宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

必殺遊び人の季節


覚えがないから多分したことがないのだろう、
ただ一度をのぞいては。

私は大阪に帰ろうとしていた。
一ヶ月ぶりだったか、二ヶ月ぶりだったか・・・。帰るも帰らぬも多少は自分の勝手だったが、クリスマスには逢いに帰ろうと思っていたのだった。
電話で言っていたように、もう限界だったのだろう。
かゆい所に手の届く和服の似合うママさんの店を追い出されたら、街角で肩がぶつかっただけでも因縁つけて、反対にその痩身は地下の階段に転げ落とされたのだろう。
「おまえはなぜそんなに強い?」
強くはないよ。私ももしかしたら限界なのかもしれなかった。

その日、私は駅近くの商店街の洒落たセンスの紳士服店に入った。
私は店に入ってもあまり品物にさわるということがない。ずっとその店の者が飾ったものを見て歩く。服でも、靴でも、帽子でも。そして突然のように、「あれ、見せて下さい!」と言う。そのネクタイもそうして買った。
あれは・・・私の好きなあの背広に似合うだろうと・・・今、締めているあのネクタイは平凡なサラリーマンには丁度だけど、これだとちょっと粋に見えたりなんかする。。。
高い。でも、私は気に入ったものは絶対に買うのだ、帰る電車賃がなくなっても。
ハハ・・・、じゃーわたせないね。


あのクリスマスは最悪だった。
何が最悪って?
私は素面のあの人より酔ってるあの人のほうが好きだった。
「どや、ええ男やろ!こんなええ男はおらん!」そう自画自賛しながら、
「おまえはアホや、おまえみたいなアホはおらん!」そういうあの人が好きだった。
綺麗な白い細い指で、私の嫌いな魚をつまみあげて食べる、そういう人が好きだった。
あなたは・・・あなたは・・・あなたは!
酔ってまで あなた という言葉を聞く為ではなかった。

それでも素面の日に幸せそうににやけてそのネクタイをして現れたのを見ては、
二月の誕生日にあわせて、それに似合うベストを編んだのだ。
私が編み物をするなんて、似合わなさ過ぎる!
私は家庭科は最優秀で、裁縫だって料理だって5だったんだけれども、そんなことしないで下さい、私がやりますと、女の子達にはそう言われるくらい似合わなさ過ぎるから、
それはもっともカッコ悪かった私の青春の一ページということにもなろうか。。。

あなたが笑うと皆が勘違いするのさ・・・と、別れたあと一緒に飲んだ日に行った。
あなたがプレゼントしてくれるから、勘違いなんかするのさ。
そうだな~、そうかもしれない。。。そうかもしれなかった。

わしのほうがいつも一生懸命好きやった。。。
まだ歩けない次男を見て「あんた、いんちきみたいやな」。そして、幼稚園になった長男を抱き上げながら、そう言った。
そうやね~、そうやったと思う。。。
でも・・・でも・・・
続きは言わなかった・・・。


クリスマスだ。
必殺遊び人の季節だ。






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