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”Mustache君”と"トラ君"の「日記」&”あごひげ君"の「登山とロードバイク」のブログ
■鏡の法則:その2■
=================================
A子にとって、そのことが、息子の問題の解決に役立つのかどうかは疑問だっ
た。しかし、それを疑って何もしないよりも、可能性があるならやってみよう
と思った。A子は、「今の悩みを解決できるなら、どんなことでもしよう」と
思っていた。それに、B氏の話には、根拠はわからないが、不思議な説得力を
感じた。A子は電話を切ると、レポート用紙を持ってきて、父に対する思いを、
思いつくままに書き始めた。
自分が子どものころは、なにかと口やかましい父だった。夕食が説教の時間に
なることも多かった。また、子ども達(A子と兄弟)が自分の思い通りになら
ないと、すぐに大声で怒鳴りつける、そんな父だった。
「お父さんは、私の気持ちなんか興味ないんだ!」と、そう思うことも多かっ
た。お酒を飲んだ時に、仕事のグチを言うところもイヤだった。また、建設会
社で現場監督をしていた父は、砂や土で汚れた仕事着で帰って来て、そのまま
食事をすることが多かったが、それもイヤだった。
A子は、父に対しての気持ちを文章にしていった。気がついたら、父に対して
「人でなし!」とか「あんたに親の資格なんかない!」とか、かなり過激な
言葉もたくさん書いていた。ある出来事も思い出した。自分が高校生のころ、
クラスメイトの男の子と日曜日にデートをしたことがあった。
その男の子と歩いているところを、たまたま父に目撃され、後で問いただされ
て説教されたことがあった。両親には、「女の子の友達と遊ぶ」と嘘をついて
いたのだが、父はその嘘を許せないようだった。その時の、父の言葉は今も
覚えている。「親に嘘をつくくらい後ろめたい付き合い方をしているのか!
お前は、ろくな女にはならん!」思い出しているうちに悔し涙が出てきた。
悔しさも文章にした。「お父さんがそんな性格だから、嘘もつきたくなるん
でしょ! 自分に原因があることも分からないの? それに『ろくな女になら
ない』って、なんてひどい言葉なの。私がどのくらい傷ついたか知らないんで
しょう!あんたこそ、ろくな親じゃない!
あれから私は、お父さんに心を開かなくなったのよ。自業自得よ!」書きなが
ら、涙が止まらなかった。気がついたら、正午を回っていた。書き始めて2 時
間近く経っていた。十数枚のレポート用紙に、怒りを込めた文章が書きなぐっ
てあった。容赦なく書いたせいか、それとも、思いっ切り泣いたせいか、気持
ちがずいぶん軽くなっていた。
A子は、午後1 時を回ったところで、B氏に電話をした。
B氏「お父様をゆるす覚悟はできましたか?」
A子「正直なところ、その覚悟まではできていないかもしれません。だけど、
できることは何でもやってみようと思います。ゆるせるものなら、ゆるして
楽になりたいとも思います。」
B氏「では、やってみましょう。お父様をゆるすのは、他でもない、あなた
自身の自由のためにゆるすんです。紙を用意してください。そして、上の方に
『父に感謝できること』というタイトルを書いてください。さて、お父様に
対して感謝できるとしたら、どんなことがありますか?」
A子「それは、まず、働いて養ってくれたことですね。父が働いて稼いでくれ
たおかげで、家族も食べていけたわけですし、私も育ててもらえたわけです。」
B氏「それを紙に書き留めて下さい。他にもありますか?」
A子「うーーーん。私が小学生のころ、よく公園に連れていって遊んでくれま
したね。」
B氏「それも書き留めておいて下さい。他には?」
A子「それくらいでしょうか。」
B氏「では、別の紙を用意して『父に謝りたいこと』ってタイトルを書いて
ください。さて、お父様に謝りたいことは、何かありますか?」
A子「特に浮かびませんが、あえて言えば、『心の中で反発し続けたこと』で
しょうか。ただ、心から謝りたいという気持ちにはなれませんが。」
B氏「実感がともなわなくてもOKです。形から入りますから。とりあえず、
今おっしゃったことを書き留めてください。」A子「書き留めました。で、形
から入るといいますと、何をやればいいのですか?」
B氏「いいですか、今から勇気の出しどころです。もしかしたら、あなたの
人生で、一番勇気を使う場面かもしれません。私が提案することは、あなたに
とって、最も抵抗したくなる行動かもしれない。実行するかどうかは自分で
判断して下さいね。
今から、お父様に電話をかけて、感謝の言葉とあやまる言葉を伝えるのです。
実感が湧いてこなかったら、用意した言葉を伝えるだけでもOKです。
