ワリカンくん



下野(しもの)・・・男性。二十代後半。

日向(ひなた)・・・女性。二十代前半。

遠江(とおえ)・・・男性。二十代後半。

タクシー運転手・・・男性。五十代後半。





●駅・タクシー乗り場・午前
   傘をさすか迷う程度の霧雨。
   駅の入口近くまで続く長蛇の列。
   誰もがスマホ片手にイライラ。
   先頭から五番目に下野と遠江。
   二人ともスーツにビジネスバッグ。
   下野、スポーツ刈り、眼鏡。
   片手にカステラの紙袋。
   遠江、ウェーブヘア、メイク眉。
   スマホで電車運行状況をチェック。
   下野と遠江、相合傘。
遠江「占い当たったわ。クソだるい」
下野「占い?」
遠江「朝の、ジャンケンの後の。射手座の人
 は交通トラブルにご用心やって」
下野「そんなん見てるんや。意外やな」
遠江「言うほどか」
下野「家にテレビない思てたから」
遠江「こう見えて昔からテレビっ子やぞ」
   列が前に進む。
下野「その割に傘持ってへんこと多いけど」
遠江「天気予報に興味ないねん」
下野「興味の問題か。お蔭で濡れてるやん」
遠江「いちいちそんなこと気にしてたらモテ
 へんし」
下野「また始まった」
遠江「言うやろ、水も滴るナントカって」
下野「全然うまくないからな」
   列が前に進む。
下野「ここに並んでるの、全員射手座か」
遠江「女の子が一番引くんは細かい男やで。
 お前みたいな」
下野「は?」
遠江「こないだの飲み、お前計算始めた瞬間
 座敷にブリザード吹き荒れとったぞ」
下野「合コンで変な貸し借り作りたないし」
遠江「アカンアカン、貸しとか借りとか言う
 てる時点でモテませんわ」
   列が前に進む。
   屋根の下に入って傘を畳む。
下野「男同士のときはええんか」
遠江「そりゃまあ」
下野「じゃあ、これワリカンな」
   下野、紙袋を遠江に押しつける。
遠江「いやいや、経費」
下野「落ちひんねん」
遠江「は? 接待交際費やろ」
下野「相手が取引先ちゃうからアカンって」
遠江「マジか・・・」
下野「立て替えてんねんから半分出してや」
遠江「なんか恩着せがましいな」
下野「そもそも得するんお前やぞ」
遠江「どういう理屈や」
下野「ぶつけたん誰や」
遠江「俺や」
下野「やろ?」
遠江「俺やけども」
下野「今日、社用車NGやったんは?」
遠江「・・・運転でけへんお前も悪いやろ」
下野「今それ言う?」
   列が前に進んで先頭に。
遠江「自分が先頭なった瞬間、流れ悪なるん
 何なんやろな」
下野「世界の摂理やな」
遠江「走ってたら今頃着いてたんちゃうか」
下野「元町まで何キロある思てんねん」
   言ったそばから来るタクシー。
遠江「やっとツキが回ってきたわ」
   リアシートに乗り込もうとする遠江。
   続く下野の腕を後ろから掴む手。
   振り返る下野、掴んでいるのは日向。
   フレッシャーズスーツ、半泣き。
   しっとりと雨に濡れて。
日向「元町の方に行かれるんですか」

