ヤミ、闇、病み

ヤミ、闇、病み

1万アクセス記念 hopeless love


ここまで、か・・・。俺たちは警察に囲まれて逃げ場をなくしてしまった。
分かっていた。いつかは終わりが来てしまうことくらい。
辛い事が多かったけど、楽しかったような気がするな。
俺の頭の中には今までの事が巡っていた。



hopeless love



俺は何度もミラー越しに後ろを見る。どうやら追ってはいないらしい。一安心だ。
しかし気を抜いてもいられない。警察に話がいっていてもおかしくない。さて、どのくらい持つのだろうか・・・。
「はぁ・・・なんでこうなったのかなぁ・・・」
そう・・・俺は罪を犯した。世間一般で言う誘拐ってやつだ。
ただ普通と違うのは、誘拐された側の同意があるということだ。
綺麗な言葉でいえば駆け落ち・・・だがそんなの小説の中にだけあって現実には存在しない。
俺はちらっと助手席の方を見る。
どうやら麗華は眠ってしまったようだ。しっくりくる体勢を探しているのかもぞもぞと動いている。
麗華と初めて会ったのは5年前、高校入学の時だった。同じクラスで、席が隣だった。
社長令嬢で超美人、そんな麗華が噂にならない訳がなくたちまち学校中で噂されることになった。
比べて俺は平凡な家庭に生まれて何かがずば抜けている訳でもないどこにでもいるような人間。
たまたま同じクラスで、たまたま席が隣になった。ただそれだけで終わるはずだったのに、最初の席替えも、次の席替えも、その次の席替えも・・・ずっと麗華は隣だった。
くじ引きでの席替えだったからきっと物凄い確率だったのだろうけど本当に一年間隣のままだった。
席替えの度に「また隣だな」なんて言って、仲良くなって、好きになって・・・気がついたら告白してて、そしたら麗華は「はい」って言ってくれて。
俺らは付き合い始めた。
最初は嫉妬とか色々あったけどそんなのが気にならないくらい楽しかった。
そうするうちにどんどん時間が過ぎていって、高校卒業した。
二人とも学部は違えど同じ大学に入る事になって俺は麗華の親に挨拶しに行った。
それで二人の仲を認めてもらえればいいと思っていた。
だけど、これがすべての始まりだった。
麗華は社長令嬢、俺は平凡な人間。釣り合うわけがなかった。
麗華は「人並みの生活でいい」と言ってくれたけど、麗華の両親は猛反対して俺は追い返されてしまった。
俺と麗華は住む世界が違う・・・それを痛感した。でも諦めたくなくて俺は必至で勉強して、その合間に働いて、麗華に見合うだけの男になろうとした。
だけどそれを嘲笑うかのように麗華の両親はお見合いをさせようとしていた。
それを聞いた俺はもう我慢できなくて麗華を盗み出した。
「どうか、しましたか?」
いつの間にか麗華は起きていたらしく、目を擦りながら俺に聞いてきた。
「いや、何でこんなことになったのかなぁって思ってさ」
今まで普通な人生を送ってきてたし、これからもそうだと思っていたけど大分狂ってしまった気がする。
「後悔、してるのですか?」
「そんなわけないだろ?もうやっちまったんだから最後までやるさ」
後悔をしてないと言えば嘘になる。でも今更したって意味がない。
今考えることはどうやってほとぼりが冷めるまで隠れるかだ。
「大丈夫ですか?眠くはありませんか?」
時計を見ると午前2時、時間が時間なだけにあまり車は見かけない。朝になったら本格的に動きがあるかもしれない。今は少しでも早く離れたかった。
「まだ大丈夫だ。もう少ししたらどこかに車を止めて寝よう。麗華は寝てていいぞ?」
運転するのは俺だし、いつも麗華は寝るのが早いらしいから明日に響かないように寝るように勧める。
「私は大丈夫です。もう少しだけ、起きてます」
そう言う麗華は目を擦りながら眠気に耐えてるように見える。
俺の為・・・というのは傲慢だろうか?それでも俺は麗華の何げない優しさが嬉しかった。


それからしばらく俺らは無言だった。ラジオで何か情報が入らないかとずっと耳を傾けていたけど特に何もなかった。
宣言通り麗華はまだ起きている。何度も目を擦って必死に起きていようとしているみたいだ。
このまま一気に進んでしまいたい所だが、そろそろ俺も眠くなってきた。今事故を起こすのは得策じゃない。どっかに車を止めよう・・・。
そう思い俺はどこか車を止められる所を探した。すると、コインパーキングを見つけた。
深夜は料金が安いとはいえ、それなりの出費にはなる。いや、そんなこと言ってられないか・・・。
逃走資金として貯金全部引き出してきたが、そんなに額があるわけではない。大事に使わないとな。
俺はバックミラーで確認しながら駐車する。そしてちゃんと止められたことを確認して、キーを抜きとった。
「今日はここで眠る事になるけど、大丈夫か?」
ホントは宿をとってやりたいところだが、いつ捕まるか分からない今、そうするのは少し危険だろう。
麗華には悪いがこうするしかない。
「はい、私は大輝くんが一緒にいてくれるならそれでいいです」
顔がカーッと熱くなる。赤くなってないといいが・・・。麗華の方を見ると恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしていた。
「はい、毛布。こんなんで何とかなると思わないけど、無いよりかましだろ?」
そう言って俺は麗華に毛布を手渡す。
例年よりは暖かいらしいがもう11月だ。今までは車の暖房で気にならなかったが、きっと寒くなっていくだろう。
何もないよりはいいはずだ。
「ありがとうございます」
麗華が毛布を受け取って被ったのを確認してから俺は自分の分を被った。
「今麗華の家は、どうなってるんだろうな」
「誰にも言わずに来ましたから、きっと家出だと思ってると思います」
家出・・・か。間違いなく明日の朝には警察に捜索願を出して、自分たちでも探し始めるだろう。
家出じゃないとばれるのはいつ位だろうか?
「麗華は、後悔してるか?」
「え?」
驚いた顔をして麗華がこっちを向いた。
「いや、さっき俺に聞いたろ?だからさ、麗華は後悔してないのかなぁって思ってさ」
今ならまだ戻れる所にいるから、もし麗華が迷っていたり後悔していると言うならば、俺は引き返して麗華を家に帰そうと思った。
俺が麗華の事を諦めれば、それで済む話だ。
「後悔なんて、してません。私は大輝くんの彼女ですから。ずっと大輝くんといたいですから」
あまりの恥ずかしさに俺は顔をそむけて「そうか・・・」と言うしかなかった。
「そろそろ寝ようか。明日も早いだろうし・・・」
「はい、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
暖房が切れて、だんだん寒くなってきた。こんな寒さの中眠れるのかと心配していたが、気味が悪いほど俺はすぐに眠りについていた。



あまりの寒さに俺は目を覚ました。
「あ、おはようございます。大輝くん」
すでに麗華は起きていたらしく、こっちをじっと見ていた。
「ああ、おはよう・・・」
目を擦りながら腕時計を見る。7時半か・・・。
「麗華はいつから起きてたんだ?」
「7時くらい・・・だと思います」
30分も前からか・・・。
「そうなら起こしてくれればよかったのに。30分も何してたんだ?」
「大輝くんの寝顔を見てました」
え?
「それだけ?」
「はい。大輝くんの寝顔、凄く可愛かったです」
なんというか・・・そんな事を言われると思っていなかった。朝早くから顔が熱くなる。それに比べて麗華は何ともないようだ。麗華は天然なのだろうか?もし狙っているとしたら俺は完全に手の上で踊らされている。
まぁそんな事はないと思うが・・・。
「朝飯買いに行こっか。腹、減ったろ?」
と言うよりは俺が腹減った。何か胃にいれておきたい。
「はい、空きました」
俺は近くのコンビニに車を止め、二人で適当にとりあえず1日分の食事を買い込んだ。
もしものために数日分買っておこうかとも思ったが、まだ大丈夫だろうし腐ると困る。
俺たちはレジで支払いをして、車に戻った。
早速コンビニで買ったものを食べて俺は車を発進させた。



