最果ての世界

最果ての世界

人間天使の小話/四


数は、それとは逆に増えたように思う。僕はその笑顔を見るたびに、なんと
も言えない気持ちになった。なんでだろう、どうして笑顔を見るたびに複雑
な気持ちになるんだろう。誰もが見ているかも知れない、そんな表情を見て
いるのがイヤだと感じる僕は可笑しいんだろうか。

 そんな日が何日か過ぎて、その日は突然にやってきた。なんの前触れもな
く、まるで日常に組み込まれていたように。いや、これは予期した結果でし
かないんだけど。
 いつものように、天使が散歩から帰って来るのを待っていた。いつものよ
うに、窓から空を眺めて。その時、それはいきなり僕を襲って来た。くらり
と眩暈がしたか、そう感じるよりも早く僕は床に倒れていた。何が起きた
か、僕には一瞬だけ理解できなかった。そうして、倒れたんだと頭が理解し
て起き上がろうとした。けれど、どうやって力を入れるのか忘れてしまった
ように手足は思うように動いてはくれなかった。
 そこへ、散歩から帰った天使が驚くでもなく扉を開けたまま僕を見つめて
いた。いつもと違う、なんだか寂しそうな笑顔で…。

 その時になって、やっと僕の頭も今の状況を理解したみたいだった。僕は
唐突に、それを感じた。『あぁ、時間が来たんだな』、それだけを。


   それは、天使がやって来て10日目の出来事だった。
 長いようで短い、僕にとっての恐らく最後の思い出。
            それは、希望通り寂しくはなかった。

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