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3 ザルツブルグにて 

ザルツブルグ

~中国料理店にて~


 ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」で有名なザルツブルグは南にアルプス山脈を控えた美しい町であった。
 映画のロケ地となった湖地方では、あいにく曇っていて少し残念だったが、二つの湖とそれを囲むように織り成す山々との調和が素晴らしく、十分にその景観を楽しむことができた。

 その帰りに久しぶり暖かな料理を食べようと、同行の友人と選んだある中国料理店に入ることにした。それは通りに面した小さな建物の2階にあった。
 旅に出て、最も気がかりなのは食事であった。貧乏旅行なので、滅多にレストランに飛び込めない。その上、現地の言葉で書いてあるメニューを見せられても、戸惑うばかりである。結局、立ち食いの店とか市場などで買い込んだもので済ますことが多かった。今考えると、ぼくたちのような旅行者には、値段とメニューが明確になっているセルフサービスのレストランが安心だった。

 さて、中国料理店でのことである。なぜそこを選んだかというと、入り口に安い定食メニューが出ていたからだ。それをメモ用紙に書いて中国人のボーイさんに見せたら、その料理は昼食のときだけと言う。テーブルについてメニューを開いてしまったので、もう後に引くこともできなかった。こうなれば、たまには贅沢するのも良いだろうと、スープ、サラダ、メインディッシュと注文した。

 ところが、ぼくが席をはずしている間に、友人の前にスープ、ぼくの前にサラダが置かれていた。友人に話を聞くと、「あなたはスープですか、サラダですか」と尋ねた後、それぞれ置いていったということであった。

 ぼくたちの格好を見て、二人分の食事代を支払う実力はないと判断したのかも知れなかった。そう思われても無理のない話だったので、二人顔をあわせてゲラゲラ笑ってしまった。こうなったら二人で食べようということになって、そのボーイさんが見守る中で、スープとサラダを回し食いにすると、最後のかしわのカレー煮には、2枚の皿を持ってきてくれた。それは、中国料理特有のだしのよく効いた、繊細な味付けがされていて本当においしいものであった。

 店を出るとき、ボーイさんに「おいしかったよ」と言ったら、愛想良く応えてくれた。心の中ではどう思っていたか知らないが、食事中にも変な顔ひとつせず、われわれを普通の客として応対してくれたのは、とても嬉しかった。

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