すべてはこころの決めたままに♪

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あしたへ ~Yahoo文学賞応募作品~



夏休みも終わったというのに、夕べからの暑さのせいでなんだか寝苦しくて、今日はいつもより早く目が覚めてしまったんだ。
学校の支度はもう昨日のうちにすませてあるし、やることがないので、ここに引っ越して来る前におとうさんが近所の雑木林で採ってきてくれたカブトムシの様子をみてみると、箱の中で仰向けになって動かなくなっていた。
どこかにお墓をつくってあげなくちゃ。
アパートの裏にある草むらの中に、穴を掘って、両手を顔の前に合わせてお祈りした。
部屋に戻ると、おかあさんは台所にいて、朝ごはんの用意と仕事に出かける支度で大忙しみたいだ。
ぼくが朝ごはんを食べている間に、おかあさんは仕事に出かけていった。
「鍵だけはちゃんと忘れないで掛けていくのよ!」おかあさんの声が遠くに聞こえた。
ぼくは、おかあさんからいつも言われているように、玄関で、もう一度ランドセルの中身を見て、忘れ物がないかどうか確かめて、玄関の鍵がちゃんと掛かっているのを2回確かめてから学校へ向かう。

教室に入ると、クラスのみんなはまだ夏休みの気分のまま、旅行や海に行った時なんかの思い出話で盛り上がっている。
転校したばかりの4年2組ではまだ、皆の顔とか名前とかがよく覚えきれていないし、なんだかぼくのことをだれも気にしていないような感じがして一人で席についた。
でもぼくが、その話の中に入っていけないのは、転校生だからってことだけでなく友達に話の出来るような夏休みの思い出なんて何もなかったから・・
7月に入ってから、おとうさんとおかあさんとの3人での暮らしが終わって、ぼくは、おかあさんと2人でアパートに引っ越して、2学期から新しい学校へ転校してきたんだ。
今日の1時間目の国語は、夏休みの宿題になってた作文の発表。
「明日」について思い浮かぶことを作文にしなさいっていうものだった。
ぼくは転校生だから、夏休み前の宿題なんてわからない。
みそっかすみたいな感じでみんなの発表を聞いているだけ。
隣の席にすわってるT君は、元気で活発などちらかというとお調子者タイプの男の子。
ふだんからみんなを笑わせたりして、クラスの人気者らしい。
作文の内容もちょっとフザケすぎの感じがする。
「明日という字は、明るい日と書きま~す!僕は毎日、少し勉強したり、イッパイ遊んだり、ご飯たべて、明日もまた、朝起きて、ご飯食べて、チョットだけ勉強して、イッパイ遊んで・・僕は、とっても楽しいです!! おわり!」
先生からも、ちょっとだけイヤミなことを言われてたけど、照れくさそうに笑っているだけで、反省している感じもあまりないみたいだ。
ぼくが転校しきた時に、初めて声を掛けてくれたのもT君で、この子となら仲良くなれそうかなぁ?って気はするんだけど、あまりにもぼくとは違うタイプで、そんなT君がちょっとうらやましくなったりしている。
たしか、前の学校の先生にも、「明日と言う字は明るい日と書くんですよ。」って教えてもらったけど・・
ぼくは、明日が明るい日だなんて想ったことは一度もなかった。
ぼくの家では毎日毎日夜になると、おとうさんとおかあさんが大声で怒鳴りあってた。
昨日もそうだったし、明日もきっと今日の続きが始まるんだろうって思ってた。
おとうさんと離れて暮らすようになってから、家の中での喧嘩はなくなったけど、おとうさんと日曜日にキャッチボールすることも出来なくなっちゃったし、夏休みの間もずっと一人ぼっちで、おかあさんが仕事から帰ってくるのを待っていた。
これが、ぼくにとっての「明るい日」なの?
なんだか全然つまらなかった。
他のクラスのみんなもT君と同じように、「明日」は明るくて、もっともっと楽しくなるみたいな話をしている。
どうも、みんなとぼくの「明日」は違うみたいだ。
自分にも、他のみんなと同じような明るい日は、やってくるのかな?
まだまだ、クラスのみんなと仲良くできそうにないかもしれない。
「明るい明日って・・?」
学校が終わってもずっとその言葉が頭の中でグルグルまわっていた。
その日の夜。
おかあさんにおそるおそる聞いてみた。
「おかあさん。明日っていう日は明るい日なんだよね?そうでしょ?」
でも、返ってきた答えは、「今、うちにはお金がないから明日のことより、まず今日をどうやって乗り切るかだけなのよ。」
「そんなつまらない事考えてる暇があったら、さっさと宿題でもやっちゃいな!」
「あんたもちゃんと勉強しないとお父さんみたいにろくでもない大人になっちゃうんだからね。」
おとうさんの悪口を聞くことには慣れっこだったけど、ぼくが誰かのことを悪くいう時には、人の悪口は言っちゃ駄目だって言ってるくせに・・
みんなと仲良くしなさいって言ってるくせに・・
おかあさんは、わざと嫌いなおとうさんと結婚したんだろうか。
おとうさんは、わざと嫌いなおかあさんと結婚したんだろうか。
ぼくは、おとうさんも、おかあさんも大好きなのに・・

