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石坂千穂つれづれ日記
教育委員会委員の選任に賛成の討論
2003年 2月議会
石坂議員の教育委員の選任賛成討論(3/18)
第71号議案、教育委員会員の選任に賛成の討論を行ないます。
前島章良さんを長野県の教育委員に、という提案を受け、私はその新しい発想による提案に驚き、そしてうれしく思いました。
わが子の健やかな成長を願わない親はいませんし、県民誰もが子供たちの幸せを心から願っています。学校現場では、多くの先生方が、忙しさに追われながらも、どの子にもゆきとどいた教育を、とがんばっています。にもかかわらず、子供たちを取り巻く環境は厳しく、いじめ、不登校も残念ながら有効な解決策を見出せないまま増え続けています。子供たちに先生の目がよりゆきとどくようにとの願いをこめた30人学級のとりくみが長野県をはじめいくつかの地方自治体から意欲的に始まり、不登校の子供などを対象にしたフリー・スクールへの行政支援が文部科学省の検討課題にさえならざるを得ない事態です。
このような時、子育て世代を代表し、しかも、みずからのお子さんをいじめによる自殺で失うという最悪の事態から立ち上がり、悲しみと向き合い、悲しみを乗り越えて、全国の悲しみに打ちひしがれている親御さんや子供たちに希望を与えてがんばっている前島のりよしさんが教育委員になれば、教育行政に何よりも大切な子供たちや親の思いが届き、血の通った教育行政が前進できるに違いない、と期待したのは私ばかりではないと思います。
現に、この人事案件が発表されるや、前島さんのもとには、「お前は金が目当てか。」とか、「お前のようなものが、よくも辞退もせずに教育委員などを受ける気になったものだ。」などという心無い電話が寄せられたそうですが、同時に多くの、日々教育現場でご苦労されている教師の皆さんや子を持つ親達をはじめとする県民からの期待と激励の電話があったということです。
この人事案件の承認にあたって、今、わたしたち県議会のひとりひとりが、このどちらの側の県民の立場にたつのかが問われているのではないでしょうか。人事案件の否決という事態は、提案されている人の人格の否定、人間としての価値の否定にもつながりかねず、犯罪者や社会的道義に反する人でない限りは、極めて慎重な扱いが求められるものであり、そもそも私たち県会議員にそんな重大な、人を品定めするような権限が与えられているものでもありません。
文教委員会での採決は賛成4、反対5で否決ということですが、私は、同僚議員の皆さんに、改めて、何よりも子供たちの幸せを願う立場から、良識あるご判断でこの人事案件に賛成されますよう、心から呼びかけるものです。
文教委員会の審議のなかでは、前島さんが須坂市教育委員会を相手に裁判係争中であることが問題にされたようです。しかし、この点は教育委員会が繰り返し「何の支障もない。」と答弁しています。何よりも前島さんは、罪を問われている加害者ではなく、被害者です。前島さんの裁判は、自殺した息子さんの遺書に「暴力ではないけれど、暴力よりも悲惨だった。悲しかった。僕はすべて聞いていた。あの4人にいじめられていた。僕は死ぬ。」と書かれていたにもかかわらず、「自殺の原因はいじめではない。」という教育委員会の判断に納得できないからでした。「あの4人にいじめられていた。僕は死ぬ。」という遺書を残して自殺した息子の死はいじめが原因ではない、と告げられて、納得する親が果たしているのでしょうか。なぜ、死ななければならなかったのか、真実を知りたいと願うことが、なぜ、いけないのでしょうか。子供の命と引き換えにされたものに立ち向かいたいと願うことは、教育行政にとってマイナスなのでしょうか。今回の文教委員会での否決という結論を、私は、わが子をいじめや校内暴力などで失ったり、傷つけられたどんなに多くの親達が、納得できない思いと教育行政への不信を抱いたまま、泣き寝入りし、あきらめ、その思いを押し殺して生きていかねばならなかった現状から、やっと届かなかった思いが届く道に、今、明るい希望が見えてきた矢先に・・・とかなしい思いでうけとめました。
裁判は、権力を持たない住民の、納得できない思いを主張する最後に残された手段です。私事で恐縮ですが、私自身も、浅川部会の部会長に選ばれたとき、「県を相手取って浅川ダム反対の裁判を起こしている人が、部会長をつとめるのは問題だ。」という一部の人の心無い言葉が伝わってきました。論電が谷池の決壊で家や田畑を失い、地附山地すべりで被害を受けた住民の皆さんの、「危険な地すべり地帯へのダム建設は反対だ。浅川の洪水は根本的には千曲川との問題だ。」との思いが県政に届かず、建設差し止めの監査請求は却下され、最後の手段としての裁判の243名の原告の一人に私も名前を連ねました。長年にわたり、困難を乗り越えて、あきらめずに粘り強くがんばり続けてきた住民運動の一員だったことを、私は今でも誇りに思っています。そして、浅川ダムの裁判の原告に私がなっていたことが、決して浅川部会の審議の支障にはならなかったこと、微力ではあっても公正な部会運営につとめ、部会長としての役割を曲がりなりにも果たせたことと確信しています。
その時、私が聞いたのは、東京都国立市の女性市長、上原さんのことでした。彼女は、44メートルもの高層マンションが周囲の住民の住環境を破壊することに反対する国立マンション訴訟の原告の一人として市を相手取って裁判を起こしていました。彼女は原告のまま市長選挙に立候補し、市民は彼女を市長に選びました。国立市民は、「裁判係争中」を理由に、彼女を否定しなかったのです。昨年12月、国立マンション訴訟は、地上20メートルより上の部分の取り壊しを命じる判決が出されました。
繰り返すまでもないことですが、「裁判係争中」を理由に、教育委員への選任を認めないのは、まさに言いがかり以外のなにものでもないことを申し上げたいと思います。
