黄金の髪 ほ☆た☆る (超短編 Sweet Love 「う...さむっ...」 香梨は、1人こがらしの中3km先の図書館へ向かって歩いていた。両親は仕事でいない。そのうえ、道路は凍ってすべりやすくなっているために自転車も使えない。この寒い中、坂の多いこの道のりをひたすら歩くしかなかった。午前10時にもかかわらず、気温は-5℃。風はいてついていた。 「どこかに休める処ないかな・・・」 つぶやいてはみるが、見渡すかぎり住宅。そうでもなければ林という細い道。バス停すらない。 「誰かたきぎくらいしてないかなぁ...もぅ...」 ━━━━ボアッ━━━━ 『━━命中!』 どこからか声がして、そばの木の葉に火がついた。香梨は、何が起こったのかわかっていない。そこえ、カラカラと音をたて、1人の少年が近付いて来た。美しい黄金の髪をしている。 「だ、誰?!」 少年はとぼけたように辺りを見回す。 「あ、あの・・・あなた以外に誰かいますか・・・?」 香梨はあきれて言った。 『・・・ほたる・・・』 「えっ?」 『俺の名前・・・』 少年はそういってニッコリ笑った。 『あんたは?』 不意にほたるが聞いてくる。 「えっ...私、香梨...」 しどろもどろに答えると、ほたるは 『いい名前だね』 とほほえんだ。しばしの沈黙。そこへ、ほたるが、 『どこへ行くの?暇なんだけど、一緒に行っていい?』 と聞いてきた。香梨は、ちょっとためらったが 「3kmも歩くし、図書館、つまらないけど...?」 と遠慮しがちに聞いた。 『いいよ。行く。』 ほたるはそういうと香梨に並んで歩き出した。 しばらく沈黙のまま歩いていたが、やがてほたるが口笛を吹きはじめた。香梨はずっと耳をすませて聴いていた。聴いたことはないが、どこかなつかしいかんじのするメロディーだった。 「ねぇ、なんて曲?」 おずおずとたずねる香梨に、ほたるは口笛をやめてさらりと言った。 『知らない...けどなんか思いついたから』 思わず香梨は笑い出していた。 (なんておもしろい人だろう) と思いつつ...。そのうちに、ほたるも一緒になって恥ずかしそうに笑った。輝きを放つような美しい笑顔だった。 ♪ ━━━━━━━沈黙 不意に、ほたるが言った。 『俺、暇なんだけど』 香梨は困ったように 「だからつまらないって...」 と言いかけたが、ほたるがあわててそれをとめた。 『そうじゃなくて、この後もずっと暇なんだけど...よかったら一緒にいない?』 そういうとほたるは香梨の目をじっとみつめた。 「いい...けど...。」 と香梨は小さくこたえた。するとほたるは、ニッコリ笑って香梨の手を取った。 (どうしよう!!ドキドキがとまらないよ~) ぽぅっと赤面するのを悟られまいと、 「ほら、図書館あそこ!疲れたでしょ?中のカフェで少し休もうよ」 と言って手をふりほどくと、かけて行った。ほたるも一緒に...。 ♪ コトッ━━━━━━━━ ココアの入ったカップを置くとほたるははぁっとため息をついた。ふと目を上げて、香梨をみた。香梨はむかいがで本を読んでいた。その本には“ロンド”とある。時々落ちてくる髪を耳にかけるしぐさがなんとも愛らしかった。 ((可愛いな...)) はじめは、寒そうにして歩く香梨にただ同情して声をかけた。歩いていくうちに香梨のことを色々訪ねた。けれど、答えはどれもあいまいで、ただ一つはっきりしているのは、本が好きだということだけだった。本が好き━━━そう聞いてほたるは、この“ロンド”をすすめたのだった。━━自分を知ってもらうために━━ ふと、香梨が目を上げた。ほたるを見て、困ったように笑った。そして、 「この話...寂しいね...。この、ほたるって人...」 と言った。それに答えるかのようにほたるはつぶやいた。 『それ...俺なんだ。短い命の中で、ほたるが一度だけ人間になる。そして、誰かを愛し、消えていく...。俺のことなんだ...』 「えっ...じゃあ、誰かを愛したらあなたはもう消えてしまうの?そんなのって...」 香梨は妙に悲しかった。いつも一人で本を読んでいた香梨に、一緒にいてくれる人ができた。たとえ一日だけだとしても、香梨にとってこれ以上の幸福はなかった。そして、同時に恋をしていた。離れたくない。失いたくない気がした。一緒にいると、なぜかドキドキしてしまう。少しでも良い印象をあたえたくて、一生懸命だった。それなのに━━━━━ 「...もう、会えないのかな...」 香梨は無意識のうちにつぶやいていた。ほたるは言った。 『たぶん...もう会えないと思う...。俺、香梨が好きなんだ...。たった半日一緒にいただけだけど、もう何ヶ月も前から一緒にいたみたいで...』 香梨の目はぬれていた。あとから、あとからあふれてくる涙がほほを伝い、香梨の手に重ねられたほたるの手をぬらした。ほたるは、無意識のうちに香梨の長い髪をなでていた。ふと、視線が合う。ほんの数秒━━━━ お互いのくちびるが触れ合うまでに、そう時間はかからなかった。 「ほたる...」 香梨は、ぬれた目でほたるを見つめた。ほたるは、優しく笑うと、 『ありがとう...』 と言って━━━━━━━━━━━━━━━━消えた。 小さな、小さな石を、美しく輝く石を残して、ほたるは消えていったのだった。 ━━━━続 コメント* どうでしたか?真冬のちょ→スイートラブです。今回はちょっとうまくいきました。Yとの共同製作です。(っていってもほとんど私が書いたんですけど)これからも、どん×2超短編書きますよ。 by.永久子 |