ひなたまさみとひなたぼっこ

ひなたまさみとひなたぼっこ

サキの受賞作品『信号のきょうだい』


                           SAKI

 ある町に信号の兄弟がいました。それは歩行者用の信号で、上の赤い信号がお兄さん、下の青い信号は弟でした。
 お兄さんは、いつも弟を見てプリプリ怒っていました。

(オレはどうして赤い光なんだろう?オレが光ると、人はみんなイライラした嫌な顔になってオレをにらみつける。ところがひとたび弟が光り始めると、みんな嬉しそうに歩き始めるじゃないか。オレは赤じゃなくて、青い光に生まれたかったよ)

 ある日、とうとう我慢できなくなったお兄さんは、弟が光る番がきても、自分もずっと光り続けてしまったから、さあ大変!

「兄さん、もう僕の番ですよ。光を止めてください!」

「うるさい!お前は弟なんだからだまってろ!」

 そこを渡ろうとしていた人々は大混乱!

「なんだよ?どっちなんだ?」

「危ないじゃないか!」

「この信号、壊れてるんじゃないか?」

 あっという間に大騒ぎになり、その信号の兄弟は修理のため、眠らされてしまいました。

 次に目が覚めたとき、驚いたことにお兄さんと弟は、反対の色に入れ替わっていたのです。つまり、お兄さんは青信号、弟は赤信号になった、というわけです。
 お兄さんは自分のなりたかった青信号になれたので、大喜び。張り切って光り始めます。一方弟の方は、そんなお兄さんを心配そうに見つめていました。

(このままずっとお兄さんが機嫌よく光ってくれればいいのだけれど・・・)

 やがて、弟の心配したとおり、お兄さんはまた怒り始めました。

(オレはずっと青い光になりたい、と思っていた。それは、目の前にいる人たちの顔しか見ていなかったからだ。横を見ると、オレが気持ちよく光っているというのに、車の中にいる人たちは、ずっとオレをにらみつけているじゃないか。そしてみんな、弟の赤い光を待っているんだ。そんなことってあるかい?オレはやっぱり赤い光に戻りたいよ)

「おい、弟。お前はどうしてそうやって、いつもオレの邪魔ばっかりするんだ?」

「兄さん、僕は兄さんの邪魔をするつもりはないですよ」

 弟はとうとう悲しさのあまり、光を出すことができなくなってしまいました。弟が光を失ったことを知り、途方に暮れるお兄さん。そのとき空の上から、お母さんの声が聞こえてきました。

「そろそろ目を覚ましなさい!あなたはいつもそうやって、人をうらやんだり、ねたんだりしてばかり。たった一人の弟の光をうばったあなたは、弟の命をうばったのと同じ罪を犯したんですよ。あなたは信号。人の命を預かる大切な役割を授かっているのです。今度はたくさんの罪のない人たちの命までうばおうというのですか!」

 お兄さんは、ようやく自分の役割が何だったのかに気がつき、光を失ってしまった弟の分も、一人で赤い光と青い光を出すようになりました。それでも一人ぼっちで頑張らなくてはいけないので、その信号だけはいつもまわりの信号よりほんの少し遅れてしまいます。

 やがて、町の人々はその信号のことを「一生懸命で鈍い信号」と呼ぶようになりました。


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