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フラムの日々
クロノス小説~吹き抜ける風~
~吹き抜ける風~
「ルシア、傷の具合は平気なの?」
キャロルはルシアを微かに見上げるようにして言う。
「あぁ、いまは何ともない。大丈夫だよ!気にしないでいいからさ。」
ルシアはキャロルの表情が曇るのを見てわざと明るく振舞った。
「そう・・・でも、気をつけて、無理しないでね。」
「あっ、あぁ・・・ありがとう」
ルシアは顔をキャロルから逸らせると安堵の息を漏らす。
「あまり喋るなよ。あいつ等と遭遇したら厄介だからな。」
ラルフは振り返って、小声で言った。
「あぁ、ごめん」
ルシアはそういって言葉を切った。
そしてそのまま何も言わずにいままで来た道を戻っていくと、先ほどまで魔物と戦闘をした所へ戻りついた。
「多分、こっちの道を進めば出口に着くはずだ。」
丁度ルシア達が戦闘した場所の曲がり角に着き、ラルフは指差した。
「この先に、あいつらも・・・」
ルシアは呟くと、ラルフは小声で「行こう。」と呟いた。
「もう随分待ってますが来る気配無いですね。」
「内部にいる部隊が倒しているか。それかその逆か・・・だな。」
「とりあえず神殿の内部にプルでも偵察に飛ばしますか?」
「あぁ」
アーネストは月の光りに照らされ神殿の出口の壁に寄りかかりながら腕を組んで言い返した。
プルとは「サモン プル=ラヴァス」というマジャンの召還魔法である。
召還されたプル=ラヴァスという小さい羽の生えたボールのように丸い体を持つ魔物はマジシャンの指示通りに行動を行う。
プル=ラヴァスというのを省略してプルと呼ぶことが多い様だ。
ヴァレンが詠唱を始め、プルを召還すると指示を出すと、神殿の中にプルが飛んでいった。
それを見ると、アーネストは上目だけで空を見上げた。
空には万遍無く光りの粒が敷き詰められている。これだけあれば流れ星の一つや二つあってもいいくらいに。
「まぁ、信じるしかないでしょう。あぁ、そう言えばルシアの件ですけど。」
アーネストの眼がヴァレンへと向けられる。風に揺れる髪で眼が見えたり見えなくなったりしている。
「まだ確証は無いんだ。あったとしても・・・俺は。」
「えぇ、そうですね。僕としたことが変なことを聞いてしまいましたね。」
「別に、構わないさ。」
アーネストが言い切るとヴァレンは何も言わずに咳払いをした。
「ん・・・」
ヴァレンのもとに先ほどのプルが飛んできてヴァレンが手を差し伸べるとその掌にゆっくりと舞い降りた。
「ふむ、敵は近いのですね。」
プルが羽をパタパタを動かせながら何かを必死に伝えているようだった。
「分かった。もういいですよ。」
ヴァレンがプルのちょうど額のあたりを人差し指で軽く突くとプルは一瞬にして光りの粒子となって消えた。
「近いか。ヴァレン」
「えぇ、もう近くまで来ているようです。」
アーネストは組んでいた腕を解くと腰に掛けてある剣を引き抜いた。
それを合図とでも言うかのように、アーネスト、ヴァレンの率いる部隊も次々と武器を構える。
そして、アーネストは神殿の出口から微かに顔を出した。その時だった。
「おやおや、準備がいいねぇ。神団の皆様は。」
「・・・」
神殿の中を覗くと微かに見える。一人の黒衣を着た男を先頭にシドスの部隊が歩いてきた。
「全く。こっちがせっかく挨拶してんのに返事無しか?」
わざと大声を出してるようにしか思えないのは先頭の男だろう。とアーネストは感じた。
「アーネスト、配置のほうは。」
ヴァレンは杖を片手にアーネストを見て言う。
「バルキリーは後ろへ、弓を持つものなら弓を構えそれぞれ配備、ウォーリア、パラディンはこちらから攻め込む準備を、マジシャンは魔術での援護を。」
アーネストは殆ど早口でそれを言い通すと、ヴァレンは手のみで合図を出し、それぞれを配備させた。
「貴様らは何の目的で!」
神殿の中にいるシドスにも聞こえるような大声でアーネストは叫ぶ。
「ほぉ、誰かと思えば神風のアーネストか。」
「!?お前・・・は・・・・・・」
アーネストは壁から覗き込んでいる顔を歪ませた。その表情には怒りが込められていた。
「覚えていたか。いや、覚えてなきゃおかしいかっ!」
男は皮肉を込めたように笑うと黒衣の中から剣を取り出し、鞘からギラギラと刃を光らせながら抜刀した。
「ちっ!弓っ!打てーっっ!!」
アーネストは叫ぶとバルキリーは一斉に神殿の入り口へと弓を放つ。
それはまるで矢自体が神殿の入り口に吸い込まれ、川が流れるように次々と放たれていく!