最近、おかあさんはよく「あなたの為に私は頑張っているんだからね」って言っている。
「ぼくがいるから・・・」
おかあさんは仕事ですごく疲れているみたいだったし、ぼくを育てるために本当に一生懸命働いてくれているんだろう。
ぼくがいるせいで、おかあさんを困らせているのかな?
もう、つまらないこと聞いたりするのはやめておこう。

10月の運動会が終わった頃から、ぼくはクラスのみんなとようやく仲良くなりはじめた。
運動会のクラス対抗リレーで、ぼくが活躍したことがきっかけで、みんなが前よりぼくに声を掛けてくれるようになった。
放課後にクラスの男子が集まって、毎日ドッジボールをする仲間にも入れてもらえるようになったんだ。
そしてその日も、いつもと同じようにみんなで校庭でボールを追いかけていた。
すると、一緒に遊んでいたあのT君が急に
「やべぇ。今日は早く帰って来いって言われてたんだった!!」と叫んだかと思うと一目散に走り出した。
「じゃぁな!また明日!」
いつもの明るい笑顔で思い切り手を振って校庭を出ていった。
ぼくたちも「じゃあね!」ってT君の後姿を見送っていた。
明日もまた今日みたいに同じメンバーでドッジボールするんだろうって、ぼくだけじゃなくみんなもきっと思っていただろう。
でも・・・
校門を駆け足で飛び出したT君の目の前に現れた大型トラック。
T君とドッジボールをすることはもう出来なくなった。

お葬式の日。
白い箱の前で目を腫らしているT君のお母さんが、クラスのみんなにこう話してくれた。
「この子が生きれなかった明日を皆さんは一生懸命に生きてくださいね…」
「この子の分まで・・・」
そう言ってまたT君のお母さんは、たくさん、たくさん泣いていた。
T君のお父さんもじっと口びるを噛み締めて黙っていた。
こんなにやさしそうなお父さんとお母さんがいて、あんなに元気でいつも楽しそうにしていたT君が天国に行っちゃって、おかあさんが嫌いなおとうさんと、おとうさんが嫌いなおかあさんから生まれた僕はまだ生きている。
ぼくがもし、いなくなったら、おかあさんだってあんなに毎日くたくたになるほど働かなくたってすむのかもしれないのに。
なんで、こんなことになっちゃうの?
神様はなんでぼくではなくT君を天国へ連れていっちゃったのだろう?
ぼくにはまた、わからないことが増えちゃったよ。
わかったことは、ひとつだけ。
明日って必ずやってくるものじゃないんだってこと。
明日っていったい何なんだろう?
ぼくは、なんで生きていてもよかったんだろう?
大人になったらわかる時が来るのかな?
学校の先生ならきっと何か知っているのかも?
それから、何度も何度も考えたけど、
何度も何度も考えてみたけど、
やっぱり、ぼくには何もわからなかった。
学校の先生も、ぼくが知りたいことは何も教えてはくれなかった。