大した違いはないと思うが少しでも寒さが楽になるように南に行こうと決めていた。
山口あたりに行けば、まだ暖かいのだろうか?そう思いながら俺は車を走らせる。
何か状況は変わってないかと俺はラジオをつけた。
「東京都墨田区在住の一ノ瀬麗華さんが行方不明となりました。警察は家出、事件両面の方向から捜査しており、一ノ瀬さんの顔写真を公開して情報を呼び掛けています。
また、一ノ瀬さんの家族の方は見つけてくれた方には謝礼金1000万を用意しているそうです」
「くっそ・・・」
俺はハンドルを思いっきり拳で叩いた。警察に話が行くのは分かっていたがまさか謝礼金まで準備するとは・・・。確かに社長令嬢で一人娘だからここまでしてもおかしくはないのだが・・・。
少し認識が甘かった。これからは引き締めないと。
「大丈夫です。まだ行方不明として探しているのだから時間はあります。その内に東京から離れれば・・・」
「ああ、そうだな・・・」
確かにそうなのだが、そう上手くいくとは思えない。これからは麗華を外に出さないようにしなくてはいけない。
いや、こんなの麗華の両親と同じではないのか?麗華のために、俺たちの未来のためにとこんなことまでしたのに。いくら見つからないためとはいえ、閉じ込めてしまうのは違うのではないか・・・。
でもこれは麗華のためなんだ。麗華を自由にしてやるにはこうするしかなかった。
無理矢理自分に言い聞かせ、俺は忘れる事にした。
麗華のため、そう思えば苦しくない気がした。
その後も途中で昼食をとりつつ南へ、南へと進みつつニュースを気にしていたが特に進展はないようだった。
今日もまたコインパーキングに車を止め、毛布を被って眠る事になった。




麗華を連れて逃げだしてから1週間がたった。今の所警察に追われるようなことは無く、無事に進んでいる。
いつばれるか分からないから高速を使えず地道に下から行っていたから時間がかかったがようやく大阪まで着いた。
この調子で行けば来週あたりには山口についているかもしれない。
その前にタコ焼きを買わないとな。大阪と言ったらこれだろう。
そんな事を思いながらラジオをつけると衝撃的な事が流れていた。
「行方不明となっている一ノ瀬麗華さんですが、黒川大輝という男性に誘拐されたという話です。
目撃者の書いた似顔絵を一ノ瀬さんの家族が見た所「似ている」ということで発表されました。
目撃者の証言によりますと服装は・・・」
これはいよいよやばいかもしれない。
ついに俺が関わっている事がばれてしまった。これからは人目を気にしなくてはならない。
たこ焼きなんて言ってる場合じゃない。まだ世間のイメージが薄いうちに食料を買いだめしとかなくちゃならないな・・・。
「大輝くん・・・」
麗華が不安そうな声をあげる。
「大丈夫、大丈夫だから・・・」
正直大丈夫だなんて思えない。これからどんどん辛くなっていくのだろう。
でも弱音なんて言ってられない。とりあえず近くのコンビニに寄り、4,5日分の食糧と飲み物を買い込んだ。
最悪食べる量を減らせば10日くらいは持つだろう。店員に変な目で見られたが通報された感じはなかった。
まだニュースを見ていなかったのかもしれない。
とりあえず大きな街を離れようと車を走らせると100mほど先から渋滞になっていた。さらにその辺りに数人いるように見える。
まさか・・・
「検問か?」
今までそんなものはなかったが、誘拐で犯人が特定出来ているということで始めたのだろうか?
どうであれ、状況は悪くなっている。
俺はハンドルを切って検問が無い方へ、無い方へと走らせていきあまり人のいない、街と言うより村と言った方がいいような所を通って行った。




