適当な日常

適当な日常

第一話:天仕 Part2



そんな声が誰もいない家の中に響く。
学校から歩いて約10分。大きくも小さくも無い普通のこの平屋は俺と時雨が同居している家だ。
一つ屋根の下に高校生二人を同棲させるのはいろんな場面でよくないと思うだろうが、俺は……、とりあえず実年齢は高校生のものではない。
時雨は自称16歳だが、実際の所何歳だかは確認など取れていない。
ということで問題は無い……と思う。
学校の方は本部がちょちょいと操作してくれたので問題はない。

「僕はこの前の報告書を書き上げてからちょっと今回の指令を読んでおくから。翼は適当二時間潰してて」
「ういさ」

時雨は俺と違い、報告書を書き上げたり、指令書を読んで内容を確認するなど、委員長的な仕事を任されているので俺よりはるかに忙しい。
それに加えて勉強もちゃんとしようとするから大変だ。自分の仕事は天仕なんだから成績など無意味なのに。生真面目な正確だからだろう。

とりあえず鞄を自分の部屋に置き、制服から私服に着替える。携帯と財布、その他必需品を持ち、家を出る。
目的も何も最初から無いので手始めに商店街に向かう。行けば何かやることもできるだろう。


「あれ、相良君?」

商店街を歩いていると後ろから声をかけられる。
振り向いた先にいたのは、うちの制服を着た女生徒。しかしなかなか誰だか思い出せない。おおよそクラスメイトだろうが……。

「えっと……、舞原だっけ」
「うん、席が隣なんだけど、覚えててくれたんだね」

何とか名前を思い出す。言われてみれば確かに教室の隣の席にいたような気もする。

「相良君はお買い物?」
「いや、特にやることも無かったから商店街をうろついてるだけだが。そういう舞原は買い物か?」
「うん、私一人暮らしだから色々と大変でさ。商店街で今日の晩御飯の献立を決めながら買い物しようと思って」
「一人暮らしか、俺には考えられないな。身の回りのことなんて気にしない性質だから」

気のせいか、舞原が少し落ち着きが無い様子で、顔も赤い気がする。熱だろうか?

「舞原、顔が赤いが大丈夫か? 熱でもあるんじゃない?」

すっ、っと手を舞原の額に当てる。少し熱を持っている。
瞬間、舞原は急に後ずさり、一層顔を赤くしていた。

「う、ううん、大丈夫だから。私平熱がちょっと高いの。だ、だからこれぐらいが普通なのよ」
「そうか、けど無理はしないようにな。過労も結構怖い」
「う、うん、気をつけるよ。じゃあ私は行くね。また明日っ!」

早口で言い残して舞原は行ってしまった。本当に大丈夫なんだろうか?
時間はまだある。さて、何をして時間を潰そうか……。


商店街のゲーセンで暫く時間を潰したあと、飽きて河原の土手へと到った。
土手の上にある公園。そこは桜の木がこれでもか、と言わんばかりに植えてある。
今は五月。しかしこの桜は世界のどうりに反抗するように今でも咲き乱れている。
そんな異端の桜が好きなので、ここは今では俺の絶賛する昼寝スポットだ。

「……今日は趣向を変えてみるかな」

そう呟いて土手から離れる。
手ごろな桜の木を見つけて、登る。

「ああ、これは良いや。ちょっと背中が痛いけど風が気持ちいい」

そして俺は桜の花びらに囲まれ、まどろみの中に落ちた。


「……さ。……ばさ! 翼!」

聞きなれた声に叱咤され目を覚ます。
携帯を見ると、時刻は7時近く、辺りは橙色、空は緋色に染まっていた。

「遅いから何やってるのかと思ったらそんな所で寝て。風邪でも引いたらどうするの?」
「いつものことだし、馬鹿は風引かないって言うから大丈夫だろ」
「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは」

別段怒りもせず適当に雷牙をあしらいながら木から飛び降りる。

「よくここがわかったな……。って雷牙がいるのか」
「俺様がいる限りお前が何処に逃げようと逃げられないさ」
「……何か嫌だな、それ」

天仕の情報伝達係はその任意された地域にいる天仕が何処にいるかすぐに感知できる能力を持っている。よって俺等が何処にいようともこいつはやってくる。厄介極まりない。


「今回の霊騒動は人間が起こしてるかもしれないわ。さっき下調べに行ってきたけど墓が荒らされていた痕跡がところどころに見て取れた」
「罰当たりなやつ。祟られても文句は言えないだろうな」

現在商店街に逆戻りして夕飯の買出しをしている。
スーパーマーケットの食品売り場でこんな話をするのもなんか可笑しなものだ。
雷牙は当然中に入れないので適当に追っ払った。元々邪魔以外の何者でもないし。

「霊騒動が人間の仕業でも、そのせいで実際に悪霊が出てくることもありえるから対霊武装を出しておくよ。忘れないでね」

そんなことを言いながら一パック400円のお買い得牛肉をかごの中に入れる。
緊張感のかけらも存在しやしない。

「酒は駄目」

時雨の隙を見計らって酒を数本かごに入れようとしたが、俺の考えは見透かされてるようで。


スーパーを出たときにはあたりは暗くなっていた。
今から夕飯を作っていたのでは9時ぐらいになってしまうだろう。
しかしそれも通常の人の話では、だ。
家についた。直後時雨は買ってきた食材を調理し始めたのだが、わずか30分で全てが完璧に出来上がっていた。
手抜きでもインスタントでもなんでもない。この短時間で、一人で作り上げたのだ。
時雨は料理が上手い。そこらの料理番組に出てる三流シェフなど足元にも及ばないほどに。
自炊のできないわりに味に五月蝿い俺にとっては非常にありがたい。
そんな鉄人料理を早々と食べて俺は自分の部屋に行く。

「時間まで寝るから起こして」
「はいはい。寝ぼけて失敗しないようにね」

予告どおり、俺はベッドに倒れこみ夢の世界へと旅立って行く。

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