フラムの日々

クロノス小説~再会~


   再会

「何のためのゲートスクロールだと思っていたんですか!」
珍しくヴァレンが怒鳴るように言う。
ルシアとヴァレンがいるのはサンツスミコの宿舎だ。
窓から見える景色は夜空に満遍なく敷かれた光の絨毯がかかっている。
ルシアとヴァレンはテーブルで互いに向き合うように座って話していた。
「すみません・・・・・・・頭の中が空っぽで、何したらいいのか分からなくて・・・・・・・」
ルシアは叱られている子供のように俯いてチラチラとヴァレンを見たりしていた。
確かにあの時は殆ど何も考えていないで目を伏せていた。その間に皆はゲートスクロールを使ったのか・・・
「危なくなったらゲートスクロールを使えとあれほど言っていたでしょう!」
「じゃあ遺跡に入った意味は何だったんですか!最初からゲートスクロールで部隊を退いて置けばよかったじゃないですか!」
「単にゲートスクロールの節約ですよ。あれは特殊な木と魔術師による呪文が無ければいけない。その数も少なくなってきてますから、本当に危険なとき意外は使いませんよ。」
「!!」
「それだけのためなんて・・・神団は人の命よりそんなことしか考えてないのかよっ!!」
ルシアはさっきとは裏腹に逆上し、テーブルを叩き、ヴァレンを少し睨んだ。
「あの状況でゲートスクロールを使わなかったのは君だけですよ。他全員助かりましたからね。ゲートスクロールのおかげで。」
最後の一言が癇に障る。
「・・・っ」
「もういいですよ!!こんな話!!」
ルシアは音を上げて立ち上がるとドアを開けてうるさいぐらいにドアをバチンと閉めた。
「半分本当ですがね・・・・・・本当は訓練の一つなんですよね。精神的にも落ち着いていられるかの・・・」
ルシアが閉めたドアを見ながら独り言でヴァレンは呟いた。
(にしてもあれでモートゥースを倒してしまうとはね・・・・・・流石に・・・)
ヴァレンは窓の外、星を見ているようだったがその目は本当に空を見ているのか。分からなかった。

「くそ・・・・・何なんだよあの人は!」
ルシアは小声で呟いて月の光でしか照らされていない見えない町の中を歩いていた。
「やっぱりお前は馬鹿なんだな。」
聞き覚えのある声が聞こえた。その瞬間闇からスッとアーネストが現れた。
服装が変わっており、ほぼ全身が黒い服とマントを着ていた。鎧などひとつもつけていない。
だが暗闇の中の黒はやはり暗闇だ。顔がかすかに見える程度だった。
「なんですか。いきなり・・・・・」
アーネストはフンッと鼻を鳴らすと相変わらずの口調で答えた。