そしてまた、前と同じようにぼくには明日が何度もやってきて・・
いつのまにか、放課後のドッジボールは誰もやらなくなっていた。
ぼくは、学校が終わるとすぐに家に帰って、おかあさんに頼まれた買い物や、宿題や、部屋の片付けとかを前よりも一生懸命するようになっていた。
毎日、疲れて帰って来るおかあさんを少しでも助けてあげたかった。

近所の商店街にクリスマスの飾り付けや、ジングルベルの曲が流れだした頃、ぼくは、おかあさんに頼んで「今度のお正月に、おとうさんとおかあさんと3人で初詣に行きたい」ってお願いしてみた。
今年のクリスマスにサンタクロースが来ないことも、ぼくにはわかっていたし、引越してから一度もおとうさんに会えなくてぼくは寂しかったんだ。
おかあさんは、ちょっと迷っていたみたいだけど、ぼくのお願いを聞いてくれるって約束してくれた。
ぼくにとっては、いままでもらった中でいちばん嬉しいクリスマスプレゼントだった。

そしてお正月、おとうさんと3人でお参りに行くことができた。
おとうさんも、おかあさんも、ぼくにばっかり話しかけて、二人だけではあんまり話していなかったけど、ぼくはとっても楽しかった。
3人で並んでお賽銭を投げて、ぼくは心の中で「明日が明るい日になりますように」ってお願いをしながら両手をあわせた。
そしてぼくは、急に頭に浮かんできたことを二人の顔を交互に見ながら言っていたんだ。
「おとうさん。おかあさん。」
「ぼくね、大人になっていろんな事がわかるようになるまでは、一生懸命がんばって生きていたいって思ったんだ。」
ぼくが突然そんなことを言ったから、意味がわからなくて二人はキョトンとしてたけど。
一生懸命頑張っていれば、ぼくにも「明るい明日」がやってきそうな気がして勇気がわいてきたんだ。
そして、もう「明日」についてあれこれ考えることはやめようって思ったんだ。
おかあさんが前に言っていたように、ぼくの目の前にある今日を一生懸命に生きることの方がきっと大事なことなんだ。
明日は必ずやってくるって約束されたものじゃないし、どうなるか分からないことばっかり考えてもしょうがないって。

それからいくつもの月日が流れて・・・

曲がりくねった道を迷いながらも歩いているうちに
いつしか、僕は一人の息子をもつ父親になっていた。

明日からの家族旅行に備えるために、今夜は仕事を早く切り上げ家に着いた。
玄関を入ると、小学4年になった息子が駆け足で出迎えにきてくれる。
息子は、夏休みの旅行をよっぼど楽しみにしているらしく、寝る時間を過ぎてもパジャマ姿のままはしゃいでいる。
「もう寝ないとだめでしょ。しょうがない子ねぇ」
妻がそう言って優しくたしなめると、ようやく気がすんだのか、「パパ!ママ!おやすみなさい!明日もきっとイイ日になるよね!!」と言ってベッドに潜りこんだ。

あのお正月の「ぼく」のお願いは、きっと神様のもとに届いていたんだろう。
あの頃の「ぼく」が本当に欲しかったものを、今、こうしてもらうことができたんだから。

「うん。そうだね、明日もきっとイイ日になるよ。おやすみなさい」

あの日の「ぼく」がそう答えていた。

これからも僕は、この家族と一緒に
曲がりくねった道を歩いてゆくだろう
手を取り合い、足元を見つめながら一歩一歩

あしたへ向かって。


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