明日は明日の風が吹く。

明日は明日の風が吹く。

サンタへのプレゼント



恋人同士が一夜を過ごすクリスマスに、ある男はプレゼントを配っていた。

しかし、この男の正体を知る者は誰もいない。


『サンタへのプレゼント』


「クソ、寒ぃ」

体を震わせながら、サンタの格好をした俺はソリに乗り、駆け回っていた。

「ったく、最近のバイトは弱いな」

「トナカイだけには言われたくねぇよ」

・・・トナカイにバカにされた。多分この世で俺だけじゃ無いのか?

「つーかサンタって本当に居たんだな」

「信じてなかったのか」

トナカイが呆れた顔でこちらを見る。非常に腹が立つ。

「普通両親からって分かるだろ」

「だから、両親のいない子にプレゼントをあげるんだよ」

「そうだったな」

このサンタのバイトを教えてくれたのは、意外にも祖父だった。

「1日働くだけで30000万だぞ?」

そう祖父に言われた俺は金に目がくらみ、サンタのバイトをした。

確かに高給料だったが、仕事内容は・・・ハードだった。

「俺はプレゼント配るだけだと思ったのによ・・・何なんだよ運ぶ試験って」

「バカ、子供たちに見つかったらその場で存在を消されるんだぞ?」

トナカイの言うとおり、サンタは見つかると存在を消されるらしい。

つまり、この世から消え去る事。例えバイトでもだ。

「・・・・よく考えると、恐ろしい仕事だな」

「まぁお前はその恐ろしい仕事をやってるんだけどな」

「うっせぇ」

そんな会話をしている俺とトナカイは、孤児院に着いた。

「ここか?」

「場所に寄ると・・・・ここだ」

俺は恐る恐る窓を覗く。

すると子供達が、パーティーをしていた。

「楽しそうだな。」

トナカイに言われ、少し共感した。

でも・・・親が居ない事がどのぐらい寂しい事なのか。

今の俺には分からなかった。










「ジングルベールジングルベール、すずがーなるー!」

子供達の声など、無視する。

何故なら、消されてしまうから。


『サンタへのプレゼント』


子供に見つかると存在が消されてしまう事だけを、俺は頭の中に残しておいた。

「・・・・窓から入ればいいんだな?」

「静かに入れよ。見つかるからな」

「分かってる」

空を飛んでいるソリから、俺は子供部屋へと飛び移った。

(・・・完全に空き巣じゃねーか)

そう思いながら俺はプレゼントをそっと置いた。

「・・・・何だコレ?」

俺は枕元にある物を拾い上げた。

それは、一枚の写真だった。

「家族で写ってる・・・・」

写真は家の前で撮られた物だった。

小さい子と両親らしき人物が笑顔で笑っている。

「・・・・・」

俺は、その写真を枕元に戻し、ソリへと戻った。

「どうした?」

トナカイの問いに、俺は答えられなかった。

その後も、俺は部屋を転々と回った。

その度に家族の思い出の物らしき物を見て来た。

「・・・・あのさ。」

「何だ?」

「俺って、幸せなんだな。」

俺は重い口を開いた。

「家族がそばにいる。こんな平凡な事でも、ここの子供達にとっては夢みたいな物なんだな」

「・・・・お前みたいな奴は初めてだよ。」

「は?」

「去年、一昨年のバイトの奴らは金だけ貰って帰っていった。」

トナカイはため息交じりに話した。

「皆そうなんだよ。大切な事が何かを分かっていない」

「・・・・・」

俺は黙り込んだ。

「世の中金なのか? 本当にそれだけあれば幸せなのか? 1人でも寂しくないのか?」

「トナカイ・・・・」

「大切なのは・・・大金より1つの幸せだろ?」

トナカイは俺の方を向いた。

俺は、小さく首を頷いた。

「無駄話が過ぎたな。ほら、最後の部屋だぞ」

「お前が話したんだろうが・・・・行って来る」

俺とトナカイには笑顔が戻っていた。

「最後か。彼女がいたらこんな事もしなかったんだよな・・・」

プレゼントを枕元に置いた瞬間だった。

「バァーッ!」

「なっ!?」

「・・・やっぱ、サンタさんはいたんだ!」

子供が布団の中から出てきた。

まずい。

まずい・・・・

消される・・・・・

俺は頭の中が真っ白になった。










・・・・子供に見つかった。

絶体絶命だ。


『サンタへのプレゼント』


「わーい、わーい!」

子供は飛び上がって喜んでいる。

一方の俺は・・・・

(死ぬ、死ぬ、死ぬ・・・!)