●タイトル『ワリカンくん』

●タクシー車内・午前
   リアシートに下野と日向。
   日向、遠慮で縮こまって。
   助手席の遠江、あからさまに不満顔。
遠江「(小声)なんで俺が前やねん」
下野「俺よりちっちゃいからや」
遠江「ちっちゃない、平均的日本男児や!
 てか聞こえとんのかい!」
下野「遠江くん、うるさい」
日向「あの・・・すみません、私のせいで」
遠江「ええよええよ。俺、助手席大好きや。
 運転手さんとお話できるし、ねっ」
   運転手にスマイル。
   ベテラン運転手、仏頂面。
   遠江、気まずくなってミラーに視線。
   ちょこんと座る日向の姿。
   スーツに着られてる感。
   むしろワンサイズ小さい感。
   童顔に不釣り合いなボディライン。
   思わず鼻の下をのばす遠江。
   ミラーの中で日向と目が合う。
   濡れ髪、艶ぼくろ、潤んだ瞳。
   遠江、慌ててすまし顔。
遠江「・・・どう? 間に合いそう?」
日向「あ、はい。おかげさまで・・・」
遠江「新人の時は気ぃ使うもんね」
日向「はい」
遠江「しょーもないミスでいちいち人生終了
 みたいな気分なってさ」
日向「ふふっ」(愛想笑い)
遠江「次の日布団出られへんかったもん俺」
下野「お前いつもヘラヘラしてたやん」
遠江「下野くん?」
下野「常務の電話、迷惑営業と勘違いした時
 かって」
遠江「下野くん・・・」
下野「アポの時間まちがえて、ホールでサボ
 ってたんバレたこともあったな」
遠江「シ・モ・ノ・くん!」
下野「こんな奴でもクビなってないねんから
 大抵のことは大丈夫」
遠江「俺を出汁に使うな。煮干しにしとけ」
   日向、思わず吹き出す。
日向「ごめんなさい、つい・・・」
   謝りながらもツボに入って。
   和らいだ表情を見て安心する男二人。
遠江「わろてわろて。ええお客さんや」
下野「しくじりの数々も報われたな」
   ようやく収まった日向。
   指の背で涙を拭って。
日向「お二人って、同期なんですか」
遠江「そうそう」
下野「遺憾ながら」
遠江「こいつな、俺が異動なって離れたら、
 速攻で追っかけて来よってん。いくら俺の
 こと好きでもさすがに引くって」
下野「お互い様や。行く先々にお前おるから
 だんだん怖なってきて、気づいたら拝み屋
 の連絡先調べとったわ」
遠江「貴重な同期を祓おうとすんな」
日向「仲良しさんなんですね」
遠江「まあね」
下野「どこが」
   日向ニコニコ。
   その笑顔に下野トクン。
下野「・・・もう仲良くなった子とかおる?
 同期で」
日向「一人もいません」
   清々しく言い切る日向。
   勢いに圧倒される男二人。
遠江「・・・意外。友達多そうやのに」
日向「私、いつも要領悪くて。同期の中でも
 ちょっと浮いてるんです」
下野「そうなんや」
日向「今日も、研修が現地集合に変わったの
 一人だけ知らなくて・・・」
遠江「何か水くさいな」
日向「いいんです。無理に友達ごっこしなく
 ても死ぬわけちゃうし」
下野「ハードボイルドや」
日向「そんなにカッコよくないですけどね。
 お昼食べるとこ探すん、毎日必死やし」
遠江「グルメなん?」
下野「そういう意味ちゃうやろ。落ち着ける
 場所ってことちゃうの」
日向「わかります?」(嬉しそうに)
下野「わかるわかる。大学時代思い出す」
遠江「初耳や」
下野「バ先の雰囲気が合わんくてな。休憩室
 使わんとロッカーで時間潰してた」
日向「先週、やっと穴場見つけたんですよ。
 ビルの裏にあるちっちゃい公園。ベンチは
 一つしかないけどいっつも無人で。車の音
 とかも何か遠くて」
下野「世界を独り占め、みたいな?」
日向「そうそう」
遠江「食べ終わったあと何してるん」
日向「音楽聴いたり本読んだり。寄ってきた
 猫に構ったりとか」
遠江「俺には理解できん世界や。周りでバカ
 笑いが聞こえんかったら寂しくて死ぬ」
下野「めんどくさい体質やな」
日向「私とは真逆・・・」
   日向、くちゅん。
   自分の体を抱いて腕をさする。
遠江「温度上げれます?」
運転手「・・・・・・」(パネルを操作)
   下野、バッグをガサゴソ。
   ハンドタオルを日向の膝の上へ。
日向「これって・・・」
下野「拭くだけ拭いとき。風邪ひく」
日向「びちゃびちゃになりますよ」
下野「それでこそのタオルやん」
日向「・・・お借りします」
下野「貼るカイロもあるけど、いる?」
遠江「こいつに言うたら何でも出てくるで。
 こないだはプラスプーンもらった」
下野「カレー手掴みせんで助かったやろ」
遠江「お前のカバンはコンビニか」
