目の前にいる少女は、確かにミネバだ。しかし、ミネバではない・・・・・


グリプス2空域での乱戦から帰還したハマーンは、疲れきっていた。
 ずっと想い続けてきた、シャア・アズナブルをこの手で殺したのだ。裏切られたと知っていても、どんなに憎んでいても、やはり愛していたのだ。しかし、殺してやりたかった。
 ふうっ、とハマーンは息を吐いた。狭いキュベレイのコクピットから出ると、マントをひるがえしミネバの部屋へと向かった。
 廊下には先ほどの戦闘で負傷した兵が、乱雑に寝かされていた。血の臭いが充満していた。医務室はもう満員なのだ。比較的アクシズに被害は少なかったのだが、やはりこれなのだ。ハマーンは、喘いでいる一人の兵士に
「しっかりしろ」
と声をかけ、むせ返るような血の臭いから顔を背けた。

 なぜかミネバの部屋の前で、数人の侍女がオロオロと歩き回っていた。
「どうしたのだ?」
「ああ!ハマーン様!・・・ミネバ様が・・・・・!!」
「なにぃ!?」
 ハマーンは侍女を押しのけて部屋に入った。
 部屋は、もぬけの空だった。


 シャアだ・・シャアが・・・・・!!


「・・ハマーン様・・・」
「・・このことは口外するな。士気にかかわる。・・・私が何とかする」

 すぐ内の者だけで、緊急の会議が行われた。
 ハマーンは、ひとつの案を出した。強化人間を使おう、と・・・・・


 この子は、完璧だ。しかし・・・・・


 数日後、ハマーンの元にミネバが届いた。
 ニュータイプ研究所で造られた女の子。容姿は、ミネバそのものだった。
「ハマーン様にいただいた資料をもとに、刷り込みを行いました。まだ少し不完全な点はありますが、ちょっとやそっとでは実物と見分けはつきません」
 まだ若い研究員は、自身ありげに言った。
「うむ、ごくろうだった」
 ハマーンは研究員を送り返すと、送られてきた少女を見た。
 確かに、見かけは完全にミネバとそっくりであった。しかし、問題は中身だ。
「ハマーン、なにをしている?」
 造られたミネバが、口を開いた。その口調は、まさしくミネバそのものだった。
「いいえ、なんでもございません」
 ハマーンは、納得しながらも、少し違和感を覚えていた。ミネバであって、ミネバでない。そんな感じだった。


 なぜだ、なぜこんなに苦しいんだ・・この子がミネバだろうが、偽者だろうが、関係ないはずだ。私は利用しているだけなのだから・・・


 数週間が過ぎた。
 ミネバは相変わらずだった。生活も以前の本物となんら変わりのないものだったし、ハマーンやその他側近達に対する態度も同じだった。ミネバが行方不明になったなどとは、誰も夢にも思っていなかった。ハマーンも多少の違和感はあったものの、だんだんと新しいミネバに慣れてきていた。
ミネバは毎日3回薬を服用していた。しかし身代わりだが強化人間の今は、研究所から送られてくる薬を服用している。何の効果があるのかは知らなかったが、強化人間はたいがいそういう薬が必要なのだろう。ハマーンは、あまり気に留めることはなかった。

 ある日、ハマーンがミネバの部屋にいくと、ミネバが入り口で倒れていた。
「・・・!!ミネバ様!!どうなされたのですか!?」
「・・・・大丈夫だ・・・・うぐっ!!」
 ハマーンの腕の中で、ミネバは大量に吐血した。ハマーンの服が、見る見る真っ赤に染まった。
「ミネバ様!!!」
 ハマーンはミネバを抱えたまま部屋の通信機へ向かった。
『ハマーン様、どうなされたので・・・・』
「医者を呼べ!速く!!」
 ミネバはゼイゼイと苦しそうに呼吸をしている。
 ニュータイプ研究所に訊けば、なにか分かるかもしれない。ハマーンは研究所に通信を入れた。
「どういうことだ!送られてきたミネバ様はなぜこのようなことになっているのだ!!!」
『しかたがないのですよ。それは使い捨てです。せいぜい数週間しかもたないのです。なあに、心配なさらなくても、そろそろだと思って新しいミネバ様をお送りいたしました。こんどは改良されているので、1ヶ月は生きられますよ』
 研究員はこともなげに言った。
 ハマーンは怒りに任せ通信機を放り投げ、ミネバの様子を見た。

 その子は、もう死んでいた。


 ・・・・わかった・・・何が違うのか・・・・・・この子はミネバ本人ではないからだ。いくら似ていようとも、この子はミネバではないのだ・・・・


 ハマーンは駆けつけてきた医者をなにもなかったと送り返し、入れ違いに入ってきた研究員にミネバだった少女の死体を手渡した。
 研究員はその死体を袋に入れ、手袋の上から丁寧に自分の手を拭いた。あまりにも汚いものを触ったとでもいうように。
「新しいミネバ様をお届けに参りました。今度は約1ヶ月ほど生きられます。1ヵ月後にまた引き取りに参ります」
「ああ・・・」
 研究員の傍らにいた少女に、薬を飲ませると、その子は意識がはっきりしたようだった。
「?ハマーン??その男は誰だ?」
 ミネバだった。2人目の造られたミネバだった。研究員のことを知らないらしく、自分の客だとでも思っているのだろう。
 この子もあと1ヶ月の命なのだ。この子が死んだら、これから後何人のミネバが来るのだろう。いったいいつまで続くのだろう。


 この子達は永遠に同じ人として生きてゆくのだ・・・・・・・・
いつか、救われる日が来るのだろうか。
シャア、ミネバをどこへやったのだ。ミネバはお前と行くことを望んでいたのか。・・・・私は・・・・・・


「ハマーン、どうしたのだ?ハマーン?」

終わり


 シリアス?ん~?ま、とりあえず前々から書きたかったお話です。大目に見てやってくださいねぇ。一応補足。ミネバ様はグリプス戦役の後どこぞへ姿を消してしまわれました。1説によれば生き延びたシャアがミネバ様を連れて逃げたといわれています。私としてはハマーン、シャア、ミネバと3人で暮らしててほしかったですけどね。


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