『父に感謝できること』と『父にあやまりたいこと』の2 つの紙に書き留めた
ことを、読んで伝えるだけでOKです。伝えたら、すぐに電話を切ってもらっ
てかまいません。やってみますか?」
A子「・・・・・。たしかに、今までの人生で使ったことがないくらい、勇気
を使わないとできませんね。でも、これが私の悩みの解決に役立つなら、それ
だけの勇気を使う価値はあるんだと思います。だけど、難しいですねー。」
B氏「やるかやらないかは、ご自分で決めてくださいね。私も、一生に一度の
勇気を使う価値はあるとおもいますけど。それから私は、次の予定があります
ので、このあたりで失礼します。もし実行されたらご連絡下さい。次のステッ
プをお教えします。」
A子にとって救いなのは、「形だけでいい」ということだった。「謝る」とい
うことについては、気持ちがともなわない。「悪いのは父親の方だ」という
思いがあるから、自分が謝るのは筋違いだと思う。だけど、書き留めた文章を
棒読みするくらいならできそうだ。それならば、やってみた方がいいに決まっ
ている、と思えた。A子は「電話をかけよう」という気になってきた。そして、
電話をかけようとしている自分が、不思議だった。こんなきっかけでもなかっ
たら、A子が父親と電話で話すということは、一生なかったかもしれない。
結婚して間もないころは、実家に電話をして父が電話に出たときは、すぐさま
「私だけど、お母さんにかわって」と言っていた。しかし今は、「私だけど」
と言っただけで、父の「おーい、A子から電話だぞ」と母を呼ぶ声がする。
父も「A子から自分に用事があるはずない」ということわかっているのだ。
しかし、今日は電話で父と話すのだ。「躊躇していたら、ますます電話をかけ
にくくなる」と思ったA子は、意を決してすぐに電話をかけた。電話に出たの
は、母だった。
A子「私だけど」母「あら、A子じゃない。元気にしてる?」
A子「うん、まあね。・・・ねえお母さん、お父さんいる?」
母「えっ? お父さん? あなたお父さんに用なの?」
A子「う、うん。ちょっとね。」
母「まあ、それは珍しいことね。ねえ、お父さんに何の用なの?」
A子「えっ? えーと、ちょっと変な話なんだけど説明するとややこしいから、
お父さんにかわってくれる?」母「わかった、ちょっと待ってね。」
父が出てくるまでの数秒間、A子の緊張は極度に高まった。すっと父のことを
嫌ってきた。父に心を開くことを拒んできた。その父に、感謝の言葉を伝え、
あやまるのだ。ふつうに考えて、できっこない。しかし、息子のことで悩みぬ
いたA子にとって、その悩みが深刻であるがゆえに、ふつうだったらできそう
にない行動を取っているのだった。もしも、その悩みから解放される可能性が
あるなら、わらにもすがりたいし、どんなことでもする。その思いが、A子を
今回の行動に向かわせたのだ。
父「な、なんだ? わしに用事か?」A子は、自分では何を言っているかわか
らないくらいパニックしながら話し始めた。
A子「あっ、あのー、私、今まで言わなかったんだけど、言っといたほうが
いいかなーと思って電話したんだけど、・・・えーと、お父さん、現場の仕事
けっこう大変だったと思うのよ。
お父さんが頑張って働いてくれて、私も育ててもらったわけだし。あのー、
私が子どものころ、公園とかも連れて行ってくれたじゃない。なんていうか、
『ありがたい』っていうか、感謝みたいなこと言ったことないと思うのよ。
それで、一度ちゃんと言っておきたいなと思って、・・・。それから私、心の
中で、けっこうお父さんに反発してたし、それもあやまりたいなと思ったの。」
ちゃんと「ありがとう」とは言えなかったし、「ごめんなさい」とも言えなか
った。
だけど、言うべきことは一応伝えた。
父の言葉を聞いたら、早く電話を切ろう。そう思った。しかし、父から言葉が
返ってこない。『何か一言でも言ってくれないと、電話が切れないじゃない』
そう思った時に、受話器から聞こえてきたのは、母の声だった。
母「A子!あなた、お父さんに何を言ったの?」A子「えっ?」
母「お父さん、泣き崩れてるじゃないの!何かひどいこと言ったんでしょ!」
受話器から、父が嗚咽する声が聞こえてきた。A子はショックで呆然とした。
生まれて以来、父が泣く声を一度も聞いたことはなかった。父はそんな強い
存在だった。その父のむせび泣く声が聞こえてくる。自分が形ばかりの感謝を
伝えたことで、あの強かった父が嗚咽しているのだ。父が泣く声を聞いていて、
A子の目からも涙があふれてきた。父は私のことをもっともっと愛したかった
んだ。親子らしい会話もたくさんしたかったに違いない。だけど私はずっと、
父の愛を拒否してきた。父は寂しかったんだ。仕事でどんなに辛いことがあっ
