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フラムの日々
クロノス小説~揺ぎ無い剣~
~揺ぎ無い剣~
「本当に、二人とも生きていてよかったよ!」
ルシア、ラルフ、キャロル、エタン、四人が宿舎の食堂にあたるところだろう。丸いテーブルに集まってルシアがそう話し出した。外にはもう闇が広がっている。
ルシアとキャロル、そしてエタンは満遍なく笑顔を浮かべていたが、ラルフは口元だけに笑みを浮かべてルシアたちを見ていた。
「私たちだって、ルシアがシュレイダーの爪で体を貫かれたとき、もうだめかと思ったんだからぁ!」
とキャロルも口元に指を当てながら喋る。
「まぁ、生きて再会できたことをコエリス神に感謝しなきゃな。」
とエタンは言うがルシアはタダイのことを思い出すと胸の奥が痛んだ。
でも、ここでそんなことは話したくは無い。
そしてラルフが口を開いた。
「キャロルさんか、一回確か・・・ゴブリンの洞窟での物資補給するので御一緒したような?」
少し考え込むとキャロルが握った拳で掌をポンッと叩くと「そうそう!」と答えた。
「道にある箱の中にポーションとか補給しに行ったときにそういえば居ましたよね。ラルフさんも!私始めての任務だったので覚えてますよ。」
「おぉー覚えていてくれて嬉しいねぇ。」
とラルフは腕を組んで笑って見せた。
「確か、エタンさんとはケタース聖堂の探索の時だったかな。御一緒しましたよね?」
エタンは少し考えていたが、パッと思い出したように言った。
「あぁ、あの時か!あんたは変わった剣で戦っていたから覚えているぜ。」
そういうとルシアはチラッとラルフをみると、「お前と同じようなところに目付けてるな。」とでも言いたげに笑って見せた。
「まぁ、何かしらの縁だろうね。仲良くしようや、3人とも。」
ラルフは微笑みながらそう言う。ルシアはどんな人とでも仲良くできるラルフの態度がとても気に入っていた。
この人となら釣り合いそうだ。と。
「んじゃ、お先に俺は寝るとするよ。明日には任務がいきなりあるらしいって聞いたからな。お前らも早めに寝ておくといいと思うぜ。んじゃな。」
ラルフは右手を軽く振ると階段を上がっていった。それを見送るように皆で手を振っていた。
「それじゃあ、俺も休むとするか。お休み。ルシア、キャロル」とエタン
「お休みなさい。」
と二人はほぼ同時に言った。
エタンが1階の自分の寮に入っていくのを見て、そのドアが閉まった瞬間、テーブルの空間を静寂が包み込んだ。
何故だろうか。一呼吸、一呼吸が苦しい。
「それじゃあ私も寝るね。お休み。ルシア。」
キャロルのその一言が静寂をゆっくりと消していった。
ルシアはハッとすると、椅子から立ち上がろうとするキャロルに呼びかけた。
「あ、あの!」
無意識に呼びかけていた。別に話したいことなんて無いのに。
「ぇ?何?」
キャロルは子犬が首を微かに傾けるくらいの仕草をした。
「あ、あの・・・えっと・・・えっと・・・。」
言葉が出そうで出ない状況にルシアは目を泳がせた。
「やっぱ何でもない!気にしないで。」
ルシアは困ったように笑って見せた。
「そう。じゃあお休みなさい。」
「あぁ、お休み。」
そういって微笑むと、キャロルが階段を上っているのを見送ると大きなあくびをしてから自分も部屋へと戻った。
「ちぃ!逃がすか!」
そう叫ぶ声が聞こえてルシアは目が覚めた。
外から聞こえるみたいだが、外はまだ朝にすらなっていない。
「なんだ・・・一体。」
ルシアは起き上がるとズボンだけを履き替えて癖になったのか、いつの間にかセルキスソードを腰に掛けた。
外に出ると、そこにはアーネストが剣を抜いて立っていた。
その剣は3人の黒衣を纏った男達に向けられていた。
「やはり、お前らだったか。ここを荒らしてやがったのは。」
「アーネスト・・・さん?」
ルシアがそういうとアーネストは振り返りもせず。
「ルシアか!?お前は下がっていろ!」
ルシアはその言葉に苛立ちを感じ、自分も剣を抜いた。
「俺も戦えますよ!」
「馬鹿野郎!人間との戦いだ!モンスターとは違うんだよ!」
そういうと三人の黒衣の男が一斉に武器を持ってアーネストに襲い掛かった!