下野「それは言い過ぎ」
遠江「じゃあ四次元ポケットや」
下野「キャパ増えてるやん」
遠江「たすけてシモエモーン」
下野「不適切な渾名はやめろ」
   日向、また笑いのツボに入る。
日向「嫌やわ、お化粧落ちちゃう・・・」
   *****
   遠江、スマホでSNSチェック。
遠江「あと三十分くらいで動くって」
下野「思ったよりかかったな」
遠江「かかるよ、人身やったら」
日向「・・・多いですよね、この時期」
下野「連休明けはね」
遠江「朝起きて現実に直面するんやろな」
下野「夏休み明けの小学生と一緒か」
日向「休まず働いた方が幸せやったりして。
 疑問とか持つ暇もないくらい」
遠江「社畜に染まるん早すぎひん?」
日向「まだ染まってませんよ。もっとお休み
 欲しいもん」
   下野の膝の上の紙袋を見て。
日向「それ、美味しいですよね」
下野「そうなん?」
日向「はい。うちのおばあちゃんが好きで。
 ていうか、食べたことないんですか」
下野「無い無い。甘いの苦手」
日向「もったいない。ペロッて剥がした紙に
 ついてるのまで美味しいのに」
下野「先方に言うとくわ」
日向「お礼の品?」
下野「やったら良かってんけど」
遠江「あーあーあー、皆まで言うな」
   耳を塞ぐ遠江。
遠江「私が悪うございました。甘党でもない
 奴に品物選びまでさせて」
日向「?」
下野「聞き流してええよ」
遠江「あかん、だんだんブルーなってきた。
 マスター、とびきり陽気な音楽頼むわ」
運転手「・・・・・・」(ガン無視)
   変な空気になる車内。
   サイネージを見てお茶を濁す日向。
   意気揚々と語るベンチャー社長。
日向「・・・お仕事って楽しいですか」
下野「内容にもよる。マイナスをゼロに戻す
 のはあんまり」
遠江「今日みたいになー」
下野「(スルー)成果が見えると楽しいかな」
日向「なるほど」
下野「そっちは? まだ楽しさとか分からん
 のとちゃう」
日向「(頷いて)ついて行くのに必死で」
下野「やりたかった分野?」
日向「うーん・・・三番目くらい?」
下野「絶妙に微妙やな」
日向「のちのち後悔する余地ありありです」
   タッチして広告を消す。
日向「・・・もうしてるのかも」
下野「・・・・・・」
日向「時々、やたら怖くなることあるし」
下野「・・・・・・」
日向「学生時代の夢とか見た朝は特に」
下野「・・・・・・」
日向「やたら叫び出したくなる感じ。あれ、
 何なんですかね」
下野「誰にでもあるよ」
日向「え」
下野「俺かってセルフレジ売るんが夢やった
 わけちゃうし」
日向「・・・・・・」
下野「別に、仕事に一番を求めんでもええん
 ちゃう」
日向「・・・・・・」
下野「お金のため、って割り切っても」
日向「お金?」
下野「稼いだお金で夢かなえることもできる
 やん。世界一周旅行とか、ホール貸切りで
 ライブとか、隠れ家カフェ開くとか」
   考え込む日向。
下野「まあ、時間はまだまだあるよ」
日向「下野さんはあるんですか」
下野「?」
日向「かなえたい夢」
   リアシートで見つめ合う二人。
遠江「運転手さん、俺ずっと蚊帳の外」
運転手「・・・・・・」
   *****
   窓の外は粘りつくような雨。
   じとじと停滞する車列。
下野「混んでるな」
遠江「ゴト日の上に天気もこれやからな」
   下野、腕時計を見て。
下野「ここまできたら降りて歩いた方が早い
 かも」
   遠江、フロントガラスを透かし見る。
遠江「次の信号の手前とか」
日向「そうですね」
   財布を取り出す日向。
   メーターを確認して紙幣を三枚。
日向「ここまでの分、お支払いします」
下野「待って」
日向「?」
下野「それやと俺らが得してまう」
日向「けど・・・」
下野「きっちり計算せな」
   下野、暗算の指。
下野「半分、いや三分の一か・・・」
   日向もつられて計算。
   運転手、咳払い。
   隣で宥める遠江。
遠江「分かってますって。こういうのホンマ
 はダメなんでしょ。まあ今日は電車がアレ
 な日なんでひとつ大目に・・・」
下野「降りる時に一括で払うんで」
運転手「・・・・・・」
日向「あっ」
   財布の中を探っていた日向。
   小銭を豪快にぶちまける。
遠江「大丈夫?」
日向「ごめんなさい、私ほんと・・・」
   必死に拾い集める日向。
   下野も一緒にお手伝い。
下野「ここにも、はい」
   日向の掌に五円玉を載せる。
日向「ありがとうございます」
   大事そうに五円玉を戻す日向。
   小銭で膨らんだ地味な財布。
下野「やっぱり財布しまっとき」
日向「え」
下野「これもご縁や。俺らは経費で落とせる
