星を巡る

過去の詩 春と花と旅立ちと


 春はいつでも、心地よく物憂げです。
 眠りからいっせいに目覚め、そのくせ、どこかがいつもまどろんでいるような、そんな、そこはかとない甘さ。
 でもそんな優柔不断さも、「春だから」、で、なにもかもを許せてしまうのです。

 そのかわり、花冷え、なんてものも受け入れねばなりませんが。そんな時、「甘さ」は致命的な刃となるのかもしれません。





「きみと」



振り返れば 空の奥から風
順々に首を傾げていく木々
差し込む光は
枝葉に散らされて そこここの緑に
踊るように飛び跳ねている

ああ 春だね
空が 嘘のように青いし
雲も お話のように白くふわふわだね
しっとりと湿った空気は きっとみんなの深呼吸のせいだね
土や虫や花や 微生物や空や人や町もみんな
みんな いっせいに伸びをしてみたような季節だね

こんな美しい世界を
こんな美しい日曜日を
どこかで君も一人、感じているかい?








「春の夜」


林をこえて そよそよとやってきた風は
どんな花 樹を揺らしてきたものか

いつもほんのり ほのかに甘く 頭の奥を痺れさせ
わたしのまぶたは まつげの重さに耐え切れず

でも こんな静かな雨の夜でも
どこかが甘いということは
そうか
これが春というものだね

君のささやきに体中が甘くしびれる
そうだね
これが春の夜








「あのすみれのように」


いつまでも うずくまって
雨風をしのいでいては
生きていけないことは知っている

だけど 雨にうたれながら
頭を垂れてさえ花を咲かせている あの
凛としたすみれのようには

なれない
なれないよ








「もう少し」


信号が 変わるまでは と
つぶやいて
すみれのように
君は目を伏せ








「花散る」


千切れるように冷えた指先を
ひとり 暖めようとするのだけど

あばら骨を吹き抜けていく風に
この痛みごと わたし
散ってしまえばいいのに








「旅立ち」



いつか 行かなけりゃならないなら
それが今であって なにが問題?

旅立ちの日は いつも曇り空で
雨が降るかもしれないから またあした
なんて考え続けて もう何年?

モクレンの花は 落ちてしまったというのに









「立って行き」


うすぼんやりと
霞がかった世界に 用はない
遠くから聞こえてくる音楽に
耳を澄ませているのは やめました

立って行き 奏でなさい
楽しむことを 楽しみなさい

わたしよ わたしを連れて行け






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