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2011年10月23日
KDB番外編 ~名もなき墓守の手記(後篇) その26~
カテゴリ:
些末な日常
「ゥウワォオオオオーン!!」
兵「くそっ!速さに追いつか……ギニャァアアアア!」
――歪んだ母の妄執に……少年がアイデンティティークラッシュを起こすのに、そう時間は掛からなかった。
「こっちはたったの4人なのに、どうしてそんなに及び腰なのかしらん?」
兵「F●ck up!チキンどもはすっこんでろ!」
――名前を捨て、家を捨て、故郷を捨て、そして過去を捨て、少年は逃げ出した。
「あら? 威勢が良いのね? その心意気に免じてご褒美あげちゃうわん♪」
ヒュッ
兵「うわ! なんだコレは! くそったれ! 何投げやがった!」
「お姉さんにはわからないにゃん♪」
――全てを捨て、少年が辿り着いた先には自身が自身である様に生きて行ける理想郷であった。
兵「Holy shit! ふざけやがって!」
「さっきからデュラス様の遠吠えでワンワンが集まってきたわねぇ……。
ねぇ、知ってるかしらん?よく計算する動物なんてのが持て囃されてたりするじゃない?
でもね、ギャラリーを騙すのはエンターテイメントの基礎の基礎。あれって答えの数字にバターが縫ってあるだけなのよぉ?
……さて、ここでクエスチョン。バター塗れの人間が、飢えた野生のワンワンの群れに囲まれたらどうなると思うかしらん?」
――彼が、その日暮らしの傭兵家業で曲りなりにも名を馳せる事が出来たのは、彼の才能に拠るところだろう。
グゥ……グルルルル……!
ガブッ
兵「イヒッ……ヒヒヒッ!ウヒヒヒ…………!」
「答えは”食害される”よん。極寒の大地で育ったワンワンは貪欲で凶暴だから気を付けてね♪
……って、もう聞こえてないか。」
――終ぞ、学問に対しては凡人であったが、彼はこと感性は天才と呼ぶに相応しいものであった。
「どうしたどうした! 正規軍の練度はこの程度か?! 農夫の一人も止められないなんて訓練が足らな過ぎるんじゃあないか?!」
「イシュトー、シャル! 油断するな! 武器に糞尿が塗ったくってある! 少しでも掠ったらアウトだぞ!」
(能力も、遺伝子に縛られている……か。とことん皮肉だね。どうも)
「……!それではデュラス様が一番危険よぉ!もう既に何箇所か刺され……」
「浅い怪我なら問題ありませんよ。ベースは狼ですが、デュラスさんは蝙蝠の肉も口にしていますから」
「そういうこった。蝙蝠っつー生きモンは小せぇナリにもあらゆる免疫を持ち、キャリアーになる事はあっても自身が病原体に発症する事は無い。
生半可な細菌兵器なぞ俺には効かねぇよ」
「流石ですわ! デュラス様!」
「おいおいおいおい! やっべぇぞ! 援軍で更に一個旅団が合流してきやがった!」
「……あの装備は。大丈夫あの隊なら何とかなるわ。
デュラス様、イシュトー君? あそこの旅団の指揮官までの道を拓いて貰えるぅ?」
「……何を企んでいやがる?」
「んふ♪ヤってのオ・タ・ノ・シ・ミ♪」
~~
~~~~
~援軍 本陣~
兵「少将閣下! 賊が単身乗り込んで参りました! 勢いが凄まじく止められません! 何でも閣下と話しがしたいと……」
ずいっ
「はい、どいたどいた。道案内ご苦労さまん。
……やっぱりアナタ見覚えがあるわぁ。確かウラジオストクの兵士だったわよね?随分、出世したのねぇ……そっちの副官殿はキエフ出身だったかしらん?」
指揮官(少将)「……こんな形で相見える事になるとは思っていませんでしたよ。元帥閣下」
「もうアンタらの上司でも何でも無いわよぉ?
そういえば、ベラルーシからウラジオストクまで東西にかけての南方地域の領主は代々リーガッセン家が務めていたわよねぇ……」
副官「……何が言いたい」
「だったら、あの領地にあるものはみ~んな私の所有物よ。どうしようとも自由って事よね?
少将閣下殿? 確か、子供が生まれたばかりなんでしょう? 奥さんも子供もと~っても大切よねぇ?」
副官「それでも元軍属か?! 見下げた下衆がぁ!」
「私は今、少将閣下殿と”お話”しているの。外野は引っ込んでなさい」
少将「……全隊に告ぐ! 我が隊は致命的な損傷を受け……これより撤退行動に移る!」
「んふ♪ 素直な子は大好きよ」
「人の弱味に付け込んで、脅しをかけるなんて最低ですね。……少しでもこいつを信用しかけた自分が情けないですよ。
こんな卑劣なやり方……俺は認めない!」
「あら? 今更気付いたのぉ? そうよぉ……お姉さんはとってもいんやらしいんだから♪」
「イシュトー、大局を見て良く考えてみろ。
絶対正義の名の下に……意見の違うものを切り捨てちまう自称”正義の味方”さんよっかはありゃあよっぽど人道的だぞ。
互いに譲れないこの状況じゃあ一番妥当な落しどころだ」
少将「あーあー……これは独り言だが……。
……かねてより進行していた”ナーサリーライムプロジェクト”がこのモスクワ地区郊外で行われているらしい。
私の様な武骨な軍属にはおよそ関わりのない計画だが……ここから北へ20kmほど行った所にそれらしき施設を発見した。きっと何か重要な秘密があるんだろうなぁ」
「……感謝するわ。サルノヴィア少将」
サルノヴァ少将「ゴホンゴホン……!独り言に返事をしないで頂きたいモノですな」
副官「団長殿! 今、貴方が何をしているか解っているのですか?!」
サルノヴァ「……解っているさ。最近、歳をとったのか独り言が多くてな。
名門中の名門である拝命貴族の当主でありながら武官のトップを務めていた人間が、我々の様な一度もお目遠し叶わない一介の兵士の顔、名前はおろか出身地、家族構成をも把握していた事に君なら何を感じる?」
副官「…………」
サルノヴァ「クーピーの白だって必要とされているからそこにあるのだ。
いずれ、君にも今日の邂逅に……交わした言葉にどんな意味があったか解る時がくる。それまでは私に従ってくれないか?」
「多少やりくちが汚れていても、無駄な折衝は避ける。
なるほど、な。……アンタの悪名が必要以上に轟く理由が良くわかったよ。
損な……性分だな。けど、最高に良い女だ」
「買い被り過ぎよぉ? 私は私であるがままに生きているだけ……そこにそれ以上の意図は無いわ」
続く!
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最終更新日 2011年10月23日 20時53分38秒
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