「ふっ・・・」
男は剣を持っていない左手を肩まで上げると、後方から一人の黒衣を着ている者が杖を取り出し、その杖が光を放った瞬間だった。
ゴゥっと地面が唸ると、冷たい空気がアーネスト達のいる場所にまで吹きぬけた。
「っく!高度な魔術ですね。」
ヴァレンは腕で顔を伏せると小さく呟いた。
そこには、神殿の壁全体を覆うほどの巨大な氷の壁が全ての矢を防いでいた。
「防がれた・・・!?」
敵のマジシャンのアイスプリズンだ。
しかし普通のアイスプリズンとはまるでケタが違う。
「ヴァレン!エクスプロージョンを!あれを溶かせるかっ!?」
「えぇ!やってみます!」
そう言って頷くとアーネストは神殿の内部へと一気に駆け出した。
それに続くように兵士達はアーネストを追うように神殿へと駆け込む。
「アイツは・・・俺がっ!」
手に持つ剣がギラギラと光る度に沸きあがってくる怒りを全てあの男にぶつけたい。
そして氷の壁が目前に迫って来た瞬間にそれはヴァレンのエクスプロージョンによって一気に蒸発し、水蒸気が体の全てを包み込んだ。
「でやあああぁぁぁっっ!!!」
アーネストはその手に持つ剣を視界に入る唯一人の男に向かって振り下ろした。
切り裂くのではなくその怒りが込められた剣で全てを叩き壊すかのように。
「フンッ!」
それを男は剣で受け止めるとアーネストは直ぐに剣を引き離し直ぐに刃を横へと切り払った。
「ちっ!こんのおおぉぉっっ!!」
憎い。この男が憎い。
アーネストの髪の間から覘く眼は今までに無い怒りと憎しみが込められていた。
「グリフィス!お前だけは!!」
剣と剣が交わし、弾き合う度に火花が散る。
アーネストとグリフィスの周りでは魔法が炸裂しあい、魔法を消滅すれば消滅されるを繰り返していた。
「珍しいなっ!神風のアーネストがここまで怒り狂うとはなっ!」
「ちっ!黙れっ!!」
アーネストがそういった瞬間にシドスの男、グリフィスの剣が青白い光りを放ちながら振り下ろされた!
「くっ!」
それを剣でアーネストは受け止めようとした刹那。
青白い光りは炸裂しアーネストの剣を微塵に砕いた。
「!?」
グリフィスの口元に勝利を確信した笑みが浮かぶ。
「くそ!まだだっ!!」
アーネストは右の腰に下げてある剣を。ルゥのヴィートゥスを引き抜く!
眩い光りと共にヴィートゥスの刃が現れる。
「ほぅ・・・」
グリフィスは焦りを見せるどころかそれを見て笑みすら浮かべていた。
「ルゥか・・・」
「この剣は・・・あの時の・・・!!」
アーネストは言葉を切ると刃をグリフィスへと向けた。闘志を剣の先から敵へと流し込むように。
それを見たグリフィスも剣を構える。
「アーネストさんっ!!」
「!?」
アーネストは声の方向に目を向けた。
そこには剣を抜いて走ってくるルシアがいた。
先頭にはラルフがいる。
「ルシア!?・・・ちっ・・・こんな時に!」
「内部を捜索してたやつらか。始末を命じたが、やられたか。」
ルシア達を見てグリフィスは呟くと直ぐに目を背け、アーネストに向き直った。
「まさか奴らにレイを取らせたのか。」
「な、レイ・・・だと。」
「フン、まぁいい。こちらもそんな化け物のような力をもつ武器が3つもあるんじゃ分が悪くなったからな。下準備は出来た。ここは退かせて貰おうか。」
「貴様っ!逃げるのかっ!!」
「退くぞ!お前ら!!」
グリフィスがそう叫ぶと戦っていたシドスの人間はすぐさまゲートスクロールを取り出すと光りに包まれて消えていった。
「ちくしょう・・・畜生!!」
アーネストは手に握ってたヴィートゥスの刃を思いっきり神殿の床に叩き付けた。
神殿の中にその音が響き渡る。
「アーネスト・・・さん?」
アーネストには聞こえないのは分かっていた。
ルシアはこれまで激情を表した事がなかったアーネストを見て唖然と立ち尽くした。
「こちらも退くぞ。集落まで行く。幸い死者も居ない。」
アーネストはヴィートゥスを鞘に収めるとあっさりと言い捨て、神殿の外へと出た。
「ルシア、ちょっと俺はアーネスト様に報告しなきゃいけないからな。先、行くぜ。」
「うん。分かった。」
ラルフは頷くと先へと走っていった。
「結局俺達が来たときにはもう戦い終わっちゃったみたいだな。」
「幸いだったと思いますよ。相手はシドスでしたし、僕らみたいなのが出て行っても逆にやられたと思いますよ?」
エフィームは苦笑しながら言う。
「そんなこと・・・やってみなきゃ・・・」