「聞いていたんだよ。お前とヴァレンの話をな。あれは訓練だ。どんな状況でも落ち着いてられるかのな。そんなことも分からないとはな・・・・・・」
「ぇ・・・・・・」
ルシアはアーネストの言うことに唖然とした。
「ヴァレンが言うゲートスクロールのことも事実だがな。お前は生半可な覚悟で神団にはいったとでも言うのか?」
「ち、違う!」
ルシアは駄々こねる子供のようにして首を振って拳を握り締めた。
しかし、アーネストは言い続けた。
「言っただろ?お前見たいなのは神団に必要ねぇんだよってな!」
「っ・・・」
ルシアは奥歯が砕けるくらい歯を食いしばり、とうとう我慢できなくなり、剣を抜いた。
「以前にも同じことをしたな。お前程度が俺に勝てるのか?」
アーネストは剣も抜かずにルシアを睨み付けた。
「うるさい!!黙れっ!!」
ルシアはほぼ無意識に答えていた。何度も自分を必要ないと言って来たコイツを・・・・アーネストという男を叩きのめすことだけを考えていた。
そして、一瞬にして地面を蹴ると、アーネストめがけてひたすら走った!
「筋が荒い!!」
アーネストが言い、それを避けるとルシアの横振りは空振りし、アーネストは一瞬にして剣を抜き、ルシアの剣を弾き飛ばした!
ルシアはその衝撃が手に響き渡ってきたのを感じた。
(速い・・・人間業とは思えない・・・)
ガランッと剣の落ちる鈍い音が聞こえた瞬間、足を振り払われ、気づいたら自分の喉元に剣を突きたてられていた。
首筋に暖かいものを感じた。きっと血だ。。。微かに斬られたに違いない。
しかし、そんなことは気にはせず、ただ氷のように冷たい視線を向けているアーネストの目だけをみつめた。
「話にならねぇな。お前なんかとではな。」
アーネストが憫笑した。それを見たルシアは今にも怒りが爆発しそうだった。
「弱者が強者に逆らうんじゃねぇよ!何もできねぇお前程度の奴が!モートゥースを倒した程度で自惚れるんじゃねぇ!!」
反論の言葉が喉元まで出てきているがそれを言えない。
言えば一瞬で首を刎ねられそうだルシアは思っていた。
「神団を続ける覚悟ができているんなら俺たちに従え!馬鹿が!」
アーネストはそういい残すと剣を離し、闇に溶けて行った。
自分とは比較にもならない強すぎる力、それを見せ付けられたようだった。
何なんだ、この格差はっ!
ルシアはツっと流れた首筋の血を抑えるようにするとそのままだらしなく立ち上がり、自分の剣を、セルキスソードを片手で拾い上げ、鞘に収めた。
「本当にアイツが言ったことが本当だったら・・・俺は・・・」
星の光だけが闇を溶かしている空をふと見上げてルシアは首筋を押さえた。