この数日間、何度も検問を見かけその度に道を変えていったため大分ぐねぐねと進んだ。
カーナビを見ながら何とか進んでいるが残念なことにカーナビでは検問がどこでやっているかなんてわからない。
まぁ分かってしまったら検問の意味がなくなるが・・・。
とにかく俺の車種までばれていないらしくパトカーに追われるなんてことはなかった。
とりあえず適当なとこに止めて麗華と二人で朝食をとる。
1食分もないが麗華は何も文句は言わない。少なくとも今までは食事で不自由したことなんてないだろう。それなのに何一つ言わない麗華に感謝しつつ、罪悪感が込み上げてきた。
あまり人前に出れないということで1日2食、さらに量も満足いくような量ではない。
食べられるだけましなのかもしれないが、こんな生活が何日も続いたら麗華は倒れてしまうかもしれない。それが俺はたまらなく不安だった。
何度も「止めようか」と言おうとしたがなんとなく言えないでいた。
もしかしたら麗華もそう思っているのかもしれないけど、けして口に出すことはしてない。
それは俺を信頼してのことのはず、なのに俺が裏切るわけにはいかなかった。
とりあえず俺は適当に車を走らせていると前からパトカーがやってきた。
まだ車種がばれてないとはいえ、かなりどきどきする。
このまま何もない事を祈りながら進めたが、そう上手くはいかなかった。
なぜかパトカーはすれ違った後Uターンしてこっちに向かって来た。
更にはサイレンを鳴らしている。
まさか、車種までばれたのか?
そんな事を考えているひまもなく俺は右へ、左へとハンドルを切りながら必死に振り切ろうとした。
しかし意味をなさず相変わらずパトカーはついてくる。
何も考えずハンドルを切っていたせいか気がつくと山道を走っていた。
山道は普通一本道でカーブが多い。スピードを出すわけにもいかないし、曲がる事が無いからずっとついてくる。
いよいよかと思ったが、少し先に舗装されていない道が見えた。もう道かさえ分からないが車が走った後はある。
やってみるしかない・・・。
「麗華、しっかりつかまってろよ」
「え?きゃっ」
俺は一か八かその道を通ってみる事にした。
舗装されてないだけあって道がガタガタだ。でもそんな事を気にしてる余裕はなかった。
舌をかまないように気をつけながら少しずつスピードを上げていく。
バックミラー越しに後ろを見るとパトカーが離れていくのが見えた。
今しかない。そう思い俺は一気にスピードを上げた。
見る見るうちにパトカーは離れていってついに見えなくなった。
俺はしばらく車を走らせ続けた。



