名もなき詩

名もなき詩




あるがままの心で生きようと思ってたから

続けていただろう命を・・・

知らぬ間に・・・何時しか気づき始めていた

『自分』らしさを留める為の愛想笑いの意味を

そして彼女にこの詩を捧げたい。


「すまぬ・・・本当に。」

「だが、こうするしか・・・・御主を殺める気など・・・皆無だった。」

「御主にしてみれば・・・こんなのは言い訳にしか過ぎぬのだろうな。それでもだ。」

「これも拙者の・・・宿命だったのだ。」

そう言って、一人の忍はその場から姿を消した。
彼が居たすぐ側に、小さな亡骸があった。
まだ幼子で、可愛らしい、その眼はすでに堅く閉じられ、薄く桃色づいている唇だけが、死んでそう時間が経っていないことを語っていた。





「・・・もう、駄目かもしれんな。」

「一家切腹の罰を受けた大名・・・その一人娘が姿をくらましたそうだが。」

「まだ幼子だそうだし・・・・幕府が罰を下したのはもう3日前になる。右も左も判らない小さき仁が・・・果たして生きているのか・・・」

数時間前のことだった。
彼は大罪を犯した大名の一家、家臣を含む一族を討伐せよ、との命を受け、城下より遠く離れた村で、情報収集をしているところだった。
幾人かに訊くうち、その大名の一人娘である幼子だけは今も逃げ延びているとのことだった。
そして、更に聞き込みをする内、村より北東にある森の方へと、一人の幼子が走っていくのを見た、という話を聞き、自分もその森へと入り込んだのだった。

「・・・4,5歳の女子の足だ。彼女を見たのは朝だと言っていたし、今はまだ昼時だ。そう遠くへも行けまいな。」

この時代、罪を犯したものは誰彼問わず打ち首にされた。
そして、その血筋を引く者もまた、老若男女問わず処刑されなければならなかった。
今回は、その一族の生き残り・・・・・・可愛い盛りの女の子を・・・殺すために、彼は駆り出されたのだった。
可哀相だからと、野放しには出来なかった。
この戦乱の世の中、仇討ち、下克上・・・そんなことが当たり前の日々が続く中で、彼女もまた、今は幼きとも、いつ何時罪を下した幕府に対して、復讐の炎を燃やすかわからなかったからだ。
だが、彼は彼女のことを可哀相だとは思わなかった。
それが彼女の親が犯したことに対する『礼儀』だと解釈していたし、何よりも彼女の『運命』だと思っていた。

「拙者は・・・忍・・・歴史の表舞台には出てはならぬ影の存在・・・・余計な雑念、感情など・・・捨てるに限る。」

忍というのは見方によっては最も”便利な道具”だったし、最も”悲しき存在”という形にもとれる。
国、特に主君のために命をかけて付くし、そのためには誰かを犠牲にしても決して情の心を揺らさない、冷たく、鋼のような心を持つ忍。
そかし、誰かを殺めて何も思わないわけではない。だが、自分は忍だという思いがあって、感情をどう出せばいいのか判らない、非常に悲しき存在だった。

それでも、彼にとってはそんな忍としての働きこそが生き甲斐であった。
だから・・・・どんなに世間に『非常』と囁かれようと、もう何も思わなかった。
それが、『彼』そのままだったから。
特に戦が頻繁に起こっている今、情などという考えや、誰かに頼ると言う甘えは、即死に直結することを彼は知っていた。
だからこそ、心を無にし・・・今こうして何の罪もない子を・・・・


『殺シニ行ク』


のだった。

                       ――NEXT――


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