボン徽章をつけた海月。
歩み出るファンと次々に握手。
持参の本にサインを書いていく。
一見平和な光景。
会場の端々には厳重な警備。
にこやかに会話を交わす海月。
海月「そう、お孫さんが来年保育園にねえ。
じゃあ待機児童問題がご心配でしょ」
誘導に従ってゆっくりと進む列。
海月「今日は本当にありがとう。あなた方の
応援が私にとって何よりの栄養です」
名残惜しそうにはけていく中年女性。
次の女性が目の前に。
女性「握手してもらってもいいですか」
海月「もちろん。どうぞどうぞ」
差し出された左手を両手で包む海月。
一瞬、眉をひそめる。
女性の左手薬指に蛍石の指輪。
女性「あと、サインもお願いします」
海月の前に置かれる冊子。
皆が持っている海月の著書ではない。
古びて黒い染みがついた日記帳だ。
海月の視線が日記帳から女性へ。
ライダースジャケットの豊かな胸元。
揺れる蛍石のネックレス。
視線はさらに上へ。
あどけなく微笑む穹の顔。
急激に霞み始める海月の視界。
穹「獅堂レミさんへ、って」
了
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