「コラコラ、ルシア、変な意地張らないで。」
キャロルがため息をつくと仕方無いと言わんばかりの表情で言う。
「・・・そうだな、ゴメン。」
「まぁ謝らないでもいいですよ。事実ですから。」
「な・・・エフィーム!やっぱゴメンの言葉撤回な!」
ルシアが笑うエフィームに対し指を指しながら言うとキャロルのため息がまた一つこぼれた。
「じゃあサンツスミコのほうには報告は行ったんだな。」
「えぇ、多分今頃は神殿の1階の兵士達もサンツスミコに着く頃だと思いますけど。」
アーネストはターラの集落の小さい宿舎の中の部屋でヴァレンと話していた。
あの後、皆に被害は無く、無事にターラの集落へと辿り着いたのだった。
そして時は既に朝へとなっていた。
「とりあえずまだ奴らの目的も何も掴めていない限りでは行動もできないな。」
「えぇ、ですが次の行動はもう目に見えてるかもしれませんよ?」
「ラルフの・・・レイ・・・か?」
ヴァレンは静かに頷く。
「おそらく奴らはレイを目的で神殿に入った。それ以前にサンツスミコでの行動はおそらく又ゲートの破壊でしょう。まぁそれはアーネストが防ぎましたけどね。」
「ラルフにはよく言っておかないとな。アイツ自身まだレイを完全に使いこなせるわけでもない。命を狙われる可能性も大いにある。」
「そうですね。本人には自覚があるから良いですが。それでは僕は食事に行きますね。」
「あぁ。」
ヴァレンはそういうと座っていた椅子を離れ、軽く頭を下げて部屋を出た。
(サンツスミコでの2度に渡るゲートの破壊・・・一体何をしようと・・・)
アーネストは立ち上がると、剣を手に取り、外へと出た。
「よぉ、ルシア。眠れたか?」
いつものように軽い口調で話してくる声、ラルフだ。
「ん、まぁ・・・」
「・・・・・・」
ラルフがじっとルシアの目を見つめる。
「寝れなかったか。」
「うん・・・」
ルシアはもう日が出ているにも、目が半分閉じかけていた。
「寝れないんだ。」
「え?」
「寝れないんだ・・・怖くて。俺は昨日の神殿で・・・」
ルシアは手で目を隠すようにして覆った。
「人を・・・殺したんだ!!」
「お、お前・・・」
ラルフは唖然としてルシアを見た。
しかし、すぐにラルフは表情を戻すと、重い口調で話し出した。
「じゃあお前、何のためにその剣を振るっている?何故自ら神殿に来た?」
ルシアは目を覆っていた手を離すとラルフを見た。
いつもとは違う、人を叱るような顔つきのラルフが立っていた。
「それは・・・・・・」
「いいか、剣は命を断つ道具にすぎない。その命を断つ道具で命を断てないならお前は剣を持つ資格なんてない。」
「確かに・・・そうかもしれないけど・・・」
ラルフはルシアが言葉を区切るのを聞くと直ぐに続けた。
「俺だってな、そうやってお前見たいに初めて人を殺したときもあったさ。」
「・・・・・・」
ラルフはさっきとは違う、何か悲しいことを思い出しているような表情になっていた。
「でも、そうして敵を殺すことに情けをかけてみろ。次はお前が殺される。奴らは容赦なんてないんだ。」
「うん・・・」
「だから自分を守るため、仲間を守るために俺は剣を握って闘ってるんだ。お前だけじゃない。」
「そうだよ・・・な。」
ルシアはぼそりと呟いた。
「俺、あの時と変わってないや・・・全く・・・」
「あの時?」
「ううん、なんでもない!ありがとう、ラルフ。ちょっとは・・・立ち直れた。」
「あぁ、あんま無茶すんなよ。」
そしてラルフはいつもと同じようにルシアに笑って見せた。
「ちょっと、俺アーネストさんの所に行って来る!」
ルシアはそういうと、手を振ってアーネストのいる小さな宿舎へと駆けていった。速い。
「相変わらず、立ち直るのは早いな、押さえ込みすぎなきゃいいけど。」
「アーネストさーーーん!!」
どこからか風に乗って声が聞こえてくる。
「ルシア・・・か」
柔らかい芝生の上はいくら走っていても音がたたないくらいだ。
「何だ、用があるなら早く言え。」
「あ、あの・・・」
ルシアは1度咳き込むとアーネストの目を見て言った。
「俺に、剣術を教えてください!!お願いします!」
その言葉を聞いたアーネストは驚いたような表情をしてその場に立ちつくした。
そして二人の間を駆けるように風が吹き抜けた。
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