MaMeMo



ぼく(二一)男性。語り手。

きみ(二〇)女性。ぼくの彼女。

あね(二五)女性。きみの姉さん。





●きみとの日常
   ぼくの主観。
   ランダムに流れゆく情景。
   モノローグとダイアローグの混交。
   *****
   カフェで向かい合うきみとぼく。
   きみ、長袖ニット姿。
ぼく「きみの腕には線がある」
ぼく「長袖の時は見えない。外じゃ大抵長袖
 だから知ってる人は少ないはずだ」
   ストローから唇を離すきみ。
きみ「なに?」
ぼく「えっ」
きみ「見すぎ。キモイ」
ぼく「いいだろ別に。カレシだぞ」
きみ「はい職権乱用」
ぼく「いや仕事じゃねーし」
きみ「じゃあボランティア?」
ぼく「それだ」
きみ「そんなに手かかるかな、私」
   *****
   ぼくの部屋のソファ。
   タンクトップ姿で寝転ぶきみ。
   マンガを途中の巻から読んでいる。
ぼく「うちにいる時は隠そうともしない」
   姿勢を変えるたびに見える『線』。
ぼく「肘の三センチ下から平行に、白い肌に
 一際白く、微かに盛り上がる線が三本」
ぼく「まるで背比べの傷だな」
ぼく「それか、無人島に流れ着いた時に刻む
 カレンダー。誰だっけ・・・ロビンソン・
 クルーソー?」
ぼく「そんな冗談言うわけないだろ」
   ぼくの方を見て悪党っぽく笑うきみ。
きみ「知りたい?」
ぼく「ぼくの目は自分で思うよりおしゃべり
 なのか」
きみ「これはシュン。短いのはユーサクでー
 一番新しいのはコーイチロー」
   線を一本ずつ愛しげになぞりながら。
きみ「写真とかぜんぶ消したしプレゼントも
 売った。残ってるのはこれだけ」
ぼく「残した、でしょ」
きみ「あ、男の人ってこういう話、好きじゃ
 ないんだよね。ゴメンゴメン」
ぼく「いやそういうことじゃなくて」
ぼく「幸い、今のところ線は増えてない」
   *****
   ぼくの部屋。
   そこら中の家具に色とりどりの付箋。
   『歯医者さん PM6じ』。
   『←元栓カクニン!』。
   『夏物(エアリズム)』。
ぼく「きみの浪費が目に余るからまとめ買い
 してきてやったぞ」
   テーブルにぶちまけた付箋の束。
きみ「どこで?」
ぼく「百均」
きみ「ダメダメ、スリーエムのじゃないと。
 粘着力レベチ」
   *****
   スーパーでカートを押すぼくら。
ぼく「掌にメモを書くのもきみの癖の一つ。
 手汗っかきのきみには向いてないと思う。
 せめて油性なら・・・」
   きみ、しかめっ面で解読中。
きみ「あー納豆の下何だっけ。練乳?」
ぼく「『練』じゃない。画数もっと少ない」
   きみの掌に顔を目一杯近づける。
きみ「おい、鼻息」
ぼく「牛乳じゃね?」
きみ「どっちも飲まないじゃん」
ぼく「バースデーケーキに要るって」
きみ「・・・そうだっけ」
   *****
   ぼくの部屋。
   キャリーバッグに体重をかけるぼく。
   きみ、マッキーを手に真剣な顔。
ぼく「バス大丈夫?」
きみ「時間調べた。一時間寝れる」
   掌に黒々と書かれた文字列。
   バスの時間ではなく謎のフレーズ。
   『わたしは・ここに・いますか』。
   *****
   ソファで猫のように眠るきみ。
   握りしめた左手をそっと開かせる。
   『わたしは・ここに・います』。
   滲んで消えた、『か』。

●きみがいない部屋
   ぼくの部屋。
   きれいさっぱり片づいた室内。
   あれほどあった付箋は影も形もない。
   ふと足を上げるぼく。
   靴下の裏に貼りついた付箋。
ぼく「付箋が虚空に叫んでる」
きみ「小さじ一杯は5cc!」
ぼく「・・・百均のだ」
   思わず笑っちゃうぼく。

●あねとの密会
   スイーツバイキングの店。
   奥の席で向かい合うぼくとあね。
   あね、会社帰りの恰好。
ぼく「何でスイパラなんですか」
あね「一回来てみたかったの。あの子と約束
 してたけど結局、ね」
   ケーキの皿の隣にちっちゃな瓶。
ぼく「それは?」
あね「お骨」
ぼく「ちょ、場所考えて・・・」
あね「外に出さなきゃ大丈夫」
   目の前に突きつけられる瓶。
   中には白い陶器のような一欠け。
あね「壺の上の方だったからたぶんコレ」
   自分の脳天を拳固でコツン。
あね「ほら見て、ここ」
ぼく「・・・ヒビですか」
あね「あなたの名前に見えない?」
ぼく「・・・・・・」
あね「『ケ』でしょ、『ン』でしょ・・・」
ぼく「焼いたら出てくるって何かあぶり出し
 みたいですね」
あね「それ言うなら甲骨占いじゃない?」
ぼく「そんな会話あるわけないだろ」
   ぼく、瓶の中の骨を見つめ続ける。
   あね、ケーキにフォークを入れる。

●二人の帰り道
   土手を一人で歩くぼく。
ぼく「もうちょっといい覚え方なかった?」
   ポケットの中でカラカラ骨が鳴る。
ぼく「それ返事のつもり?」





                   了

© Rakuten Group, Inc.
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: