宇宙は本の箱

     宇宙は本の箱

雨の訪問者



Nが訪ねて来た夜のことだ。雨に濡れて。
毎日顔を合わせているというのに、わざわざ住所を調べて?
一体、あの夜話したことには何の意味があって、
次の朝聞いた真実には何の意味があったのか?
勿論、それは次の日になんの意味も持たなくなったが、
ある後悔と共に、いつまでも思い出した。

何年かの後、詩人さんに
雨に濡れてね、訪ねてきたの と言うと、
なんだ、芝居がかった奴だな と言った。
私はそれは偶然だったと思ったが、芝居がかっていたのかな?
後ではそう思わなくもなかった。
だが、一体、それはほんとにそうか?
あなたが女の人に見えてきてしまった と言ったことはあったが、
女の住まいを訪ねるということはそういうことか?

昔むかし、
Iが深夜、酔っ払った勢いで訪ねて来た。
どうやって住所を調べたかは知らなかったが、その意味はわかった。
誰か男がいたら帰ろうと思ったさ、と後に言った。
もうあっちこっち電話かけまくったから、皆に知られてしまったさ、とも言った。
Iのことはわかった。


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: