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2006.11.29
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カテゴリ: 邦書

 推理作家鮎川哲也が本格推理短編一般公募した結果出版された短編集第12弾。13編収録されている。残りは こちら


粗筋

「店内消失」:風見詩織
 ある喫茶店が廃業することが決まった。常連客だった四人の女子大生(冬子、早苗、美千世、毬絵)は残念がるが、喫茶店が入っているビルが取り壊される予定となっていたので、仕方がない。
 閉店直前の日、冬子、早苗、美千世が道路の反対側の店から見ている中、毬絵が喫茶店に入る。喫茶店はガラス張りなので、中の様子が外から丸見えだった。毬絵は店内の電話ボックスに紙で覆うと、その中に入った。
 冬子、早苗、美千世、喫茶店のマスターが、何事かと思って喫茶店に入った。毬絵の姿はない。電話ボックスを覆う紙を破って中を覗くと、誰もいなかった。
 ふと見ると毬絵は外にいた。
 喫茶店の出入口は一ヶ所だけで、四人が喫茶店に入るまで誰も出ていない。店に入った後も、誰も店を出た気配はない。毬絵はどうやって電話ボックスから出て、店から消え、外に現れたのか……。
 ……紙で覆ったのは電話ボックスではなかった。側のドアを開け、電話ボックスのように見せかけたのだ。外から見ていたので、遠近感が薄まり、錯覚で騙されたのだ。
 どうやって毬絵が出たのかというと、トイレの壁を壊して出たのである。どうせ取り壊されるのだから、と。無論、これらのトリックにはマスターが関与していた。全て取り壊される喫茶店の思い出造りのためだった。
 女性らしい、殺人どころか犯罪さえない短編(壁を壊したのは器物破損かも知れないが……)。
 電話ボックスのトリックは図で説明されているので、それだけを見ると、納得できる気がするが、後々考えてみると何の為のトリックか分からない。店からの脱出トリックはインチキっぽい。

「壁の見たもの」:獏野行進
 家の「壁」を視点に書かれた短編。
 その家に数人が集まる。その一人である医者は、家に住む家族の娘に対し性的暴行を加えていた。
 医者が殺される。犯人は誰か……。
 ……犯人は「壁」。「壁」とは家族の一員の名前だったのだ。
 やり方によってはそれなりに面白い短編になり得ただろうが、読んでいる途中で「壁」のトリックがばれてしまう。
 この短編は、ある者がクイズを出し、それを解くという設定になっている。それもストーリーを損ねている感がある。

「ホームにて」:寺崎知之
 駅で事故が起こる。男が酔ってホームから飛び出したところに、回送列車が通過し、轢死されたのだ。
 一見事故と思われたが……。
 ……男はホームから飛び出したところで既に死亡していた。男は、二人の部下を相手に駅の外で口論したところ、撲殺されてしまった。二人の部下は死体を処理することにした。男の死体を脇で抱えて泥酔者のように見せかけ、ホームに入り、回送列車が通るところで遺体を放ったのである。
 たとえ列車に轢かれてバラバラになったとしても、生体反応がなかったことが判明してしまうのではないか。
 本作品は高校生による作品。刑事の会話はユーモラスで、手慣れているが、迫力不足。

「地雷原突破」:石持浅海
 坂田は、自分が体験したことを友人に話す。
 地雷禁止条約の競技が進められていたブリュッセルで、地雷禁止運動団体のリーダーが、地雷の危険性を訴える為、偽の地雷原を作ることにした。十メートルの地雷原を希望者に歩かせ、地雷を踏むことなく突破できるか挑戦させるのである。
 無論、地雷には爆薬ではなく、警報音を鳴らすスイッチが仕込まれていた。
 運動団体のリーダーであるサイモンは、お手本としてまず自分が地雷原を歩いてみることにした。が、サイモンは途中まで歩いたところで、爆発が起こる。埋設してあった偽の地雷に、本物の地雷が紛れていたのだ……。
 ……犯人は運動団体のメンバーであった坂田。サイモンは自己顕示が強い男で、地雷禁止運動も、彼にとってはその道具に過ぎなかった。
 少し前、サイモンは、実際の地雷原で、地雷が撤去された区域を実際より広く見せようとして、偽の地図を作成した。偽の地図だと知らなかった坂田の恋人が、その地図を頼ったところ爆死した。坂田はそのことを知ってからサイモンを憎んでいたのだ。
 トリックというトリックはない。逆説で謎(というほどでもないが)を解くだけ。
 地雷禁止運動に関する世界情勢や、活動家の態度にはウンザリするし、活動の苦労の説明がくどい。社会派も悪くないが、50枚足らずの短編で必要なのかと首を捻ってしまう。
 11巻の「暗い箱の中で」と同じ作者。前作と比べるとインパクト不足。

「翼ある靴」:赤井一吾
 作家が殺される。発見者は女性編集者。
 殺人現場の周囲は雪で覆われ、足跡は現場を往復する発見者のものと、現場に向かう被害者のものだけ……。
 ……犯人は女性編集者。被害者の靴を履いて逆に歩くというトリックを使ったらしいが、何の為か理解し難い。
 探偵役は作者の筆名と同名。作家という設定になっている。こういうのはやめてほしい。
 作者は11巻で「この世の鬼」を書いている。ユーモア小説を試みているが、トリックがイマイチなので、ユーモアも不発。

「霧湖荘の殺人」:愛理修
 旧友が霧湖荘に招待される。取り壊される前に、という所有者の考えだ。
 あまり明るい再会ではなかった。所有者の妹陽子が、夫の失踪でショックを受けて二ヶ月間も引きこもった場所でもあるからだ。
 旧友が集まった時点で、所有者が殺される……。
 ……犯人は陽子。彼女の夫は失踪したのではなく、彼女に殺されたのだ。彼女は二ヶ月間引きこもったのではなく、死体を処理していたのだ。死体を処理した場所が兄によって売却されると知って、兄を殺すことにしたのだ。
 血を浴びても大丈夫なように黒い服装をしたり、湖にわざと落ちてずぶぬれになって血が着いた服を着替える口実を作るなどしたり、面白いトリックはあるが、全体的に平凡。最後に犯人が服毒自殺するのも、テレビのサスペンスドラマみたいでどうも……と思ってしまう。
 8巻で同じ作家の作品が収録されている。


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解説

12巻は全体的に小粒なものが多かった。


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Last updated  2006.11.29 16:13:05
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