宇宙は本の箱

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食べることから


皆なぜこうも愛情不足なんだろうかという事だった。
究極の答えはわかっているのだけど、
ではそれを真底分かってもらう為には何をしたらいいのかという問題があった。
やたらお腹がすく子は実にわかりやすかった。
食料は単なるエネルギー源ではないという事。
愛情のこもっていない料理というものは、胃は満腹になっても、
心の胃が満腹にならないのだ。
料理は愛情補給でもあるのだと分かる。


私は大勢が好きな船井幸雄なんかたいして評価はしないけど、
読んで悪い話じゃないからちょっと読んでいた時期があって、興味ある写真が載っていた事があった。多分江本なんとかいう人の波動関係の紹介のページだったように思うが、指先から出るエネルギーの話で、船井さんも水の中に手を入れて実験したとかで、そこに愛情を注いでやると水が変わる、綺麗な結晶が出来ている、そんな話だった。

我が姉妹の旦那様達はどういうものか、ま、好みという事もあるだろうが、
皆、なぜというくらい細い。かくいう旦那様もウエストは65センチない。
スリムもスリム、若い頃は腕が足についているのかというくらいだった。
姉の最初の旦那は背は高いのに50キロもなかった。
元が細い人達なのに、旦那が細いのはお前達が悪いと、母は娘達を叱った。
母がそういうのも無理はなかった。
昔は夫婦喧嘩をして嫁が実家に帰るなんていうのはままあったが、姉達もその部類で、
それが非常に深刻だった時には、母は夫婦を家に置いた。
すると「お母さんの作るご飯はおいしいですね」と言って、
義兄達はいつも4杯も5杯もご飯をおかわりし、たいした事のないおかずも綺麗に平らげ、
一週間して帰る時にはズボンのボタンが止まらなくて、新しいのを買っていた。
その姉達は私と違って料理が非常に上手な人達なのだが、母の作るものは何かが違った。
それはうすうす感じていた事ではあったが、一方では長年慣れ親しんだ母の味だからだと思う気持ちもあり、誰にも言った事はなかったが、義兄達はいつもそれを証明した。
「お前達には愛情が足りない」
母はそう言って、炊飯器の蓋をあけて私に示した。
母が炊くご飯はいつも中央が盛り上がっていて、粒は皆天を向いて立っていた。
同じように私も子供の頃からやらされたが、米粒は天を向かない。
それは今なら分かる。
+α、それが母の愛情。

貧しかった頃の挿話が吉本の話にあった。
子供の頃、自分は食べたふりをして子供の多く食べさせる母を感じて、
それは気付かぬふりをして一生懸命食べるのが親孝行なのだと、知らないふりをして食べる。
子供の頃のわが母は、いつ寝ているのか、いつ食べているのかわからぬような人だったが、
あんなに母に反抗していた姉達でさえ、それは単なる食物ではなく、
自分達は母の愛情を食べて育ったのだと言う。
忙しすぎた母に優しく抱いてもらった記憶はない。叱られる事はあっても滅多にほめられたこともない。それだのにそんな母を慈愛深い人だったと思うのは、ただただ子供においしいものを腹いっぱい食べさせたいというその思いの深さだったのだと思う。


悩み相談の一等最初、この愛情不足の子達と、
共に食べる事からはじめようと、その時思ったのだった。
一緒に野菜を作り、一緒にひとつの食卓を囲もうと、そう思ったのだった。
知はそのあと。心理学なんてもっとあと。







今年のはじめ、外宮で、月に一回伊勢神宮と猿田彦におまいりされるお爺さんに声をかけられ、一緒に外宮から内宮まで行った。
覚悟を決められた天皇は、こんな綺麗な道じゃないよ、草ぼうぼうのな・・・そこをずっとそこから歩かれてな。もうその時はマッカーサーも誰も見張りなく、永久のお別れの挨拶をされたんやな。わしはそれを見た日から、月参りをはじめたんや。外宮はやっぱり先にこんならんな。食の神さんやからな~。食べる事からしかはじまらん。


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