「ちっ!」
アーネストの舌打ちが聞こえたかと思うと、一人の男の胴を切り払い、倒れかけている相手の肩に手を乗せるとその相手の肩を利用して前方へ倒立し、その男を盾にするように押さえつけた。
彼の背後からは二人の男が剣を振り上げて襲いかかっていたのだが、そうして見事に避けた。
そして二人の男の攻撃の盾になった胴を切られた男はその仲間によって体を切り払われた。
悲痛な断末魔が聞こえる。
ルシアは見ていられなくなり、口を押さえるとその場で嘔吐した。
「ちぃ!あの馬鹿・・・・!」
その声に気づいたのか一人の男はルシアに目を向けて走り出した。
アーネストはそれに気づくと、交戦中のもう一人相手の頭に剣を突き立てた。敵は悲鳴を上げる間も無く絶命した。
そして、もう一本の剣、ヴィートゥスを抜き、韋駄天の如く走り出した!
「避けろ!この馬鹿!!」
「ぇ?」
ルシアは顔を上げると、そこには剣を構えた男が一人、眼は氷のように冷たい。
「畜生!当たりやがれ!!」
そうアーネストは叫ぶとヴィートゥスをものすごい勢いで敵へと投げつけた。
「うわああああ!!」
ルシアは腕で頭を覆うようにして跪いている。その瞬間敵の刃が微かにルシアの肩を突き裂いた
「燃え尽きろ!」
すると、目の前に火柱が上がり、それにアーネストの投げた剣が突き刺さり、その血がルシアに飛び散ってきた。生暖かい。
一瞬だろうか、時間が止まった感覚がした。
「ルシア!ルシア!大丈夫ですか?」
ハッと意識が戻ると声の方向を見た。ヴァレンだ。
その時、泣きそうな顔になると、「ありがとう」とお礼を言った。
既に戦闘があった広場には殆どの神団の兵士達が集まっていた。
勿論、キャロルも、ラルフも、エタンも。だ。
彼らはルシアを気遣い、布を取り出すと顔を拭いたりしていた。
そして、アーネストは非情な目つきで焼け焦げた男を見下ろすとその男の背中を踏みつけ、体に刺さった剣を抜いていた。
「朝っぱらから、大変な騒ぎになってるな。」
ラルフは昨夜4人で話しているところにキャロル、エタンと居た。
肩の手当てを受けに行っていた。
「ルシア、大丈夫なのかしら。」
「また辛い目に遭ってるな。ルシアは。」
エタンは目を伏せて言う。
「ん?アイツ過去に何かあったのか?」
ラルフは首を傾げると、エタンはあぁ、と呟いた。
「あれはルシアが初めての任務の時だったらしい。ケタースヘルでの出来事だ。シュレイダー戦の」
「あぁ、あの時は俺はエフェルス地域に派遣されていたからな。その話は帰ってきてから聞いたよ。死んだ奴がたくさん居るってな。」
エタンが頷くと、続けた。
「あいつは死に掛けた仲間を助けようとしたが助からなかった。目の前で仲間が死んだんだ。」
「そうか・・・」
そういうとその場が暫く沈黙していた。
「でも・・・」とキャロル。
「でも、ルシアはきっと立ち直れると思うの。だって、彼がここに居るのだって、彼自身が決めたことよ?きっと又立ち直れる。そう・・・思う。」
それを聞くと、ラルフら腕を組んで、だといいな。と呟いた。
「いくら敵だったといえ目の前で人が死んだのには変わりないだろ。それに、初めて身体を切られたやっぱりショックなんだろうな。」
「そうだな。」
そういうと、廊下の奥のほうからルシアが死んだような目をして歩いていているのが見えた。
3人とも思わず立ち上がる。服は着替えており、顔についた血も当たり前だが洗い流していた。
「平気か?ルシア。」
ラルフがそういうとルシアは「あぁ、ありがとう」と蚊の鳴くような声で言った。
「とりあえず今は休め、いいな?」
ラルフは肩を軽く2回叩くとルシアは頷き、部屋へとゆっくりと歩いていった。
(トラウマになりすぎなければいいが・・・な・・・)
ラルフはルシアを目で見送りながらそんなことを考えてた。
「さっきの騒ぎについて、詳しく説明してもらえませんか?アーネスト。」
ヴァレンはそう言うと、アーネストは髪の間から上目でヴァレンを見ると言った。
「奴らはシドスの一員だったんだ。まぁ、何せゲートを破壊しようとしていたからな。そこで俺は奴らを見つけて呼び止めた。」
アーネストはヴァレンが手帳にペンを滑らせているのを確認すると、続けた。
「アイツらは最初は7人いた。あとの4人は何もしないで逃げたが、残った三人は武器を出して来たんだ。そこで、あの馬鹿野郎が宿から出てきて足手まといになったってわけだ。」
ヴァレンはペンで文章にピリオードを打つと、こう言った。
「なるほど、逃げていった4人が気になりますね。」
すると、ヴァレンの背後から一人のウォーリアの兵士が走ってきた。」
「ヴァレン様、報告です。黒衣を纏った集団はサンツスミコから逃亡し、モンタヌゥス神殿へと逃げた模様です。」
「モンタヌゥス・・・神殿か。」
ヴァレンの表情が硬くなる。何か嫌な事でも思い出すような、そんな顔だ。
「チッ、ウトウトしてても仕方ねぇな。あの神殿はでかいからな。完全に内部捜索するのに3日は要する。遠くに逃げられれば捜索困難だ。」
アーネストの意見にヴァレンも頷いた。
「それにあそこは魔物の巣窟だ。下手な兵士が入れば生きては帰ってこれない。ある程度の要領を満たしている兵士達の部隊をあと6は欲しいですね。」
「仕方ない。城へ戻って兵士を集めるしかないな。」
そう言うと、アーネストは何も言わずにゲートへと向かった。
「やれやれ・・・忙しいですね。最近は。」
ヴァレンは軽く咳払いをすると、アーネストの後を追った。
あれから多分随分時間が過ぎたのだろう。外の空は紅葉の色に変わっている。
ルシアは何度も、何度も自分の顔を触っては話して身を震わせた。
僅か数秒の時間で3人も人が死んだ。いくら敵とは言え人間だ。
「あの人は正気なの・・・か。」
ルシアはアーネストの姿を閉じた瞼の裏に浮かべた。
元はと言えば戦えもしないのに出て行った自分が悪いのだとは思っていた。
だけど、殺すまでしなくても良かったのではないか。
こんな事を何百、何千、何万と考えていた。
そこにドアのノックが聞こえた。
ルシアは重い瞼を開けると、「どうぞ。」と言った。
扉を開けてきたのはキャロルだった。
「落ち着いた?ルシア。」
ルシアは首を縦には振れなかった。
「無理はしなくていいよ。私は明日からモンタヌゥス神殿に行くから。ルシアは落ち着くまで休んで。」
「モンタヌゥス・・・神殿って?」
「えっとシティス=テラからエフェルス=モンタヌゥス地方に続く大きな神殿よ。内部は強い魔物がたくさん居るから。」
「・・・そう。」
ルシアはそういうとキャロルの悲しそうな視線を見て目を逸らした。
「それじゃあ。お休み。」
「あ、ちょ、ちょっと待って。」
ルシアは呼び止めるとベッドから起き上がり、普段履いているズボンのポケットから四角い瓶を取り出し、ポーションの空きビンを取り出すとその瓶の中の液体をもう一つの瓶に移した。
「これ、使って。カニヴァラスの毒で矢の先に塗れば多分強力な武器になると思う。」
キャロルはそれを受け取ると「ありがと。」とルシアに微笑み、部屋を出た。
「本当にこれでいいのか・・・・・・・」
ルシアは眉間に皺を寄せて奥歯を噛み締めた。
昇りかけてる朝日を影にヴァレンは地図を地面に広げた。
「A,B班はマエルからへ送ってもらいピュリカ隧道からテンプルロードを通って神殿へ進入。C,D班は砂漠を越えてモンタヌゥスの入り口から侵入し、我々、E,F班はマエルからターラへ送ってもらい、神殿の出口を塞ぐ。これが作戦です。」