文教委員会のなかでは、前島さんが民主商工会、民商の事務局員であることを問題にする意見もあったとお聞きします。中小、零細業者の税金や営業の相談にのり、共済制度で会員の暮らしを守っている民主商工会は業者の頼りになる相談相手として、困ったときのさまざまな相談活動をしていますが、実はこの民主商工会の仕事を前島さんがするようになったのは最近のことです。以前は別の職場の管理職をしていた前島さんは、真実を知りたいと裁判に立ち上がったことで、結果的に職場を去らなければならなくなりました。「会社で生き残るか、会社をやめて息子のことをやるか。」と迫られて、前島さんは「息子を取ります。」と決断したのです。家族を抱えて職を失い、時間のかかる裁判に取り組まなければならない前島さんの置かれている現状を理解し、暖かく受け入れたのが現在の職場である民商です。そのことのどこに問題があるというのでしょうか。
前島さんが女性でないから、女性委員の比率が低くなる、男女共同参画社会づくり条例に反する、というご意見も主張されたようです。私も女性の一人として、女性委員の積極的登用は心から願っています。しかし、今、長野県の教育行政に新しい視点や風が吹き込まれるかもしれないという時に、「いじめ、校内暴力で子供をなくした親の会」の中心メンバーとして1都1道9県をかけまわり、多感な子供たちやわらにもすがる思いの親たちとその思いを共有し、決して学校や行政を激しく攻め立てるというやり方ではなく、解決に当たろうとがんばっている人を女性でないからと否定するために、私たちは苦労して条例を制定したのでは、決してありません。今後の努力のなかで、女性委員の比率を高めることは充分可能ではないでしょうか。
文教委員の皆さんや多くの県会議員の皆さんは、2月14日に県庁で行った前島さんの講演「息子に教えられた人生」を、すでに直接聞いたり、お読みになっていると思いますが、そのなかで前島さんは「私たちの言葉というのは“叫び”なんですよ。届かないところに向かって叫んでいる6年間でした。これからもそうなのかな、と思っていたんですが、そうでもない。続ければ届くな、と、そういう声に変わってきていると思います。」と語っています。まさに、今まで届かなかった多くの子供たちや親の思いをとどけてくれる人として、今、多くの県民が前島さんに期待しているのではないでしょうか。
今回の定例県議会の中での質問と答弁を通じて、私はしばしば変わり始めた県政の姿に感動しましたが、瀬良教育長職務代理者の答弁を通じても、注意欠陥性多動障害、ADHD児への対応の問題で現場にみずから出かけ、教室をとび出して木にのぼってしまった子をじっと待っている先生の姿を直接見てきていただいたことや、小、中、高校のトイレをやはりみずから歩いて調査し、高校のトイレにひどいものが多いことを確認していただいたこと、そして教育委員会の判断の基準はいつも、こどもたちのしあわせのためにどうするかということであるとお答えいただいたことをうれしく思っています。
前島さんは講演の中で、「息子に教えられたことなんですが、弱い立場の人たちの為に、『おやじ尽くしてほしい』って、『今後の人生は尽くしてほしい』ってことで、今仕事もですね、そういう団体の職員になって、弱い立場の人たちのために一生懸命になって頑張っています。その中で1999年4月8日に飯田高校刺殺事件の小野寺仁君のお父さん、小野寺勝さんを代表にして、長野でそういう被害者5人が集まってですね、「いじめ・校内暴力で子どもを亡くした親の会」っていうことで先ほどご紹介いただきました、全国ネットで被害者が肩を寄せ合って生活していかないと、また事件が繰り返されるってことで、父親が自殺して、息子が自殺で亡くなってですね、で、そのために父親が、胸を傷つき、救ってあげられなかったということで自殺してしまった事件がありました。これは長野なんですね。たまたまそこの社員の方が発見したもんですから、その父親は救われたんですが、わが子がいじめによって亡くなっていく、それは僕だけの、僕の責任だということで、そのお父さんも自殺未遂をしていくっていう事件がありまして、ああ、これではいけない、支えあわなきゃですね、もっと2重3重の不幸が訪れるんだってことで、支え合おうということで当初発足設立させていただいたんです。」と述べています。
講演の最後に前島さんは、「開かれた学校作りにむけて、どんなことをこう学校としてやっていけばいいか」という質問に答えて「すごく難しい問題なんですが、これが特効薬なんていうものが無くていると思うんですが、学校というとこは、僕はその学校で息子が何が起きてたか分からなかったわけですよね。そうじゃなくて、地域の、おばあちゃんやおじいちゃんや僕ら責任を持っている親や何かが、みんなが一緒にその学校を作っていくっていうことから、僕は始めてもらいたいなと思います。スペシャリストが片側にいて、そのことだけで学校運営をこう進めていきますと、全く間違えてしまうんではないかなと思うんですね。昔みたいに地域のおばあちゃんおじいちゃん、私らも含めて、みんなで子どもを育てていきましょうっていうふうに投げかけてもらうっていうのが、開かれた学校であったり、安全で安心して通わせられる学校ではないでしょうか。
我々遺族の話になってしまうんですが、命をかけてまで行くところではありませんって、みんなおっしゃってるね。そんなことでない学校っていうのはやっぱり、どんどん開かれてますからどうぞ来てくださいじゃなくて、ぜひ参加して欲しいってことで、参加型の学校にしていただければありがたいなと、そんな風に思ってます。」
しばらく欠員が続いていた教育委員会が今回提案された新しいメンバーを加え、今までのメンバーと力をあわせて、まさに「信州こまやか教育プラン」の名にこめられた、きめこまやかな血の通った教育行政のために力を尽くしていただけるように期待して、賛成の討論とさせていただきます。
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