黒女神『来訪者』
ルーアは相変わらず窓の外を眺め、ロスは自分の爪と格闘し、
ラズは読書に耽り、エルは機械と仲良くしていた。珍しく全員が
揃って、まどろむ穏やかな午後を過ごしていた。その沈黙を破っ
たのは、来客を告げるベルだった。
「お客さんかな？今度は誰だと思う？」
無邪気にその状況を自分の楽しい方向へと考えるロスが最初の
反応を示した。
「さぁ？とりあえず、新聞の勧誘なら間に合ってるわ。」
現状で考えられる答えを出しながら、誰も出ないと判断した
ラズがドアの方へと姿を消した。
「依頼だとしたら、誰の出番かな？
最近、ルーアが暇にしてるよね。」
そんな姉の存在を気にも留めずに、無邪気に続ける。
「おいおい、ルーアばっか忙しかったら大変だろって！この世の
人口が激減だな。」
半分呆れたようエルは答えた。
しかし、確実にそうなると思っていた。
彼らは、『依頼』という形で仕事を請け負う。
ルーアは暗殺を、エルは窃盗を、双子は守護を、それぞれで
行い報酬を得る。
特にルーアは自分以外のものには大した感情を抱くこともない
ので、その成功率は確実に高い形で世間に知られていた。
「ほら！変な話をしてないで、どけて。お客様なんだから。」
どうやら、ロスの予想通り『依頼主』だったようだ。それを迎
えたラズは、戻って来たのに未だに続いていた会話に嫌気が差し
たようだった。
「すみません。どうぞ、こちらにお掛け下さい。」
余所行きの笑顔で対応し、それとなくエルにお茶を出すように催
促の視線を送った。それを無言で受けた彼は、そそくさと給湯室
へ向かった。もともとがフェミニスト、例え気心知った人であっ
ても女性の願いを無下には出来ない性質なのだ。
「まずは、ようこそ。とでも言うべきかしら？」
少し考えて口にしたが、どうもしっくり来ないらしいが。
とりあえずは、それしか浮かばなかったので、そのまま言葉にし
た感じの口調だった。
「さっそくですが、『黒女神』を知っているのでしょうから説明
は省きます。いきなり本題になるのですが、依頼を聞かせて下さ
い。それと、その期限も。」
余計な時間は取りたくない、それがラズの意見だった。そし
て、依頼自体には興味があるのかその隣でロスが聞き耳を立てて
いた。
そこへ、エルがお茶を入れて戻って来た。
この状況になっても、ルーアは相変わらず窓の外を眺めていた。
この依頼が、彼らのこれからに大きく左右させるなんて。
この時に予測できた者は、きっといないだろう。
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