 から」
遠江「せやな。気持ちよくいっとこ」
日向「あの、電話番号を・・・」
   スマホを取り出す日向。
下野「俺の?」
日向「後で連絡します。金額はその時に」
下野「・・・これ」
   自分のスマホ画面にQRコード表示。
   日向、かざして読み取り。
日向「これでよし。ちゃんと最終の額で計算
 しといてくださいね」
下野「ええのに」
日向「ぜったい電話しますから」
   タクシー停車。
   無造作にドアを開ける運転手。
日向「お二人のお蔭で何か楽になりました。
 本当にありがとうございました」
   下げた頭に雨が降りしきる。
   下野、バッグから折り畳み傘。
下野「使い」
日向「そこまでしてもらったら・・・」
   二人の間で行き来する傘。
下野「言うてるうちに濡れる」
遠江「こいつ、長いのと両方持ってんねん」
日向「・・・じゃあ」
   傘を受け取って開く日向。
   もう一度深くお辞儀。
運転手「・・・・・・」
   乱暴に閉まるドア。
   タクシー急発進。
   たちまち遠くなる傘をさした姿。
遠江「ちょ、運転手さん後ろ」
   強引な合流にクラクション。
運転手「・・・・・・」
   一心にハンドルを握って。
   *****
   にやける遠江。
遠江「可愛い子やったな。なんか潤ったわ」
下野「しまった!」
遠江「何や急に」
下野「こっちが番号聞くべきやった」
遠江「は?」
下野「かかってきても見分けつかん」
遠江「とりあえず出たらええやんけ」
下野「知らん番号は出ん主義や」
遠江「営業が何抜かしとんねん」
下野「やってもた・・・」
   まだ後悔を呟いている下野。
遠江「てかお前、ホンマにかけてくるとでも
 思てんのか」
下野「?」
遠江「ポーズに決まってますやん」
下野「けどあんな必死に・・・」
遠江「安全対策やろ。聞かれる前に聞いとこ
 みたいな。俺が女でもそうする」
下野「・・・・・・」
遠江「電話はない。待つだけムダ」
運転手「正解や」(ポツリ)
下野&遠江「え」(一斉に注目)
運転手「かかってきたらやばい」
   *****
   信号でブレーキを踏む運転手。
   コーヒーを一口飲んで嘆息。
運転手「とうとう出くわしてもた・・・」
遠江「いや、そんな妖怪みたいに」
   運転手、無言で遠江を見る。
遠江「は?」
運転手「『相乗りちゃん』いうてな、ここらの
 ドライバーの間では有名なんや」
下野&遠江「・・・・・・」
運転手「今日みたいな日によう出よる。一見
 遅刻しそうで慌ててる就活生か新社会人に
 しか見えん」
下野&遠江「・・・・・・」
運転手「生前、タク絡みの因縁でもあったん
 やろな。同情してうっかり乗せてしもたが
 最後・・・」
遠江「・・・どうなるんすか」
運転手「永遠に相乗りされる」
   車内、重苦しい沈黙。
   窓を叩く雨音、ひときわ激しく。
運転手「新築ホヤホヤのマイホームに居座ら
 れて結局一年で手放した人もおる。別の人
 は四六時中アレの姿が見えるようになって
 入院、いまだに復職もできんらしい」
下野&遠江「・・・・・・」
運転手「お客さんらも運が悪かったな。ま、
 しゃあない。あとでお祓いでも行っとき」
   下野、無理に笑顔に。
下野「女の子をオバケ呼ばわりとか、冗談に
 しても行き過ぎちゃいます? なあ」
   遠江に同意を求める。
遠江「・・・どうやろな」(神妙)
下野「何影響されとんねん。お前さっきまで
 普通に接してたやん」
遠江「せやから今頃なってサブイボが・・・
 ほら見て」
   袖を捲って席の間から突き出す。
下野「キモイもん見せんな。そもそもや」
   遠江の腕を押し返しながら。
下野「あんな生々しい霊おるか。まつ毛の先
 まではっきり見えたぞ」
遠江「ミラー越しでしか見てへんねん、俺」
下野「いっぺんくらい振り向いたやろ」
遠江「シートベルトしてるやん」
下野「席替わる時は?」
遠江「お前に引きずり出されてよう分からん
 うちにこっち追いやられたからな」
下野「スマホ使ってた」
遠江「霊かって時代に合わせてアップデート
 するんちゃう。知らんけど」
下野「何かええ匂いもしてたし。シャンプー
 みたいな」
遠江「お前ちょっと変態っぽいぞ」
下野「・・・・・・」
遠江「そうや、濡れてへんか」
下野「は?」
遠江「よう聞くやろ。霊が降りた後にシート
 がじっとり濡れてた的な」
   隣のシートを恐る恐る触る下野。
遠江「どうや」
下野「確かに湿ってるけど・・・当たり前と
 ちゃう、雨やし。それより・・・」
   何とも言えない表情で。
下野「ほんのりぬくい・・・」

●街/タクシー車内・午前
   歩道際にタクシー停車。
運転手「4500円ね」
   下野、トレイに五千円札。
遠江「領収書ください」
運転手「まいど。お釣りと領収書」
   遠江が受け取る。
運転手「しつこいようやけどお祓い行きや。
 神社でもお寺さんでもええからな」
   運転手の声を背に。
   そそくさと路上に降り立つ二人。
   傘をさす下野。
   パラパラと背後から傘に当たる音。
下野「何やこれ」
   振り返る遠江。
遠江「オッサン塩かけとるぞ」
   振り返る下野。
   逃げるように走り去るタクシー。
遠江「何で塩なんか持っとんねん」
下野「嫁の弁当が薄味なんちゃう」
   下野、手を差し出す。
   遠江、緑の羽根を載せる。
下野「ボケんでええから」
遠江「朝、駅でちょっとな」
   あらためて、領収書と五百円玉。
下野「あと2250円」
遠江「どうせ落とすやん・・・」
下野「一旦ワリカンで」

●再びタイトル
   『ワリカンくん』
   『と』
   『アイノリちゃん』

●エレベーター・午前
   下野と遠江。
   大型エレベーターに二人きり。
   じっと階数表示を見つめて。
遠江「・・・シモ」
下野「ん」
遠江「俺にも紹介してくれ」
下野「?」
遠江「拝み屋の連絡先。知ってるんやろ」
下野「いや、知らん」
遠江「調べたって」
下野「冗談に決まってるやん。そんな知りた
 かったら自分で・・・」
   下野の手の中でスマホが振動。
   思わず落としそうになる下野。
   二人、青い顔を見合わせて。

●駅・改札口・夕
   帰宅ラッシュのコンコース。
   片隅の空隙に佇む下野。
   誰かと向かい合っている。
   下野、しきりに恐縮。
   回り込むカメラ、相手は日向。
   日向も同じように恐縮。
   二人の間を行き来する封筒。
   最終的に日向へと戻る。
   二人の会話が聞こえてくる。
下野「日向・・・さん」
日向「はいっ」
下野「このあと予定ある?」
日向「(ブンブン)もう帰るだけなので」
下野「ちょっとだけ話せへん?」
日向「え」
下野「タリーズかどっかで。その・・・夢の
 話とかもうちょっとしたいかなって」
   日向の顔、ぱあっと明るく。
日向「じゃあ私におごらせてください!」
下野「いやいや、そこはワリカンで」
日向「いやいやいや」
下野「お給料は大事にせな」
日向「お母さんですか」
下野「おごられる理由もないやん」
日向「ありますよ! 傘とかタオルとか!」
   *****
   柱の陰から覗き見ている遠江。
   初々しい光景に歯嚙みして。
遠江「あれやったら俺も憑かれたいわ」
   BOSS無糖ブラックをグビリ。
遠江「幸せもワリカンにせえよ」
   遠江にアイリスアウト。





                   了

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