宇宙は本の箱

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何者にもならず、何も残さず?


最初は一度も会ったことのない主人。次が自殺した弟さん。
今日は私が少しばかり話したことのあるおばあさん。
おばあさんは私と話していた頃も30キロくらいしかなくて、
もう今年に入ってからはほとんど何も食べなかったようだ。
意識はしっかりしていて、ご主人の葬儀に形だけでもとお邪魔すると、
目でわずかに会釈をされたのが最後に会った日ということになる。
長男さんはこの夏は本当に大変だったとうと思う。
大変すぎて泣いている暇もなかっただろうけど、すべてはなるようになったのだ。
真面目に生きてさえいれば、人生はうまく出来ているのだと思う。
おにいちゃんは生きる。


何者にもならず。何も残さず。
それは私の夢。


ゆめ~?
何も残す気はなかったのに、今ここにある一切をばっさり捨てても、
人が皆私を忘れ去っても、一番残したくない遺伝子を二ツも残してしまったではないか。
願いとは裏腹のことは人を必要なことらしい。
私は子供を産んで育てて幸せだったけれども、出来れば生きて行く過程で、
主人だけの遺伝子になりますように。
だんだんそうなって来たと思うけれども、そうじゃないのかしらん?
男の子は最初母親に似てても、年と共に父親に似てくるもんだと思う。
それに第一、子供を欲しがったのは主人なんだから、きっと似てくる筈だ。


夢。
何者にもならないこと。
生きた痕跡などどこにも残さないこと。
塵になること。
そして、母の胎内で昏々と眠り続けること。
太古の一点に眠ること。
一ヶ月だけ寝ての老衰死というのが一番いいね。










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