いつか見た青い空

いつか見た青い空

対決、直樹対七人刀



人で遊び始めた。洋子が直樹にこんな質問をした。

「直樹さんに聞きたい事があるんですけど、光には本当に霊が見えたり、話ができているのでしょうか?私にそういう力がないので光がおかしな子になってしまうんじゃないかって心配なんです。光は5歳なのに幼稚園の友達が少ないのです。」

直樹は少しの間、光を見つめていた。

「洋子さん、霊的能力があるのは間違いないと思います。判ってほしいのは、どんなに強い霊能力をもっていても、普通の子供の様に接してほしい、普通の子供として育ててあげてほしいのです。どんなに力は強くても、心、精神力は子供なんです。普通の家庭では考えられない現象や、苦労は増えると思いますが、私でよければ相談にのりますし、強い心霊現象が発生したらすぐに駆けつけます。間に合わない場合は遠隔除霊をします。とにかく、お母さんだけは絶対に話を聞いてあげなければいけないと思うし、味方になってあげなければいけないと思うのです。」

美帆がみんなの会話に光が気づかない様にする為に庭に出て遊び始めた。

「お姉ちゃん、あの男の人と結婚するの。それとも恋人なの?」

光の子供らしい質問に美帆は顔を真っ赤にして答えた。

「今はまだ、恋人だよ。いずれは結婚したいけどね。お姉ちゃんの用心棒さんだから、これからもず~と守ってもらいたいの。」

「ふ~ん。そうなんだ。お姉ちゃんもお化け見えるの。」

「お姉ちゃんには、見えないの。見たくないしね。光ちゃんははっきり見えるの」

光は辺りを見渡して答えた。

「よく見えるよ。だって、みんな見えていると思ってたもん。動物も見えるよ。服だけとか、言葉も見えるよ。少し前から棒みたいな物も見えるの」

「棒みたいな物・・・?それより言葉も見えるの?」

「うん、とがなくしす、全部、ひらがなだけど、見えるよ」

「そうなんだ・・・光ちゃん、怖くない?」

「怖いけど、おばあちゃんがいつも傍にいてくれるから、お化けがやってくると、おばあちゃんが手を、グウ、パア、グウ、パアしながら神様の数え歌を歌ってくれるの。それで手で何か投げるんだよ。そうすると、お化けはみんな、どこかに行っちゃうんだよ。」

