宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

時は遠く去りゆき・・・


そう、ただ・・・去ったんだ。
この世での時ね・・・。
また涙がいっぱい出てきてしまったよ。


最初に胸おどったのは一人で生きようと思った時だった。
おまえはいつも「行く!」と言った。
もう一人はいつもおずおずと「行く!」と言った。

風が吹いていて空は青いんだよ。
おまえのことを思うと、いつもこんなにも泣ける。

たった今わかったんだ。
いつも私を泣かすその幸せが、なぜ幸せで、不幸はどこからが不幸で、
また幸福になっても、いつも泣いてしまうその切ない思いがなんなのかって。

あの頃、一体誰が幸福だったろう。
けれど、振りかえるといつも胸があふれる幸福。
私が大人になったのは14の時だったんだ。
だから子供だった日。
子供だった、辛くても苦しくても子供だったといえる日。
そういうことなんだ。

15の春、
S先生に手紙を書いた。
あなたは正しい。けれどそれだけだ。偉大ではないと。
私ははやくはやく人生のゴールまで行きたかった。
息せき切って。
何をそんなに急いでるんだって言われたけど、
はやくはやく逝きたかった。

二十歳の冬、言われたんだ。
おまえはイヤなこともなんでも言うことを聞き、なんでも自分で決め、何でもしてくれて、おまえみたいな親孝行な子はいなかった。
だけど、おまえみたいに親不孝な子はいない。
おまえは親を親とは思っていない。
涙が病室の床の上に落ちるほどに泣いた。
ただただ涙だけが勝手にあふれた。

でも・・・・生きてるから行かなきゃ―ならないんだ。
生きてるから、生きてるから!生きてるから!!


23の時、電車に乗ろうとして嘔吐しそうになって、ラッシュアワーの駅のベンチに倒れるように寝転んだんだ。
満員のドアの向こうの人々に、なんでそんなことしてんだ?って言ったんだ。
それで下り階段をずっと見ていたんだ。
そしたら・・・あれ?あれ~って。
私、苦しいけど死のうと思ってない。
あれ~、も・し・か・し・た・ら、わたし、つ・よ・く・なってる?
あ、つ・よ・く・なってる!

私はガバッと跳ね起きて電車に飛び乗った。
わ・た・し、つ・よ・く・なってる。
きっと、強くなった。


おまえもきっと強くなっただろう?
おまえがなにもかもを置いていったのを見た日、そう思ったんだ。
だから、あの子は帰ってこない。
契約は解除して、荷物はすてっちまえ!って私は言った。
もうあのタンスもテーブルもおまえを泣かす思い出の家具はない。

村をね、つくろうって言ったんだ。
あの子はおまえみたいに可愛くはなかったけれど、野菜作るって言ったんだ。
あの人はね、老人医療をやりたいねって言ったんだ。
あの子は健康と美容を。
私達は勿論学校をしたかったんだ。
ほら、村にはそういうのがいるでしょ?


空がやたらに青いんだ。
おまえ、元気にしてる?

死んだら同じ所に住もう。

「うん!」

おねえちゃんの棲家は高い高い山の上だよー。
真っ白な山でさー、雲が下に見えるんだー、来る?

「うん、行く!」












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