いなかの猫の天邪鬼部屋

第3話

第3話 重なり合う運命

キム・シンとソ・ギョンア、チェ・ドウとチェ・ウンス、運命の歯車は重なり合ったままできしみ始める。

01.ギョンアはドウの世界へ、そしてウンスはシンの世界へ・・・


キム・シンが残して行った私債借金を代わりに負う事になったギョンアは、働いていた店を辞める事にする。平凡な化粧品販売職では私債借金は返し切れないほど大きく、ギョンアは誰よりも 速く時間内に多くの収入を上げられる職業が必要 だった。
早退、欠勤等を理由に削減された給料袋と一緒に化粧品サンプルを渡す店の主人を見て、ギョンアは幾らにもならない小銭の前でケチケチする彼女を情けなく感じ、店を立ち去る。
ただちに江南の名品百貨店を訪ねたギョンアは、数十数百万ウォンの値を付けた名品たちが陳列された高級そうな場所で、それらを平気で消費する、自分と似たような年頃の女性たちに会い、金が無くみずぼらしい自分と金持ちたちの派手な生活の差にある激しい貧富格差を体感する。
一か月ずっと働いて稼いだ月給をはたいて買った名品スカーフを巻いたギョンアは、これ以上金に振り回されてぐずぐずする生活をするのが嫌になったのか、捨てるように安物化粧品サンプルをゴミ箱に放ってしまい、母親に電話を掛けて '汚くて悪い女でもいいから金持ちの女になる'と、自らに言い聞かせるように、きつく念を押すように言う。
愛していたキム・シンが借金に苦しみ家族を失って刑務所に行った事も、小銭の前で貧しく恥ずかしくなる店の主人も、化粧品サンプルなどを持っている平凡でぐずぐずした自身の人生も、その全ての元凶がいまいましい金だという事を、ギョンアは知っていた。そのため、全てが汚く悪い事だと後ろ指を指されても、金がある奴たちが来る花柳界に飛び込む事が出来たのだ。
世の人々が後ろ指を指しても、速く金を稼げる所、自らも軽蔑していた花柳界の女になる決心をしたギョンアは 'こちらの世界'の未練を捨てて全ての関係を清算しようと シンが服役中の刑務所を訪ねる。
淡々と冷やかな態度で入館し、ギョンアはガラスの壁の向こうのシンに、 シンが一人で背負ってしまった全ての荷物を、滑稽だが自分が引き継いで負う事になった と告げる。
ギョンアは、責任という言葉で全てを一人で背負い、花柳界に売り飛ばすという演技で自分を守ろうとしてくれたシンの独自的な判断が、むしろ自分を花柳界の女にしてしまった原因を提供したという事に恨みをほのめかした。
短い別離宣言を終え、背を向けるギョンアから、彼女が何か刺激を受けて変化しようとしている事を感じたシンは、どうやってでも食い止めようとし、彼女の名前を焦って叫ぶが、もう二人の間には、彼らを分けるガラスの壁よりもっと厚い巨大な金という壁が生じてしまった。
ギョンアがシンに、違う世界で生きると言って別れを告げ涙を流してドアの外に出た瞬間、ギョンアはついに'シンと生きて来た世界'と決別してしまう。
ギョンアがシンと別れ、チャンマダムがいる花柳界に初めて足を踏み入れた瞬間、互いを自覚出来ないまま擦れ違うという状態ではあるが、チェ・ドウと初めて会う事になり、それはギョンアが、これによってドウが生きる'資本主義'の世界に入り込んだという事を意味する。
仮に ギョンアが一生タイ焼きを売って戦々恐々と金を返しながら生きたとしたら、生きる世界があまりにも違う二人が一つの場所で会うのは難しく、二人が後日意気投合して一つの媒体として残るのも難しかっただろう。
だが、ギョンアがもっぱら'金'によって全てが左右される世界に入り込んだため、ギョンアはドウと今後を共にする運命の渦の中に、また一歩近付くのだ。
反面、ギョンアをドウの世界に見送ったものの、まずシンに、その代わりに新しい人間が現れるが、 それは運命のいたずらのように、ドウの大切な妹チェ・ウンスだった。
ギョンアが'違う世界'に行くと言って別れを告げて去って行った、まさにその場所を、その代わりのように訪ねて来たウンスは、その日、シンに、シンがこれまで知る事が出来なかったギョーザ波動の陰謀があるという事を本心ではなく知らせる事になり、 シンとウンスの出会いは、後日シンが、自分の兄のように資本主義に逼迫される庶民たちの現実を直視し、チェ・ドウの資本王国と対抗して市民革命を起こすようになる契機を提供する。
言い換えれば、ギョンアは'シンの世界'を捨てて'ドウの資本主義の世界'に発ったが、その空いた場所にウンスが'シンの民主主義世界'を訪ねて来たという事だ。
ともすれば、これは、シンがまだ自覚出来ていない逼迫された庶民たちの現実を知らせると同時に、シンに送ったウンスのSOS信号だったのかもしれない。
何はともあれ、ついにドウとギョンア、シンとウンス、こうして兄妹関係と前恋人関係の複雑な関係が形成された。

