ヒトヤスミ

終わった



   中学生のとき僕は剣道部に入っていた

   本当は友達とテニス部に入るつもりだったのだが、素振りをしていた先輩の姿がかっこよく、剣道にしてしまった


   僕の学校の剣道部は、郡の中では1・2を争う学校で練習も当然厳しかった

   それでも僕は練習をがんばり5人の団体レギュラーにも選ばれていて、公式の郡大会でも団体優勝・準優勝は当たり前になっていた


   僕たちの最後の大会は、郡大会の次に大きな大会だった

   団体は順調に勝ち進み、決勝に残りそして優勝した


   午後からは個人戦で、2グループに分けられ上位を俺たちで独占しようぜ、なんて言っていた

   僕も最後なので気合を入れまくり勝ち進んで、決勝にまで残った

   でも、相手は同じ学校の人じゃなかった

   彼は準決勝で負けていた

   彼を負かした相手・僕の決勝の相手、そいつはこの大会の前の郡大会で個人優勝をしていた男だった

   そいつは小手への攻撃が異常に早く、友達もそれでやられた

   だが当時の僕の得意だったのは、「小手抜き面」という、カウンター技だった

   相手はどの試合も開始直前に小手を狙いにいき、高確率で一本をとり、さらに一本をとっての二本勝ちや、時間切れでの一本勝ちがおもだった

   だから僕は最初の一太刀で一本をとり、主導権を握る決意をした


   そして開始の合図

   相手の腕が動いた

   頭が考えるよりも早く体が反応した

   ・・・が、腕が上がらなかった

   相手の竹刀が右手の上に置かれていた

   見えなかった

   非の打ち所が無い見事な一本だった

   何が起こったかすぐには理解できなかったが、それでも一本をとり振り出しに戻そうとした

   なのに、僕の剣先は空を切るばかりで相手には当たらなかった

   二年半もの間感じてきた一試合の二分間

   多分良くて残り十秒

   僕は最後の一撃に二年半もの年月で得た「力」を込めた


   でも

   とめられた

   完敗だった

   審判の試合終了の合図が聞こえたとき

   (あぁ、終わった)

   そう思って天井を見た

   蛍光灯がまぶしかった

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