「ここはどこなんでしょうね」
俺はあのまま車を走らせ続けて道なき道を進めていった結果。古ぼけた教会らしき所に行きついた。
何のためにこんな所につくられたかは分からないが助かった。
今日はここで休んで行こう。きっと車の中よりは暖かいはずだ。
そう思い俺たちは教会の扉をあけた。
中は外ほどひどくはなかった。誰かがたまに掃除とかしてるのかもしれない。
とりあえず、一晩過ごすのに苦はなさそうだ。
「今日はここで過ごそうか?」
「はい、そうですね・・・」
俺は明るさを装ってそう言ったが麗華の反応は少し暗かった。
無理もない。俺だってさっきは覚悟した。やばいかもしれないと・・・。
結果的にはなんとかなったが次もこんな事があるのならば精神的に持たない。
そろそろ限界なのだろうか・・・。
「あっ」
麗華の声が聞こえてそっちを向くと手に一輪の花を握っていた。
「何でこんな時期にさぎそうが?」
「そんなに珍しい事なのか?」
俺は花は詳しくないから良く分からないが、麗華がそう言うのならそうなのかもしれない。
むしろ俺にはなんで室内で咲いていたかが不思議だった。
「開花期は8月ですから普通はありえないはず・・・なんですが・・・」
ここにはなぜか咲いていた・・・というわけか。
これに何か意味があるのだろうか?それともたまたまか、俺には分からない。
「花言葉は・・」
麗華がそう言いかけた時、扉の開く音がした。
やばいと思いながらそっちを見るとそこには70代くらいの男性が立っていた。
警察ではない・・・がピンチなことには変わりはない。どうやったら助かるだろうか。
「君たちは・・・ああ、そうか。テレビに最近よく出てるね。ここに逃げ込んできたのかい?」
その男性は俺たちの事を知っていた。しかし警察に連絡を取るわけでもなく親しげに話しかけてきた。
「はい、そうです・・・」
まだ味方と決まったわけではないが俺はこの人にかけてみる事にした。
全部正直に話してみよう。そう思った。
「そうかい、なら自由に使っていくといいよ。ここはめったに人が来ないからしばらくは大丈夫なはずだ」
「警察に電話しないのか?」
「私はあまり興味が無くてね・・・。そうじゃな、なら何故こんな事をしたか話してくれるか?」
「話したら?」
「内容次第では警察に電話することになるかもしれんのう」
そういうお爺さんはどこか楽しげだった。
もうどうにでもなれといった気持ちで俺はお爺さんにすべてを話した。
何故こんな事をしたか、今まで何があったかを全て。
お爺さんは頷くだけで一回も口を挟む事はなかった。麗華もまた黙って聞くだけで何も話そうとはしなかった。
「そうか・・・そんなことがのう・・・」
全てを話し終えた後、お爺さんは一言だけそう言った。
「それなら、こんな事をするのは当然かもしれん。警察に電話するのは止めておこう。ここも好きに使うがよい」
「本当、ですか?」
「本当じゃ。お前さんたちの目を見れば分かる。ふたりとも頑張ったのう」
そう残してお爺さんはとぼとぼと出口へと向かっていった。
「「ありがとう、ございます」」
俺たちは立ち上がってお爺さんに頭を下げた。お爺さんはこちらを向かず「ほっほっほっ」と笑うだけで出て行ってしまった。
「いい人、みたいですね」
「ああ、そうだな」
信じていいのか分からないけど、今は信じるしかない。俺たちはそう思って少し早いが夕食をとる事にした。



いつもよりゆっくり食事をして、二人ともごろんと横になった。いつも車の中だったから久々に体を伸ばせた気がする。
「そういえばここ、教会なんだよな」
「そうですね・・・」
教会で浮かぶことなんて一つしかない。麗華もきっと同じことを考えているはず・・・。
「いつか、こういう所で結婚式しような」
「はい、必ず・・・」
しばらくお互いに無口になる。もう言葉をかわす必要なんてなかった。俺も麗華も同じことを考えているに違いない。そう信じた。
「練習、しませんか?」
急に、麗華がそう言った。
「練習って、なんの?」
あまりに急で俺は何の事か分からなかった。しかしさっきまで話してた事を思い出して
「もしかして、結婚式の事?」
と聞いてみた。
麗華は自分で言ったのにも拘らず恥ずかしいのか、小さくうなずいただけだった。
「そっか・・・やってみるか」
そうすれば、少しは今を忘れられるかもしれない。そう思い俺は立ち上がって麗華に近づいた。
そうすると麗華も立ち上がり、俺たちは向きあった。
「貴方は一ノ瀬麗華を妻とし、健やかなる時も病める時も愛し続けることを誓いますか?」
良く覚えているなと感心しながら俺は「誓います」と言った。
次は俺の番か・・・。
「貴女は黒川大輝を夫とし、これからも一緒に、ずっと俺から離れない事を誓いますか?」
何にも思いつかなかったから、俺はただ自分の願いを言葉にした。
麗華はクスクスと笑いながら「誓います」と言ってくれた。
「人がいないとはいえ、なんか照れるな」
「そうですね」
自分では良く分からないがきっと顔は赤いのだろう。暗くてよく見えないが麗華も顔が赤く見えた。
「さて、もう寝ようか」
「はい、今日は一緒に寝ませんか?」
「あ、ああ・・・」
一瞬卑猥な想像した自分を恨む。俺は車から毛布を持ってきて麗華に掛けてやった。その中に俺も入って抱き合うように俺たちは眠った。