ルシアは朝の陽ではなく殆ど気温が高くなり、蒸し暑さで起き上がった。
夜はあれだけ寒かったのに。と思う。
神団の柔らかい感触のベットとは違う。硬いベットから体を起こした。
手で大雑把に髪を整えると深くため息をついた。
宿から出ると海からの涼しい風が体中を包んだ。
やはり、海が近くにあるだけでこれだけ涼しくなるのだ。故郷のマイヤー島でも早朝、海からの風が寒いほど感じれるのだ。
夜は殆ど暗くて分からなかったが、砂漠の砂と同じような色をした泥を固めたような建物が並んでおり、朝早くから露店でも開くのだろうか、店の準備をしている者も多かった。
そして、そのまま海へ行き、蒼く澄んだ海水で顔を洗った。多少の海水が目に入って、ルシアは軽く目を擦った。
顔についた海水を手で払うと少し露店とかも見てみようかな。とルシアは町を回り始めた。
武器を売ってるものもいれば、アクセサリー何に使うのか良く分からないものまで売っている。
「おじさん、これって何?」
ルシアが足を止めた露店の店主を呼び、奇妙な四角い形をした瓶を指差した。
「あぁ、これはね、カニヴァラスの毒だ。」
平然と答える店主に対してルシアは驚いた。カニヴァラスと言えばまだ砂漠を歩いていた時だ。遠くのほうにあった縦に長いサボテンだ。
近づくと毒のついた針を360度に飛ばしてくる、危険なモンスターの一種だ。
「何でこんなものがここに?」
「旅の人や兵士さんたちもね、これを自分の武器に塗るんだ。そうすれば毒ですぐに敵を倒せるだろう。坊主もひとつどうだい?」
ルシアは坊主と言われて少し腹が立ったが、すぐに気を取り直すと「いくら?」と聞いた。
「サイズがSなら1000クロ、Mなら2000クロ、Lなら2500クロだ。」
正直安いのか分からないが自分の手持ちのお金を見てルシアはSサイズを頼んだ。
「本当は弓の矢に塗るのが最適なんだけどね。あぁ、あと扱いには気をつけろよ、下手すりゃ自分が毒にやられちまうからな。」
「うん、ありがとう。」
ルシアは頷くと、店主は大きく微笑み「毎度!」っと言い頭を下げた。
しかし、こんなものにも毒があって人が死んでしまうのか。そう思うとルシアは少し怖くなったが、直ぐにポケットへとしまい込んだ。
それから軽い盾を一つ買い、それを腰の鞘に引っ掛けた。
「さて、宿に戻ろうかな・・・でも昨日はあの二人とあんなことがあったし。」
正直複雑な気分だ。自分の憧れていたものなのにこんな酷いとは思ってもいなかったのだ。
でも同意書にサインをしたのは自分自身だ。ここでいきなり脱退などしてみれば自分の恥だ。
いくら嫌でもやるしかない。やるんだ。自分が決めたことなのだから。
ルシアは深呼吸をし、静かに唾を飲み込んだ。
宿まで戻るとそこには神団の人間が集まっていた。
「何をしているのだろう?」微かにルシアは呟いて覗き込むようにして見ると少し早歩きでその場へ向かった。
「ゲートパックを設置します。これでクロノス城とのゲートが繋がるでしょう。」
ヴァレンだ、彼と目がチラッと合うとルシアはあらぬ方向に目を背けた。
そんなことも気にせずヴァレンは手に乗るような大きさのゲートパックを地面に置いた。すると、そのゲートが光を放ち、どんどん大きくなっていった。
光が消えるとそのゲートパックはクロノス城にあったものと同じゲートに変わっていた。
一体どんな原理になってるのかルシアには全く分からなかった。
「あとは援助隊が来るのを待ちましょうか。」
ヴァレンはそういうとローブのポケットに手を入れ、町の中に歩いていった。
ルシアがそれを見ているとポンッと誰かが自分の肩を叩いてきた。
ルシアが振り返るとそれは自分より少し年上だろうか。一人のパラディンがいた。髪は薄い黄色だ。笑みを浮かべているが、目つきは鋭い。
「君も神団の一人だよな?」
初めて会った割りにも比較的軽い口調で答える。
「はい、そうですけど。」
と困ったようにしてルシアは答えた。
「ふぅ~ん。じゃあ稽古に付き合ってくれないか?どうせ援助部隊が来るまで暇だろ?」
「ま、まぁ・・・」
一体何なのか、こんなに気安く話しかけてくる人なんて初めてだったルシアは少し困った。
「おっと、自己紹介がまだだったね。」
彼はそういうとさらさらとした髪を掻き揚げて言った。
「俺はラルフ。まぁシュレイダー将軍と同じ名前だから覚えやすいだろ?」
そう言われるとルシアはうんうんと頷いた。
「確かに覚えやすいと言えば覚えやすいですね。あぁ、俺はルシアって言います。」
そういうとラルフは「タメ口で良いって、かたっくるしいからさ。」と殆ど言い捨てるように言った。
「えっと、じゃあどこで稽古なんてするの?」
「さぁ?わかからない。」
その答えにルシアは少し飽きれた。もしかしたら天然なのかもしれない。このラルフという男は。
「分からないって・・・う~ん。じゃあさ、少しサンツスミコから出たところの砂漠でやろうよ。」
「そうだなぁ、そうするか。」
神団の兵士とは思えないくらい気楽な性格だ。
ラルフは何かの鼻歌を歌いながらサンツスミコの門の前へと歩いていった。

