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いつか見た青い空
七人刀、再び・・・完璧な敗北
がポルターガイスト現象を起こした。時を越え、再び、戦う事になった沖津家の能力者、
沖津直樹の最高能力、神気降臨によって怨念が浄化され、直樹の守護霊によって霊界に
連れていかれて裁きを受けたはずの七人刀が再び、岡村家の小さな能力者、光の前に
現れようとしている。あの時、沖津直樹がいなかったら、間違いなく誰かが殺されていた
はずである。美帆にメールを送っても返事が返ってこない。今まで、一度もなかった
現象である。美帆のいとこであり、光の母親である洋子は霊感がないので光の身の回りで
何が起こっているのか,物凄く不安だった。とりあえず、光に詳しく話を聞くことにした。
「光、私達には何もわからないの。泣き虫のお姉ちゃんは光の目の前にいるの?」
しばらく庭を見ていた光は振り返って答えた。
「庭には居ないよ。声だけ聞こえたの。ん、あれっ、」
光は目線を下にさげたかと思うと成人女性のような口調で話し始めた。七人刀が憑依したのである。
「美帆様、会えずして涙流す事あるも、その者、滅せぬ者とならず、西方より神の化身、金の鳥、降臨し、道、照らされるなり。」
光は、話し終わると、そのまま、床に倒れた。おばの紀子と洋子は仏間に布団を引いて
光を休ませた。紀子は仏壇の蝋燭に火をつけて線香に火をつけた。
「おばあちゃん、沖津さんに連絡が取れないの。光を守って。お願い。」
洋子は、光の顔を冷たいタオルで拭いていた。庭を見渡してみても、やはり、洋子には何も
見えなかったし,聞こえる事もなかった。しばらくして、光は目を覚ました。
そして、紀子も洋子も光の言葉に驚きを隠せなかった。
「ママ、お兄ちゃんが死んじゃうよ。お姉ちゃんに教えてあげて」
アピタの駐車場で美帆と別れた直樹は自分のアパートに向かっていた。相変わらず、
鈴の音が頭の中に響いていた。そして、運転していた直樹の車は交差点で激しく
クラクションを鳴らされた。直樹が赤信号を無視して交差点に進入したのである。
あと少し、スピードが速ければ間違いなく、事故に遭っていた。
「おかしい。交差点に、いつ進入したのか記憶にない。というか思い出せない。」
しばらくして、また、クラクションを鳴らされた。また赤信号を無視して交差点に進入していた。
次の交差点でも赤信号を無視して交差点に進入していた。オートバイと接触しそうになったが、
事故にならずに済んだ。きっと直樹の守護霊が助けたに違いない。
明らかになった事は信号を見ながら運転し,青信号なら交差点に進入しているのに
交差点の手前で何も見えなくなっている事に気がついた。直樹は心の中で不動明王
火炎呪を何度も唱えながら、どうにかアパートまで帰る事ができた。
部屋に入ると神棚の鈴は鳴っていなかった。しかし、直樹の頭の中では確かに鈴の音が
鳴り響いている。この時、直樹はすでにあの男の放った動物霊に憑依されていた。
鈴の音は警告ではなく、動物霊が聞かせた幻聴だった。
激しい頭痛が直樹を襲いはじめた。立っている事もできないくらい、激しい頭痛だった。
直樹はベットに横たわった。美帆にメールしようと思ったが心配かけたくなかったから
携帯の電源を切った。いつ何処で憑依されたのかがわからない。直樹の能力が反応しなかった。
直樹は戦う覚悟を決めた。あの男の能力は明らかに直樹を上回っていた。
直樹に憑依しているのは、もがき苦しみながら死んだタヌキの霊なのは判っている。
あの男が放った動物霊の力はかなり強い。今、除霊しなければ間違いなく死ぬ事に
なる。除霊できる確率はほとんどゼロに近かった。直樹は今までの事を思い出していた。
美帆との思い出が沢山ある事に気づいた。最初のデートは二人とも敬語だった事、
ドライブした帰りに美帆が車に酔って、運転が荒いから、と言われて喧嘩になった事、
初めての美帆の手料理で口内炎ができた事、初めて美帆が泊まりに来た夜の事、
美帆の無邪気な振る舞い、そして美帆の笑顔・・・そして愛し愛されている事・・・
「俺は負けない。美帆の為に。これからもずっと傍にいて守り抜く為に、愛する美帆の為に俺は決して負けない。」
直樹は頭が割れそうな頭痛に耐えて神棚の前に正座した。
「なぜだろう。直樹の携帯の電源が切れてる。今まで一度もこんな事なかったのに・・・病院にでも行ったのかしら・・・」
美帆が携帯を握り締めて考えていると、携帯が鳴った。直樹からではなく、洋子からだった。
「美帆、落ち着いて聞いてね。光がね、七人刀に憑依されてね、とんでもないことを言ってたの。直樹さんって今、傍にいるの?」
「いないよ。直樹なら今まで逢っていたけど、自分のアパートに帰ったよ。体調がよくないみたいだから、今日はデートなしだよ。携帯がつながらないから病院に行ったかも。それに、七人刀だったら直樹がやっつけた筈だけど・・・本当に七人刀だったの?何を言ったの?」
「直樹さんが死ぬって言ってるの。急いで直樹さんのアパートに行って。」
美帆は話した内容を運転している兄の涼に伝えた。
「お兄ちゃん、急いで直樹のアパートに向かって。直樹がやばいみたいなの。」
美帆が少しだけ涙ぐんでいる。
「南宮大社の神様,お願いです。直樹を守ってください。」
涼は美帆の祈る姿を初めて見た。
「何があったかは判らないけど、行ってみよう。」
路肩に止めてあった涼の車は直樹のアパートに向かって走りはじめた。
愛知県と静岡県の県境に、ごく普通の一軒家がある。その家の中に新興宗教の神と名乗る
飯橋天山と名乗る男がいた。特別に沢山の信者がいる訳でもない様だ。
彼は家の神棚の前に座って精神統一をしていた。目を開けた彼は、こんな言葉を口にした。
「沖津直樹という男性は対した事はなかったが・・・あの小さな女の子の能力は沖津直樹より優れている。それと、霊界から来た女祈祷師の霊・・・要注意だな。痛い目にあってもらうか。」
飯橋天山は、神棚の前で印を結び、呪文を唱えた。
「私の元で修行する使いの霊よ。我が、意志の命ずる者へ攻撃せよ。下三段の白狐よ、走れ!」
あらかじめ開けてあった窓に向かって風が吹き抜けた。
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