いつか見た青い空

いつか見た青い空

最後の涙と小さな奇跡



「江美さんに対して、霊的な事が原因で今の状態になったわけではない。落ち込んでいる原因は、江美さんも気づいているように、やはり前世からの因縁なんだ」

直樹にとって、慣れている出来事でも、江美と美帆にとっては、かなりショッキングな内容である。二人とも直樹をじっと見つめたままである。

「直樹の霊感でどうにかなるの!」

美帆のこの言葉に江美が小さな声でこう付け加えた。

「確か直樹さんは、どうにもならない事があるって言ってましたけど、前世の事は大丈夫なんでしょうか」

「今回の詳しい因果関係を見極めて、説明するのは俺だけど、解決していくのはね、俺じゃなく、江美さんなんだ。勘違いしてもらっては困るけど、霊的なものなら、特別な能力や、知識、技術が必要なんだけど、この相談にかんしては、江美さんが解決していかなければならない事なんだよ。なぜか、江美さんの人生を生きていくのは他人ではなくて、江美さん自身だよね。」

「確かにその通りですけど・・・」

うつむいたままの江美に代わって隣に座っている美帆がこんな質問をした。

「どういうことなの。もっと判りやすく説明してほしいんだけど。」

「君の人生、次の一歩を踏み出すのは、君自身だ。誰かじゃないはずだ。ずっと座っている人の背中を押してあげる事はできない。だけど、自分で立ち上がって私自身の力で歩いて行って見せる、という人の背中を押してあげることはできるんだ。
もっと、はっきり言うと、江美さんは全て俺に解決してもらおうと思っているよね。」

「そうです。判ってたんですか。」

「俺に隠し事はできないよ。今回の事を詳しく教えてあげるよ。人は目的を持ってこの世に生まれて来るんだ。色々とありすぎるから必要な事だけ話をするとね、江美さんの場合は、前世の出来事から、心の開放をさせる為に、いや、その事が解決するまでは何回も生まれ変わって来るんだ。よく耳にする、生まれ変わり、と言う現象さ。江美さんの場合は、外国の3人姉妹として生活していた時に、ある宗教を舞台とした揉め事に巻き込まれてしまった。映像として見えているのは、神父さんに向かって長女が何か訴えている。その後ろに次女、そして、三女の君がいる。そして、君はこの揉め事の犯人は、神父である事を知っている。最初から許す事をする気がなかった神父は、3人を離ればなれにした。君は牢屋に入れられた。その牢屋の中で君は、救ってくれなかった神に対して、絶望して、私は何の為に生まれてきたんだろう、このまま生きている意味があるんだろうか、と心に深い疑問を植え付けてしまった。その牢屋で餓死するときまで、そして、今もその思いは消えていないはず。」

「泣かなくてもいいよ。ずっと昔の事じゃん」

すこし涙ぐんでいた江美を、美帆は抱きしめていた。

「その通りなんです。私は兄が二人いるんですが、兄より、お姉ちゃんが二人だったらな~と思っていました。二人のお兄ちゃんは優しいから大好きです。だけど、何か悩み事があると、お姉ちゃんがいたらな~と思ってしまうんです。あと、説教じみた事を言う人も嫌いですし、直樹さんが言っていた、生きている意味とか、目的とか、考えていたんです。そんな事ばかり考えているから・・・」

「自殺しようと思っているんだね。今からひとつ前の前世で君は自殺しているんだ。売春婦だった君の前世は、体も、心も、深く傷つき、疲れていた。江美さんは落ち込んでいる時、右腕を枕にしているよね。最後の涙を流して自殺した時の格好なんだよ」

もう何も隠せないと思って江美は全てを話す決心をした。

「そうです。手首を切って死んでしまおう、と思った時もその姿でしたし、よくする格好です。今日の涙が最後の涙だと思いました。そうしたら、美帆から携帯にメールが入って思い留まったんです。」

「私ね、その時、物凄く江美の事が気になったんだ。とにかく、連絡しようと思って・・・」

江美は直樹を見て、こんな質問をした。

「神様っているんですか。もし、いるなら、どうして私達を守ってくれなかったんですか。」

少し、考えて直樹は答えた。

「神様っていうのは、全てを知っている存在ではなくて、人がおこした行動について、その結果を知ってる存在なんだと思う。君達にとって、本当につらい出来事だったと思うよ。けど、それは、決められていた出来事であったと思う。その出来事で解決しなければならなかった心の問題をそのまま残して死んでしまったから、こうして何回も生まれ変わって来ているんだ。ちょっと話が横道に反れたけどね。けどね、神様はちゃんと君を守ってくれているよ。」

「私・・・何も感じませんけど・・・」

「神様がね、小さな奇跡を起こしてくれているんだ。何か判るかい?」

江美は首を小さく振った。

「江美さんの大好きだった一番上のお姉ちゃんが今でも君を心配してくれている。今、抱きしめてくれている美帆が一番上のお姉ちゃんの生まれ変わりなんだ。」

美帆と江美はお互いの肩を抱き合いながら泣いていた。

直樹は長い時間を越えて再会した二人を黙って見ている。そして、大好きな缶コーヒーを買う為に直樹は部屋を出ていった。

風はまだ冷たかった。近くのコンビニまで歩いて行く事にした。

月がでていないので、星が綺麗に見えた。直樹には好きな星座がある。

それはオリオン座である。子供の頃から星を見る事が大好きだった。

物凄く広い星空の中で、とても大きて、名前がかっこいい、この星座が大好きである。

そんな大好きなオリオン座が直樹を見守るかのように輝いていた。


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