ても耐えていた強い父が、今、泣き崩れている。娘に愛が伝わらなかったこと
が、そんなに辛いことだったんだ。A子の涙も嗚咽へと変わっていった。
しばらくして、また母の声。
母「A子!もう落ち着いた? 説明してくれる?」A子「お母さん、もう一度、
お父さんにかわってくれる?」父が電話に出る。父「(涙声で)A子、すまな
かった。わしは、いい父親じゃなかった。お前にはいっぱいイヤな思いをさせ
た。うっ、うっ、うっ、(ふたたび嗚咽)」
A子「お父さん。ごめんなさい。私こそ悪い娘でごめんなさい。そして、私を
育ててくれてありがとう。うっ、うっ、うっ(ふたたび嗚咽)」
少し間をおいて、再び母の声。母「何が起きたの? また、落ち着いたら説明
してね。一旦、電話切るよ。」A子は、電話を切ってからも、しばらく呆然と
していた。
20年以上もの間、父を嫌ってきた。ずっと父を許せなかった。自分だけが被害
者だと思っていた。自分は父の一面だけにとらわれて、別の面に目を向けよう
とはしなかった。父の愛、父の弱さ、父の不器用さ、・・・これらが見えて
いなかった。父はどれだけ辛い思いをしてきたんだろう。自分は父に、どれだ
け辛い思いをさせてきたんだろう。いろいろな思いが巡った。
「まずは、形から入ればOKです。気持ちは、ついてきますから。」と言った
B氏の言葉の意味が、ようやく分かりかけてきた。「あと1時間くらいで、
○○○(息子)が帰ってくるな」そう思った時に、電話が鳴った。
出てみるとB氏であった。B氏「どーも、Bです。今、40~50分くらい時間が
できたので電話しました。さっきは、次の予定が入ってたので、お話の途中で
電話を切ったような気がしまして。」
A子「実は私、父に電話したんです。電話して本当によかったです。ありがと
うございました。Bさんのおかげです。」A子は、父とどんな話をしたかを
簡単に説明した。B氏「そうでしたか。勇気を持って行動されて、よかったで
すね。」A子「私にとって、息子がいじめられてることが最大の問題だと思っ
ていましたが、長年父を許していなかったことの方が、よほど大きな問題だっ
たという気がします。息子の問題のおかげで父と和解できたんだと思うと、
息子の問題があってよかったのかな、という気すらします。」
B氏「息子さんについてのお悩みを、そこまで前向きに捉えることができる
ようになったんですね。潜在意識の法則というのがありましてね、それを学ぶ
と次のようなことがわかるんです。
実は、人生で起こるどんな問題も、何か大切なことを気づかせてくれるために
起こるんです。つまり偶然起こるのではなくて、起こるべくして必然的に起こ
るんです。ということは、自分に解決できない問題は決して起こらないのです。
起きる問題は、すべて自分が解決できるから起きるのであり、前向きで愛の
ある取り組みさえすれば、後で必ず『あの問題が起きてよかった。そのおかげ
で・・・』と言えるような恩恵をもたらすのです。」
A子「そうなんですね。ただ、息子の問題自体は何も解決していないので、
それを思うと不安になります。」B氏「息子さんのことは、まったく未解決な
ままだと思っておられるんですね。もしかしたら、解決に向けて大きく前進さ
れたのかもしれませんよ。心の世界はつながっていますからね。原因を解決す
れば、結果は変わるしかないのです。」
A子「本当に息子の問題は解決するんでしょうか?」B氏「それは、あなた
次第だと思いますよ。さて、ここで少し整理してみましょうか。
あなたにとって、息子さんのことで一番辛いのは、息子さんが心を開いてくれ
ないことでしたね。親として、何もしてやれないことが情けなくて辛いとおっ
しゃいましたね。その辛さをこれ以上味わいたくないと。」
A子「はい、そうです。いじめられてることを相談もしてくれない。私は力に
なりたいのに、『ほっといて!』って拒否されてしまう。無力感を感じます。
子どもの寂しさが分かるだけに、親として、何もしてやれないほど辛いことは
ありません。」B氏「本当に辛いことでしょうね。ところで、その辛さは、
誰が味わっていた辛さなのか、もうお解かりですよね。」
A子「えっ? 誰がって・・・(しばらく沈黙)」
その時、A子の脳裏に父の顔が浮かんだ。「そうか! この耐えがたい辛さは、
長年父が味わい続けたであろう辛さだ。娘が心を開いてくれない辛さ。娘から
拒否される辛さ。親として何もしてやれない辛さ。私の辛さといっしょだ。
この辛さを、父は20年以上も味わい続けたのか。A子のほほを涙が伝った。
A子「わかりました。私は、私の父と同じ辛さを味わっていたんですね。
こんなに辛かったんですね。父が嗚咽したのも分かります。」
つづく
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