「さてとっ、まずは適当にやってみようぜ。」とラルフは言うと腰に掛けてあった鞘から一本の剣を抜く。
見たことも無い独特の形だ。片刃で軽く弧を描いていた。
「ラルフ、その剣って何って言うの?」
「あぁ~これね。『カタナ』って言うんだ。」
「カタナ?」
ルシアは何がなんだかよく分からないで首を傾げた。
ラルフはん~と考え込むとルシアに説明を始めた。
「まぁ、あれだ、片方にしか刃が付いていない特別な剣。見たいな感じだなぁ。」
ふぅ~んとルシアが言うとルシアもセルキスソードと店で買った盾を握った。
「いつでもOKだぜ。」とラルフはカタナを両手に持って体を少し右に傾けて刀をいつでも上になぎ払えるような体制でいる。
ルシアはセルキスソードを持った手で軽く昨夜アーネストに切られた首筋に手を当てた。
「あぁ、じゃあいくぞ!」
ルシアが駆け出す。
元から足が速いからか、砂漠では十分とも言えるほどの速さで走っていた。
ラルフの刀とルシアの剣がぶつかり、鈍い音が手から耳へと伝わる。
「おーい上ががら空ききだぞ。っと!」
ラルフは地面の砂を蹴飛ばすとそれがルシアの顔に飛び掛った。
「うわっ!」
咄嗟に盾で防いだが当たっていたら焼けた砂が目に入る勢いだ。
「あっははは。大丈夫かい?」
ラルフはその場から身を退けると刀の刃が付いてないところで肩をトントンっと叩いた。
「ゆ、油断しただけだっ!」とルシアは言い訳をした。
「油断しちゃあ実戦じゃあソッコー殺されちゃうぜ?油断はするなよ。」
さらにルシアが切り込みにいくとラルフの刀が頭上に振り下ろされる。
それを盾で受け止めると、ラルフの胸目掛けて剣を突いた、が。
「おっとっと、あぶねぇ~」
チャンバラでもしているかのように笑いながら体を横に仰け反らせて見事に避けた。
「んじゃあ次はこっちからっ!」
今度はラルフが剣を横に振り、それをルシアは盾で受け止めず、一気にしゃがみこんで避けた。
「っ・・・このおおおお!!」
ルシアは青白く光を纏わせた剣を大きく振り上げると我武者羅とでも言うかのように振り下ろした!
それはラルフを狙ってはいなかった。青白い光が爆発したかと思うと、砂がすごい勢いで空中に弾き上がった!
「うわっと!」と微かにラルフの声が聞こえた気がした。
『今だっ!』とルシアは首を振るわせて髪の毛に入り込んだ砂を払うと目を眩ませているラルフに向かって剣の平を振った。決して斬るつもりではない。
するとラルフは剣の平で叩かれるのを見ていたかのように目を閉じたままこちらを見て「参った参った!」と殆ど叫ぶように言った。
ルシアの腕は反射的に止まって剣はピタっとラルフの胴ぎりぎりで止まった。まるでこちらが斬りつけられるのを分かっていたというのをタイミングまで計った位にギリギリの位置だ。
「いやぁ、砂ぶつかけられるとは思ってもいなかったからよぉ。」
と目を擦りながら笑っている。目に砂は入ってないみたいだが、わざとらしい。
「お前、いい腕してるなぁ。」
ラルフはやっと目を見開くとそういって笑みをみせる。ルシアは思わず嬉しくなり鼻の下を啜って見せた。
でもルシアは思った。コイツは、本当に本気を出していたのだろうか。自分ではそうには思えない。なんせ戦い中に余裕で喋っているのだ。
そう思うとルシアは少し複雑な気持ちになった。しかし表情には出さなかった。
「さてと、とりあえずは町の中に戻るか。外に長いこといると干からびちまうからな。」
ラルフはそういうと、カタナを収めて汗で付着した砂を額から払って「行こうぜ」と言って親指を立てて城門を指した。
ルシアは頷いてセルキスソードを収め、盾を鞘に垂らすと少し駆け足でラルフの後を追った。

それはもう陽が西のほうに落ちていくところだった。
ルシア達は朝設置したゲートに集合とのことを聞き、直ぐにゲートへと向かった。
するとゲートからは神団の一員だと思える人たちが次々とゲートから現れてきた。
「!?あっ!あの人!!」
ルシアはラルフの隣で大声を出して、一人のウォーリアを指差した。
ラルフはルシアの口の前に人差し指を立ててルシアを静まらせた。
「何だよ。あまり大声出すなって。」とラルフは人差し指をルシアの口元に突き立てる。
「でも、あの人エタンさんだと・・・」
「後でちゃんと確かめれば良いだろ!あまり騒ぐなよっ!」
と緊迫した空気の中ラルフはこそこそと話してきたが、回りの兵士たちに少し睨まれ、ラルフはぺこりと何度もお辞儀をして謝っていた。
「あ、あれは・・・・」
「っち!次は何だよっ!」
「キャロル・・・・・・さん」
ルシアがじっと一人のバルキリーを、キャロルを見ると、彼女もこちらを見て驚いた顔をしていたが直ぐにルシアに笑みを見せた。
ルシアはただエタンと、そしてキャロルが無事だったのが何よりも嬉かった。

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