ぽかぽかさんぽみち

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妹よ-S郡 女性

「A子がぁ、A子が死んだあ!」
 私の両肩を激しく揺すり、泣き崩れる父。母が、遠くで唖然と立ち尽くしていました。何も知らず、その朝、家族は、それぞれの職場へと向かい、突然私を迎えに来た父。それが、妹の死を知った瞬間でした。私の体の血が全て足元に落ちて、全身が冷たくなっていくのがわかりました。
 夢を見ている様な気持ちのまま、ようやく警察署に辿り着きました。そこで、最初に目にしたのは、妹を轢いたと思われるトラックでした。タイヤには血を水で流した跡がありました。大人の背丈もある大きなタイヤに驚き、そして、警察の人に聞かされた言葉には、皆、耳を疑いました。
「誠に言いにくい事ですが、娘さんの頭は、ありません。」
私達は、愕然としました。妹は、目も鼻も無く、頬は口から耳まで深く裂け、頭からは脳みそもでてしまい、血で染まった包帯が巻かれていたのです。手足はすり傷と骨折で無惨な姿でした。どれだけ妹が苦しみ、痛い思いをした事か。私達は妹の体にすがりつき、ただ、ただ泣き続けるだけでした。
 その年、妹は高校を卒業し就職したばかりで、まだ十八歳の、これから沢山楽しい事があるはずだった妹の青春が、心ないドライバーによって踏み潰されるなんて、ひどすぎます。妹は、自転車できちんと青信号を直進していたのに、ウインカーを出したか覚えていず、ミラーも確認せずに、左折巻き込み防止窓も人に見られるのが嫌だったからと座布団で隠して、妹が左側にいるのにも気付かずに左折して、自転車ごと何メートルも引きずって行ったなんて信じられません!
 父と母にとって、妹をこんな形で失った事は、想像以上に辛く悲しいものでした。私達は、笑う事を忘れ、何をしていても妹の事を思い出しては泣き、父母は、口もきけない日々が続きました。私には、そんな両親をどうやって慰めたら良いのか、全くわかりませんでした。「さようなら」の言葉も言えず、最後に、妹の顔も見る事さえできなかったあの時の悲しみ、辛い悔しさは、九年経った今も、決して癒える事はありません。
 今、私も母になり、子供を亡くした両親の心の痛みは、あの時以上にわかる様になりました。
 一歩家を出ると、猛スピードで走り去る車
 ヘルメットをかぶらずに走り去るオートバイ
 携帯電話をしながら片手運転する人
 お酒を飲んでいるのに「大丈夫」と平気で車を運転する人
を見かけます。そんな人たちに、是非、知って欲しいのです。あなた達にとって、大切な人を失うという事が、どれだけ辛く悲しいものか。死ぬという事が、どういう姿になる事か。加害者も被害者も、今まで築き上げて来た幸せな生活も思いでも全てメチャクチャになり、耐え難い苦痛が待っているのです。これが、交通事故の現実なのです。
「妹よ、天国での暮らしはどうですか。
 あの時の傷は、神様が治して元通りの体に戻れたことと願っています。辛く悲しい時に、側にいてあげられなくて本当にごめんね。姉ちゃんは、一人っ子になってしまったけれど、お前の死を無駄にせず精一杯生きるよ。あと、どれだけ涙を流したら、お前は帰って来られるのだろう。あと、どれだけ苦しんだら、お前に会えるのだろう。今度、生まれ変わったら長生きできる命をもらって、また家族になろうね。姉ちゃんは、ずっとずっと待っているよ。」




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