いつか見た青い空

いつか見た青い空

出陣、沖津幸吉 脅威の天狗力


28歳、サラリーマン。趣味は少林寺拳法,ドライブ、強い霊能力を発揮できる。沖津家は隔世遺伝で強い霊能力を持った男子が生まれる。

岡村美帆  
24歳、家事手伝い、沖津直樹の恋人。趣味は料理、物凄いやきもち焼き。直樹の能力を誰よりも理解している。

岡村紀子  55歳。美帆の叔母。岡村家の本家を守っている。霊感が強い。

司 洋子  24歳、岡村紀子の娘であり,美帆のいとこ。霊感はない。

司 光   5歳の女の子、直樹に匹敵する霊能力を持つ。
(ひかる)

岡村 涼  28歳。美帆の兄。

沖津幸吉  75歳、直樹の祖父。直樹の数倍の霊能力の持ち主。




愛知県と静岡県の県境にある豊橋市には二つのトンネルがある。

豊橋市の中心部から静岡県新居町に行ける多米(ため)トンネルと

三ヶ日町北部に行ける本坂トンネルがある。

このトンネルの近くには姫街道がある。江戸時代に新居の関所での厳しいチェックを免れるために

お姫様が関所を通らないで済むように作られた街道である。

本坂トンネルには旧本坂トンネルがある。よく心霊番組でも取り上げられる心霊スポットである。

10年くらい前に色々な心霊番組に出演していた女性霊能者が訪れた時に、この場所の

霊気の強さに驚いたらしい。

とにかく、豊橋市東部には強い霊気に満ちた場所が多く存在している。

そんな強い霊気に満ちている旧本坂トンネルの近くに沖津直樹と司 光(つかさひかる)に

霊的攻撃を仕掛けている新興宗教 龍心教 の開祖、飯橋天山の家がある。

旧本坂トンネルに近いバス停で一人の男性がバスから降りた。

身長は165センチくらいの中肉中背、身なりは普通の75歳の男性が着るような質素な格好である。

「相変わらず特殊な霊気が満ちている場所だな。本坂トンネルがある山の山頂に霊気が巻き上げられている。隣の県が竜神伝説の多い静岡県だからかな?」

そんな事を考えながら東の方向を眺めている彼の名前は沖津幸吉と言う。

沖津直樹の祖父である。彼は子供の頃、静岡県西部に流れる

天竜川の上流にある水窪(みさくぼ)町で育った。

高い標高にある村なので夜になると星が手に届くような錯覚に陥るほど綺麗な天の川が

夜空一面に広がっている。

村の子供達とかくれんぼをしても一度も捕まる事はなかったが

面白くないので適当にわざと見つかっていた。

こんな話がある。沖津家の先祖は昔から特別な力があった。山を一つ越えたところに

銭湯があった。村人が半日かけてその銭湯まで行って、帰ってくると、朝に出かけても

夕方近くになる事があったらしいのだが、沖津家の血筋の者は、銭湯に行って来ると言って出かけて

一時間後には家に帰って来ていた。途中で出会った村人の話では体から湯気が出ていて

今まで風呂に入っていたみたいだ、と言っていたらしい。

沖津家の血筋の者は、村人から天狗さん、と呼ばれていた。

沖津幸吉がなぜ、かくれんぼで一度も捕まらなかったのかは、判ってもらえたと思う。

バス停にいる彼は、旧本坂トンネルに向かって歩きはじめた。しばらく歩くと、

自販機の回りで座っていた若者達が歩いていた彼に話しかけた。

「おじさん、今、俺達を睨みつけたよね。俺達さ、暴力団に知り合いがいるから、やられちゃうよ。話しつけてやるからさ、示談金として財布さら置いていきなよ。」

「おまえ達、この辺に飯橋天山という男の家があるはずだが、知っていたら教えてくれないか?」

「おいおい、このおっさん、頭おかしいんじゃないの。俺達に命令してるよ。ぶっ殺してやる」

幸吉は彼らに対して、ある方向を指さした。

「あそこに止まっている車は、パトカーじゃないのか」

若者達はその方向を振り返った。その方向に何もない事が判った彼らは、幸吉が彼らの

視界から消えた事に気づいた。あたりを見まわすと、100メートル程、向こうを歩いていた。

「おい、おっさん、待てよ。」

若者達が幸吉に話しかけた瞬間、つむじ風が彼らを襲った。つむじ風が消えた後、目を開くと、

100メートル程、向こうを歩いていたはずの幸吉が目の前に立っていた。

「これ以上、私を怒らせるな。」

幸吉が若者達を睨みつけると、若者達は走って逃げていった。

「やれやれだな。」

こう言った幸吉が再び歩き始めようとした時である。南の方向から、怒り狂っているような

真っ黒い歪んだ空間に包まれた狐の霊が幸吉に向かって飛んできた。愛知県田原市赤羽根町で

岡村本家を襲い、七人刀の霊能力によって、術者の元に弾き返された下三段の白狐である。

「なんだ。あの化け物は」

そう言いながら左肩にかけていたバックから観音経が書かれている呪具を取り出して