「ちょっといいですか?ヴァレンさん。」
ラルフはカタナの柄に腕を乗せるとこう言った。
「A,B班は何故ピュリカ隧道からいくのですか?」
ヴァレンは軽く咳払いすると答えた。
「4つも部隊が同じ入り口から入ると捜索力が落ちますから。あえて入り口が遠いところ同士で結んだんですよ。」
「なるほど。」
ラルフは頷くとヴァレンは説明を続け、「じゃあそれぞれの班へ戻ってください。」
そうヴァレンが言うと彼らのもとを走り抜けるような冷たい風が海から吹きぬけた。
「準備はできたか?皆。」
金髪が朝の太陽に輝くとそう兵士達に語りかける、ラルフがいた。
「俺が部隊D班の隊長になったラルフ・グリットだ。よろしく頼むぜ。」
ラルフは兵士達それぞれの顔を見るとキャロルを確認した。
エタンは確かE班だ。
「俺達の捜索場所はモンタヌゥス神殿の2階部にあたる。各自気を抜かないで行けよっ!」
兵士達は声をあげた。
C,D班は馬車でモンタヌゥス神殿へ向かった。こんな地形では馬車の馬代わりにしてあるモンスターも片道で息絶えるだろう。
しかし、背に腹は変えられない。
「しっかし、相変わらず暑いね、この地方は。」
ラルフは被ったフードの下から水筒を取り出すと温い水を喉に通した。
「ここも元々はクロノス城みたいに豊かな土地だったんですよね?確か。」
フードの中でも分かるクリスタルイエローの髪を微かになびかせてラルフの顔を覗く。
「あぁ、まぁ、タルタノス戦争の呪いでこんな風になっちまったんだ。しかたねぇよな。」
そこで会話は途切れた。話すごとに喉が焼けそうだ。
馬車が止まったのは陽があと10度傾けば夕方になる頃だった。
ラルフ達は武器を取り出すと、神殿内部へと迷いなく進み始めた。
馬車のモンスターは力尽きている。
「皆、行くぞ!俺について来い!」
神殿内は異常に冷たい。外とはまるで違う。
それに、目の前には大量の魔物がいる。
「ここは戦闘無しに通れないな。さてと、行くか。」
ラルフがそう言うとD班の兵士達は次々と走り出し、魔物へ武器を向ける。
それに続くように、C班の兵士達も命令を受け、走り出した。
ラルフはカタナを抜くとそれで次々と敵を一刀両断していく。
「パビティごときじゃ相手にならねぇぜ!」
パビティは神殿の中では弱い部類に入る小型の二足歩行モンスターだが、強さはそこらへんのモンスターをはケタが違う。それを軽々と倒すラルフも又、だ。
そしてラルフを囲むパビティを全て切り払うとパントゥスへと向かう。
キャロルは遠くから兵士達を狙って弓を放つボーンアーチャーを弓で狙い打ちながら援護をした。
しかし、全てを倒せるわけではない、ボーンアーチャーの矢に直撃し、呻き声をあげて倒れていく者もいた。
「バルキリーは散開し、ボーンアーチャーに応戦しろ!俺達は奴らにまで気を集中はできない!」
ラルフが魔物を切り捨てながら怒鳴るように言うとバルキリー達は無言でボーンアーチャーへと弓を向けた。
「『ムラマサ』の切れ味ナメんなよ・・・」ラルフのカタナ、ムラマサの刃がギラギラと輝く。
ラルフは普段に見せないような目つきでパントゥスを睨みつけると、背中に生えてる羽を切り落とし、地面に落ちたところで首を切り落とした。
魔物の鮮血を浴びたムラマサは怪しく光った。
その時には、神殿の床には魔物の亡骸が落ち、血のにおいだけが漂った。
「制圧。できたみたいだな。よし、俺達はF2へ向かう!後ほど来る別班とでの捜索を頼む!」
ラルフは人が変わったように言うと、部隊を引き連れ、長い神殿の道に走り去った。
「やっぱり、俺も行かなきゃ。」
そんな声が一つの夕日に染まった部屋に響く。
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