Starting over...

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BLACK POST 4


ふと、秋の部屋を見た。いつも見ているドアなのに、まるで秋の秘密を隠しているように見えた。わたしはそのドアを開いた。
 その部屋はカーテンを閉めていたせいか、薄暗くて、意外ときっちりと整理してあった。ふと、机を見た。その上には何枚ものティッシュで巻かれている細長いものと、救急箱が置いてあった。わたしはその細長いものを手にとって、ティッシュが破れないように、そっと取るとそこにはカッターが出てきた。そのカッターは刃がむき出しになっていて、刃先には血の痕がついていた。その血を見ると、わたしはティッシュを巻いて、元に置いた。
 その時、わたしはあの夢に出てきた少女の言葉を思い出した。

「このブラックポストは、特定の人間にしか見えないポスト。このポストを使うと、あの世に行った者と手紙の交換が出来る。」

 わたしはあの夢が気になって仕方なかった。そのポストがほんとにあるのか確かめようと外に出た。そう思った自分が馬鹿みたいだと思いながら。
 わたしは学校の道とは反対方向を歩いた。夢のとおりにずっと歩いた。途中でそのポストを早く見たくなってきて、走った。ずっと走った。
そして、行き止まりになった。わたしは息を切らしながら、黒いポストを探した。でも、その姿は見えなかった。
夢を信じたわたしがバカだな、と思いながら、回れ右をして家に戻ろうとした。その時、かすかに後ろから、グゥゥという気持ち悪い音が聞こえた。
その直後、
「ブラックポストに何か用?」
と、夢の中で聞いた少女の声が聞こえた。ばっと後ろを見ると、ゴスファッションみたいな服を着た少女と、その隣には黒いポストが立っていた。
さっきの夢は正夢だった。
「・・・・・・・」
わたしは驚きのあまり声が出なかった。そんなわたしの顔を見た少女は機嫌が悪そうな顔をした。
「・・・早く用件、言ってくんない?」
少女のぶっきら棒な声で、わたしは焦って声を出した。
「夢で見たの。」
「夢?」
「あんたと、このポストを夢で見たの!」
「・・・・・それが?」
「そのポストを使うと、死んだ者と手紙の交換が出来ると言われたの。あんたに。」
「へえ・・・。」
 少女はそう囁いた直後、不気味な笑みを浮かべた。そして、黒いポストの上に手を乗せた。すると、乗せた途端、手がポストの中にすり抜け、真っ黒な封筒を出した。
「その夢、正夢だよ。初めてだよ。夢で見たっていう例。ただここを通って私達に会った例が多いんだけどね。」
 少女は封筒をピラピラ揺らながら、言った。でも、その後それをやめて、またポストに手を入れ、手を出した時は封筒が無くなっていた。わたしはそれをじっと見て、ある思いが頭の中に浮かんだ。
・・・これを使って、信志と手紙の交換をしたら、きっと秋は救われる・・・。
「ねぇ、その、死者との手紙の交換をしたいんだけど?」
 わたしは言った。それを聞いた少女はぴくりとも表情を変えなかった。
「でもね、これには「条件」があるのよ。それは「寿命をあげる事」。」
 あの時見た夢で少女が言いかけたセリフはこれだったんだ。
でもわたしはその事に驚きはしなかった。
「それが何よ?」
わたしは自分が思っている以上に秋のことを助けたいんだと思う。秋は精神的に傷ついて、リスカをしている。それをやった後のカッターを見ると、カッターが秋に傷つけた傷がわたしにも伝わって、苦しくなる。
「よほど、大切な人を失くしたんだね、その弟。」
「・・・何で、わかるの?」
 わたしが少女に訊くと、少女はわたしの話を無視して、またポストに手を入れて、黒い封筒を取り出した。
「ねえ、この手紙を使う?使わない?どっち?」
少女は訊いた。わたしは迷わずこう言った。
「使う。」
 わたしが言うと少女は口が裂けるほど、にやついた。
「じゃあ、いただきま~す♪」
 その時、ポストの方から強い風が来て、少女が勢い良く近づいてわたしの肩を、がしりと強く握ると、口を無理やり開けて唇が触れるぎりぎりのところで止めると、わたしの口からぬるっと気体のようなようなものが抜けていった。そして、その直後、わたしは苦しくなってむせてしまった。
「ごちそうさま♪」
 少女は嬉しそうな声でつぶやいた。
「・・・・・一体、何したのよ?」
「あぁ、「寿命」をもらったの。えっと、五年分。」
 少女はそう言うと黒い封筒をわたしに渡し、すぅっと消えていった。わたしと黒いあのポストを置いて。


           ~つづく~

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