「おばあちゃんは何を投げてるの?」

美帆の質問に光は大人みたいな仕草をした。

「わからない。粉みたいなものだよ。」

すると、光がしゃがみこんで苦しみはじめた。

「うううっ、痛い、お姉ちゃん、背中が痛いよ。怖いよ。」

「ちょっと、光ちゃん大丈夫!どうしよう、大変。直樹を呼べば・・・」

美帆は直樹の名前を叫ぼうとしたが、金縛りにあってしまった。声が出ないどころか、体も動かない。

直樹は庭に背中を向けて座っているので気づかない。

美帆は心の中で思いっきり直樹の名前を叫んだ。すると、仏壇で パキッ、という音が鳴った。

ラップ現象という。霊が自分の存在を知らせる時や意志表示をする時に起きる心霊現象である。

直樹はこのラップ現象に気づいた。仏間にいた直樹の能力が美帆の叫びを感知した。

「美帆!」

直樹は振り向いて、庭にいる二人を見つけた。二人とも庭にうずくまっていた。

二人の頭上に布団位の大きさの影が現れていた。紀子と洋子が二人に駆け寄ろうとしたが直樹が制止した。

「ここは俺に任せて」

すると直樹は右手の人差し指と中指を合わせて刀にした。そして、

庭にいる二人に向かって呪文を唱えながら、

手刀で、縦、横、と繰り返し空間を切り始めた。

「早九字の呪文、臨、兵、闘、者、・・・在、前。」

すると、二人の頭上にあった影が飛ばされる様に散っていった。美帆と光は体が急に楽になり、起き上がった。

泣きはじめた光の元に洋子が駆け寄って抱きしめた。

「光、大丈夫。どこも痛くない?」

「ママ、背中が痛い。」

仏間で洋子が光の背中を見てみると、長さ30センチくらいのミミズ腫れみたいな傷ができていた。

光の体は、恐怖で硬直を起こしていた。

「お母さん、薬、持って来て。早く。」

紀子が薬を取りに行った。目に涙を一杯、浮かべている洋子が直樹に強く訴えた。

「お願いします。直樹さん、光を助けてください。お願いします。」

すると、直樹が光の背中の傷の上、約10センチ位のところに自分の右手を動かした。

そして、精神統一を始め、呪文を再び唱えはじめた。

「ひい、ふう、みい、よお、いつ、むう、なな、やあ、ここ、とお、ふるえ、ふらふらとふるえ、ひい、ふう、・・・・」

すると、体を硬くしていた光の顔に血の気が戻ってきた。

傍にいた美帆が光に話し掛けた。

「光ちゃん、大丈夫。お姉ちゃん、守ってあげられなくてごめんね。」

「いいよ。お姉ちゃんは怪我しなかった?」

「うん、大丈夫だったよ。直樹が助けてくれたから。」

光は直樹を見つめた。そして、また、泣きはじめてしまった。

「光ちゃん。お兄ちゃんがいるから大丈夫だよ。今度こそ、やっつけてあげるね。」

物凄く怖かったのだろう。ますます大きな声で泣き始めた。紀子が薬を持って来て塗りはじめた。

しばらくして全員が落ち着きを取り戻した。

「紀子さん、美帆から聴いたのですが、蔵から出てきた箱はどこにありますか。」

「あの箱なら、蔵に戻しました。私が箱を開けたのですが、中に錆びた刀のような物が入っていました。それと、ふたの裏側には、七人刀を封印する、と書いてあったのです。私がおばあちゃんに聞いた事があるのは、20年くらい前にここから少し離れた場所に小さな祠があったらしいのですが、区画整理をされたときに関係者の話だと、祠の中には何もなかったらしいのです・・・が、おばあちゃんの話だと、あそこにはたたりのある神様が祭ってあるはずらしいのです。」

「七人刀?この土地の言い伝えですか」

「おばあちゃんも大ばあちゃんに聞いた話らしいのですが、昔、子供が授かると女性の祈祷師を呼んで安産の祈祷をさせていたらしいのです。力の強い祈祷師に祈祷させた当時の権力者の家の子供が死産だったらしく、その事を女性の祈祷師に責任をとらせた様なのですが・・・」

「その責任の取らせ方というのは・・・六ヶ所を刺された・・・のですね。」

「さすが、直樹さんですね。映像で見えているみたいですね。屋敷の用心棒達に同時に六ヶ所を刺された。そして、最後は屋敷の主に背中を切られたようです。その死体をあなた達が先週、宿泊したホテルの前の崖から海に投げ落とした。しかし、その年のお盆の夜、死んだはずの祈祷師が怨霊と化して手には刀を持って屋敷に現れた。体の傷の数だけ、七人の子供を切り殺すと言いながら、さまよっていたそうです。六人の用心棒達の子供が全て殺され、屋敷に子供がいない事に気づいた怨霊は、そのまま村をさまよったあげく、岡本家の子供を見つけました。その子供を斬りつけようとした時に、たまたま、この村に立ち寄っていた男性の祈祷師の手によって持っていた刀に封印されたのです。偶然だとは思いますが、その祈祷師は名を沖津と言っていたそうです。再び、この怨霊のたたりが起きる事を恐れた村人は村の隅に祠を建てて、その中に怨霊を封印した刀を桐の箱に入れて祭ったそうです。その怨霊の事をいつからか、七人刀と言ってたらしいです。」

この話を聞いていた美帆が直樹の袖を引っ張った。

「その箱って・・・私が子供の頃、拾ってきた箱かも・・・」

紀子も洋子も驚きを隠せなかった。

「美帆ちゃん、本当なの。なぜ、持ってきたの」

「私が小学5年生のとき、みんなで裏山で遊んでいた時に箱を見つけたの。その箱は後からみんなに見せようと思って蔵に入れたはずなの。その箱だったら、私・・・大変な事をしちゃった。直樹、どうしよう」

すると、どこからか、ドーン!という大きな地響きみたいな音が聞こえた。

この家全体が揺れたかのような大きな音だった。

小刻みにテーブルが振動を始めた。

「何、地震?それとも・・・何なのよ」

光を抱きしめたまま、洋子が叫んだ。すると、

台所でガシャン!と大きな音がしたかと思うと、襖が全て動いて台所から色々な物が飛んできた。

テーブルの上に置いてあったコップが中に浮かび、グルグルみんなの周りを飛びはじめた。

部屋全体の物体が全て空中を飛びはじめた。

「直樹、ポルタ-ガイストよ。光ちゃんを守って!」

直樹に叫んだ美帆に向かって空中を飛び回っていたコップがぶつかっていった。

「やめろ、馬鹿者、私の指示に従え、従わなければ我が守護神、金山様をこの場に御呼びするぞ、それでもよいか、」

直樹は叫んだ。だが、ポルタ-ガイスト現象はおさまらなかった。

すると、光を抱きしめている洋子の頭上に鬼のような形相をした女性と、錆びた刀が現れた。

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