環境・エネルギー&気になる情報2

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誰も知らないレアアースの現実(1)



「レアメタル? 何それ?」
Q:先日(10月26日)、先生の研究成果である「ネオジム磁石スクラップからのレアアースのリサイクル」に関する記者会見が東京大学生産技術研究所内でありました。ネオジムはハードディスクや電気自動車用モーターなどで使われている強力磁石のキーマテリアル。今回のレアアース(希土類)不安の焦点になっている素材だけにマスコミからも注目が集まりました。

岡部:驚きました。あんなにたくさんの人が集まってくれるとは。集まってくれた報道関係者はおよそ40人。私は東大生研の広報委員長でもあるので、これまでに様々な記者会見に関与してきましたが、あれだけ集まってくれる技術発表の会見は滅多にありません。

 世間が騒がしくなっていましたから、少しは注目されるだろうという思いも内心なかったわけではありません。一方で、誰も取材に来てくれなかったらどうしようという気持ちもあって、普段からつきあいのある記者に個人的に呼びかけたりもしていました。

 というのも、私は学生時代から一貫してレアアースを含むレアメタルを研究してきましたが、世間から注目されるなんてことはこれまでありませんでした。10年前だと「レアメタル? 何それ?」「レアメタルのリサイクルの研究なんて、やって意味あんの?」というのが、多くの人々の普通の反応でした。

 レアメタルへの関心や理解が薄いのは一般の人だけではありません。私はずっと以前からジスプロシウムやテルビウムなどのレアアースやロジウムなどの希少なレアメタルの備蓄を政府や関係機関の人々に何度も訴えてきました。しかし、最近まで、比較的専門性が高い人の中にも「レアメタル、特にレアアースは備蓄に適していない」という意見の人が大勢いました。

 今はさすがに、レアメタルの備蓄をはじめとする資源セキュリティの重要性を否定する人は少なくなりましたが、じゃあ高騰しているこの時期に備蓄に走ろうというのはこれもバカな話で、大損を出して国益を損なうことになります。

 備蓄とは本来、供給が止まったら本質的に困る有用なものを、価格が安いときに買いだめしておくべきものです。高いときは、むしろ備蓄を放出するのが正しい姿でしょう。それが日本では逆転しています。安いとき、容易に手に入る時期にはほとんど関心を持たず、需給が逼迫し始めると、調達しようと騒ぎ出しています。

Q:最近、政府はレアアースを含めて備蓄を増やしていく方針を打ち出しました。

岡部:これまでの国家備蓄制度では、レアメタルについてはニッケル、クロム、タングステン、コバルト、モリブデン、マンガン、バナジウムの7鉱種が対象でした。しかし、ステンレスや高硬度工具などの鉄系合金の原料になるニッケルやクロム、バナジウムなどはどちらかと言えば手に入りやすい金属で、本当の意味でレア(希少)といえるかも微妙です。私からみれば、現状のレアメタル備蓄は時代遅れです。備蓄量も少なすぎるので実効性もありません。

機能していない国家備蓄
岡部:最近、液晶パネルやLEDなどで使われるインジウムとガリウムを備蓄対象に追加しました。エレクトロニクスの競争力に関わる重要な材料だという考えからでしょう。2つとも希少な金属ですが、緊急に備蓄の対象とする必要はありません。なぜなら、価格の上昇や下落はあっても、インジウムは亜鉛の、ガリウムはアルミニウムの副産物として産出されているので、供給が止まる危険は少ないからです。これらのレアメタルは、採掘されても、実際は製錬現場では抽出されずに大部分が捨てられているのが実態で、危機管理という観点からは備蓄する意義が小さいと言えます。

 私が備蓄を主張してきたのは、排ガス触媒に必須である白金、ロジウム、パラジウムといった白金族金属、高性能モーターなどに欠かせないジスプロシウムなど、絶対的な賦存量が少なく、しかも供給源が地域的に偏っているレアメタルです。これらは供給不安のリスクが常につきまとい、入手できなくなれば産業が止まるという性格のものです。レアアースの中にも色々あって、重希土類とよばれるジスプロシウムやテルビウムの場合、資源量が少なく、また、中国一国に依存しているため、今回の輸出規制が長引けば日本の産業にとっては深刻な問題となります。

 世間ではレアメタルとかレアアースとひとまとめに分類してしまう傾向がありますが、産出や利用の実態は金属ごとに異なります。一般には、そこがよく理解されておらず、全く異なるものをまとめてトンチンカンな議論をすることがあります。さらに、日本には長期的な戦略眼に基づいてレアメタルを取引できる人材が少なく、本質的な資源戦略や政策を打ち出せる機関がないのが問題です。

 レアアースを含む世界のレアメタルの取引の多くは、ユダヤ系やアングロサクソン系のトレーダーが牛耳っているといわれています。彼らは投機筋でもあり、市況の動きの読みに長けていている。国境という概念もなく世界規模で「安値で買って、高値で売る」ことを10年以上のロングスパンで繰り返し、大儲けしています。日本の場合は、単年度ごとの予算措置で物事を考える傾向が強いので、「レアメタル」の取引戦略という意味ではアクションレベルが低くて話になりません。

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