目を覚ますと麗華はすでに起きていた。しかし俺がぎゅっと抱きしめていて、動けないでいた。
「ご、ごめん・・・」
そう言って俺は麗華を開放する。
「ううん、私は大丈夫です。幸せでしたから」
自分以外の体温があったからか、いつもよりぐっすり眠れた気がする。
抱きしめていたのもそのせいだと信じたい。
二人仲良く毛布を折りたたんだ後、俺たちは朝食をとる事にした。
何故だかは分からないが、これが最後の朝食な気がした。
その考えを弱気になっているだけだと、強引に振り払う。
そして毛布を車に乗せ、どこに出るかは分からないけど元来た道とは違う方向に車を走らせた。
1時間も走らせると山の麓へと出ていた。俺は周りにパトカーがいないことを確認してなるべくいなさそうな方へと進ませた。



「今日で捕まっちゃうかもしれないね」
麗華の言葉で朝の不安がよみがえる。
「そんなことは、ない。何とかするから・・・」
そう言ったはいいものの何か案があるわけでもなければ何か根拠があるわけでもない。ただ俺がそうあって欲しいだけだ。
「私、海が見たいなぁ・・・」
ふと、麗華が呟いた。
もし本当に今日が最後になるのなら、麗華が望む所に行った方がいいかもしれない。いや、行くしかない。
俺はカーナビで一番近い海水浴場を調べて案内を開始させた。
海水浴場を選んだのは砂浜があるはずだから。どうせなら砂浜に座って二人で海を眺めたい。
なんとなく、そう思った。
人通りの少なさそうな道を選びながら進んだため、何度もカーナビに注意されながら近くまで来ることはできた。
しかしここからはどう頑張っても人の多い中心街を通らなくてはならない。
なるべく怪しまれないように車を進めるが、一台のパトカーが通り過ぎた。
当然のごとく昨日と同じようにパトカーはUターンしてきた。
俺は信号なんて気にしていられず、夢中で車を走らせた。事故を起こしかけても、人を引きそうになっても止まる事はなかった。
パトカーもしつこく追いかけてきたが何度も何度も振り払おうと曲がることで何とか巻く事に成功した。
もう嫌な予感しかしなくて俺は海水浴場へと急いだ。



「ここ、か・・・」
ようやく着いた。ここに思い出があるわけでもないが、何か懐かしい感じがした。
先に歩いて行った麗華を追いかけて隣に腰かけた。
「綺麗、だな・・・」
「はい・・・」
お互い口を開かずに、ただ海を眺めてた。ここで捕まるなら本望かもしれない。そんな事を思っていた。
「どうして、こんなことになっちゃったんでしょうね?」
そう言う麗華の声は震えていた。
「私達はただ一緒になりたかっただけなのに・・・」
確かに俺もそう思った。そうなりたいと願った。でも・・・
「俺は麗華に会えて幸せだった。いや、幸せだ。だからいいんだ。結ばれなくても、麗華が幸せであってくれればそれで」
「それって・・・」
サイレンの音が聞こえて、俺たちは振り返った。
4,5台のパトカーが駐車場に止まって、その中から何人もの警官が出てきた。
そして俺たちは囲まれた。
「黒川大輝と一ノ瀬麗華だな?」






俺は手錠をつけられて、麗華は警官に保護された。俺達からすれば駆け落ちでも、世間から見ればただの誘拐だ。これは当然の結果。
いずれはこうなることを覚悟していた。
だから俺は麗華が警官に連れて行かれる時、俺は聞こえる事を祈りながら一言だけ言った。
きっと麗華には聞こえていたはずだ。俺はそう信じてる。
そんなに日数は無かったけど麗華と一緒に過ごせたし、ちゃんと最後に海に連れてこれた。麗華が体を壊すようなこともなかった。
後悔は、無い。
ごめんな、麗華。もう少しだけ一緒にいたかった。約束、果たせそうにない。本当にごめんな。麗華・・・。




警察に保護された後、私は家に帰らされた。両親は少しだけ私を怒って、それから私を抱きしめた。
ご飯が用意してあったけど、「お腹すいてない」と言って自分の部屋に入った。
少しでも大輝くんの情報が欲しい。
きっと罪になるのだろうけど、私は大輝くんが出所してくるまで待つつもり。
何年かかろうと、大輝くんのためなら待っていられる。
最後、別れるときに大輝くんが言った「麗華、お前は・・・」の続きが知りたい。帰ってきたら聞きたい。
そう思いながら私はテレビをつけた。
たまたまやっていたニュースを見て、私は膝から崩れ落ちた。
「大輝くんが・・・死んだ?」
信じられなかった。信じたくなかった。何かの間違いだと誰かにいって欲しかった。
でもそんな訳なくて、淡々と事実が告げられていく。
パトカーの中で舌を噛み切って自殺したらしい。何故だかわからないけど私は今悟った。
きっと大輝くんは「お前は生きろ」と言っていたんだと思う。俺はもう生きられない。だからお前だけは・・・。
そう伝えたかったんだと思う。
不思議と涙は出なかった。なんとなく、砂浜での会話で分かっていたのかもしれない。
あの時、大輝くんの様子が少しおかしいのは気づいていた。けど、聞くのが怖かった。
たぶんあの時、私は何か感づいていたのだと思う。それを体が拒否して分からないふりをしていた。
大輝くんは出所してきても私に会えないと分かっていたのかもしれない。私の親がそんな事を許すわけないと、そう思ったのかもしれない。
それならいっそ・・・。だから死んでしまった。
私は会えなくても生きていて欲しかった。大輝くんが幸せであれば、私は生きていけた。
でも・・・
「無理だよ、大輝くん・・・」
さぎそうの花言葉は「夢でも貴方を想う」
私は花言葉の通りに、夢でも大輝くんの事を想っていた。
私にとって大輝くんは全てだった。その大輝くんがいないのであれば・・・。
「生きてる意味なんてないもの・・・」
ごめんね、大輝くん。約束、守れなかった。本当に、ごめんね。



一ノ瀬麗華は病院に運ばれたが死亡が確認された。死因は出血多量による失血死。第一発見者は屋敷の使用人で腹部に刃物が刺さった状態で発見された。
遺書は今の所発見されておらず、警察は自殺、他殺両面から捜査している・・・
















後書き
どうも、孝介です
ということで一万アクセス記念、「hopeless love」
いかがだったでしょうか?
何となくバットエンドの話を書きたいと思ったところに
古典の授業で芥川をやったのがこの話の原点でした
芥川を現代でやったらリアリティーはないけど、面白くなるのではなかろうか
そんな悪ふざけと好奇心から生まれた作品です
この作品はラストシーンがまず出来て、それからそこまでどうやって持っていくか、それが難題でした
まぁ上手くいってるかどうかは皆様の判断にお任せします
また思ったより話が長くなって自作小説で一番長さとなってしまいました
やりたいことを全部やったらこうなったって感じです
もう教会のくだりは書いてる最中に思いついて面白そうという理由だけで突っ込みました
さて最後になりましたが一万アクセス、
これはひとえに見に来てくださった皆様のおかげです
ありがとうございました
これからもこのブログを愛読してくださるようお願い申しあげます


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