呪文を唱えはじめた。

「天と地と風の力よ、三角の力と共鳴し、邪悪なる存在を吹き飛ばせ。」

そう言いながら、右手で掴んだ呪具で大きさ50センチ位の正三角形を空間に描いて

その正三角形の中心を切るようにして、幸吉の気と正三角形の持つ力を融合させて

下三段の白狐に打ちこんだ。

幸吉の気と正三角形の力で、下三段の白狐を守護する様に取り囲んでいた真っ黒い歪んだ空間

が全て吹き飛んだ。

激しく、回転しながら白狐は飛んでいった。

「この土地の特殊な霊気が強すぎて、いつもの半分くらいしか威力が出なかった。しかし、あの狐の額に打ちこまれていた星の印は間違いなく沖津家に伝わる退魔法の一つ、天空乱舞星の印だったはず。直樹がやったのか。いや、直樹にはあそこまでの星の印は打てないはずだ。まあいい。後から出来の悪い孫に話を聴けば判る事。間違いなく、あの狐の霊が向かっていった方向に飯橋天山がいるはずだ。並みの霊能者では、あの狐の霊は制御できないはずだからな。歩いていたら追いつけそうもない。飛ぶか。」

そう言った沖津幸吉の姿は、その場所から消えてしまった。

飯橋天山は神棚の前で精神統一をしていた。七人刀によって弾き返された下三段の白狐が

飯橋天山に襲いかかった。

「爆撃」

そう叫ぶと飯橋天山の気が下三段の白狐を粉砕した。

「そこに隠れているのはどなたですか。でてこないと攻撃しますよ」

飯橋天山が廊下に向かって話し始めた。

「おじゃまするよ」

廊下にいた沖津幸吉がドアを開けた。

「あなたは沖津直樹の祖父、沖津幸吉さんですね。貴方達を紹介してくれた人がいましてね。だから、あなたが誰なのか、判ったのです。しかし、そのオーラ、神懸り的ですね。どうりで、私の屋敷に張ってある結界も容易に破壊して入って来れたわけだ。」

少し微笑みながら幸吉が話しかけた。

「そういうおまえさんこそ、今の一撃は対したものだ。ここの土地の悪霊達と契りでも交わしたのか。それとも人の格好をした化け物か。そして俺たちを紹介した人物と言ったがどこのどいつだ?」

「貴方ほどの能力者に見とめてもらえると嬉しいですね。貴方達を紹介した人物ですか・・・言えませんね。」

しばらく、沈黙が続いた。

「一度会ったことがあると思うが、出来の悪い孫の直樹から連絡があった。俺に霊視をして探ってほしい人間がいるとな。なぜ、貴様は沖津家と岡村家を狙うんだ。」

「理由ですか。私が彼らを狙う理由・・・。ある人に私よりすごい霊能者がいると聞きました。私が送り込んだ動物霊にまんまと憑依されていましたけどね。おちびちゃんの方がはるかに素晴らしい霊能力を持っている。そしてあの女祈祷師の霊・・・生前は凄い能力者だったはずです。それが理由です。龍神の力が使えるようになった私より優れた人間がいない事を証明したいだけですよ。」

「ただ、それだけの理由で人の命を奪うつもりだったのか。・・・出来の悪い孫の事は大目に見るとしても小さな女の子を攻撃する必要があったのか?あまり、図に乗るなよ小僧。」

二人がいる部屋の中で先程とは問題にならない位に強いつむじ風が発生した。

ドアが吹き飛び、窓が外れて飛んでいった。だが、飯橋天山の後ろにある神棚には

つむじ風は全く当たっていなかった。

「荒っぽい事をするのですね。しかし、ここは龍神の間ですよ。龍神の生まれ変わりの私がもっとも力を発揮できる場所です。死んでください」

沖津幸吉に向かって飯橋天山が念を打ちこんだ瞬間に幸吉の姿が消えた。

「凄い能力だ。瞬間移動が出来るのか。沖津家・・・ひょっとしたら沖津直樹も本当の実力を出していないのか…恐ろしい一族だ」

沖津幸吉は屋敷の外にいた。

「飯橋天山・・・奴はもう人間に戻れないかもしれない。」

壊れた窓ガラスから飯橋天山が見つめていた。幸吉が話しかけた。

「面白いものを見せてもらったよ。その力・・・真実の為に使用すれば本当の神になれたかもな。残念だよ。また遊びに来るよ」

こう言い残すととても人間とは思えない速さで足を動かさずに滑る様に移動して

屋敷から離れていった。飯橋天山の放った念により左手の霊体を傷つけられた幸吉は

右肩でバックをかけていた。先程のバス停から豊橋駅行きのバスに乗り、帰っていった。

「こんな年寄りを傷めつけやがって・・・彼のあの力を打ち破るには直樹に、もうそろそろ退魔法を教えなければな・・・そして、今の戦いを見守っていた天狗様に挨拶にでも行って来るかな。傷が治ったら直樹と行ってくるか。奥山半僧坊に。」

近いうちに訪れるこの天狗様の聖地で直樹は新しい能力を身につけることになる。



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