福井県民国~for maniac people~

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第6話 速報


 母は料理を作り終え、ケーキのカットに取り掛かっている。
「もう、タツオったら、いつになったら帰ってくるのかしら。塾は6時に終わるって言ってたのに」
いかにも不満そうな顔をしている。だから子離れできないんだ。
 達夫の妹、凛は思った。お兄ちゃんは今家出しているのに。ふふっ。明日「家出した」って言ったらなんて顔をするだろうな。楽しみだな~。
 それはそうと、今日は大好きなSNAPの特番だ。もうすぐ7時だから早速テレビつけなきゃ。そうすれば、中でも一番好きなキムタクこと木村拓海様の顔が見れるっ!
 しかしテレビをつけると特番ではなかった。この前新潟で地震が起きた時みたいなニュースの画面になっている。
「もう~キムタク見たかったのに~」
 画面には見覚えのある女子アナが現れた。クリスマスなのに浮かない顔をしている。
「クリスマス特番をお送りしておりますが臨時ニュースです。今日の夜6時ごろ、電車ジャックが発生しました。ジャックされたのは午後6時3分発寝台列車さくら。犯人グループは『黒の旅団』を名乗っており、未だ身代金などの犯人グループの要求はありません。引き続き情報が入り次第お伝えします。以上臨時ニュースでした」

 凛は絶句した。母に話しかけるほどの声も出なかった。しかし何とか気持ちを落ち着かせ母にこう叫んだ。
「お、お母さん!お兄ちゃんが、お兄ちゃんが!!」
「なんなのもう、TVにタツオが映っているの?」
 母はテレビを覗き込んだ。テレビにはジャックされた乗客のリストを映している。その中に「シイノキ タツオ」の文字を見つけるのは早かった。
「え、どういう事、タツオは塾に・・・」
母が放心状態になっているところに凛はこう言い放った。
「この前お兄ちゃんがクリスマスに家出するって言ったの。で、その時この電車に乗るって言ってた!」
「なんでそんな大事なこと言わなかったの!
「だってお兄ちゃんに25日にお母さんに伝えてって言われたし・・・」

その言葉を聞くと、母はコートを着て、隅の金庫からお金を出し始め、言った。
「で、どこ?」
「え?」
「終着駅!!」
「あ、長崎」
金庫の金を財布につめた母は凛の腕をつかんで叫んだ。
「行くわよ!長崎!!飛行機で先回りするわよ!!」
そう言うと、一瞬のうちに家を出て車に乗り込み、駅へ向かった。

 お兄ちゃん・・・無事でいてね・・・
 凛は神に願った。

 それから何時間か経った午前9時、事態は急展開を見せる。


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