奈落のどん底に落ちていた。

「プレゼント、プレゼント!」

子供は俺にプレゼントを急かしている。

「はい、プレゼント・・・・・」

俺は子供にプレゼントを渡した。

喜ぶ子供。泣き叫びそうになる俺。

プレゼントを開ける子供。遺書の準備をする俺。

「・・・ぬいぐるみだぁ!」

「・・・えーと。君の希望はぬいぐるみで良かったのかい?」

苦し紛れのアドリブを言う。こういう事だけは人一倍上手い。

「うん、ありがとうサンタさん!」

「ど、どういたしまして。」

「サンタさん、はい!」

子供は俺に紙を差し出してきた。

「・・・何だいコレ?」

「手紙! 読んで!」

俺は手紙を開けた。



サンタさんへ

プレゼントありがと

うれしいです

サンタさんもおしごとがんばってください

げんきでらいねんもきてね

としやより



涙が頬を伝わった。

そして俺は子供を抱きしめた。

「ありがとう・・・ありがとう。」

「サンタさん、どうしたの?」

子供の背中は大量の涙で濡れていた。

「・・・・じゃあね」

「うん、サンタさんまたね!」

俺は手を振り、ソリに飛び移った。

そして、本物のサンタの所に行く時だった。

「・・・・見てたぞ」

「・・・そうだったぁーっ!!」

俺はソリから飛び降りそうになった。

「待て。サンタが全てを決める」

「・・・どういう事だ?」

「後になれば分かる。」

トナカイはそう言うと、もう話す事は無かった。









サンタの元へ着くと、俺は覚悟を決めた。

「この者が、子供に見つかりました」

「・・・何じゃと?」

サンタはいかにも不機嫌そうな顔でこちらを睨んだ。

「どうしますか?」

「無論、消し去るだけだ」

「・・・・何か最後に言う事は無いか?」

トナカイの言葉に、俺はどうする事も出来なかった。

「・・・その手に持っているのは何だ?」

サンタはこちらに駆け寄り、手に持っていた手紙を見た。

「何の手紙ですか?」

トナカイも手紙を覗く。











「君は・・・・素晴らしいな」

「え・・・・?」

サンタは笑った。

「こんな手紙見て、消し去る訳にはいかないよ」

「・・・・でも。」

「君。幸せって何だと思う?」

「はい?」

幸せって何だ?

どんな事が幸せなんだろう?

「・・・分かりません」

「その通りだよ。」

「・・・その通り?」

俺はあ然とした。

分からないが答え? 何だそれ。

「人それぞれ幸せの種類は違う。彼女が出来た、宝くじが当たったなど様々だ。」

「・・・それはそうですね」

「孤児院の子供達は、サンタさんが来る事を楽しみにしていた。君が来る事をね。」

「楽しみ?」

「年に一度、プレゼントをくれる。もう家族そのものじゃないか。」

「家族・・・・・」

俺はサンタの言葉を聞き、ようやく気付いた。

サンタの幸せは・・・子供達に喜ばれる事。

例え正体が見つかっても喜んでもらえれば幸せ。

だって、子供達は年一度に来るサンタを待っててくれているのだから。

「まぁ、来年は気をつけてくれよ。こんな事が2回も続くとは思わないからな」

「ら、来年って!?」

「この手紙にも書いてある通り、子供達は来年まで君を待っているんだ」

「う・・・・分かりました・・・・」

俺はため息を付いた。

到底俺のクリスマスは、1人ぼっちで過ごす様だ・・・・

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