02.キム・シン、ギョンテにログインする

事実、シンはウンスを通して、兄を自殺するまでに追い詰めたギョーザ派動が、単純に'横暴な記者'ではなく何かもっと計画的で稚拙な陰謀が潜んでいるという事を推測しただけで、それが確かに何かに向かっているという、そんな確信が出来る情報がなかったため、確かに自身が向かうべき究極の敵が誰なのか、その実体すら見当がつかなかった。
そんなシンに与えられた 最初の課題は復讐の対象を確実に探す事 だ。
その根本的な問題の解決策は'ギョーザ派動'に隠された内幕を探り出す事だ。
既に全ての人たちとの繋がりを絶ったシンは、何のつてもなく、それも活動の制約がある刑務所内でその内幕を探り出すという不可能に近付いた。
もしかすると刑務所に収監された2年間、事件の内幕を探り出す事にのみ無為な歳月を送るかもしれない切迫した状況のシンは、まず、いわゆる'キム・シン殺害未遂'の件で兄弟の契りを交わしたボムファンに紹介されて'アン・ギョンテ'の能力を知る事になる。
伝説の 'マジンガーハンター'として有名なギョンテは、新聞記事とインターネット情報だけで数十数百個の予測可能な数字を読み、それを土台に、株式市場変動だけでなく、その中に隠された内幕を読み出す事が出来る'千里眼'能力を 持っていた。
だが ギョンテの能力には欠陥 があった。アン・ギョンテからマジンガーハンターの能力を引き出すためには、いくつかの制約が伴うという事だ。
ギョンテはログインせずマジンガーハンターになる事が出来ない。ギョンテの情報力は時間の制約を受けない代わりにサイバー上という空間的前提条件が必要だ。対人忌避症があるギョンテは、サイバー空間でなければ、発揮される能力が著しく落ちる。
そんなギョンテの能力を得るために、シンは、まずギョンテの信頼を積み重ねる事に集中する。
ヘッドセットなしで他人と疎通出来ないギョンテは、おもちゃのヘッドセットが故障して心理的にかなり不安な状態だった。
ただ彼を知能が遅れた子供だと考え、ヘッドセットを踏みつける等、ギョンテの障害について偏見を持っていた他の刑務所仲間たちとは違い、木工作業室で木のヘッドセットを作ってやる等の シンの誠意にログアウト(警戒心)状態だったギョンテの心は少しずつログインされ、それを助けようとする気持ちが自発的に 動くようになる。
伯父ムンホがこっそり搬入した記事、ビョクジェウォン株式流動線、不動産売渡等の普遍化された情報だけで、あれほどシンが探し回っていた真実を直ちに読み出したギョンテの千里眼は、まさに驚くばかりだ。
'ギョーザ派動'として大変大きな被害をこうむった'ビョクジェウォン会社'の暴落による大変大きな受益者として'チェドン会社'があったという事を土台に推移したギョンテの推理はこうだ。
ビョクジェウォン所有の林野敷地にアパート、軽電車が出来るという情報を予め入手した'チェドン(ドウ)'は土地を狙うようになり、大企業'ビョクジェウォン'を真っ向に相手にするには出血が大きい事を勘案した'チェドン(ドウ)'は'ビョクジェウォン'の重要商品 ギョーザ派動を起こし、それによるルーマーでビョクジェウォンの株を急落させた。
その時、相対的事業難に苦しむ'ビョクジェウォン'を、あたかも助けてやるかのように好意的な態度で'チェドン(ドウ)'が出て、土地の値段が上がる前の'ビョクジェウォン'の土地を安値で買い、その後、数百倍の利益を残す事になるのだ。
計画どおり、無理なく土地を買い、 チェドン(ドウ)は数億を残して成功するが、この計画でビョクジェウォンに納品していた食品中小企業体が被害を受ける事になり、その群の中にシンの家のギョーザ会社もあったという事 だ。

"大抵は金が無いからそういう事になるのだろう?
たかが金のためにそんな事までするのかと。
たかが金。
稼ぐ能力も無く、そうやって金をバカにしてはならないだろう?
一生他人のせいにしてブツブツ言う事。
恥ずかしくないか?"


03.そして究極の敵に会う

'ギョーザ派動'の中心に大企業'チェドン'があったという事実に初めて直面したシンは、折よく訪ねて来たドウから、利益のためなら一寸のためらいもなく庶民たちを道具のように利用して捨てる彼の世界を、当然の道理のように悪びれもせず話す旧態依然とした姿を目撃する。
経緯がどうであれ、誰かがそれによって死ぬまでになったにもかかわらず、少しのためらいも反省の気配もないドウの姿を目撃したシン。
その間、誰が本当の自分の仇敵なのか見付けられず迷っていたシンが今後闘うべき究極の敵を初めて確実にした瞬間 だった。
そんな時にシンは、予想外に興奮も怒りもせず、冷静に微笑を浮かべる事が出来るのだ。
本当の敵、金。そして金の前で手段や方法を選ばず、人間性を失った吐き気がする資本主義者たち、そして目の前のチェ・ドウ。
強い肯定は否定だという言葉のように、シンはそんなドウの金を認める言葉として、金を巡る闘いを予告する宣戦布告をする。
そう、金だ。お前たちの全ての土台になる金を相手に、お前たちと闘うと。
お前の言葉は正しいと。


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